尿路結石は「生活習慣病」―数字で押さえる日本の腎・尿管結石の疫学
第120回医師国家試験 A問題 第2問
国試問題にチャレンジ
我が国の腎・尿管結石症に関する説明で正しいのはどれか。
- a.好発年齢は20歳台である。
- b.結石成分は尿酸が最も多い。
- c.罹患率は男性より女性が高い。
- d.糖尿病との関連が指摘されている。
- e.膀胱・尿道結石症より罹患率が低い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
日本の尿路結石の約95%は腎・尿管の上部尿路結石で、膀胱・尿道結石は少数です。男女比はおよそ2〜2.5対1と男性に多く、好発年齢は男性40〜50歳台、女性は閉経後の50歳以降で、成分はシュウ酸カルシウムを主体とするカルシウム含有結石が約8〜9割を占め、尿酸結石は数%にとどまります。糖尿病ではインスリン抵抗性による尿の酸性化などを介して結石の罹患率が高まり、肥満・高血圧・脂質異常症を含むメタボリックシンドロームとの関連から、尿路結石は生活習慣病の一つと捉えられています。再発率が高いため、十分な飲水、食事内容の見直し、適量のカルシウム摂取、肥満の是正といった予防指導が欠かせません。疫学の数字を背景にある生活習慣と結びつけて理解しておくと、診断だけでなく再発予防まで見据えた診療につながります。
解答・解説
正解はdです
本問は、日本における上部尿路結石(腎結石・尿管結石)の疫学に関する基本的な知識を問う一般問題である。
押さえるべき疫学の骨格
・部位:尿路結石の大部分(およそ95%前後)は上部尿路(腎・尿管)に生じ、下部尿路(膀胱・尿道)の結石は少数である。 ・性差:男性に多く、男女比はおよそ2〜2.5:1である。生涯罹患率は男性で約7人に1人、女性で約15人に1人とされる。 ・年齢:男性は40〜50歳台、女性は閉経後の50歳以降に多い。女性では閉経によるエストロゲン低下が骨からのカルシウム動員や尿中クエン酸の減少に関与すると考えられている。 ・成分:シュウ酸カルシウムを主体とするカルシウム含有結石が約8〜9割を占め、尿酸結石は数%にとどまる。 ・背景因子:肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、すなわちメタボリックシンドロームとの関連が明らかになっており、尿路結石は「生活習慣病の一つ」として位置づけられるようになっている。 この骨格を頭に入れておけば、各選択肢の数値・性差・成分の誤りを容易に見抜ける。生活習慣病との関連を述べた選択肢が正しい記述として残る。
選択肢考察
- ×a. 好発年齢は20歳台である。
誤り。上部尿路結石の好発年齢は、男性で40〜50歳台、女性では閉経後の50歳以降である。20歳台にも発症はあるが、ピークではない。近年は高齢化と食生活の変化を背景に、中高年での発症がむしろ増加傾向にある。
- ×b. 結石成分は尿酸が最も多い。
誤り。最も多いのはカルシウム含有結石で、なかでもシュウ酸カルシウム結石(単独あるいはリン酸カルシウムとの混合)が大半を占める。カルシウム含有結石全体で約8〜9割に達する。尿酸結石は数%程度であり、ほかに感染結石(リン酸マグネシウムアンモニウム)、シスチン結石などがある。尿酸結石はX線透過性(単純X線で写りにくい)であることも特徴として覚えておく。
- ×c. 罹患率は男性より女性が高い。
誤り。男性の罹患率は女性の2倍以上である。男性では動物性蛋白質・脂肪の摂取量が多いこと、肥満やメタボリックシンドロームの頻度が高いことなどが要因と考えられている。なお女性は閉経後に増加し、性差は以前よりやや縮まりつつある。
- ○d. 糖尿病との関連が指摘されている。
正しい。糖尿病(とくに2型糖尿病)患者では非糖尿病者に比べ尿路結石の罹患率が高く、約2倍とする報告もある。機序として、インスリン抵抗性により腎尿細管でのアンモニア産生が低下し、尿が持続的に酸性に傾くことが挙げられる。酸性尿では尿酸が溶けにくくなり、尿酸結石や、尿酸結晶を核としたシュウ酸カルシウム結石ができやすくなる。さらに高インスリン血症に伴う尿中カルシウム排泄の増加も関与するとされる。糖尿病に限らず、肥満・高血圧・脂質異常症などメタボリックシンドロームの構成要素はいずれも結石の危険因子である。
- ×e. 膀胱・尿道結石症より罹患率が低い。
誤り。逆であり、腎・尿管結石は尿路結石全体のおよそ95%を占め、膀胱・尿道結石よりはるかに多い。膀胱結石は前立腺肥大症や神経因性膀胱などで尿が停滞しやすい高齢男性に多く、尿道結石は多くが上部や膀胱から下降してきた結石が嵌頓したものである。
尿路結石の成分と特徴
・シュウ酸カルシウム結石:最多。X線不透過。高カルシウム尿症、高シュウ酸尿症、低クエン酸尿症が危険因子。 ・リン酸カルシウム結石:アルカリ尿で形成されやすい。原発性副甲状腺機能亢進症、尿細管性アシドーシス(遠位型)などで生じる。 ・尿酸結石:酸性尿・高尿酸尿で形成。X線透過性で、CTでは描出される。痛風、メタボリックシンドローム、糖尿病と関連。尿アルカリ化(クエン酸製剤)で溶解が期待できる。 ・リン酸マグネシウムアンモニウム結石(感染結石):ウレアーゼ産生菌(Proteus など)による尿路感染でアルカリ尿となり形成。サンゴ状結石の原因となり、女性に比較的多い。 ・シスチン結石:常染色体潜性遺伝のシスチン尿症で生じる。若年発症・再発を繰り返す。
再発と予防
尿路結石は再発しやすく、初発後5年でおよそ半数が再発するとされる。予防の基本は、1日2,000 mL以上の尿量を確保する飲水指導、動物性蛋白質・塩分・シュウ酸を多く含む食品(ほうれん草、チョコレートなど)の過剰摂取の制限、適量のカルシウム摂取(食事中のカルシウムは腸管でシュウ酸と結合しその吸収を抑える)、肥満の是正である。カルシウム摂取を極端に制限すると、腸管からのシュウ酸吸収が増えかえって結石が増えうる点に注意する。
疫学の推移
日本の尿路結石の罹患率は数十年にわたり増加傾向にある。食生活の欧米化(動物性蛋白質・脂肪の増加)と生活習慣病の増加が背景と考えられている。
POINT
・腎・尿管結石は尿路結石の約95%を占める(下部尿路結石は少ない)。 ・男女比は約2〜2.5:1で男性に多い。生涯罹患率は男性約7人に1人、女性約15人に1人。 ・好発年齢は男性40〜50歳台、女性は閉経後の50歳以降。 ・成分はシュウ酸カルシウムを主体とするカルシウム含有結石が最多。尿酸結石は数%でX線透過性。 ・肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症などメタボリックシンドロームと関連し、生活習慣病の一つと捉えられる。 ・再発率が高く、5年でおよそ半数が再発する。
