StudyMed医師国家試験

長引く咳の犯人は胃酸?―GERDの食道外症状を見逃さない

第120回医師国家試験 A問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第12問

成人の胃食道逆流症〈GERD〉でみられる症状はどれか。

  1. a.咳嗽
  2. b.過食
  3. c.喘鳴
  4. d.動悸
  5. e.呼吸困難

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胃食道逆流症、GERDでみられる症状を問う問題だ。胸やけや呑酸といった食道の症状だけでなく、食道の外に出る症状まで知っているかがポイントになる。選択肢には呼吸器や循環器の症状が並んでいるから、GERDと結びつくものはどれか、機序から考えてみよう。
医学生医学生
GERDといえば胸やけと呑酸のイメージしかありません。選択肢にどちらもないので、ちょっと戸惑いました。
ドクタードクター
そこがこの問題の狙いだね。まず整理しよう。胸やけと呑酸はGERDの定型症状で、診断で最も重視される。それに加えて、非心臓性胸痛やつかえ感といった非定型症状、さらに慢性咳嗽、咽喉頭異常感、嗄声、咽頭痛、歯の酸蝕などの食道外症状がある。
医学生医学生
食道外症状に咳が入っているんですね。でも、胃酸が逆流してなぜ咳が出るんでしょうか。
ドクタードクター
機序は大きく2つ考えられている。1つは、下部食道に逆流した胃酸が迷走神経の受容体を刺激し、反射的に咳を起こすもの。食道と気管支は迷走神経でつながっているからね。もう1つは、逆流物が咽喉頭まで上がって気道を直接刺激したり、ごく少量が誤嚥されたりするものだ。
医学生医学生
迷走神経の反射なら、逆流物が喉まで来なくても咳が出るということですか。
ドクタードクター
その通り。だから胸やけを伴わず咳だけ、というGERDの患者さんもいる。特徴は、食後や横になったとき、前かがみの姿勢、会話中などに咳が出やすいこと。胃酸が逆流しやすい場面と重なるんだ。
医学生医学生
呼吸器内科を回ったとき、8週間以上続く慢性咳嗽の鑑別として、咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群と並んでGERDが挙がっていました。
ドクタードクター
よく覚えているね。慢性咳嗽の主要な原因の一つで、酸分泌抑制薬、つまりプロトンポンプ阻害薬やボノプラザンのようなカリウムイオン競合型アシッドブロッカーで咳が改善するかどうかが診断の手がかりにもなる。というわけで、正解は咳嗽だ。ほかの選択肢も見ていこう。過食はどうかな。
医学生医学生
食べ過ぎると逆流しやすくなるので、GERDと関係はありそうですが……。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。過食や肥満は腹圧を上げ、下部食道括約筋の一過性弛緩を増やすから、GERDの原因、誘因にはなる。でもGERDによって生じる症状ではない。原因と症状を取り違えないことが大切だ。過食が症状として出るのは、摂食障害や甲状腺機能亢進症、Cushing症候群などだね。
医学生医学生
喘鳴は迷いました。GERDが喘息を悪化させると聞いたことがあるので。
ドクタードクター
いい疑問だ。確かにGERDは気管支喘息の増悪因子になりうる。ただ、喘鳴は気道が狭くなったときに出るゼーゼー、ヒューヒューという音で、GERDそのものの症状としては一般に挙げられない。喘鳴を聞いたら、まず喘息やCOPD、心不全、気道異物などを考えるべきなんだ。
医学生医学生
動悸や呼吸困難も、まずは心臓や肺の病気を考える症状ですね。
ドクタードクター
そう。動悸は不整脈や甲状腺機能亢進症、貧血など、呼吸困難は肺炎、気胸、肺塞栓症、心不全など多彩な原因で起こるけれど、GERDの症状とはされない。ただ一つ注意したいのは、GERDによる胸痛は狭心症とまぎらわしいこと。胸部症状を訴える患者さんでは、まず心疾患を除外するのが鉄則だ。
医学生医学生
CBTの勉強で、GERDは逆流性食道炎とNERDに分かれると覚えました。症状があっても内視鏡で異常がないこともあるんですよね。
ドクタードクター
その通り。粘膜にびらんや潰瘍があるのが逆流性食道炎で、重症度はロサンゼルス分類で評価する。症状はあるのに粘膜傷害がないのが非びらん性逆流症、NERDだ。治療は減量、就寝前2〜3時間は食べない、頭側を高くして寝る、禁煙・節酒といった生活習慣の改善と、PPIやP-CABが中心になる。
医学生医学生
合併症としては、Barrett食道が食道腺癌のリスクになるんでしたね。
ドクタードクター
よく押さえているね。長く続く逆流で下部食道の扁平上皮が円柱上皮に置き換わったのがBarrett食道で、食道腺癌の発生母地になる。ほかに食道狭窄や出血もある。長引く咳の患者さんを診たら、胸やけがなくても食後や就寝時の咳でないか聞いてみる、これを習慣にしておこう。

まとめ

胃食道逆流症(GERD)は胃内容物の食道への逆流によって症状や合併症を生じる疾患で、胸やけと呑酸が定型症状ですが、慢性咳嗽、咽喉頭異常感、嗄声などの食道外症状も重要です。咳は、逆流した胃酸が下部食道の迷走神経受容体を刺激する反射と、逆流物による咽喉頭・気道への直接刺激や微量誤嚥によって生じ、食後や臥位・就寝時に出やすいのが特徴で、慢性咳嗽の主要な原因の一つです。過食や肥満はGERDの誘因であって症状ではなく、喘鳴・動悸・呼吸困難はまず呼吸器・循環器疾患を考えるべき症状です(GERDは喘息の増悪因子にはなりえます)。治療は生活習慣の改善とPPIやP-CABによる酸分泌抑制が中心で、合併症のBarrett食道は食道腺癌の発生母地となります。胸やけがなくてもGERDが長引く咳の原因になりうると知っておくことは、日常診療で慢性咳嗽を鑑別するうえで大きな助けになります。

解答・解説

正解はaです

問われていること

胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)は、胃内容物(主に胃酸)が食道へ逆流することにより、不快な症状や合併症を生じる疾患の総称である。本問は、GERDにみられる症状を、食道の症状だけでなく食道以外の症状まで含めて理解しているかを問う。

GERDの症状の整理

・定型症状(食道症状):胸やけ(胸骨の後ろが焼けるような感じ)、呑酸(酸っぱいものや苦いものが口まで上がってくる感じ)。GERDの診断で最も重視される症状である。 ・非定型症状:非心臓性胸痛、つかえ感、心窩部痛など。 ・食道外症状:慢性咳嗽、咽喉頭異常感、嗄声、咽頭痛、歯の酸蝕、睡眠障害など。気管支喘息の増悪因子となることもある。

考え方

逆流した胃酸が下部食道の迷走神経受容体を刺激して反射性に咳を誘発する機序(食道-気管支反射)と、逆流物が咽喉頭まで達して気道を直接刺激したり微量に誤嚥されたりする機序により、GERDは慢性咳嗽の主要な原因の一つとなる。日本でも長引く咳(8週間以上続く慢性咳嗽)の原因として、咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群などとともにGERDによる咳嗽(胃食道逆流による咳嗽)が挙げられる。したがってGERDでみられる症状として咳嗽を選ぶ。そのほかの選択肢は、主に別の臓器・疾患を考えるべき症状であり、GERDの症状として挙げられるものではない。

選択肢考察

  1. ○a.  咳嗽

    GERDの代表的な食道外症状である。逆流した胃酸が下部食道の受容体を刺激して迷走神経を介した反射で咳を起こす機序と、逆流物が咽喉頭に達して気道を直接刺激する(微量誤嚥を含む)機序が考えられている。胃酸の逆流が起こりやすい食後や、臥位になる就寝時、前かがみの姿勢、会話や発声時などに咳が出やすいのが特徴で、胸やけや呑酸を伴うことが多いが、伴わない場合もある。慢性咳嗽の鑑別ではGERDを必ず考慮し、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB、ボノプラザンなど)による酸分泌抑制で咳が改善するかどうかが診断の手がかりにもなる。

  2. ×b.  過食

    過食や食後すぐに横になる生活習慣、肥満は腹圧を上げ、下部食道括約筋(LES)の一過性弛緩を増やすため、GERDの発症・増悪因子となる。しかし過食はGERDの「原因(誘因)」であって、GERDによって生じる「症状」ではない。過食という症状がみられるのは、過食症(神経性過食症、過食性障害)などの摂食障害、うつ病などの精神疾患、視床下部の病変、甲状腺機能亢進症(代謝亢進による食欲増加)、Cushing症候群、副腎皮質ステロイドの副作用などである。

  3. ×c.  喘鳴

    喘鳴は気道が狭くなったときに呼吸に伴って生じる「ゼーゼー、ヒューヒュー」という音である。気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全(心臓喘息)、急性喉頭蓋炎や気道異物などでみられる。GERDは喘息の増悪因子となりうるが、喘鳴そのものはGERDの症状として挙げられるものではなく、喘鳴があれば気道や心臓の疾患をまず考える。

  4. ×d.  動悸

    動悸は心臓の拍動を不快に自覚する症状で、頻脈性・徐脈性不整脈や期外収縮などの循環器疾患、甲状腺機能亢進症、貧血、低血糖、発熱、褐色細胞腫、パニック障害などの精神疾患、カフェインや気管支拡張薬などの薬物で生じる。GERDの症状ではない。なお、GERDによる胸痛は狭心症との鑑別が問題となるため、胸部症状を訴える患者では心疾患を除外することが重要である。

  5. ×e.  呼吸困難

    呼吸困難は息苦しさを感じる自覚症状で、肺炎・喘息・COPD・気胸・肺塞栓症などの呼吸器疾患、心不全などの循環器疾患、貧血、アナフィラキシー、神経筋疾患、過換気症候群など多彩な原因で起こる。GERDの症状として挙げられるものではない。

GERDの分類

GERDは内視鏡所見により、食道粘膜にびらん・潰瘍(粘膜傷害)を認める逆流性食道炎(びらん性GERD)と、症状はあるが粘膜傷害を認めない非びらん性逆流症(NERD)に分けられる。逆流性食道炎の重症度は、粘膜傷害の広がりによるロサンゼルス分類(グレードA〜D。日本では色調変化のみのグレードMを加えた改訂版も用いられる)で評価する。

病態と危険因子

下部食道括約筋(LES)の一過性弛緩や圧の低下、食道裂孔ヘルニア、食道の蠕動低下による酸排出の遅れ、腹圧の上昇などで逆流が起こる。危険因子として、肥満、過食、脂肪の多い食事、食後すぐの臥位、喫煙、飲酒、妊娠、高齢者の円背(亀背、背中が丸く曲がる)による腹圧上昇、Helicobacter pylori除菌後の胃酸分泌の回復、カルシウム拮抗薬や硝酸薬などLES圧を下げる薬剤などがある。

治療

生活習慣の改善(減量、就寝前2〜3時間は食事を控える、頭側を高くして寝る、禁煙、節酒など)と、酸分泌抑制薬が中心である。第一選択はPPIまたはP-CABである。薬物療法に抵抗する例や大きな食道裂孔ヘルニアを伴う例では、腹腔鏡下噴門形成術などの手術が検討される。

合併症

食道狭窄、出血、Barrett食道(下部食道の扁平上皮が円柱上皮に置き換わった状態)があり、Barrett食道は食道腺癌の発生母地となる。

POINT

・GERDの定型症状は胸やけと呑酸 ・食道外症状として慢性咳嗽、咽喉頭異常感、嗄声、咽頭痛があり、喘息の増悪因子にもなる ・GERDによる咳は食後・臥位・就寝時に出やすく、慢性咳嗽の原因として重要 ・過食や肥満はGERDの誘因であって症状ではない ・喘鳴・動悸・呼吸困難はまず呼吸器・循環器疾患を考える

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。