鼻の頭の水疱が眼の危機を告げる―眼部帯状疱疹で患者に何を伝えるか
第119回医師国家試験 A問題 第71問
国試問題にチャレンジ
54歳の女性。右前額部から鼻背にかけての疼痛を伴う皮疹を主訴に来院した。2日前から右前額部のピリピリする疼痛を自覚していた。昨夜から,前額部から右上眼瞼および鼻背に水疱を伴う集簇した皮疹が出現した。 患者への説明で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.「眼科の受診が必要です」
- b.「水疱を破る必要があります」
- c.「昔かかった麻疹によるものです」
- d.「シャワーを浴びるのは控えましょう」
- e.「皮疹から他人に感染する可能性があります」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
皮疹に先行する神経痛様疼痛と、片側のデルマトームに沿って集簇する水疱は帯状疱疹の典型で、前額部から上眼瞼、鼻背の分布は三叉神経第1枝領域の眼部帯状疱疹を示します。鼻背・鼻尖の皮疹(Hutchinson徴候)は、角膜や虹彩にも分布する鼻毛様体神経領域に病変が及んでいることを意味し、角膜炎やぶどう膜炎などの眼合併症の危険が高いため、早期の眼科受診を勧めます。原因は水痘として初感染した水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化であり麻疹ウイルスではなく、水疱液には感染力があって水痘未罹患者には水痘として感染し得ます。水疱は破らずに保護し、シャワーで清潔を保つことが二次感染予防になり、治療は抗ヘルペスウイルス薬の早期投与と鎮痛が基本です。病態と生活指導を結びつけて説明できることは、患者教育や感染対策を担う臨床医にとって欠かせない力です。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
・54歳の女性(50歳以上は帯状疱疹の好発年齢) ・2日前から右前額部にピリピリした痛み(皮疹に先行する神経痛様の疼痛=前駆痛) ・昨夜から右前額部、右上眼瞼、鼻背に、水疱を伴う皮疹が集まって出現 ・病変は顔面の右側だけに限られている
診断へのプロセス
皮疹より先に痛みが出て、その後に紅斑の上に小水疱が群がって出る経過は、ヘルペスウイルス科による水疱性疾患、とくに帯状疱疹の典型である。単純疱疹も痛みや違和感が先に出る水疱を作るが、ふつうは口唇など限られた範囲に小さくまとまり、一つの神経の支配領域に沿って帯状に広がることはない。本例は前額部から上眼瞼、鼻背と、片側の三叉神経第1枝(眼神経)の支配域に一致して広がっており、正中線を越えない。したがって三叉神経第1枝領域の帯状疱疹(眼部帯状疱疹)と診断できる。 帯状疱疹は、小児期などに水痘として初感染した水痘・帯状疱疹ウイルス〈VZV:varicella-zoster virus〉が知覚神経節に潜伏し、加齢・疲労・ストレス・免疫抑制などで細胞性免疫が落ちたときに再び活性化して起こる。顔面の場合、潜伏部位は三叉神経節である。
鼻背の皮疹の意味
鼻の先端から鼻背は、眼神経の枝である鼻毛様体神経が支配している。この神経は角膜・虹彩・毛様体にも枝を出すため、鼻背に皮疹があると眼の内部にもウイルスが及んでいる可能性が高い。これをHutchinson徴候と呼ぶ。本例では鼻背に皮疹があり、眼合併症への備えが特に必要である。
設問の考え方
患者への説明として、(1)眼合併症の危険があるので眼科と連携すること、(2)水疱の中にはウイルスがいて、水痘にかかったことのない人にはうつり得ること、の二点が正しい。逆に、水疱を破る、入浴やシャワーを禁止する、といった処置・生活指導は誤りであり、原因ウイルスを麻疹ウイルスと説明するのも誤りである。
選択肢考察
- ○a. 「眼科の受診が必要です」
三叉神経第1枝の領域に出た帯状疱疹では、結膜炎、角膜炎、虹彩毛様体炎(ぶどう膜炎)、強膜炎、続発緑内障などの眼合併症がしばしば起こり、放置すると視力低下を残すことがある。特に本例のように鼻背に皮疹がある場合は、鼻毛様体神経を介して眼球内に病変が及びやすい(Hutchinson徴候陽性)。眼の痛みや充血が目立たない段階でも、細隙灯顕微鏡による診察を受けられるよう早めに眼科受診を勧めるのが正しい説明である。
- ×b. 「水疱を破る必要があります」
帯状疱疹の水疱は自然に乾いて痂皮(かさぶた)となり治っていく。わざと破るとびらんになって細菌の二次感染を招き、潰瘍や瘢痕を残す原因となる。また水疱内容にはウイルスが多く含まれており、破れば周囲への感染源にもなる。治療の中心は抗ヘルペスウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルなど)の早期内服と鎮痛であり、局所は清潔を保って保護するのが原則である。患者に破るよう指示するのは明らかに誤りである。
- ×c. 「昔かかった麻疹によるものです」
帯状疱疹の原因は、以前にかかった水痘(みずぼうそう)のウイルス、すなわちVZVが神経節に潜み、再活性化したものである。麻疹(はしか)の原因は麻疹ウイルス(パラミクソウイルス科)で、ヘルペスウイルス科のVZVとは別物である。麻疹ウイルスは神経節に潜伏して帯状疱疹を起こすことはない。なお麻疹の持続感染で問題になるのは、数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎〈SSPE〉である。「水痘」と「麻疹」を取り違えた説明であり誤り。
- ×d. 「シャワーを浴びるのは控えましょう」
帯状疱疹では、皮膚を清潔に保つことが細菌の二次感染予防になる。全身状態がよければシャワーや入浴を制限する理由はなく、むしろ患部をやさしく洗い流すよう勧める。注意点は、こすって水疱を破らないこと、タオルを家族と共用しないことなどである。また水痘に未罹患の家族がいる場合は、入浴の順番を最後にするなどの配慮をするとよい。シャワーを控えるという指導は誤りである。
- ○e. 「皮疹から他人に感染する可能性があります」
帯状疱疹の水疱内容には感染力のあるVZVが含まれている。水痘にかかったことがなく、ワクチンも受けていない人(乳幼児、妊婦など)が水疱液に触れたり、水疱から出たウイルスを吸い込んだりすると、帯状疱疹ではなく水痘として発症する。すべての皮疹が痂皮化すれば感染力はほぼなくなるため、それまでは患部をガーゼなどで覆い、免疫のない人との接触を避けるよう説明する。なお、帯状疱疹の感染力は水痘よりも弱いが、汎発性帯状疱疹(全身に水疱が散布した状態)や免疫不全者では水痘と同様に空気感染対策が必要となる。
帯状疱疹の概要
・原因:VZVの再活性化。初感染は水痘で、治った後もウイルスは脊髄後根神経節や三叉神経節などの知覚神経節に潜伏する。 ・好発:50歳以上で増加し、加齢とともに頻度が上がる。悪性腫瘍、免疫抑制薬の使用、HIV感染などもリスクとなる。 ・症状:片側の一つの神経支配領域(デルマトーム)に沿った神経痛様疼痛が先行し、数日後に紅斑と小水疱が帯状に集まって出る。正中線を越えないのが特徴。胸部(肋間神経領域)が最も多く、次いで顔面(三叉神経領域)が多い。 ・診断:多くは臨床像で診断できる。補助としてTzanck試験(水疱底の擦過で多核巨細胞を確認)、イムノクロマト法による迅速抗原検出、PCRなどがある。 ・治療:抗ヘルペスウイルス薬をできるだけ早期(皮疹出現後おおむね72時間以内が目安)に開始し、十分な鎮痛を行う。重症例や免疫不全例ではアシクロビル点滴静注を用いる。
主な合併症
・帯状疱疹後神経痛〈PHN〉:皮疹が治った後も痛みが続く。高齢者ほど起こりやすい。 ・眼合併症:三叉神経第1枝領域で起こる。角膜炎、ぶどう膜炎など。 ・Ramsay Hunt症候群:膝神経節での再活性化により、耳介・外耳道の水疱、末梢性顔面神経麻痺、めまい・難聴などの内耳障害を来す。 ・運動神経麻痺、髄膜炎・脳炎、汎発性帯状疱疹(免疫不全者)など。
Hutchinson徴候
鼻尖・鼻背の皮疹は、鼻毛様体神経の領域に病変が及んでいることを示す。同神経は眼球にも分布するため、この徴候がみられたら眼合併症の危険が高いと判断し、眼科での評価を急ぐ。
予防
50歳以上を対象に、弱毒生水痘ワクチン(皮下注1回)と、遺伝子組換えの不活化サブユニットワクチン(筋注2回)が使える。発症を防ぐ効果と効果の持続はサブユニットワクチンの方が優れる。生ワクチンは免疫不全者には使えない。わが国では2025年度から65歳などを対象とした定期接種が始まった。
POINT
・痛みが先行し、片側のデルマトームに沿って水疱が集まる → 帯状疱疹 ・三叉神経第1枝領域の帯状疱疹 → 眼合併症に注意し眼科受診 ・鼻背・鼻尖の皮疹(Hutchinson徴候) → 眼病変の危険が高い ・原因は水痘のウイルス(VZV)の再活性化であり、麻疹ではない ・水疱液には感染力があり、水痘未罹患者には水痘として感染する ・水疱は破らない、シャワーで清潔を保つ
