StudyMed医師国家試験

「気にしているけど、まだやれていない」―関心期の患者に響くひと言とは

第119回医師国家試験 E問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第119回 E問題 第32問

49歳の男性。健康診断で初めて高血圧を指摘され来院した。普段から味の濃い食べ物を好み,塩分の摂りすぎを気にしている。減塩はしていない。喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。身長172cm,体重72kg。体温36.4℃。脈拍68/分,整。血圧146/92mmHg。  この患者の行動変容のステージに基づく指導で適切なのはどれか。

  1. a.「減塩しなければ脳出血になります」
  2. b.「塩分の取りすぎが高血圧の原因です」
  3. c.「味の濃い食べ物を摂るのを控えましょう」
  4. d.「どのようにしたら減塩できると思いますか」
  5. e.「その気になるまで減塩する必要はありません」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高血圧を指摘された人への生活指導を、行動変容のステージに合わせて選ぶ問題だ。医学知識そのものより、「この人が今どの段階にいて、どんな声かけが背中を押すか」を考えるのがポイント。まずはステージを判定してみよう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習ったトランスセオレティカルモデルですね。無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期の5段階でした。
ドクタードクター
よく覚えているね。ではこの患者さんはどこに当たるかな。
医学生医学生
塩分の摂りすぎを気にしているけど、減塩はしていない……。気にしているなら準備期でしょうか。
ドクタードクター
惜しい。準備期は、おおむね1か月以内に行動を始めるつもりがあって、何らかの準備に手をつけている段階だ。この人は問題を自覚しているけれど、具体的な準備はまだ始めていない。これは関心期、熟考期とも呼ばれる段階に当たる。
医学生医学生
なるほど、「わかっているけど動けていない」のが関心期なんですね。
ドクタードクター
そう。関心期の人の心の中には、「減らしたほうがいい」という気持ちと「味気ない食事は嫌だ」「面倒だ」という気持ちが同居している。これを両価性という。この時期に知識を押しつけたり指示したりしても、なかなか行動にはつながらないんだ。
医学生医学生
だから本人に考えてもらう、「どのようにしたら減塩できると思いますか」という声かけが正解なんですね。
ドクタードクター
その通り。はい・いいえで答えられない開かれた質問で、本人に方法を考えてもらう。自分で答えを出すことで「自分にもできそうだ」という自己効力感が高まり、準備期へ進む後押しになる。本人が考えた方法は生活に合っていて続けやすい、という利点もあるよ。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、最初は開かれた質問から入るように練習しました。
ドクタードクター
まさに同じ考え方だね。では、ほかの声かけがなぜ合わないかも確認しよう。「減塩しなければ脳出血になります」はどうかな。
医学生医学生
脅しっぽいですよね。でも怖さを知れば行動を変える人もいそうな気がします。
ドクタードクター
そう感じるのも自然だけど、恐怖をあおる説得は反発や「聞きたくない」という回避を招き、かえって行動を妨げることがある。そもそも減塩しなければ必ず脳出血になるわけでもなく、内容として不正確だ。高血圧が脳卒中の危険を高めるという情報は、本来は問題に気づいていない無関心期の人に気づいてもらうために使うものなんだ。
医学生医学生
「塩分の取りすぎが高血圧の原因です」も、無関心期向けの情報提供ですね。この人はもう知っていますし。
ドクタードクター
そうだね。すでに気にしている人に同じ知識を繰り返しても、新しい動機にはならない。高血圧の原因は食塩だけではないから、断定するのも正確ではない。では「味の濃い食べ物を控えましょう」は?
医学生医学生
具体的でいい指導に見えますが、それは準備期向けですか。
ドクタードクター
その通り。行動する意思が固まった準備期なら、具体的な目標や計画を一緒に決めるのが有効だ。でも迷っている関心期の人に一方的に指示すると、「わかってはいるけどできない」と抵抗が生まれやすい。そして「その気になるまで減塩する必要はありません」は、どのステージでも不適切だ。
医学生医学生
本人の意思を尊重しているようにも聞こえますけど……。
ドクタードクター
尊重と放棄は違うんだ。この人はⅠ度高血圧で、減塩はすべての高血圧患者に勧められる基本の治療。せっかく問題意識を持っている人への働きかけをやめるのは、指導の機会を逃すことになる。
医学生医学生
ステージごとに、無関心期は気づき、関心期は動機づけ、準備期は計画づくり、と整理すればよさそうですね。
ドクタードクター
いいまとめだ。さらに実行期はできていることを褒めて強化し、記録などの自己監視を支援する。行動を6か月以上続けている維持期は逆戻りを防ぐ工夫や家族のサポートが中心になる。ステージは一方向に進むとは限らず、行ったり来たりすることも覚えておこう。臨床では動機づけ面接法の技法、つまり開かれた質問、是認、聞き返し、要約を使って、本人の口から変化に向かう言葉を引き出すのがコツだ。
医学生医学生
減塩の目標値も確認しておきたいです。
ドクタードクター
高血圧の人の目標は食塩1日6 g未満。日本人の平均摂取量はまだ約10 gと多いから、外来ではかなり意識しないと届かない数字だ。だからこそ、本人が「これならできる」と思える方法を一緒に見つけることが、長続きする減塩への近道になるんだよ。

まとめ

行動変容ステージモデルでは、無関心期・関心期・準備期・実行期・維持期の段階ごとに有効な働きかけが異なります。問題を自覚しているがまだ行動していない人は関心期にあり、両価的な気持ちを受け止めながら、開かれた質問で本人に方法を考えてもらうことで自己効力感と動機を高めるのが適切です。恐怖をあおる説得や一方的な知識提供・行動指示はこの段階では行動につながりにくく、働きかけを放棄する対応はどのステージでも不適切です。高血圧では食塩1日6 g未満を目標とする減塩が基本治療であり、患者の段階を見極めた声かけは生活習慣病診療全般に通じる重要なスキルです。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・49歳の男性。健康診断で初めて高血圧を指摘された。 ・血圧146/92 mmHgで、日本高血圧学会のガイドライン(JSH2019)ではⅠ度高血圧(収縮期140〜159 mmHgまたは拡張期90〜99 mmHg)に当たる。 ・BMIは72÷(1.72×1.72)≒24.3で、肥満(BMI 25以上)には達していない。喫煙歴はなく、飲酒は機会飲酒程度である。生活習慣上の主な問題は、味の濃い食事による食塩の摂りすぎである。 ・本人は「塩分の摂りすぎを気にしている」が、「減塩はしていない」。

行動変容ステージの判定

この問題は、Prochaskaらの多理論統合モデル(トランスセオレティカルモデル)でいう行動変容ステージの判定を求めている。ステージは、無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期の順に進む。 本例は、自分の食塩摂取が問題であると自覚し気にしているが、まだ実際の減塩行動は始めていない。この「問題を認識しているが、近いうち(おおむね1か月以内)に行動を始める具体的な準備はできていない」段階は、関心期(熟考期)に当たる。

設問の考え方

関心期の人は、変えたほうがよいとわかっていながら、「面倒だ」「味気ない食事は嫌だ」といった気持ちとの間で揺れている(両価性)。この時期には、知識を一方的に与えたり、不安をあおったり、行動を指示したりしても、行動にはつながりにくい。本人の考えや気持ちを引き出し、変化することの利点を自分で見出して自分で方法を考えられるよう支援することが有効である(動機づけ面接法の考え方)。開かれた質問(はい・いいえで答えられない質問)で本人に方法を考えてもらう声かけが、このステージに合った指導となる。

選択肢考察

  1. ×a.  「減塩しなければ脳出血になります」

    不適切。重い結果を断定的に示して恐怖心に訴える声かけである。恐怖や不安をあおる説得は、反発や問題からの回避(「聞きたくない」)を招き、かえって行動変容を妨げることがある。また、減塩しなければ必ず脳出血になるわけではなく、内容も不正確である。高血圧が脳卒中の危険を高めるという情報自体は、主に無関心期の人に問題を気づかせる目的で使うものだが、本例はすでに問題を自覚している。

  2. ×b.  「塩分の取りすぎが高血圧の原因です」

    不適切。食塩と高血圧の関係を伝える知識の提供であり、問題に気づいていない無関心期の人に向く働きかけである。本例はすでに塩分の摂りすぎを気にしており、この知識は持っていると考えられる。同じ情報を繰り返しても新たな動機づけにはならない。また、高血圧の原因は食塩だけではないので、断定的な言い方は正確でもない。

  3. ×c.  「味の濃い食べ物を摂るのを控えましょう」

    不適切。医療者が具体的な行動を指示する声かけである。行動を起こす意思が固まった準備期の人には、具体的な目標や行動計画を一緒に決める働きかけが有効である。しかし、まだ迷いのある関心期の人に一方的に指示すると、「わかってはいるができない」と抵抗が生じやすい。また本人はすでに、控えたほうがよいことは理解している。

  4. ○d.  「どのようにしたら減塩できると思いますか」

    適切。患者自身に減塩の方法を考えてもらう開かれた質問である。関心期の人の両価的な気持ちに寄り添いながら、自分で答えを出す過程を通じて「自分にもできそうだ」という感覚(自己効力感)と動機を高める。そうすることで、準備期へ進む後押しになる。本人が自分で考えた方法は実生活に合っていて、続けやすいという利点もある。

  5. ×e.  「その気になるまで減塩する必要はありません」

    不適切。本例は治療介入が必要なⅠ度高血圧であり、生活習慣の修正、特に減塩はすべての高血圧患者に勧められる基本の治療である。せっかく問題意識をもっている患者に対して行動変容の働きかけをやめるのは、指導の機会を逃すことになる。本人の意思を尊重することと、働きかけを放棄することは違う。

行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル)とステージ別の働きかけ

・無関心期(前熟考期):6か月以内に行動を変えるつもりがない時期。問題に気づかせるため、情報提供、検査結果の意味の説明、行動しないことの不利益と変えることの利益を伝えることが有効である。 ・関心期(熟考期):6か月以内に行動を変えようと考えているが、まだ行動していない時期。両価性を受け止め、利益と負担を本人と一緒に整理する。開かれた質問で本人の考えを引き出し、自己効力感を高めて動機づけを強める。 ・準備期:1か月以内に行動を変えるつもりがあり、何らかの準備を始めている時期。具体的で実現可能な目標設定、行動計画の作成、周囲への宣言(決意表明)などを支援する。 ・実行期:行動を変えて6か月未満の時期。逆戻りしやすいため、できていることを評価・称賛し(強化)、自己監視(記録)、ご褒美の設定、環境調整、つまずきへの対処法を支援する。 ・維持期:行動を6か月以上続けている時期。逆戻り(再発)を防ぐ工夫や、家族などのサポートを活用する。 なお、ステージは一方向にだけ進むものではなく、逆戻りや行き来がありうる。

動機づけ面接法の基本

開かれた質問、是認(努力や長所を認める)、聞き返し(本人の言葉を反映する)、要約を用いる。本人の口から変化に向かう発言(チェンジトーク)を引き出すことを重視する。

高血圧の生活習慣修正

・減塩:目標は食塩1日6 g未満(日本人の平均摂取量は約10 gで、まだ多い)。 ・野菜・果物の積極的摂取(重い腎障害がある場合はカリウム制限に注意)、飽和脂肪酸の制限。 ・適正体重の維持(BMI 25未満)、有酸素運動、節酒、禁煙。 ・成人の血圧分類(JSH2019、診察室血圧):正常血圧<120/80、正常高値血圧120〜129/<80、高値血圧130〜139/80〜89、Ⅰ度高血圧140〜159/90〜99、Ⅱ度高血圧160〜179/100〜109、Ⅲ度高血圧≧180/110 mmHg。

POINT

・「問題を気にしているが、まだ行動していない」状態は関心期である。 ・ステージに合った働きかけは、無関心期が情報提供・気づき、関心期が動機づけ(開かれた質問で本人に考えさせる)、準備期が目標・計画づくり、実行期が強化・称賛、維持期が逆戻り防止・支援体制づくりである。 ・恐怖をあおる説得や一方的な指示は、行動変容につながりにくい。 ・行動変容への働きかけを放棄する対応は、どのステージでも不適切である。 ・高血圧の減塩目標は食塩1日6 g未満である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。