StudyMed医師国家試験

若いのに首と腕がつらい―パソコン作業者を襲う「頸肩腕障害」と年齢で切る鑑別

第119回医師国家試験 A問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第119回 A問題 第2問

パソコンで長時間の作業をする若年労働者に生じやすい,頸部痛と上肢のしびれをきたす疾患はどれか。

  1. a.頸肩腕障害
  2. b.肩関節周囲炎
  3. c.肘部管症候群
  4. d.変形性頸椎症
  5. e.頸椎後縦靱帯骨化症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、仕事の内容と年齢から頸・肩・腕の症状の原因を絞り込む問題だ。注目してほしいのは「パソコンで長時間」「若年」という2つのキーワード。頸部痛や上肢のしびれを起こす病気はたくさんあるけれど、この2つを満たすものはぐっと少なくなるんだ。
医学生医学生
首の痛みと腕のしびれと聞くと、まず頸椎の病気を考えてしまいます。整形外科の講義でも頸椎症の話が多かったので。
ドクタードクター
その発想自体は大切だよ。ただ、頸椎症の多くは椎間板の変性や骨棘といった加齢変化が土台にある。若い人に「生じやすい」と言えるかどうか、そこを考えてみよう。
医学生医学生
確かに、加齢性の変化が基盤なら若年者には多くないですね。そうすると、作業そのものが原因になる病気でしょうか。
ドクタードクター
その通り。正解は頸肩腕障害だ。上肢を繰り返し使う作業や、頸や肩を同じ姿勢に保つ作業を長時間続けることで、首・肩・腕にこり、痛み、しびれ、だるさが出る作業関連性の障害なんだ。パソコン作業では頭が前に出た猫背の姿勢が続き、僧帽筋などの姿勢を支える筋肉がずっと緊張して疲労する。それが主な背景と考えられている。
医学生医学生
衛生学の講義でVDT作業の話を聞いた気がします。キーパンチャーの職業病として出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。いまは「情報機器作業」という呼び方になっている。レジ打ちなども同じ仲間だ。変性疾患を土台にしないから年齢を問わず起こり、若い人にも普通にみられる。他覚所見に乏しいことが多く、頭痛やめまい、吐き気のような自律神経症状を伴うこともあるよ。
医学生医学生
では変形性頸椎症は、症状は似ていても年齢が合わない、という理解でいいですか。
ドクタードクター
そう。変形性頸椎症は椎間板の変性と骨棘形成で神経根や脊髄が圧迫され、頸部痛や上肢のしびれを起こしうる。症状だけなら紛らわしいけれど、中年以降に多い加齢性疾患だ。頸椎後縦靱帯骨化症も同じく中年以降、とくに男性に多く、日本人に目立つ指定難病で、作業内容とは関係がない。
医学生医学生
後縦靱帯骨化症はCBTの勉強で、脊髄症で手指の巧緻運動障害や歩行障害が出ると覚えました。
ドクタードクター
そのとおり。進行すると脊髄症状が前面に出る。次に肩関節周囲炎はどうかな。
医学生医学生
いわゆる五十肩ですよね。名前からして中高年の病気だと思います。
ドクタードクター
正解。40〜60歳代に多く、肩の痛み、とくに夜間痛と、髪を結ぶ・帯を結ぶといった動作の制限が中心だ。症状は肩関節の局所が主で、上肢のしびれは主症状にならない。
医学生医学生
肘部管症候群は、腕のしびれなら当てはまりそうな気もしたんですが。
ドクタードクター
迷うポイントだね。肘部管症候群は肘の内側で尺骨神経が圧迫・牽引される絞扼性神経障害で、しびれは環指の尺側と小指に出る。進むと骨間筋が萎縮して鷲手やFroment徴候がみられる。障害部位が肘だから、頸部痛は説明できないんだ。
医学生医学生
しびれの分布を末梢神経の支配域と照らし合わせるのが大事なんですね。正中神経なら手根管症候群、という具合に。
ドクタードクター
まさにそう。整理すると、作業の様態と年齢の両方に合うのは頸肩腕障害だけ、ということになる。最後に臨床と予防の話もしておこう。頸肩腕障害は、ほかの原因がないかを確かめたうえで考える病態でもある。若い人でも頸椎椎間板ヘルニアや、なで肩の若い女性に多い胸郭出口症候群は鑑別に挙がるよ。
医学生医学生
産業医実習で職場巡視について行ったとき、モニターの高さや椅子の調整をチェックしていました。あれも予防なんですね。
ドクタードクター
そう、作業環境の調整は立派な予防策だ。厚生労働省のガイドラインでは、一連続作業が1時間を超えないようにし、次の作業までに10〜15分の休止を入れ、作業中にも1〜2回の小休止をとることが勧められている。情報機器作業では眼精疲労や精神的ストレスも問題になるから、健康診断では筋骨格系の症状と眼の症状の両方を確認するんだ。
医学生医学生
病気を診るだけじゃなくて、働き方まで見るのが大切だとわかりました。
ドクタードクター
その視点を持っていれば、外来で働く世代を診るときにきっと役立つよ。

まとめ

パソコン作業などで上肢の反復使用や不良姿勢が長く続くと、姿勢保持筋の持続的な緊張・疲労を背景に、頸・肩・腕のこり、痛み、しびれを生じる頸肩腕障害が起こります。加齢変化を基盤としないため若年者にもみられる点が、中高年に多い変形性頸椎症、頸椎後縦靱帯骨化症、肩関節周囲炎(五十肩)との大きな違いです。肘部管症候群は尺骨神経障害で環指尺側・小指のしびれをきたし、頸部痛は説明できません。予防には作業環境の調整と、1時間以内ごとに10〜15分の作業休止を設けることが推奨されています。症状だけでなく年齢と作業内容から鑑別を絞る考え方は、整形外科と産業保健の両面で役立ちます。

解答・解説

正解はaです

職業に関連した運動器障害(作業関連疾患)を、年齢と作業内容から絞り込む問題である。 問題文の手がかりは3つある。 ①パソコンを使った長時間作業:画面・キーボードを用いる作業(かつてはVDT作業、現在は「情報機器作業」と呼ばれる)では、頭部が前に出た姿勢や肩をすくめた姿勢が長時間固定され、上肢も反復して使う。 ②若年労働者:加齢による骨・椎間板・靱帯の変性を基盤とする疾患は考えにくい。 ③頸部痛と上肢のしびれ:頸から肩・腕にかけての症状である。 選択肢のうち、変形性頸椎症・頸椎後縦靱帯骨化症・肩関節周囲炎はいずれも中高年に多い加齢性・変性疾患であり、肘部管症候群は肘での尺骨神経障害で頸部痛を説明できない。不良姿勢での上肢作業という作業様態と若年という年齢の両方に合致するのは、作業に関連して頸・肩・腕に痛みやしびれ、こりを生じる頸肩腕障害である。

選択肢考察

  1. ○a.  頸肩腕障害

    正解である。頸肩腕障害は、上肢を反復して使う作業や、頸部・肩を一定の姿勢に保つ作業を長時間続けることで、頸・肩・上肢にこり、痛み、しびれ、だるさ、脱力感などが生じる作業関連性の障害である。主に頸部から背部の僧帽筋など姿勢保持筋の持続的緊張・疲労が関与する。パソコン作業、レジ打ち、キーパンチャーなどで多く、前かがみ・猫背などの不良姿勢、なで肩、運動不足、冷房による冷えなども誘因となる。年齢を問わず生じ、変性疾患を基盤としないため若年者にも起こる。他覚所見に乏しいことが多く、頭痛・めまい・吐き気などの自律神経症状を伴うこともある。

  2. ×b.  肩関節周囲炎

    誤りである。肩関節周囲炎はいわゆる「五十肩(凍結肩)」で、40〜60歳代に好発する。肩関節周囲の組織(関節包、腱板など)の加齢変化を背景とした炎症・拘縮により、肩の痛み(特に夜間痛)と可動域制限(結髪・結帯動作の障害など)をきたす。主症状は肩関節局所であり、上肢のしびれは主症状とならず、若年のパソコン作業者に生じやすい疾患でもない。

  3. ×c.  肘部管症候群

    誤りである。肘部管症候群は、肘の内側にある肘部管で尺骨神経が圧迫・牽引されて生じる絞扼性神経障害である。原因として変形性肘関節症、小児期の骨折後の外反肘、ガングリオンなどがある。症状は環指尺側と小指のしびれ、骨間筋萎縮による巧緻運動障害(鷲手変形、Froment徴候など)で、神経障害部位が肘であるため頸部痛は生じない。

  4. ×d.  変形性頸椎症

    誤りである。変形性頸椎症は、加齢に伴う椎間板の変性と、それに反応した椎体辺縁の骨棘形成などにより生じる疾患で、中年以降に多い。頸部痛や、神経根・脊髄の圧迫による上肢のしびれ(頸椎症性神経根症・脊髄症)をきたしうるため症状は似ているが、基盤が加齢性変化であり、若年労働者に生じやすい疾患とはいえない。

  5. ×e.  頸椎後縦靱帯骨化症

    誤りである。頸椎後縦靱帯骨化症(ossification of posterior longitudinal ligament:OPLL)は、椎体と椎間板の後面を縦に走って補強する後縦靱帯が骨化し、脊柱管が狭くなる疾患である。頸部のこり・痛み、可動域制限で始まり、進行すると脊髄圧迫による上肢のしびれ、手指の巧緻運動障害、歩行障害などの脊髄症状が出る。中年以降(多くは50歳前後以降)の男性に多く、日本人に多い。指定難病である。作業内容とは関係がなく、若年者に生じやすい疾患ではない。

頸肩腕症候群と頸肩腕障害

・広義の頸肩腕症候群:頸・肩・腕のこり、痛み、しびれ、脱力などを示す病態の総称で、原因疾患を問わない。 ・狭義の頸肩腕症候群:変形性頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア、肩関節周囲炎、胸郭出口症候群などの整形外科疾患や、内臓疾患、眼科・耳鼻科・精神科的疾患など原因を特定できるものを除いたもの。作業に関連して生じるものが多く、それを特に「頸肩腕障害」として扱うことがある。

情報機器作業(旧VDT作業)の労働衛生管理

・厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(2019年、旧VDT作業ガイドラインを改訂)では、一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業までに10〜15分の作業休止を設け、さらに連続作業時間内に1〜2回程度の小休止を設けることが推奨されている。 ・作業姿勢(椅子・机の高さ調整、ディスプレイの位置)、照明・グレア対策、健康診断(眼の症状、筋骨格系の症状)などが管理項目に含まれる。 ・情報機器作業では頸肩腕障害のほか、眼精疲労(ドライアイなど)や精神的ストレスも問題となる。

年齢から考える頸・肩・上肢症状の鑑別

・若年〜中年:頸肩腕障害、頸椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群(なで肩の若い女性に多い)。 ・中高年:変形性頸椎症(頸椎症性神経根症・脊髄症)、頸椎後縦靱帯骨化症、肩関節周囲炎、腱板断裂。 ・しびれの分布:小指側なら尺骨神経(肘部管症候群)、母指〜環指橈側なら正中神経(手根管症候群)など末梢神経の支配域と照合する。

POINT

・パソコン作業など上肢の反復作業・不良姿勢の持続で頸・肩・腕に痛み、しびれ、こりを生じるのが頸肩腕障害で、若年者にも生じる作業関連疾患である。 ・変形性頸椎症、頸椎後縦靱帯骨化症、肩関節周囲炎(五十肩)は中高年の加齢性疾患である。 ・肘部管症候群は尺骨神経障害で環指・小指のしびれをきたし、頸部痛は生じない。 ・情報機器作業では、1時間以内ごとに10〜15分の作業休止を入れることが推奨される。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。