血栓と流産を繰り返す自己抗体―抗リン脂質抗体症候群の「二本柱」
第119回医師国家試験 C問題 第34問
国試問題にチャレンジ
抗リン脂質抗体症候群の徴候はどれか。2つ選べ。
- a.脳梗塞
- b.不育症
- c.早発閉経
- d.指尖陥凹性瘢痕
- e.口腔粘膜再発性潰瘍
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
抗リン脂質抗体症候群は、抗リン脂質抗体が持続的に存在して凝固亢進状態となり、血栓症と妊娠合併症を繰り返す自己免疫疾患です。血栓は動脈・静脈の両方に起こり、動脈では脳梗塞、静脈では深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症が代表的で、妊娠合併症としては流産・死産の反復による不育症が重要です。早発閉経は自己免疫性卵巣炎や染色体異常など、指尖陥凹性瘢痕は全身性強皮症、再発性口腔潰瘍はBehçet病の所見として区別します。検査ではAPTT延長や梅毒血清反応の生物学的偽陽性がみられる一方で臨床的には血栓傾向となる逆説に注意し、治療は抗凝固療法、妊娠時は低用量アスピリンとヘパリンが基本です。若年者の脳梗塞や習慣流産に出会ったときにAPSを想起できることが、診断の遅れを防ぐ鍵になります。
解答・解説
正解はa, bです
抗リン脂質抗体症候群とは
抗リン脂質抗体症候群(APS: antiphospholipid syndrome)は、リン脂質やリン脂質に結合する蛋白(β2グリコプロテインI〈β2GPI〉など)に対する自己抗体(抗リン脂質抗体)が持続的に存在し、血栓症や妊娠合併症を繰り返す自己免疫疾患である。単独で発症する原発性APSと、全身性エリテマトーデス(SLE)などに合併する続発性APSがある。
病態と二大臨床症状
抗リン脂質抗体は血管内皮細胞、血小板、単球、凝固・線溶系などに作用して凝固亢進状態をつくる。その結果、 1)血栓症: 動脈・静脈のどちらにも起こるのが特徴である。動脈では脳梗塞・一過性脳虚血発作が最も多く、静脈では下肢の深部静脈血栓症とそれに続く肺血栓塞栓症が代表的である。 2)妊娠合併症(不育症): 胎盤の血栓形成や、抗体による絨毛(トロホブラスト)の障害・補体活性化によって胎盤機能が低下し、流産・死産・妊娠高血圧腎症などを繰り返す。 この二つがAPSの分類基準における臨床基準そのものである。
考え方
「血栓」と「妊娠の異常(妊娠はするが維持できない)」というキーワードで選択肢を見れば、脳梗塞と不育症が該当する。残りの選択肢は、それぞれ別の膠原病・自己免疫疾患に特徴的な所見であり、どの疾患の徴候かを対応づけて整理しておくとよい。
選択肢考察
- ○a. 脳梗塞
APSでは動脈血栓症の中で脳血管障害(脳梗塞、一過性脳虚血発作)が最も頻度が高い。凝固亢進による血栓形成に加え、心臓弁膜の非感染性疣贅(Libman-Sacks心内膜炎)からの塞栓も原因となる。動脈硬化の危険因子に乏しい若年者の脳梗塞では、APSを鑑別に挙げて抗リン脂質抗体を測定する必要がある。
- ○b. 不育症
不育症とは、妊娠は成立するが流産や死産を繰り返して生児を得られない状態をいう。APSでは胎盤の血管内血栓や絨毛の障害による胎盤機能不全から、妊娠10週未満の流産の反復、妊娠10週以降の原因不明の子宮内胎児死亡、重症妊娠高血圧腎症や胎盤機能不全による早産を起こす。APSは不育症の原因として検索すべき代表的疾患であり、妊娠中は低用量アスピリンとヘパリンの併用で生児獲得率が改善する。なお、受精・着床そのものが成立しない狭義の不妊症とは区別される。
- ×c. 早発閉経
早発閉経(40歳未満で卵巣機能が停止する状態、早発卵巣不全)の原因には、染色体異常(Turner症候群など)、抗がん化学療法・放射線治療などの医原性、そして自己免疫性卵巣炎がある。自己免疫性のものは慢性甲状腺炎、Addison病、SLEなどの自己免疫疾患と合併しやすいが、APSの徴候には含まれない。APSの妊娠合併症は「妊娠はするが維持できない」ことであり、卵巣機能の廃絶ではない。
- ×d. 指尖陥凹性瘢痕
指尖陥凹性瘢痕(digital pitting scar)は、指先の小さな虫食い状の陥凹で、Raynaud現象などの末梢循環障害による指尖の虚血が繰り返された結果として生じる。全身性強皮症に特徴的な所見で、診断基準(分類基準)の項目にも含まれる。APSの徴候ではない。
- ×e. 口腔粘膜再発性潰瘍
口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍はBehçet病の主症状の一つで、ほぼ全例にみられ初発症状となることも多い。Behçet病の主症状はほかに皮膚症状(結節性紅斑様皮疹、痤瘡様皮疹、毛嚢炎様皮疹など)、眼症状(ぶどう膜炎)、外陰部潰瘍がある。SLEでも口腔潰瘍(無痛性のことが多い)がみられるが、APSそのものの徴候ではない。
APSの分類基準(改訂Sapporo基準/Sydney基準, 2006年)の概要
臨床基準と検査基準をそれぞれ1つ以上満たす場合にAPSと分類する。 臨床基準 ・血管血栓症: 動脈・静脈・小血管のいずれかの血栓症(画像や病理で確認) ・妊娠合併症: ①妊娠10週以降の形態正常な胎児の原因不明の死亡が1回以上、②重症妊娠高血圧腎症・子癇または胎盤機能不全による妊娠34週未満の早産が1回以上、③妊娠10週未満の原因不明の自然流産が3回以上連続 検査基準(12週以上の間隔をあけて2回以上陽性) ・ループスアンチコアグラント(LA) ・抗カルジオリピン抗体(IgG/IgM、中〜高力価) ・抗β2GPI抗体(IgG/IgM) 抗体の持続陽性を確認するのは、感染症などで一過性に陽性となる例を除外するためである。なお2023年にはACR/EULAR(米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会)による新しい分類基準も発表されている。
その他の臨床・検査所見
・網状皮斑(リベド)、血小板減少、心臓弁膜症(弁肥厚・疣贅)、腎血栓性微小血管症 ・活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長: ループスアンチコアグラントが試験管内でリン脂質依存性の凝固反応を阻害するためで、生体内ではむしろ血栓傾向となる点が重要である。 ・梅毒血清反応(STS)の生物学的偽陽性: 抗カルジオリピン抗体の存在による。 ・劇症型APS(CAPS: catastrophic APS): 短期間に多臓器で微小血栓が生じる重篤な病型。
治療の要点
・血栓症の既往がある場合は長期の抗凝固療法を行い、ワルファリンが基本である(特に3種の抗体がすべて陽性の高リスク例では、直接経口抗凝固薬〈DOAC〉は推奨されない)。 ・妊娠時はワルファリンに催奇形性があるため、低用量アスピリンとヘパリンを用いる。
選択肢の所見と代表的疾患
・指尖陥凹性瘢痕、皮膚硬化、Raynaud現象 → 全身性強皮症 ・再発性口腔内アフタ、外陰部潰瘍、ぶどう膜炎 → Behçet病 ・早発閉経 → 自己免疫性卵巣炎(他の自己免疫疾患に合併)、Turner症候群、医原性など
POINT
・APSの二大臨床症状は血栓症(動脈・静脈とも)と妊娠合併症(習慣流産・不育症)である。 ・動脈血栓では脳梗塞、静脈血栓では深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症が代表的。 ・検査: ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体を12週以上の間隔で2回以上確認する。 ・APTT延長と梅毒血清反応の生物学的偽陽性がみられるのに、臨床的には血栓傾向となる。 ・指尖陥凹性瘢痕は全身性強皮症、再発性口腔内アフタはBehçet病の所見である。
