病変がないのに痛い―機能性月経困難症はプロスタグランジンで読み解く
第120回医師国家試験 A問題 第11問
国試問題にチャレンジ
機能性月経困難症で正しいのはどれか。
- a.30歳以降に好発する。
- b.手術療法が第一選択となる。
- c.子宮筋腫や子宮内膜症が主な原因である。
- d.プロスタグランディン合成阻害薬が有効である。
- e.月経開始の1週間前から疼痛が始まり月経終了後も続く。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
機能性月経困難症は、骨盤内に器質的疾患がないにもかかわらず、分泌期内膜で産生されるプロスタグランジン(特にPGF2α)の過剰によって子宮筋が過収縮・虚血を起こし、痛みが生じる病態です。排卵周期が確立する初経後1〜3年頃の若年者に多く、痛みは月経開始とともに始まって1〜2日目に最も強い痙攣性のもので、治療はPG合成を抑えるNSAIDsが第一選択、不十分ならLEPを用います。30歳以降の発症、月経前から月経後まで続く鈍痛、子宮内膜症や子宮筋腫などの原疾患、手術療法の検討は器質性月経困難症の特徴です。機能性は除外診断であり、若年者でも子宮内膜症が隠れていることがあるため、治療に反応しない場合や症状が増悪する場合には器質性疾患を再検索する姿勢が重要です。病態から治療までをPGという一本の軸でつなげて理解することが、月経困難症の診療の基本になります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
月経困難症とは、月経期間中に月経に伴って起こる病的な症状(下腹部痛、腰痛、悪心・嘔吐、頭痛など)をいう。原因となる骨盤内疾患の有無により、機能性(原発性)月経困難症と器質性(続発性)月経困難症に分けられる。本問は機能性月経困難症の特徴を問うもので、両者を対比して理解しているかがポイントである。
機能性月経困難症の病態
子宮や卵巣に明らかな病変がないにもかかわらず生じる月経困難症である。主な機序は、分泌期の子宮内膜で産生されるプロスタグランジン(PG)、特にPGF2αの過剰である。月経時に内膜が剥がれる際にPGが大量に放出され、子宮筋の過剰な収縮と子宮筋層の虚血を引き起こし、これが痛みとなる。PGは消化管平滑筋も収縮させるため、悪心・嘔吐、下痢を伴うこともある。若年者では子宮頸管が狭く、経血の排出が妨げられることも一因とされる。PGの産生は排卵後に形成される黄体からのプロゲステロンの作用を受けた内膜で多いため、症状は排卵周期が確立する初経後1〜3年頃から現れやすい。
考え方
したがって、機能性月経困難症は「若年者に多い」「器質的疾患がない」「痛みは月経開始直前〜月経開始時に始まり、出血量の多い月経1〜2日目に最も強い」「治療はPGを抑える薬物療法が中心」と整理できる。これと逆の特徴(30歳以降、器質的疾患が原因、月経前から月経後まで続く痛み、手術療法)は器質性月経困難症のものである。
選択肢考察
- ×a. 30歳以降に好発する。
機能性月経困難症は、排卵周期が確立する初経後1〜3年頃から始まり、10歳代後半〜20歳代前半の若年女性に多い。加齢や出産経験により軽快する傾向がある。30歳以降に新たに発症・増悪する月経困難症は、子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫といった器質性月経困難症を疑う根拠となる。
- ×b. 手術療法が第一選択となる。
機能性月経困難症には切除すべき病変が存在しないため、手術療法の適応はない。治療は薬物療法が中心である。手術療法が考慮されるのは、子宮筋腫や子宮内膜症などの器質性月経困難症で、薬物療法の効果が不十分な場合や、病変が大きい場合、妊孕性の希望などを踏まえて選択される場合である。
- ×c. 子宮筋腫や子宮内膜症が主な原因である。
子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、骨盤内炎症による癒着、子宮奇形などの骨盤内疾患が原因となるのは器質性(続発性)月経困難症である。機能性月経困難症は、これらの器質的疾患が除外されたうえで診断され、原因は内膜で産生されるPGによる子宮の過収縮や、若年者での子宮頸管の狭さなどである。
- ○d. プロスタグランディン合成阻害薬が有効である。
機能性月経困難症の痛みの主因は子宮内膜で産生されるPGの過剰であるため、シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してPG合成を抑える非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、例:ロキソプロフェン、イブプロフェン)が第一選択となる。PGが大量に産生される前、すなわち痛みが出始めた早期(または月経開始直後)から服用すると効果が高い。NSAIDsで効果が不十分な場合や避妊も希望する場合には、排卵を抑制し内膜を薄くしてPG産生を減らす低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)が用いられる。そのほか、漢方薬(当帰芍薬散など)や鎮痙薬が併用されることもある。
- ×e. 月経開始の1週間前から疼痛が始まり月経終了後も続く。
機能性月経困難症の痛みは、月経開始の数時間前〜月経開始とともに始まり、経血量が多くPGの放出が多い月経1〜2日目に最も強く、通常2〜3日で軽快する。痙攣性の痛みであることが多い。一方、月経前から始まり月経終了後まで続く持続的な鈍痛は、子宮内膜症や子宮腺筋症などの器質性月経困難症に特徴的である。なお、月経開始の3〜10日前から心身の症状が現れ月経開始とともに消える病態は月経前症候群(PMS)であり、これとも区別する。
機能性月経困難症と器質性月経困難症の比較
・好発年齢:機能性は初経後まもない若年者(10〜20歳代前半)/器質性は30歳以降に多い ・原因:機能性は器質的疾患なし(PG過剰、子宮頸管狭小など)/器質性は子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫、骨盤内癒着、子宮奇形など ・痛みの時期:機能性は月経初日〜2日目に強く短期間/器質性は月経前から月経後まで持続しやすく、年々増悪することがある ・痛みの性質:機能性は痙攣性の痛み/器質性は持続性の鈍痛が多い ・治療:機能性はNSAIDs、LEPなどの薬物療法/器質性は原疾患の治療(ホルモン療法、手術療法を含む)
診断の進め方
機能性月経困難症は除外診断である。詳しい問診(初発時期、痛みの時期・性状・経過、性交痛や排便痛の有無)、内診、経腟(性交経験がなければ経直腸または経腹)超音波検査を行い、必要に応じてMRI、炎症反応(CRP)、クラミジアなどの感染症検査で器質的疾患を除外する。若年者でも子宮内膜症が隠れていることがあり、薬物療法に反応しない場合や症状が増悪する場合は改めて器質性疾患を検索する。
LEPについて
低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬は、月経困難症の治療薬として保険適用がある。重大な副作用として血栓症があり、喫煙者(特に35歳以上で1日15本以上)、前兆を伴う片頭痛のある人などには禁忌である。
POINT
・機能性月経困難症:器質的疾患なし、若年者に多い、PG(特にPGF2α)過剰による子宮の過収縮・虚血が原因 ・痛みは月経1〜2日目に最も強い ・第一選択はPG合成阻害薬(NSAIDs)、無効ならLEP ・30歳以降の発症、月経前から月経後まで続く痛み、原疾患の存在、手術療法は器質性月経困難症の特徴
