泡立つ黄色い帯下が教える正体―かゆみを伴う腟炎の見分け方
第115回医師国家試験 E問題 第27問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。外陰部の瘙痒感を主訴に来院した。1か月前から瘙痒を伴う帯下が続いている。痛みはない。身長158cm,体重64kg。体温36.5℃。脈拍72/分,整。血圧124/76 mmHg。呼吸数18/分。内診で子宮と両側付属器に異常を認めない。帯下は黄色泡沫状。外陰に発赤を認めない。 可能性が高いのはどれか。
- a.萎縮性腟炎
- b.細菌性腟炎
- c.カンジダ腟炎
- d.トリコモナス腟炎
- e.クラミジア子宮頸管炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
瘙痒を伴う黄色〜黄緑色の泡沫状帯下は、原虫Trichomonas vaginalisによるトリコモナス腟炎を強く示唆し、悪臭やいちご状子宮頸部を伴うこともあります。同じく瘙痒が強いカンジダ腟炎は酒粕状・ヨーグルト状の白色帯下と外陰の発赤が特徴で、細菌性腟症は灰白色均質の帯下と生臭いアミン臭を示し瘙痒に乏しい点で区別できます。萎縮性腟炎は閉経後のエストロゲン低下で起こり、クラミジア子宮頸管炎は無症状が多い一方で上行感染による不妊や肝周囲炎が問題となります。トリコモナス腟炎は生理食塩水を用いた鏡検で運動する原虫を確認して診断し、メトロニダゾールで性パートナーと同時に治療します。帯下の性状と腟の自浄作用の仕組みを結びつけて理解することが、外来でよく出会う腟炎を的確に見分ける基本になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・40歳の女性:性成熟期で、性感染症も十分に考えられる年齢である。閉経前であり、エストロゲン低下による萎縮性変化は考えにくい。 ・1か月前から瘙痒を伴う帯下が続く:瘙痒を伴う帯下の増加は、腟炎(腟の感染・炎症)を示唆する。瘙痒が目立つ腟炎としては、カンジダ腟炎とトリコモナス腟炎が代表である。 ・痛みはない:潰瘍や強い疼痛を伴う性器ヘルペスなどは考えにくい。 ・発熱なく、バイタルサインは正常。内診で子宮・付属器に異常なし:子宮内膜炎や付属器炎などの骨盤内炎症性疾患(PID)を示唆する所見はない。 ・帯下は黄色泡沫状:泡沫状(泡立った)帯下はトリコモナス腟炎に特徴的な所見である。 ・外陰に発赤なし:外陰部の発赤・腫脹を伴いやすいカンジダ外陰腟炎には合わない。
診断への道筋
瘙痒を伴う帯下から、まずカンジダ腟炎とトリコモナス腟炎を中心に考える。帯下の性状が鑑別の決め手になり、酒粕状・ヨーグルト状の白色帯下ならカンジダ、黄色〜黄緑色で泡沫状の帯下ならトリコモナスが典型である。本例は黄色泡沫状帯下で外陰の発赤もないため、トリコモナス腟炎の可能性が最も高い。 確定診断は、腟分泌物を生理食塩水に混ぜてすぐに顕微鏡で観察し(鏡検)、鞭毛で活発に動くトリコモナス原虫を確認することで行う。鏡検で見つからない場合は培養法や核酸増幅検査も用いられる。
選択肢考察
- ×a. 萎縮性腟炎
閉経後などエストロゲンが低下した女性で、腟上皮が薄く萎縮し、自浄作用が落ちて起こる腟炎である(老人性腟炎とも呼ばれる)。腟の乾燥感、灼熱感、性交痛、少量の出血や血性帯下などがみられる。40歳の閉経前女性であり、泡沫状帯下も本症に合わない。治療はエストロゲン製剤(腟錠など)が基本である。
- ×b. 細菌性腟炎
腟内の正常細菌叢である乳酸菌(Döderlein桿菌)が減り、Gardnerella vaginalisなどの嫌気性菌が増えた状態である(細菌性腟症ともいう)。灰白色で均質・さらっとした帯下と、魚のような生臭いアミン臭が特徴で、瘙痒や炎症所見は乏しい。黄色泡沫状で瘙痒を伴う本例には合わない。診断にはAmselの基準(均質な帯下、腟pH 4.5超、KOH添加でのアミン臭、clue cellの検出のうち3項目以上)が用いられる。妊婦では早産・前期破水のリスクとなる。治療はメトロニダゾールなどである。
- ×c. カンジダ腟炎
主にCandida albicansによる真菌感染で、強い瘙痒感と、酒粕状・ヨーグルト状の白色帯下が特徴である。外陰の発赤・腫脹を伴うことが多い。抗菌薬使用、妊娠、糖尿病、免疫低下などが誘因となる。瘙痒を伴う点は本例と共通するが、黄色泡沫状の帯下と外陰に発赤がない点が合わない。診断は鏡検(KOH法など)や培養で菌糸・胞子を確認し、抗真菌薬(腟錠や外用薬)で治療する。
- ○d. トリコモナス腟炎
原虫であるTrichomonas vaginalisによる腟炎で、主に性交で感染する。黄色〜黄緑色の泡沫状帯下が特徴で、悪臭や外陰・腟の瘙痒感を伴う。腟壁の発赤や子宮腟部の点状出血(いちご状子宮頸部)がみられることもある。性成熟期の女性、瘙痒を伴う帯下、黄色泡沫状の性状が本例と一致する。鏡検で動く原虫を確認すれば診断でき、治療はメトロニダゾールなどのニトロイミダゾール系薬を用いる。再感染(ピンポン感染)を防ぐため、性パートナーも同時に治療する。
- ×e. クラミジア子宮頸管炎
Chlamydia trachomatisによる性感染症で、日本で最も多い性感染症である。女性では無症状のことが多く、症状があっても帯下の増加(粘液膿性)や不正出血、性交後出血程度である。泡沫状帯下や強い瘙痒は特徴ではない。上行感染で子宮内膜炎、付属器炎、骨盤腹膜炎を起こし、卵管性不妊や異所性妊娠の原因となる。腹腔内に波及すると肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)を起こし右上腹部痛を呈する。診断は核酸増幅検査、治療はアジスロマイシンなどのマクロライド系やテトラサイクリン系、ニューキノロン系の抗菌薬である。
主な腟炎の鑑別
・カンジダ腟炎:酒粕状・ヨーグルト状の白色帯下、強い瘙痒、外陰の発赤・腫脹。腟pHは正常範囲(4.5以下)のことが多い。鏡検で菌糸・胞子。抗真菌薬。 ・トリコモナス腟炎:黄色〜黄緑色の泡沫状帯下、悪臭、瘙痒、いちご状子宮頸部。腟pHは上昇(4.5超)。鏡検で運動する原虫。メトロニダゾール(パートナーも治療)。 ・細菌性腟炎(腟症):灰白色で均質な帯下、生臭いアミン臭、瘙痒や炎症は乏しい。腟pHは上昇。clue cell(細菌が付着して輪郭が不明瞭になった腟上皮細胞)。メトロニダゾールなど。 ・萎縮性腟炎:閉経後、腟乾燥感、性交痛、血性帯下。エストロゲン製剤。 ・クラミジア子宮頸管炎:無症状が多い、粘液膿性帯下。核酸増幅検査。マクロライド系など。
腟の自浄作用
性成熟期の腟では、エストロゲンの作用で腟上皮にグリコーゲンが蓄えられ、乳酸菌(Döderlein桿菌)がこれを分解して乳酸をつくる。これにより腟内は酸性(pH 4前後)に保たれ、病原菌の増殖が抑えられる。エストロゲンが低下する閉経後や、乳酸菌が減る状態では、この自浄作用が弱まり腟炎が起こりやすくなる。
トリコモナス感染症の補足
トリコモナスは男性では尿道などに感染して無症状のことが多く、気づかないまま感染源となりうる。そのため治療は性パートナーと同時に行い、治療中は性交を控える。メトロニダゾール内服中は飲酒を避けるよう指導する(ジスルフィラム様作用)。
POINT
・泡沫状帯下(黄色〜黄緑色、悪臭)はトリコモナス腟炎を示唆する。 ・酒粕状・ヨーグルト状帯下と外陰の発赤・強い瘙痒はカンジダ腟炎。 ・灰白色で均質な帯下と生臭い臭い、瘙痒に乏しい場合は細菌性腟症。 ・トリコモナス腟炎は鏡検で原虫を確認し、メトロニダゾールで治療する。性パートナーも同時に治療する。 ・クラミジア子宮頸管炎は無症状が多く、上行感染で不妊や肝周囲炎の原因となる。
