骨粗鬆症の薬が腎臓を追いつめる―CKD患者の急な腎機能悪化と高カルシウム血症
第119回医師国家試験 D問題 第39問
国試問題にチャレンジ
75歳の男性。腎機能低下のため来院した。20年前に高血圧症と糖尿病,10年前から糖尿病腎症と骨粗鬆症,2年前から腎性貧血を指摘され,自宅近くの診療所で複数の内服薬および皮下注射による治療を受けている。2週間前から全身倦怠感が出現し,血液検査で,クレアチニンが1か月前の2.0mg/dLから3.0mg/dLへ上昇したため,紹介受診した。身長165cm,体重70kg。脈拍72/分,整。血圧146/80mmHg。両下肢に軽度の浮腫を認める。尿所見:蛋白3+,糖1+,潜血(-)。血液所見:赤血球320万,Hb 10.0g/dL,Ht 29%,白血球6,300。血液生化学所見:総蛋白5.8g/dL,アルブミン3.4g/dL,尿素窒素48mg/dL,クレアチニン3.2mg/dL,血糖138mg/dL,HbA1c 7.0%(基準4.9~6.0),Na 142 mEq/L,K 4.5mEq/L,Ca 12.1mg/dL,P 4.0mg/dL。動脈血ガス分析(room air):pH 7.41,PaCO2 36Torr,PaO2 90Torr,HCO3- 21mEq/L。 この患者の治療薬で中止すべきなのはどれか。
- a.ループ利尿薬
- b.カルシウム拮抗薬
- c.重炭酸ナトリウム
- d.エリスロポエチン製剤
- e.活性型ビタミンD製剤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
CKD患者で腎機能が短期間に悪化したときは、脱水や薬剤性などの可逆的な要因を探すことが重要です。低アルブミン血症ではPayneの式で補正Caを求め、本症例のような高Ca血症は輸入細動脈収縮や腎性尿崩症様の多尿による脱水を介して腎機能をさらに悪化させます。骨粗鬆症治療中の高齢者に高Ca血症をみたら、まず活性型ビタミンD製剤(やCa製剤)を疑って中止します。ループ利尿薬はCa排泄を増やす薬であり、高Ca血症を起こすのはサイアザイド系である点、カルシウム拮抗薬・エリスロポエチン製剤・重炭酸ナトリウムは血清Caを上げない点も押さえておきましょう。多剤併用の高齢者では「この症状は薬のせいではないか」と考える姿勢が、日常診療での見落としを防ぎます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・75歳男性。高血圧症と糖尿病が20年来あり、糖尿病腎症による慢性腎臓病(CKD)、骨粗鬆症、腎性貧血に対して複数の内服薬と皮下注射で治療されている。 ・2週間前から全身倦怠感が出現し、血清クレアチニンが1か月で2.0→3.0mg/dL(来院時3.2mg/dL)へ上昇した。CKDを基盤とした腎機能の急性増悪(acute on chronic)である。 ・尿蛋白3+、尿糖1+、尿潜血陰性、両下肢の軽度浮腫、総蛋白5.8g/dL・アルブミン3.4g/dLの低下は、進行した糖尿病腎症に合致する。尿潜血陰性で、急速進行性糸球体腎炎など活動性の糸球体腎炎を示唆する所見はない。 ・血糖138mg/dL、HbA1c 7.0%で、血糖コントロールの急な悪化はない。血圧146/80mmHgとやや高いが、急激な腎機能悪化を説明するほどではない。 ・Hb 10.0g/dLの貧血は腎性貧血として矛盾しない。 ・電解質ではCa 12.1mg/dLと明らかに高い。アルブミンが4g/dL未満のため補正Ca(Payneの式)を求めると、12.1+(4.0-3.4)=12.7mg/dLとなり、さらに高い。Pは4.0mg/dL、Kは4.5mEq/Lで基準範囲内である。 ・動脈血ガス:pH 7.41で正常範囲、HCO3- 21mEq/Lとわずかに低く、CKDに伴う軽度の代謝性アシドーシス傾向がうかがわれる。
病態の考え方
CKD患者の腎機能が急に悪化したときは、脱水・腎前性要因、薬剤、尿路閉塞、感染、血圧・血糖の悪化などを順に検討する。本例で目立つ異常は高カルシウム血症である。高Ca血症は、①腎の輸入細動脈を収縮させて糸球体濾過量(GFR)を低下させる、②集合管で抗利尿ホルモン(ADH)の作用を妨げて腎性尿崩症様の多尿を起こし、体液量減少(脱水)を招く、③Caが尿細管・間質に沈着して障害する、などの機序で腎機能を悪化させる。全身倦怠感も高Ca血症の症状として説明できる。 高Ca血症の原因としては、原発性副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍がよく知られるが、多くの薬剤を投与されている患者では薬剤性をまず考える。本例は骨粗鬆症の治療を受けており、高齢者の骨粗鬆症では活性型ビタミンD製剤(アルファカルシドール、カルシトリオール、エルデカルシトール)がよく使われる。活性型ビタミンDは腸管からのCa吸収を増やし、腎機能が低下した患者ではCaの尿中排泄も減るため、高Ca血症を起こしやすい。高Ca血症が腎機能をさらに悪化させ、腎機能悪化がさらにCa排泄を減らすという悪循環に陥っていると考えられる。 したがって、選択肢の薬剤の中で中止すべきなのは活性型ビタミンD製剤である。ほかの薬剤は高Ca血症の原因とならず、それぞれの適応(浮腫、高血圧、アシドーシス、腎性貧血)が現に存在する。
選択肢考察
- ×a. ループ利尿薬
ループ利尿薬(フロセミドなど)はHenle係蹄上行脚太い部のNa-K-2Cl共輸送体を阻害する。この部位ではCaの再吸収がNaClの再吸収に伴って行われるため、ループ利尿薬は尿中Ca排泄を増やし、血清Caを下げる方向に働く。高Ca血症を起こすのは逆にサイアザイド系利尿薬(遠位尿細管でのCa再吸収を促進する)である。本例は下肢浮腫もあり、ループ利尿薬を中止する理由はない。ただし高Ca血症では多尿による脱水を伴いやすいため、体液量の評価を行いながら用量を調整する必要はある。高Ca血症の治療では、十分な生理食塩液輸液で体液量を補正した後にCa排泄を促す目的でループ利尿薬を併用することがある。
- ×b. カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬は血管平滑筋の電位依存性L型Caチャネルを遮断して血管を拡張させる降圧薬で、細胞内へのCa流入を抑えるものであり、血清Ca濃度には影響しない。名称に「カルシウム」が含まれるが高Ca血症の原因にはならない。本例は血圧146/80mmHgと降圧目標(糖尿病・蛋白尿を伴うCKDでは130/80mmHg未満)に達しておらず、降圧治療は継続が必要である。副作用としては下肢浮腫、顔面紅潮、頭痛、歯肉増殖などが知られる。
- ×c. 重炭酸ナトリウム
重炭酸ナトリウムは、CKDに伴う代謝性アシドーシスの補正に用いられる。アシドーシスの補正は骨病変や筋肉の異化亢進、腎機能悪化の進行を抑える効果が期待される。本例はHCO3- 21mEq/Lとやや低く、投与を継続する意義がある。重炭酸ナトリウム単独では高Ca血症を起こさない。なお、Ca製剤(炭酸カルシウムなど)とアルカリを併用して大量に摂取すると、高Ca血症・代謝性アルカローシス・腎機能障害をきたすミルク・アルカリ症候群(カルシウム・アルカリ症候群)が生じうるが、本例はpH 7.41でアルカローシスはない。副作用としてNa負荷による浮腫や血圧上昇には注意する。
- ×d. エリスロポエチン製剤
腎性貧血は、腎臓(尿細管間質の線維芽細胞様細胞)で産生されるエリスロポエチンが不足して起こる。本例はHb 10.0g/dLの貧血があり、皮下注射の赤血球造血刺激因子製剤(ESA)による治療が行われていると考えられ、継続が必要である。ESAはCa代謝に影響せず、高Ca血症の原因とならない。副作用としては血圧上昇、血栓塞栓症、Hbを過度に上げた場合の心血管イベント増加などがある。
- ○e. 活性型ビタミンD製剤
活性型ビタミンD製剤は、腎臓での1α位水酸化を経ずにそのまま作用する1,25-ジヒドロキシビタミンD(またはその誘導体)で、小腸からのCa・P吸収を促進し、骨粗鬆症の治療やCKDに伴う骨ミネラル代謝異常の管理に用いられる。代表的な副作用が高Ca血症であり、特に腎機能が低下した高齢者では尿中へのCa排泄が減るため起こりやすい。本例の補正Ca 12.7mg/dLの高Ca血症と、それに伴う腎機能の急性増悪・全身倦怠感の原因として最も考えられ、直ちに中止すべきである。
補正Ca
血清Caの約40%はアルブミンと結合しており、生理的に作用するのはイオン化Caである。低アルブミン血症では総Caが見かけ上低くなるため、アルブミン4g/dL未満の場合は補正する。 補正Ca(mg/dL)=実測Ca+(4-アルブミン値〔g/dL〕)(Payneの式) イオン化Caを直接測定できればより正確である。
高カルシウム血症の症状
・全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、便秘 ・多尿・口渇(腎性尿崩症様)→脱水→腎機能悪化 ・意識障害、抑うつ ・心電図でQT短縮 ・慢性的には腎結石、腎石灰化
高カルシウム血症の主な原因
・PTH依存性:原発性副甲状腺機能亢進症(外来患者で最多)、三次性副甲状腺機能亢進症(長期透析患者など)、家族性低Ca尿性高Ca血症 ・PTH非依存性:悪性腫瘍(PTH関連蛋白〈PTHrP〉産生、骨転移、多発性骨髄腫。入院患者で多い)、ビタミンD過剰(活性型ビタミンD製剤、サルコイドーシスなど肉芽腫性疾患での1,25-ジヒドロキシビタミンD産生)、薬剤(サイアザイド系利尿薬、リチウム、Ca製剤、テリパラチドなど)、甲状腺機能亢進症、長期臥床、ミルク・アルカリ症候群
活性型ビタミンD製剤と高Ca血症
・アルファカルシドール、カルシトリオール、エルデカルシトールなどがある。エルデカルシトールは骨粗鬆症で広く使われるが、高Ca血症に特に注意が必要とされる。 ・高齢者やCKD患者、Ca製剤やサイアザイド系利尿薬の併用時に起こりやすい。 ・投与中は定期的に血清Caと腎機能を測定する。 ・市販のサプリメントに含まれるのは主に天然型ビタミンD(コレカルシフェロールなど)であり、活性型ビタミンD製剤は処方薬である点を区別しておく。
高カルシウム血症の治療
・原因薬剤(活性型ビタミンD、Ca製剤、サイアザイドなど)の中止 ・生理食塩液の大量輸液による体液量補正とCa排泄促進 ・体液量補正後のループ利尿薬併用(脱水を悪化させないよう注意) ・カルシトニン(効果発現が速いが短期間で効果が減弱する) ・ビスホスホネート製剤やデノスマブによる骨吸収抑制(主に悪性腫瘍に伴う高Ca血症。腎機能障害時は使用に注意) ・ビタミンD過剰や肉芽腫性疾患では副腎皮質ステロイドが有効 ・重症・腎不全例では低Ca透析液を用いた血液透析
POINT
・CKD患者の急な腎機能悪化では、脱水・薬剤性・高Ca血症などの可逆的要因を探す。 ・低アルブミン血症では補正Ca=実測Ca+(4-Alb)で評価する(本例は12.7mg/dL)。 ・骨粗鬆症治療中の高齢者の高Ca血症 → 活性型ビタミンD製剤(+Ca製剤)をまず疑い、中止する。 ・高Ca血症は輸入細動脈収縮と腎性尿崩症様多尿による脱水で腎機能を悪化させる。 ・ループ利尿薬は尿中Ca排泄を増やす(高Ca血症を起こすのはサイアザイド系)。 ・カルシウム拮抗薬・ESA・重炭酸ナトリウムは血清Caを上げない。
