ねじれた卵巣を「残す」手術―若年女性の茎捻転は腫瘍だけを取る
第120回医師国家試験 B問題 第29問
国試問題にチャレンジ
21歳の女性。下腹痛を主訴に来院した。月経周期は28日型,整。月経困難症はない。月経周期7日目に突然,下腹痛を生じたため受診した。体温36.4℃。血圧110/62mmHg。内診で子宮は前傾前屈,正常大で可動性は良好,左付属器に径8cmの腫瘤を触知し,強い圧痛を認める。右付属器は触知せず,Douglas窩は軟。血液所見:赤血球409万,Hb 12.1g/dL,白血球9,100,血小板33万。血液生化学所見:総蛋白6.3g/dL,AST 23U/L,ALT 20U/L,LD 175U/L(基準124~222),CA19-9 56U/mL(基準37以下),CA125 40U/mL(基準35以下)。緊急で腹腔鏡による観察を行ったところ左卵巣の腫大と540度の捻転を認めた。 適切な治療はどれか。
- a.卵管切除術
- b.卵巣開孔術
- c.卵巣腫瘍摘出術
- d.子宮筋腫核出術
- e.両側付属器摘出術
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
若年女性の突然の下腹痛と、強い圧痛を伴う5〜10cm程度の付属器腫瘤をみたら、卵巣腫瘍茎捻転を考えます。茎捻転は血流途絶による卵巣壊死を招くため緊急手術の適応で、捻転を解除したうえで再捻転の原因となる腫瘍を処理します。妊孕性温存が必要な若年者で悪性を疑う所見がなければ、正常卵巣を残す卵巣腫瘍摘出術(嚢腫核出術)が基本であり、付属器摘出は壊死が明らかな場合や悪性疑い、閉経後などに限られます。捻転しやすいのは成熟嚢胞性奇形腫などの癒着のない良性腫瘍で、チョコレート嚢胞や悪性腫瘍は癒着のため起こしにくい点も押さえておきましょう。診断だけでなく、患者の年齢や将来を見据えて切除範囲を選ぶ視点は、婦人科手術全般に通じる重要な考え方です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・21歳の女性。月経周期は28日型で整、月経困難症はない。月経困難症がないことから、子宮内膜症(卵巣チョコレート嚢胞など)を積極的に疑う材料は乏しい。 ・月経周期7日目(月経が終わる頃)に突然下腹痛が出現した。排卵前の時期であり、妊娠に関連した腹痛(異所性妊娠など)や黄体出血は時期的に考えにくい。 ・発熱はなく、血圧は保たれ、Hb 12.1g/dLと貧血もない。腹腔内出血を示唆する所見(Douglas窩の膨隆・圧痛)もなく、Douglas窩は軟である。 ・内診で子宮は正常大・可動性良好、右付属器は触れないが、左付属器に径8cmの腫瘤があり強い圧痛がある。 ・CA19-9 56U/mL、CA125 40U/mL と腫瘍マーカーがいずれも基準値をわずかに上回る程度である。この程度の軽度上昇は良性腫瘍や捻転に伴う炎症・虚血でもみられ、悪性を強く示唆するものではない。 ・緊急腹腔鏡で、左卵巣の腫大と540度(1回転半)の捻転を確認した。
診断
以上から、左卵巣腫瘍の茎捻転と診断できる。卵巣腫瘍が5〜10cm程度に大きくなると、腫瘍の重みで卵巣を支える靱帯(骨盤漏斗靱帯・固有卵巣靱帯)や卵管を軸にねじれやすくなる。若年女性で頻度が高く、CA19-9が上昇しやすい良性腫瘍としては成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)が最も考えやすい。
治療の考え方
茎捻転では卵巣への血流が途絶し、放置すると卵巣が壊死に陥るため、緊急手術で捻転を解除する。そのうえで、捻転の原因である腫瘍を処理しなければ再捻転の危険が残る。21歳と若く今後の妊娠・出産を望む可能性が高いため、正常な卵巣組織を残す妊孕性温存手術が基本となる。悪性を疑う所見がない本例では、捻転を解除したのちに腫瘍部分だけをくり抜く卵巣腫瘍摘出術(卵巣嚢腫核出術、cystectomy)を選択する。
選択肢考察
- ×a. 卵管切除術
卵管切除術は、卵管妊娠(異所性妊娠)や卵管留水症・卵管留膿症など、卵管自体に病変がある場合に行う手術である。本例の病変は左卵巣の腫瘍とその茎捻転であり、卵管を切除しても原因である卵巣腫瘍は残り、問題は解決しない。また若年女性で不要な卵管切除は妊孕性を損なうため行わない。
- ×b. 卵巣開孔術
卵巣開孔術(卵巣多孔術、ドリリング)は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による排卵障害に対し、腹腔鏡下に電気メスやレーザーで肥厚した卵巣皮質に多数の小孔を開ける手術である。卵巣内のアンドロゲン産生を減らしてホルモン環境を改善し、自然排卵や排卵誘発薬への反応を回復させることを目的とする。卵巣腫瘍や茎捻転の治療ではない。
- ○c. 卵巣腫瘍摘出術
腹腔鏡下に捻転を解除して卵巣の血流を回復させたうえで、捻転の原因となった腫瘍部分だけを摘出し、正常な卵巣組織を温存する術式である。腫瘍を取り除くことで再捻転を防ぎ、病理組織診断も得られる。21歳と若年で悪性を示唆する所見もないため、妊孕性を保てる本術式が最も適切である。なお、捻転解除前に卵巣が暗紫色に変色していても、解除後に血流が回復して機能が保たれる例が多いため、現在は可能な限り卵巣を温存する方針がとられる。
- ×d. 子宮筋腫核出術
子宮筋腫核出術は、子宮を残したまま筋腫だけを取り除く手術である。有茎性漿膜下筋腫が茎の部分でねじれると急性腹症を起こすことがあるが、本例は内診で子宮が正常大であり、腹腔鏡でも捻転していたのは左卵巣である。子宮筋腫の存在は示されておらず、適応はない。
- ×e. 両側付属器摘出術
両側付属器摘出術は、両側の卵巣と卵管をすべて切除する手術であり、悪性卵巣腫瘍や閉経後の症例などで選ばれる。若年女性に行うと妊孕性が失われ、卵巣ホルモンの欠落による早発閉経状態(更年期様症状、骨粗鬆症や脂質異常症のリスク上昇)をもたらす。本例は腫瘍マーカーの上昇が軽度で悪性を疑う所見に乏しく、病変のない右付属器まで切除する理由はない。患側の付属器摘出でさえ、卵巣が明らかに壊死している場合などに限られる。
卵巣腫瘍茎捻転
・卵巣腫瘍が骨盤漏斗靱帯・固有卵巣靱帯・卵管を軸としてねじれ、卵巣の静脈還流、次いで動脈血流が障害される病態である。 ・径5〜10cm程度の可動性のよい良性腫瘍で起こりやすい。成熟嚢胞性奇形腫が代表で、ほかに漿液性・粘液性嚢胞腺腫、線維腫などがある。 ・子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)や悪性腫瘍は周囲と癒着しやすいため、茎捻転を起こしにくい。 ・妊娠中(特に子宮が大きくなり骨盤外に出る時期)や、運動・体位変換を契機に発症することもある。 ・症状は突然の激しい下腹痛で、悪心・嘔吐を伴うことが多い。捻転と自然解除を繰り返して間欠的な痛みとなることもある。 ・診断は内診での圧痛を伴う付属器腫瘤、超音波断層法(卵巣腫大、ドプラでの血流低下)、CT・MRIで行う。ドプラで血流が残っていても捻転は否定できないため、臨床的に疑えば手術で確認する。
治療
・緊急手術(腹腔鏡下手術が主流)で捻転を解除する。 ・妊孕性温存が必要な若年者では、捻転解除後に腫瘍のみを摘出する卵巣腫瘍摘出術(嚢腫核出術)が基本である。 ・卵巣が完全に壊死している場合、悪性が疑われる場合、閉経後などでは患側の付属器摘出術を行う。
腫瘍マーカーの目安
・CA125:上皮性卵巣癌で上昇するが、子宮内膜症、月経、妊娠、腹膜炎などでも上昇する。 ・CA19-9:粘液性腫瘍や成熟嚢胞性奇形腫で上昇しやすい。 ・AFP:卵黄嚢腫瘍、hCG:絨毛癌、LD:未分化胚細胞腫で上昇する。
若年女性の急性下腹痛の鑑別
異所性妊娠、黄体出血(月経周期の後半に多い)、卵巣腫瘍茎捻転、卵巣腫瘍破裂、骨盤内炎症性疾患、急性虫垂炎など。月経周期の時期、妊娠反応、貧血・腹腔内出血の有無、発熱の有無が鑑別の手がかりとなる。
POINT
・若年女性の突然の下腹痛+圧痛を伴う付属器腫瘤(5〜10cm程度)では卵巣腫瘍茎捻転を考える。 ・茎捻転は緊急手術の適応。捻転を解除し、原因の腫瘍を摘出する。 ・若年者では妊孕性温存のため、正常卵巣を残す卵巣腫瘍摘出術(嚢腫核出術)を選ぶ。 ・茎捻転を起こしやすいのは成熟嚢胞性奇形腫などの良性腫瘍。チョコレート嚢胞や悪性腫瘍は癒着のため起こしにくい。 ・卵巣開孔術はPCOSの排卵障害に対する手術である。
