臍を指す帯―皮疹の地図で読み解く帯状疱疹とデルマトーム
第117回医師国家試験 E問題 第31問
国試問題にチャレンジ
47歳の男性。腹部の皮疹を主訴に来院した。3日前から腹部に痛みを伴う皮疹を自覚し,改善しないため受診した。体温36.8℃。腹部から背部に皮疹が散在しており自発痛を認め,帯状疱疹と診断した。皮疹の分布図を示す。 罹患した神経支配領域として正しいのはどれか。

- a.第8胸髄
- b.第10胸髄
- c.第12胸髄
- d.第2腰髄
- e.第4腰髄
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
帯状疱疹は、脊髄後根神経節などに潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化し、感覚神経に沿って皮膚に病変をつくる疾患で、皮疹は片側のデルマトームに沿って帯状に分布し、原則として正中を越えません。体幹のデルマトームの目印は乳頭=T4、剣状突起=T6、臍=T10、鼠径部=L1であり、背部から側腹部を回って臍の高さに至る帯状の皮疹は第10胸髄領域と判断できます。治療は皮疹出現後早期の抗ウイルス薬投与と疼痛管理が柱で、帯状疱疹後神経痛、Hutchinson徴候を伴う眼合併症、Ramsay Hunt症候群、汎発性帯状疱疹による免疫不全の示唆なども押さえておく必要があります。デルマトームの知識は、帯状疱疹の診断だけでなく、脊髄・神経根障害の高位診断にも共通して使われる臨床の基本です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・47歳男性。3日前から腹部に痛みを伴う皮疹が出現し、自発痛がある。体温は36.8℃で発熱はない。 ・皮疹は腹部から背部にかけて散在し、帯状疱疹と診断されている。 ・分布図では、皮疹は患者の右側腹部(図の向かって左)から臍の方向へ、帯状に水平に広がり、正中を越えずに臍の位置付近で終わっている。
考え方
帯状疱疹は、小児期の水痘罹患後に脊髄後根神経節(脳神経では感覚神経節)に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が、加齢や免疫低下などを契機に再活性化して起こる。ウイルスは一つの神経節から感覚神経に沿って皮膚へ到達するため、皮疹は原則として片側の一つ(ときに隣接する2〜3)のデルマトーム(1本の脊髄神経の後根が感覚を支配する皮膚領域)に沿って帯状に出現し、正中を越えない。したがって、皮疹の位置と体表の目印とを対応させれば、罹患した脊髄分節を推定できる。 体幹のデルマトームは肋骨の走行に沿ってほぼ水平に並び、代表的な目印は「乳頭=T4(第4胸髄)」「剣状突起=T6」「臍=T10」「鼠径部=L1」である。本例の皮疹は背部から側腹部を回って臍の高さに達しており、臍の高さを通る帯、すなわち右第10胸髄(T10)の支配領域に一致する。
選択肢考察
- ×a. 第8胸髄
第8胸髄(T8)の支配領域は、剣状突起(T6)と臍(T10)のほぼ中間、季肋部(肋骨弓の下縁付近)を通る帯である。本例の皮疹は臍の高さに達しており、T8より下の分節に当たるため誤りである。
- ○b. 第10胸髄
臍の高さはT10のデルマトームの代表的な目印である。本例の皮疹は背部から右側腹部を経て臍の位置まで帯状に分布し、正中で止まっている。これは右T10の後根神経節で再活性化したVZVが、その感覚神経に沿って皮膚に病変を形成した分布と一致する。
- ×c. 第12胸髄
第12胸髄(T12)の支配領域は、臍(T10)と鼠径部(L1)の間、下腹部の恥骨上方から腸骨稜付近を通る帯である。臍の高さよりも下に位置するため、本例の分布とは合わない。
- ×d. 第2腰髄
腰髄のデルマトームは体幹から下肢へと移り、L1が鼠径部、第2腰髄(L2)は大腿前面の上部から内側にかけての領域を支配する。腹部の臍の高さに皮疹がある本例とは一致しない。
- ×e. 第4腰髄
第4腰髄(L4)は膝の前面から下腿内側、内果(内くるぶし)付近を支配する。L4は膝蓋腱反射の主な分節でもある。下肢の領域であり、腹部の皮疹とは関係しない。
主なデルマトームの目安
・C6:母指、C7:中指、C8:小指 ・T4:乳頭の高さ ・T6:剣状突起の高さ ・T10:臍の高さ ・L1:鼠径部 ・L4:膝前面〜下腿内側 ・L5:下腿外側〜足背、母趾 ・S1:足底、足の外側縁、小趾 ・S2〜S5:殿部・会陰部・肛門周囲(サドル領域)
帯状疱疹の概要
・病因:水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は水痘の治癒後も感覚神経節に潜伏感染し、加齢、悪性腫瘍、免疫抑制薬の使用、HIV感染、ストレスなどによる細胞性免疫の低下を契機に再活性化する。50歳以上で発症が増える。 ・好発部位:胸髄神経領域(肋間神経領域)が最も多く、次いで三叉神経第1枝領域などが多い。 ・臨床経過:片側性の神経痛様の痛みが数日先行し、その後同じ領域に紅斑と、紅暈を伴う小水疱が集簇して帯状に出現する。水疱はびらん・痂皮を経て、通常2〜3週間で治癒する。発熱などの全身症状は軽いことが多い。 ・診断:特徴的な片側性・帯状の分布で臨床的に診断できることが多い。補助的にTzanck試験(水疱底の擦過標本で多核巨細胞を確認する検査)、ウイルス抗原の迅速検査、PCRなどを用いる。 ・治療:抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビル)をできるだけ早期(皮疹出現後72時間以内が目安)に開始し、鎮痛薬で痛みを管理する。 ・合併症:帯状疱疹後神経痛(皮疹治癒後も持続する痛みで、高齢者に多い)、三叉神経第1枝領域での眼合併症(鼻尖・鼻背に皮疹があると眼病変のリスクが高い:Hutchinson徴候)、Ramsay Hunt症候群(顔面神経麻痺・耳介の水疱・内耳障害)、仙髄領域での排尿障害など。複数の非隣接領域や全身に皮疹が広がる汎発性帯状疱疹は免疫不全を示唆する。 ・予防:50歳以上を対象とした帯状疱疹ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン、組換えサブユニットワクチン)がある。
POINT
・帯状疱疹の皮疹は片側の神経支配領域(デルマトーム)に沿って帯状に出現し、正中を越えない。 ・体幹のデルマトームの目印:乳頭=T4、剣状突起=T6、臍=T10、鼠径部=L1。 ・臍の高さに沿う帯状の皮疹 → 第10胸髄(T10)領域。 ・VZVは感覚神経節(脊髄後根神経節)に潜伏し、再活性化して発症する。
