脳は起きているのに体は動かない―「逆説睡眠」レム睡眠の正体
第116回医師国家試験 C問題 第8問
国試問題にチャレンジ
レム睡眠で正しいのはどれか。
- a.徐波睡眠と呼ばれる。
- b.骨格筋の活動が活発になる。
- c.夢を見ていることが少ない。
- d.自律神経系の活動が変動しやすい。
- e.成人では一晩の睡眠の半分以上を占める。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
レム睡眠は急速眼球運動を伴い、脳波は低振幅・混合周波数で覚醒に近い一方、脳幹からの抑制により骨格筋の緊張がほぼ消失するため「逆説睡眠」とも呼ばれます。心拍・呼吸・血圧などの自律神経系の活動は不規則に変動し、鮮明で物語的な夢を見ていることが多いのが特徴です。徐波睡眠は深いノンレム睡眠(N3)を指し、成人ではレム睡眠は全睡眠の約20〜25%で明け方に多く、新生児では約半分を占めます。筋アトニーの破綻によるレム睡眠行動障害や、入眠時レム睡眠期が現れるナルコレプシーなど、レム睡眠の生理を理解しておくことは睡眠障害や神経変性疾患の診療に直結します。
解答・解説
正解はdです
睡眠は、脳波・眼球運動・筋電図の所見から、レム睡眠(REM睡眠:rapid eye movement sleep、急速眼球運動を伴う睡眠)とノンレム睡眠(non-REM睡眠)の2種類に大別される。 レム睡眠の特徴は次の3点に集約できる。 (1) 脳波は低振幅で、さまざまな周波数が混在する覚醒時に近いパターン(入眠期のノンレム睡眠段階1に似る)を示し、大脳は活発に活動している。このため「逆説睡眠(paradoxical sleep)」とも呼ばれる。 (2) 閉じたまぶたの下で急速眼球運動が出現する一方、脳幹からの抑制により抗重力筋を中心とした骨格筋の緊張がほぼ消失する(筋アトニー)。 (3) 心拍数・呼吸・血圧などの自律神経系の指標が不規則に変動し、鮮明でストーリー性のある夢を見ていることが多い。 一方、ノンレム睡眠は眠りの深さで段階分けされ、深い段階では高振幅の徐波(δ波)が増える徐波睡眠となる。ノンレム睡眠中は自律神経活動が副交感神経優位で安定し、心拍・呼吸は規則的でゆっくりになる。 本問では、これらの特徴と選択肢を照らし合わせ、レム睡眠の性質として正しい記述を選べばよい。「脳は覚醒に近いが体は動かない、自律神経は不安定」というイメージを持っておくと判断しやすい。
選択肢考察
- ×a. 徐波睡眠と呼ばれる。
徐波睡眠(slow wave sleep)は、脳波上に高振幅の徐波(δ波、0.5〜2Hz程度・振幅75μV以上)が多くみられる深いノンレム睡眠を指す。従来の分類では睡眠段階3・4、現在の米国睡眠医学会(AASM)の分類ではN3段階に相当する。レム睡眠の脳波は低振幅・混合周波数で徐波は乏しく、むしろ覚醒に近い。したがってレム睡眠は徐波睡眠ではない。
- ×b. 骨格筋の活動が活発になる。
レム睡眠中は脳幹(橋)から脊髄運動ニューロンへの抑制がかかり、オトガイ筋などの抗重力筋の緊張がほぼ消失する(筋アトニー)。夢の内容に合わせて体が実際に動いてしまうことを防ぐ仕組みと考えられている。眼球運動や呼吸筋(横隔膜)、手指などの一過性のぴくつきは残るが、骨格筋の活動全体はむしろ低下する。この抑制が障害され、夢に合わせて叫んだり手足を動かしたりする病態がレム睡眠行動障害である。
- ×c. 夢を見ていることが少ない。
レム睡眠中に起こすと、多くの場合に夢を見ていたと報告され、内容も視覚的で物語性のある鮮明なものが多い。ノンレム睡眠中にも夢は見られるが、頻度は低く内容も断片的・思考的であることが多い。したがって「夢を見ていることが少ない」は逆である。
- ○d. 自律神経系の活動が変動しやすい。
レム睡眠中は交感神経と副交感神経の活動が一定せず、心拍数・呼吸数・血圧が不規則に変動する(自律神経の嵐とも表現される)。体温調節機能も低下し、男性では陰茎勃起がみられる。これに対し、ノンレム睡眠では副交感神経優位で心拍・呼吸が規則的に安定する。夜間後半〜明け方のレム睡眠が多い時間帯に、狭心症発作や不整脈などが起こりやすいことの一因とも考えられている。
- ×e. 成人では一晩の睡眠の半分以上を占める。
健康な成人では、ノンレム睡眠とレム睡眠が約90分(おおむね90〜120分)の周期で一晩に4〜5回繰り返され、レム睡眠は全睡眠時間の約20〜25%を占めるにすぎず、残りの約75〜80%はノンレム睡眠である。レム睡眠の1回の持続は、入眠後最初の周期では短く、明け方に向かって長くなる。なお、新生児では全睡眠の約50%がレム睡眠であり、加齢とともにその割合は減少する。
レム睡眠とノンレム睡眠の比較
・脳波:レム睡眠=低振幅・混合周波数(覚醒に近い、鋸歯状波)/ノンレム睡眠=段階が深まるにつれ紡錘波・K複合、さらに高振幅徐波(δ波)が出現 ・眼球運動:レム睡眠=急速眼球運動あり/ノンレム睡眠=入眠期の緩徐な眼球運動のみ ・筋緊張:レム睡眠=消失(筋アトニー)/ノンレム睡眠=保たれるが低下 ・自律神経:レム睡眠=不安定(心拍・呼吸・血圧が不規則)/ノンレム睡眠=副交感神経優位で安定 ・夢:レム睡眠=多く、鮮明で物語的/ノンレム睡眠=少なく、断片的 ・一晩での分布:徐波睡眠は前半に多く、レム睡眠は後半(明け方)に多い
睡眠段階の分類
従来のRechtschaffen & Kales分類ではノンレム睡眠を段階1〜4に分けていたが、現在のAASM分類ではN1(入眠期)、N2(紡錘波・K複合が出現)、N3(徐波睡眠、旧段階3+4)の3段階に整理されている。レム睡眠はRと表記される。
加齢による変化
新生児では睡眠の約半分がレム睡眠であり、成長とともに約20〜25%へ減少する。高齢者では徐波睡眠(N3)が著明に減少し、中途覚醒が増える。
レム睡眠に関連する疾患・現象
・ナルコレプシー:入眠時レム睡眠期(SOREMP)が出現し、情動脱力発作(カタプレキシー)、入眠時幻覚、睡眠麻痺(いわゆる金縛り)を伴う。レム睡眠の要素が覚醒中や入眠直後に現れる病態である。 ・レム睡眠行動障害:レム睡眠中の筋アトニーが失われ、夢内容に一致した異常行動を示す。パーキンソン病やレビー小体型認知症などのα-シヌクレイノパチーの前駆症状として重要。 ・ノンレム睡眠(徐波睡眠)から生じる睡眠時随伴症:睡眠時遊行症(夢遊病)、睡眠時驚愕症(夜驚症)は小児に多く、夜間前半に起こりやすい。
POINT
・レム睡眠=急速眼球運動+骨格筋の脱力(筋アトニー)+覚醒に近い脳波(逆説睡眠)。 ・自律神経は不安定で、心拍・呼吸・血圧が不規則に変動する。 ・夢を見ていることが多い。 ・成人では全睡眠の約20〜25%(新生児では約50%)。約90分周期で一晩に4〜5回出現し、明け方に多い。 ・徐波睡眠は深いノンレム睡眠(N3)であり、レム睡眠ではない。
