寛解後のフォローは「毎回できること」で―思春期の卵黄嚢腫瘍、造影CTを繰り返さない理由
第119回医師国家試験 A問題 第17問
国試問題にチャレンジ
14歳の女子。卵巣腫瘍に対する治療後の検査結果と今後の方針について説明を受けるため両親とともに来院した。約3か月前に右卵黄嚢腫瘍の診断で,右付属器摘出術と大網切除術を実施した。その後,シスプラチン,エトポシド,ブレオマイシン併用の化学療法を3週ごとに4回施行した。α-フェトプロテイン〈AFP〉は術前28,500ng/mL(基準20以下)から化学療法後10ng/mLまで低下し,造影CTを含む全ての検査結果で異常を認めず,寛解の判定となった。最終月経は8週間前で,その後再開していない。 今後,定期診察時に毎回行うのが適切でないのはどれか。
- a.腹部触診
- b.月経の聴取
- c.腹部造影CT
- d.腹部超音波検査
- e.腫瘍マーカー測定
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
悪性卵巣胚細胞腫瘍は10〜20歳代に多く、BEP療法の感受性が高いため、若年者では健側付属器と子宮を残す妊孕性温存手術が基本となります。卵黄嚢腫瘍はAFPを産生し、AFPは治療効果判定と再発の早期発見に鋭敏なマーカーです。寛解後の定期診察では、月経を含む問診、腹部触診、経腹超音波検査、腫瘍マーカー測定など、負担が少なく毎回行える方法で再発と晩期障害を評価します。腹部造影CTは再発検索に有用ですが、放射線の累積被ばくと造影剤のリスクがあるため、特に小児・思春期では再発が疑われるときなど必要時に限って行います。抗がん剤による無月経・早発卵巣不全や、肺・腎・聴力障害、二次がんといった晩期障害まで視野に入れ、検査の利益と害を天秤にかけてフォロー計画を立てる姿勢が大切です。
解答・解説
正解はcです
症例の整理
・14歳の女子。約3か月前に右卵黄嚢腫瘍と診断され、右付属器摘出術(右の卵巣と卵管の切除)と大網切除術を受けた。子宮と左付属器は残されており、妊孕性(将来妊娠する能力)を温存する術式である。 ・術後にシスプラチン(P)・エトポシド(E)・ブレオマイシン(B)を併用するBEP療法を3週間隔で4コース施行した。これは悪性卵巣胚細胞腫瘍に対する標準的な化学療法である。 ・腫瘍マーカーのα-フェトプロテイン(AFP)は術前28,500ng/mLという著明高値から10ng/mLまで低下して基準値内に入り、造影CTを含む検査でも病変を認めず、寛解と判定された。 ・最終月経は8週間前で、以後月経は再開していない。
考え方
本問は「寛解後の経過観察(フォローアップ)で、毎回の定期診察に組み込むべきでない検査」を選ぶ問題である。定期診察の目的は大きく二つある。 ① 再発の早期発見:卵黄嚢腫瘍は進行が速く再発も治療開始後早期(多くは2年以内)に起こりやすいが、再発しても化学療法が奏効しやすいため、早く見つけることに意味がある。 ② 治療に伴う晩期障害の評価:特に若年女性では、抗がん剤による卵巣機能低下(月経異常・早発卵巣不全)が問題になる。本例でも化学療法後に月経が止まっている。 これらの目的を、繰り返し行っても負担や害の少ない手段で達成するのが定期診察の基本である。腹部触診・月経の聴取・腹部超音波検査・腫瘍マーカー(AFP)測定はいずれも非侵襲的か低侵襲で毎回行える。一方、腹部造影CTは再発検索に有用ではあるが、電離放射線の被ばくと造影剤の副作用リスクを伴うため、成長期の小児・思春期患者に毎回の診察で漫然と繰り返す検査ではない。AFPの再上昇や症状・診察所見から再発が疑われたとき、あるいは一定の間隔(例えば数か月〜年単位)で必要に応じて行うのが適切である。したがって、毎回行うのが適切でないものは腹部造影CTである。
選択肢考察
- ×a. 腹部触診
腹部触診は、腹腔内や骨盤内に再発した腫瘤、腹水の貯留(腹部膨満や波動)などを、器具を使わず負担なく確認できる基本的な診察である。卵黄嚢腫瘍は腹膜播種の形で再発することもあるため、毎回の定期診察で行う意義がある。
- ×b. 月経の聴取
シスプラチンやエトポシドなどの抗がん剤は卵巣の卵胞を障害し、治療中から治療後にかけて無月経を起こしうる。本例も化学療法後に月経が止まっている。多くの若年患者では治療終了後数か月〜1年程度で月経が回復するが、回復しない場合は早発卵巣不全としてホルモン補充療法などの対応が必要になる。残された左卵巣の機能と将来の妊孕性を評価するため、月経の再開や周期を毎回聴取することは適切である。
- ○c. 腹部造影CT
腹部造影CTは再発病変の検索に優れるが、1回ごとの放射線被ばくがあり、繰り返せば累積線量が増える。小児・思春期は放射線感受性が高く余命も長いため、被ばくによる発がんリスクを極力減らす必要がある。さらに骨盤部の撮影では残存卵巣にも照射が及ぶ。加えて、ヨード造影剤によるアレルギー反応や腎機能への影響もある。寛解後の経過観察では、AFPの再上昇や症状・診察所見で再発が疑われた場合、または一定の間隔で必要に応じて行えば十分であり、定期診察のたびに毎回行うのは適切でない。
- ×d. 腹部超音波検査
腹部超音波検査は被ばくがなく痛みもない非侵襲的検査で、骨盤内の再発腫瘤や腹水の有無をその場で評価できる。思春期で性交経験がない可能性を考えると経腟法ではなく経腹法が基本となる。残存する左卵巣の卵胞発育の様子を確認できることもあり、毎回の定期診察で行うのに適している。
- ×e. 腫瘍マーカー測定
卵黄嚢腫瘍はAFPを産生するため、AFPは治療効果判定と再発の早期発見に非常に鋭敏なマーカーである。本例では術前28,500ng/mLから基準値内に正常化しており、再びAFPが上昇すれば画像で病変が見える前に再発を察知できることもある。採血のみで負担も小さいため、定期診察ごとに測定するのが適切である。
卵巣胚細胞腫瘍の概要
卵巣腫瘍は、上皮性腫瘍、性索間質性腫瘍、胚細胞腫瘍に大別される。10〜20歳代の若年者では胚細胞腫瘍の割合が高い。悪性胚細胞腫瘍には未分化胚細胞腫(ディスジャーミノーマ)、卵黄嚢腫瘍、未熟奇形腫、胎芽性癌、非妊娠性絨毛癌などがある。
主な腫瘍マーカー
・卵黄嚢腫瘍:AFP ・未分化胚細胞腫:LDH(乳酸脱水素酵素)、ALP(胎盤型アルカリホスファターゼ) ・絨毛癌:hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン) ・胎芽性癌:AFPとhCGの両方が上昇しうる なおAFPは新生児・乳児期には生理的に高値であるが、14歳では成人とほぼ同様の基準値で評価できる。
治療
悪性胚細胞腫瘍は化学療法の感受性が高く、進行例でも高い治癒率が期待できる。そのため若年者では、病変が片側卵巣にとどまる場合はもちろん、進行していても健側付属器と子宮を温存する妊孕性温存手術が選択されることが多い。術後化学療法はBEP療法(ブレオマイシン・エトポシド・シスプラチン)が標準で、3〜4コース行われる。ただし、IA期の未分化胚細胞腫やIA期・低グレードの未熟奇形腫など一部の早期例では、術後化学療法を省略して経過観察とすることがある。
BEP療法の主な有害事象
・ブレオマイシン:間質性肺炎・肺線維症(累積投与量に依存) ・シスプラチン:腎障害、聴力障害、末梢神経障害、悪心・嘔吐 ・エトポシド:骨髄抑制、二次性白血病 ・共通:卵巣機能障害(無月経、早発卵巣不全)
治療後の経過観察
再発は治療後早期に多いため、最初の1〜2年は1〜3か月ごと程度と短い間隔で診察し、その後は間隔を延ばしていく。毎回の内容は問診(症状・月経)、内診または腹部診察、腫瘍マーカー、超音波検査が中心で、CTなどの被ばくを伴う画像検査は再発が疑われたときや必要に応じて行う。また、化学療法による晩期障害(肺機能、腎機能、聴力、卵巣機能、二次がん)にも長期的に注意を払う。
POINT
・悪性卵巣胚細胞腫瘍は若年者に多く、化学療法(BEP療法)の感受性が高いため妊孕性温存手術が基本となる。 ・卵黄嚢腫瘍の腫瘍マーカーはAFPであり、治療効果判定と再発の早期発見に用いる。 ・寛解後の定期診察は、問診(月経を含む)・腹部診察・超音波検査・腫瘍マーカーなど負担の少ない方法を毎回行う。 ・造影CTは被ばくと造影剤のリスクがあるため、特に小児・思春期では毎回行わず、再発を疑うときなど必要時に限る。 ・抗がん剤は卵巣毒性があり、治療後の無月経・早発卵巣不全に注意して月経の状況を確認する。
