濡れた胸、止めてはいけない電源―AEDを正しく使い切るための5つの判断
第120回医師国家試験 C問題 第2問
国試問題にチャレンジ
AED〈自動体外式除細動器〉の使用で正しいのはどれか。
- a.死戦期呼吸を認める場合は使用しない。
- b.胸が濡れている場合は拭いてからパッドを貼る。
- c.衣服の上からパッドを貼る。
- d.ショックは不要との音声が流れたらパッドを外す。
- e.意識が回復したら電源を切る。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
AEDは心電図を自動解析し、除細動の適応となる心室細動と無脈性心室頻拍のときだけショックを指示する機器で、早期使用が救命率を大きく左右します。パッドは素肌に直接貼る必要があり、胸が濡れていると電流が体表の水を伝って心臓に十分届かないため、拭き取ってから貼ります。死戦期呼吸は心停止のサインであり、ただちに胸骨圧迫とAEDを開始します。「ショック不要」は心拍再開を意味しないためパッドを貼ったまま心肺蘇生を続け、意識が回復しても救急隊に引き継ぐまでパッドも電源もそのままにします。貼付薬やペースメーカ、小児への対応も含めて理由とともに理解しておくことが、医療者として現場で確実に救命処置を行う力になります。
解答・解説
正解はbです
AEDの役割
AED(automated external defibrillator:自動体外式除細動器)は、パッドを通して心電図を自動で解析し、電気ショックが有効な波形のときだけショックを指示する機器である。心停止の心電図波形には心室細動(VF)、無脈性心室頻拍(pulseless VT)、無脈性電気活動(PEA)、心静止(asystole)の4つがあり、このうち除細動の適応となるのはVFと無脈性VTのみである。VFでは除細動までの時間が1分遅れるごとに救命率が大きく低下するため、一次救命処置(BLS)ではAEDをできるだけ早く使用することが重視される。
BLSにおけるAEDの使い方の流れ
①反応がなく、普段どおりの呼吸がない(または判断に迷う)なら心停止とみなし、119番通報とAEDの手配を行い、ただちに胸骨圧迫を始める。 ②AEDが到着したら電源を入れ(ふたを開けると自動で入る機種もある)、音声指示に従う。 ③胸部の衣服を取り除いて素肌を露出させ、胸が濡れていれば拭き取り、貼付薬があればはがして拭き、植込み型ペースメーカなどがあれば膨らみを避けてパッドを貼る。パッドは右前胸部(鎖骨下)と左側胸部(腋窩の下)が基本である。 ④解析中は誰も傷病者に触れない。ショックが必要と判断されたら周囲の安全を確認してショックボタンを押し、直後に胸骨圧迫から心肺蘇生(CPR)を再開する。 ⑤ショック不要と判断された場合も、パッドを貼ったままただちにCPRを再開する。AEDは約2分ごとに再解析を行う。 ⑥救急隊に引き継ぐまで、あるいは傷病者が明らかに目的のある動作や普段どおりの呼吸を取り戻すまでCPRを継続する。回復してもパッドは貼ったまま、電源も入れたままにしておく。 この流れに照らして各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ×a. 死戦期呼吸を認める場合は使用しない。
死戦期呼吸(あえぎ呼吸、gasping)は心停止の直後にみられる、しゃくりあげるような不規則で効果のない呼吸様の動きである。呼吸があるように見えても普段どおりの呼吸ではないため、心停止のサインとして扱い、ただちに胸骨圧迫を開始してAEDを使用する。死戦期呼吸を「呼吸あり」と誤認することが、CPRとAEDの開始を遅らせる大きな原因となる。
- ○b. 胸が濡れている場合は拭いてからパッドを貼る。
皮膚表面に水分があると、電流が心臓を通らずに水の膜を伝って2枚のパッドの間を流れてしまい、除細動の効果が不十分になる。また、パッドが皮膚に密着しにくくなり、皮膚の熱傷や周囲の救助者への通電の危険も生じる。そのため、汗や水で胸が濡れていればタオルなどで拭き取ってからパッドを貼る。なお、傷病者が水たまりの上や雪の上に倒れていても、胸部を拭けばそのままAEDを使用してよい。
- ×c. 衣服の上からパッドを貼る。
衣服は電気を通しにくく、パッドが皮膚に密着しないため、心電図の正確な解析もショックの通電もできない。パッドは必ず素肌に直接貼る。衣服を脱がせにくい場合ははさみで切るなどして胸部を露出させる。女性の場合も救命を優先し、下着はずらすか外したうえでパッドを素肌に貼り、必要に応じて上から衣類やタオルをかけて配慮する。
- ×d. ショックは不要との音声が流れたらパッドを外す。
「ショックは不要」とは、解析時点の波形がVF・無脈性VTではないという意味にすぎず、心拍が再開したことを意味しない。心静止やPEAであることも多く、その場合は胸骨圧迫が唯一の救命手段となる。またその後VFに移行することもあるため、パッドは貼ったままただちにCPRを再開し、約2分ごとのAEDの再解析に従う。
- ×e. 意識が回復したら電源を切る。
心拍が再開して意識が戻っても、再びVFなどの致死的不整脈を起こして心停止に陥ることがある。そのため救急隊などの医療従事者に引き継ぐまで、パッドは貼ったまま電源も切らずにおき、すぐに再解析・再ショックができる状態を保つ。AEDに記録された心電図などのデータは、その後の診療にも役立つ。
パッド装着時の注意点
・胸が濡れている:水分を拭き取ってから貼る。 ・貼付薬(ニトログリセリンテープなど)がある:はがして薬剤を拭き取ってから貼る。 ・植込み型ペースメーカや植込み型除細動器(ICD)がある:前胸部の膨らみ(本体)の上を避け、少し離して貼る。 ・胸毛が濃い:パッドが密着しない場合は、予備のパッドで除毛するか、かみそりで剃ってから貼る。 ・小児:未就学児(おおむね6歳未満)には小児用パッドまたは小児用モードを用いる。ない場合は成人用パッドで代用してよいが、パッド同士が触れ合わないようにし、必要に応じて胸と背中に貼る。 ・ネックレスや下着の金属部分がパッドの貼付部位にかからないようにする。
ショック適応波形と非適応波形
ショック適応:心室細動(VF)、無脈性心室頻拍(pulseless VT) ショック非適応:無脈性電気活動(PEA)、心静止(asystole) 非適応波形では質の高い胸骨圧迫を継続し、二次救命処置ではアドレナリン投与と原因検索(低酸素、循環血液量減少、高・低カリウム血症、低体温、緊張性気胸、心タンポナーデ、中毒、血栓症など)を行う。
胸骨圧迫の質
成人では胸骨の下半分を、深さ約5cm(6cmを超えない)、テンポ100~120回/分で圧迫し、毎回胸壁を元の位置まで戻す。中断はできるだけ短くし、AEDの解析やショックの前後も中断を最小限にする。
POINT
・死戦期呼吸は心停止のサインであり、ただちに胸骨圧迫とAEDを開始する ・パッドは素肌に直接貼る。胸が濡れていれば拭いてから貼る ・ショック適応はVFと無脈性VTのみ。PEAと心静止は適応外 ・「ショック不要」でもパッドは貼ったままCPRを再開し、約2分ごとに再解析する ・回復しても救急隊へ引き継ぐまでパッドは外さず、電源も切らない
