痩せて汗ばむ27歳の首のふくらみ―血流が教えるBasedow病と検査値の読み方
第119回医師国家試験 D問題 第70問
国試問題にチャレンジ
27歳の女性。頸部腫大を主訴に来院した。6か月前から体重が減少し,汗をかきやすいことを自覚している。身長164cm,体重47kg(6か月前は52kg)。脈拍112/分,整。血圧120/76mmHg。頸部の外観写真(A)と甲状腺超音波像(カラードプラ)(B)とを下に示す。 この患者の血液検査で高値なのはどれか。2つ選べ。

- a.CRP
- b.FT3
- c.TSH
- d.可溶性IL-2受容体
- e.抗TSH受容体抗体〈TRAb〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
体重減少・多汗・頻脈に甲状腺のびまん性腫大を伴う場合は甲状腺中毒症を考え、ホルモン合成が亢進する機能亢進症か、組織破壊でホルモンが漏れ出す破壊性甲状腺炎かを見分けます。カラードプラで甲状腺全体の血流が著明に増加していれば、自己抗体に刺激されて甲状腺が活発に働くBasedow病が強く示唆されます。Basedow病では刺激型の抗TSH受容体抗体(TRAb)が原因として高値となり、FT3・FT4が上昇してFT3優位になりやすい一方、TSHは負のフィードバックで著しく低下します。CRP上昇は亜急性甲状腺炎、可溶性IL-2受容体上昇は橋本病を背景とする甲状腺悪性リンパ腫を示唆する所見です。症状・画像・病態生理をつなげて検査値を予測する考え方は、甲状腺疾患の鑑別と治療方針決定の土台になります。
解答・解説
正解はb, eです
所見の整理
・27歳の若年女性で、主訴は頸部腫大である。 ・6か月で体重が52kgから47kgへ約10%減少し、汗をかきやすくなっている。食欲があるのに痩せる、暑がり・多汗といった症状は、代謝が過剰に高まった状態(甲状腺中毒症)の典型である。 ・脈拍112/分の頻脈も甲状腺ホルモン過剰による交感神経様作用で説明できる。 ・頸部外観写真(A)では、前頸部が左右対称になだらかに腫れており、甲状腺のびまん性腫大と考えられる。 ・甲状腺超音波カラードプラ(B)では、腫大した甲状腺全体に豊富な血流信号がみられる(びまん性の血流亢進)。
診断へのプロセス
体重減少・多汗・頻脈に甲状腺腫大が加わっており、まず甲状腺中毒症を考える。甲状腺中毒症の原因は大きく、①甲状腺でホルモン合成が亢進する「甲状腺機能亢進症」(Basedow病が代表)と、②甲状腺組織が壊れて蓄えていたホルモンが漏れ出す「破壊性甲状腺炎」(無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎)に分けられる。 ・亜急性甲状腺炎は、先行する上気道炎、発熱、甲状腺の痛み・圧痛を伴うのが特徴で、本例にはその記載がない。 ・無痛性甲状腺炎は痛みがない点で似るが、組織が壊れているだけでホルモン合成は増えていないため、甲状腺内の血流は乏しい。 ・本例はドプラで血流がびまん性に著明に増加しており、TSH受容体抗体の刺激で甲状腺が活発に働いていることを示す。経過も6か月と長く、一過性の破壊性甲状腺炎より持続的なBasedow病に合う。 よって、Basedow病と診断する。
設問の考え方
Basedow病は、TSH受容体を刺激する自己抗体(TRAb、特に刺激型のTSAb)が甲状腺を刺激し続け、甲状腺ホルモン(FT3・FT4)が過剰に作られる自己免疫疾患である。ホルモン過剰は下垂体へ負のフィードバックをかけるため、TSHは低値(多くは測定感度以下)となる。したがって高値となるのは、FT3とTRAbである。
選択肢考察
- ×a. CRP
CRP(C反応性蛋白)は炎症で上昇する蛋白である。甲状腺疾患では、ウイルス感染後に甲状腺に肉芽腫性の炎症が起こる亜急性甲状腺炎で、赤沈亢進とともに上昇するのが特徴である。Basedow病は自己抗体による甲状腺刺激が本態で、組織の強い炎症を伴わないため、CRPは通常上昇しない。本例には発熱や甲状腺の痛みもない。
- ○b. FT3
Basedow病ではTRAbが甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの合成・分泌が増えるため、遊離サイロキシン(FT4)と遊離トリヨードサイロニン(FT3)がともに上昇する。特にBasedow病では甲状腺内でT4からT3への変換が亢進し、FT3がFT4に比べて相対的に高くなりやすい(FT3/FT4比が高い)。この点は、蓄えていたホルモンがそのまま漏れ出すためT4優位となりやすい破壊性甲状腺炎との鑑別の参考になる。
- ×c. TSH
TSH(甲状腺刺激ホルモン)は下垂体前葉から分泌され、甲状腺ホルモンが増えると負のフィードバックで分泌が抑えられる。Basedow病では甲状腺ホルモンが過剰なため、TSHは著しく低値(多くは測定感度以下)となる。甲状腺ホルモン高値なのにTSHが低下していないときは、TSH産生下垂体腫瘍や甲状腺ホルモン不応症を考える。
- ×d. 可溶性IL-2受容体
可溶性IL-2受容体(sIL-2R)は、活性化したT細胞などから血中へ放出される分子で、悪性リンパ腫の腫瘍量や活動性の指標として使われる。甲状腺では、慢性甲状腺炎(橋本病)を背景に発生する甲状腺原発悪性リンパ腫(急速に増大する硬い甲状腺腫を示す高齢女性が典型)で上昇しうる。本例は若年で甲状腺中毒症状を伴い、リンパ腫を疑う根拠はない。
- ○e. 抗TSH受容体抗体〈TRAb〉
TRAbは甲状腺濾胞細胞のTSH受容体に結合する自己抗体である。Basedow病では、TSHの代わりに受容体を持続的に刺激する刺激型抗体(TSAb)が病気の原因そのものであり、未治療のBasedow病の大部分で陽性(高値)となる。無痛性甲状腺炎など他の甲状腺中毒症との鑑別に最も有用な検査で、治療効果や再発リスクの評価、妊娠時の胎児・新生児甲状腺機能異常の予測にも用いられる。
甲状腺中毒症の鑑別
1. Basedow病(甲状腺機能亢進症) ・20〜40歳代の女性に多い。甲状腺のびまん性腫大、頻脈、眼症状(眼球突出など)が古典的なMerseburgの三徴である。 ・検査:FT3・FT4高値(FT3優位になりやすい)、TSH低値、TRAb(TSAb)陽性。 ・超音波:びまん性腫大と、カラードプラで甲状腺全体の血流亢進。 ・放射性ヨウ素(またはテクネチウム)甲状腺摂取率:高値(ホルモン合成が盛んなため)。 ・治療:抗甲状腺薬(チアマゾール〈MMI〉が第一選択。妊娠初期はプロピルチオウラシル〈PTU〉を考慮)、放射性ヨウ素内用療法、甲状腺手術。頻脈にはβ遮断薬を併用する。 2. 無痛性甲状腺炎(破壊性) ・産後に起こりやすい。痛みはなく、一過性の甲状腺中毒症のあと、一過性の機能低下を経て回復することが多い。 ・TRAbは通常陰性、甲状腺内の血流は乏しく、摂取率は低値。治療は対症療法(β遮断薬)で、抗甲状腺薬は無効。 3. 亜急性甲状腺炎(破壊性) ・上気道炎の後に、発熱、甲状腺の痛み・圧痛(痛む部位が反対側へ移ることもある)を生じる。 ・CRP上昇・赤沈亢進。超音波では痛む部位に一致した低エコー域がみられ、摂取率は低値。治療は副腎皮質ステロイドや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)。
その他
・機能性甲状腺結節(Plummer病):自律的にホルモンを作る結節があり、シンチグラフィで結節に一致した集積(ホット)を示す。 ・甲状腺原発悪性リンパ腫:橋本病を背景に高齢女性で急速増大する甲状腺腫。可溶性IL-2受容体が上昇しうる。
POINT
・甲状腺中毒症=体重減少、多汗、頻脈、甲状腺腫大。 ・Basedow病:FT3・FT4高値、TSH低値、TRAb陽性。FT3優位になりやすい。 ・超音波ドプラでびまん性の血流亢進→Basedow病。血流が乏しければ無痛性甲状腺炎を考える。 ・CRP上昇+甲状腺の痛み→亜急性甲状腺炎。 ・可溶性IL-2受容体→悪性リンパ腫(甲状腺では橋本病背景)。 ・TRAbはBasedow病と破壊性甲状腺炎の鑑別に有用。
