こすって剝がれる白い点―吸入ステロイドが招く口腔カンジダ症
第120回医師国家試験 D問題 第34問
国試問題にチャレンジ
57歳の女性。口腔内の白色病変を主訴に来院した。約2週間前から,のどの違和感を自覚していたがそのままにしていた。昨日,鏡で見ると口蓋垂の周辺が点状に白くなっていることに気付いた。ざらざらとする違和感はあるが咽頭痛や発熱はない。約2年前から気管支喘息のため気管支拡張薬と副腎皮質ステロイド吸入薬を使用している。身長157cm,体重63kg。尿所見と血液所見とに異常を認めない。白色病変を綿棒でこすると,剝離可能である。口腔内の写真を下に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.白斑症
- b.扁平苔癬
- c.単純ヘルペス
- d.アフタ性口内炎
- e.口腔カンジダ症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
口腔内の白色病変は、まず「こすって剝がれるか」で鑑別します。剝がれる白色病変の代表は偽膜性カンジダ症で、真菌の菌糸や剝離上皮からなる偽膜が粘膜表面に付着しているため拭い取れ、症状は違和感程度のことが多いです。一方、白板症(前癌病変)や扁平苔癬(頬粘膜のレース状病変)は上皮自体の変化なので剝がれず、アフタや単純ヘルペスは強い痛みを伴う潰瘍・びらんが主体です。吸入ステロイドは口腔カンジダ症の代表的な誘因で、治療は抗真菌薬、予防は吸入後のうがいが基本であり、喘息治療上必要なら吸入ステロイドは継続します。誘因なく繰り返す場合はHIV感染症や糖尿病などの基礎疾患を探ることも、日常診療で欠かせない視点です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・57歳女性。主訴は口腔内(口蓋垂周辺)の白色病変である。 ・約2週間前からのどの違和感があり、ざらざらとした感じはあるが、咽頭痛や発熱はない。強い疼痛を伴わない、亜急性の経過である。 ・約2年前から気管支喘息に対して気管支拡張薬と副腎皮質ステロイドの吸入薬を使っている。吸入ステロイドの一部は口腔・咽頭の粘膜に付着し、その局所の免疫を低下させる。 ・尿所見・血液所見に異常はなく、全身性の感染症や炎症、血液疾患を示唆する所見はない。 ・白色病変は綿棒でこすると剝がれる。 ・写真では、口蓋垂から軟口蓋にかけて点状~斑状の白色の付着物が散在している。
鑑別の考え方
口腔内の白色病変を見たら、まず「こすって剝がれるか」で大きく分ける。 ・剝がれる白色病変:口腔カンジダ症(偽膜性)が代表である。白い部分は真菌の菌糸・胞子と剝がれた上皮細胞、炎症細胞などからなる偽膜であり、粘膜表面に乗っているだけなので拭い取れる。剝がした後の粘膜は発赤していることが多い。 ・剝がれない白色病変:白板症、扁平苔癬など。上皮そのものが厚く角化しているために白く見えるので、こすっても取れない。 さらに、疼痛が強い潰瘍・水疱性病変(単純ヘルペス、アフタ性口内炎)は症状と形態から区別できる。 本例は、剝離可能な点状の白色病変であること、疼痛がほとんどないこと、ステロイド吸入薬の長期使用という明確な危険因子があることから、口腔カンジダ症(偽膜性カンジダ症)が最も考えられる。確認には、病変を擦過して顕微鏡で菌糸・仮性菌糸を確認する(KOH法やグラム染色など)か、培養でCandida属を検出する。
選択肢考察
- ×a. 白斑症
口腔の白斑症(白板症)は、粘膜上皮の過角化・過形成によって生じる、わずかに隆起した板状・斑状の白色病変である。上皮自体の変化なので、こすっても剝離できない。舌側縁、頬粘膜、歯肉などに好発し、通常は無痛性である。上皮異形成を伴うことがあり、癌化しうる口腔潜在的悪性疾患(前癌病変)として重要で、消退しない場合は生検で評価する。本例の白色病変は綿棒で剝がれるため合致しない。
- ×b. 扁平苔癬
口腔扁平苔癬はT細胞を主体とする慢性の炎症性疾患で、上皮基底細胞の障害と角化異常を伴う。中年以降の女性に多く、両側の頬粘膜に網目状・レース状の白色線条(Wickham線条)を呈し、びらんを伴うと接触痛やしみる痛みが出る。皮膚に紫紅色の扁平な丘疹を伴うこともある。上皮の変化であるため白色部はこすっても剝がれない。分布(口蓋垂周辺)、形態(点状)、剝離可能という点で本例とは異なる。
- ×c. 単純ヘルペス
単純ヘルペスウイルス1型の初感染(主に小児の疱疹性歯肉口内炎)では、発熱とともに歯肉・口腔粘膜に多数の小水疱が生じ、破れて有痛性のびらん・潰瘍となる。成人では潜伏感染していたウイルスの再活性化により、口唇とその周囲に小水疱が集簇する口唇ヘルペスとなることが多い。いずれも疼痛を伴う水疱・びらんが主体で、剝がれる白色付着物が散在する本例の所見とは異なる。発熱や疼痛がない点も合わない。
- ×d. アフタ性口内炎
アフタは、周囲に紅暈(赤い縁取り)を伴う、類円形で境界明瞭な浅い潰瘍で、表面は白色~黄白色の偽膜(線維素)に覆われる。強い接触痛が特徴で、通常1~2週間で自然に治癒する。再発を繰り返す場合はBehçet病なども考える。表面の偽膜はこすっても容易に剝がれず、剝がしても下に潰瘍がある。本例は痛みがほとんどなく、潰瘍性病変も認めないため合致しない。
- ○e. 口腔カンジダ症
口腔の常在真菌であるCandida albicansなどが、局所または全身の免疫低下に乗じて増殖する日和見感染症である。最も多い偽膜性カンジダ症では、点状~斑状の白色偽膜が口蓋、頬粘膜、舌などに散在し、ガーゼや綿棒でこすると剝がれ、下の粘膜は発赤している。症状は軽い違和感、ざらつき、味覚異常、ひりひり感程度のことが多い。本例は長期のステロイド吸入薬使用という典型的な誘因があり、剝離可能な点状白色病変で、疼痛・発熱を欠くことから最も考えられる。治療はミコナゾール(口腔用ゲル・付着錠)、アムホテリシンBシロップなどの抗真菌薬で、あわせて吸入後のうがいを徹底させる。
口腔カンジダ症の誘因
・局所因子:吸入ステロイド薬(吸入後のうがい不足)、義歯の装着、口腔乾燥(加齢、Sjögren症候群、頭頸部の放射線治療)、口腔衛生不良 ・全身因子:糖尿病、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の全身投与、抗菌薬の長期使用(常在細菌叢の乱れによる菌交代現象)、化学療法、HIV感染症、高齢、乳児 健康な成人に誘因なく繰り返す口腔カンジダ症や食道カンジダ症をみたら、HIV感染症や糖尿病などの基礎疾患を検索する。
口腔カンジダ症の病型
・偽膜性:剝離可能な白色偽膜。最も多い。 ・紅斑性(萎縮性):粘膜の発赤・萎縮、舌乳頭の萎縮。ひりひりした痛み。義歯の下(義歯性口内炎)や抗菌薬投与後にみられる。 ・肥厚性:剝がれにくい白色の肥厚性病変で、白板症との鑑別が必要。 ・口角炎(カンジダ性口角びらん)
吸入ステロイドの局所副作用と予防
口腔カンジダ症のほか、嗄声(喉頭筋への作用、声帯のカンジダ症)、咽頭刺激感がある。吸入後のうがい(含嗽)、スペーサーの使用、粒子径の小さい製剤への変更などで予防する。全身性副作用は経口ステロイドに比べて少ないため、口腔カンジダ症が起きても喘息治療上の必要性があれば吸入ステロイドは継続し、うがいの指導と抗真菌薬で対応するのが基本である。
口腔白色病変の鑑別の整理
剝がれる:偽膜性カンジダ症 剝がれない:白板症(前癌病変)、扁平苔癬(レース状、頬粘膜)、肥厚性カンジダ症、口腔癌(硬結、潰瘍を伴う) 潰瘍の上の白色偽膜:アフタ(強い接触痛、紅暈) 水疱・びらん:単純ヘルペス、帯状疱疹、天疱瘡など
POINT
・口腔の白色病変は「こすって剝がれるか」で鑑別する。剝がれる=偽膜性カンジダ症、剝がれない=白板症・扁平苔癬。 ・吸入ステロイド薬は口腔カンジダ症の代表的な誘因であり、吸入後のうがいで予防する。 ・白板症は前癌病変、扁平苔癬は頬粘膜のレース状白色病変。 ・アフタは紅暈を伴う有痛性の小潰瘍、単純ヘルペスは有痛性の水疱・びらん。 ・治療は抗真菌薬(ミコナゾールなど)と誘因への対処。
