握りしめた手が語る染色体の物語―指の重なりから18トリソミーを読み解く
第119回医師国家試験 C問題 第49問
国試問題にチャレンジ
日齢0の女児。妊娠経過は異常なく,在胎40週1日,体重2,260g,身長42cm。Apgarスコア6点(1分),8点(5分)で自然分娩で出生した。出生後,後頭部の突出,耳介低位,口唇口蓋裂,小顎,背中の多毛および筋緊張の低下を認めた。心エコー検査で心室中隔欠損と動脈管開存症を認めた。今後両親に説明の上,染色体検査を予定している。顔貌の写真(A)と手指の写真(B)とを下に示す。 予想される染色体検査の結果はどれか。

- a.45, X
- b.46, XX
- c.47, XXX
- d.47, XX, +18
- e.47, XX, +21
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
正期産にもかかわらず小さく生まれ、複数の外表奇形と心奇形を伴う新生児では、まず染色体異常症を考えます。手を握りしめて示指が中指に、小指が環指に重なる指の重なりは18トリソミー(Edwards症候群)に特異性の高い所見で、後頭部突出、耳介低位、小顎、口唇口蓋裂、VSD・PDAなどと合わせて、女児なら核型47,XX,+18が予想されます。21トリソミーは眼瞼裂斜上や単一手掌屈曲線、13トリソミーは全前脳胞症や多指症、Turner症候群はリンパ浮腫や大動脈縮窄症が手がかりとなり、顔貌と手足の所見の組み合わせで鑑別します。18トリソミーは生命予後が厳しい一方で積極的治療による長期生存例もあり、染色体検査は家族への十分な説明と同意のもとで行うことが重要です。特徴的な身体所見から染色体異常を推定する力は、新生児診療で家族と方針を考えるための第一歩になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・在胎40週1日の正期産でありながら出生体重2,260g、身長42cmと小さい(正期産の低出生体重児で、子宮内での発育不全があったと考えられる)。 ・Apgarスコアは1分6点、5分8点で、重い新生児仮死ではない。 ・外表所見:後頭部の突出、耳介低位、口唇口蓋裂、小顎、背部の多毛、筋緊張低下。 ・内臓所見:心室中隔欠損(VSD)と動脈管開存症(PDA)。 ・写真A(顔貌):小さい下顎、低い位置にある変形した耳介、口唇口蓋裂がみられる。 ・写真B(手指):手を握りしめた形で、示指が中指の上に、小指が環指の上に重なる指の重なり(overlapping fingers)がみられる。
診断へのプロセス
複数の外表奇形と心奇形が同時にあり、さらに子宮内発育不全を伴うことから、まず染色体異常症を考える。その中で、後頭部突出・耳介低位・小顎という顔貌に、18トリソミーに特異性の高い「握りしめた手と指の重なり」が加わり、VSDやPDAといった心奇形もそろうことから、18トリソミー(Edwards症候群)が最も考えられる。女児であるため、核型は47,XX,+18と予想される。 21トリソミー(Down症候群)でも心奇形や筋緊張低下はみられるが、顔貌(眼瞼裂斜上、内眼角贅皮、平坦な鼻根部など)や手の所見(短く幅広い手、単一手掌屈曲線)が異なり、子宮内発育不全もこれほど目立たないのが一般的である。
選択肢考察
- ×a. 45, X
45,XはTurner症候群の代表的な核型である。新生児期には手背・足背のリンパ浮腫や項部の皮膚のたるみ(後の翼状頸)が手がかりとなり、成長に伴い低身長、外反肘、性腺機能不全が明らかになる。心血管奇形は大動脈縮窄症や大動脈二尖弁が典型である。口唇口蓋裂や指の重なりは特徴ではなく、本例の所見に合わない。
- ×b. 46, XX
46,XXは正常女性の核型である。本例のように多発外表奇形・心奇形・子宮内発育不全・特徴的な手指の形態がそろう場合、染色体の数的異常が強く疑われ、正常核型は予想しにくい。
- ×c. 47, XXX
47,XXXはトリプルX症候群(X染色体が1本多い女性)の核型である。外表奇形はほとんどなく、高身長傾向や軽度の学習面・発達面の問題がみられる程度で、出生時に気付かれないことが多い。本例のような多発奇形の原因とは考えにくい。
- ○d. 47, XX, +18
18番染色体が3本ある18トリソミー(Edwards症候群)の女児の核型である。子宮内発育不全による低出生体重、後頭部突出、耳介低位・耳介変形、小顎、口唇口蓋裂、多毛、指の重なりを伴う握りしめた手、VSD・PDAなどの心奇形は、いずれも本症に典型的な所見であり、本例の所見をすべて説明できる。
- ×e. 47, XX, +21
21トリソミー(Down症候群)の女児の核型である。筋緊張低下や心奇形(心内膜床欠損症〈房室中隔欠損症〉、VSDなど)は共通するが、顔貌は眼瞼裂斜上、内眼角贅皮、鼻根部平坦、舌の突出などが特徴で、手は短く幅広く単一手掌屈曲線や第5指の内彎がみられる。本例の後頭部突出・小顎・指の重なりとは一致しない。
18トリソミー(Edwards症候群)
・頻度:出生約3,500〜8,000人に1人程度とされ、女児に多い。母体年齢の上昇とともに頻度が増す。大部分は減数分裂時の不分離による標準型トリソミーである。 ・胎児期:子宮内発育不全、羊水過多、心奇形などで胎児期に気付かれることがある。 ・主な外表所見:後頭部突出、耳介低位・変形、小顎、短い胸骨、握りしめた手と指の重なり、ゆり椅子状足底(rocker-bottom foot)、口唇口蓋裂など。 ・内臓奇形:心奇形が約90%に合併(VSD、PDA、両大血管右室起始など)。食道閉鎖、臍帯ヘルニア、腎奇形などもみられる。 ・予後:生命予後は不良で、1年生存率は約10%前後とされるが、近年は手術を含む積極的治療で長期生存例も増えている。重度の発達遅滞を伴う。
主な常染色体トリソミーの比較
・21トリソミー:最多。眼瞼裂斜上、内眼角贅皮、単一手掌屈曲線、房室中隔欠損症、十二指腸閉鎖、筋緊張低下。 ・18トリソミー:子宮内発育不全、後頭部突出、小顎、指の重なり、ゆり椅子状足底、心奇形。 ・13トリソミー(Patau症候群):全前脳胞症、小眼球症、口唇口蓋裂、多指症、頭皮欠損。
説明と検査
染色体検査は家族にとって大きな意味を持つため、本例のように両親に十分説明し同意を得たうえで行う。G分染法による核型分析が基本で、迅速診断にはFISH法が用いられる。
POINT
・多発外表奇形+心奇形+子宮内発育不全 → 染色体異常症を考える。 ・握りしめた手と指の重なり(示指が中指、小指が環指に重なる)は18トリソミーに特徴的。 ・18トリソミー:後頭部突出、耳介低位、小顎、ゆり椅子状足底、VSD・PDA、女児に多い。 ・21トリソミーとの区別は顔貌(眼瞼裂斜上・内眼角贅皮)と手(単一手掌屈曲線)。
