アトピーの皮膚に広がる高熱と水疱―Kaposi水痘様発疹症の正体はヘルペス
第119回医師国家試験 A問題 第61問
国試問題にチャレンジ
16歳の男子。発熱と皮疹を主訴に来院した。幼少期からアトピー性皮膚炎で治療を受けていたが,3か月前から治療を中断していた。2日前から39.9℃の発熱があり,顔面に皮疹が出現し体幹にも拡大したため受診した。疼痛はない。顔面と体幹に小水疱,びらん及び紅斑を両側性に認めた。顔面の写真を下に示す。 原因で最も考えられるのはどれか。

- a.サイトメガロウイルス
- b.単純ヘルペスウイルス
- c.水痘・帯状疱疹ウイルス
- d.ヒトヘルペスウイルス6
- e.Epstein-Barr〈EB〉ウイルス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
アトピー性皮膚炎などで皮膚バリアが障害された患者に、高熱とともに顔面を中心とした小水疱・びらんが急速に多発・拡大した場合は、Kaposi水痘様発疹症(疱疹性湿疹)を考え、その原因は単純ヘルペスウイルス(主にHSV-1)です。帯状疱疹は片側のデルマトームに沿い強い痛みを伴い、水痘は新旧の皮疹が全身に散在するため、両側性・無痛・湿疹部に集簇する本症とは区別できます。診断はTzanck試験や迅速抗原検査、PCR法で確認し、治療は抗ヘルペスウイルス薬の全身投与(重症ではアシクロビル静注)を行い、皮疹部へのステロイド外用は一時中止します。名称の似たKaposi肉腫(HHV-8)との混同に注意し、HHV-1から8までの疾患を整理しておくことが、ウイルス性発疹症全般の理解に役立ちます。アトピー性皮膚炎の急な悪化を見たときにこの疾患を想起できるかが、適切な初期治療と眼合併症の予防を左右します。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・16歳男子。幼少期からアトピー性皮膚炎があり、3か月前から治療を自己中断している。→ 皮膚のバリア機能が低下し、湿疹病変が悪化した状態が続いていたと推測される。 ・2日前から39.9℃の高熱が出現し、ほぼ同時に顔面に皮疹が出て、短期間で体幹へ広がった。 ・皮疹は小水疱・びらん・紅斑で、左右両側に分布し、痛みはない。 ・顔面写真では、額・頰・眼の周囲に小水疱やびらん、痂皮(かさぶた)、滲出液を伴う紅斑が多発している。
診断への道筋
小水疱が多発する発熱性の皮疹を見たら、まずヘルペスウイルス科のウイルス感染(単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス)を考え、細菌性の水疱性膿痂疹(とびひ)などと鑑別する。 本例で決め手となるのは「アトピー性皮膚炎という皮膚バリア障害の基盤があり、しかも治療中断で皮膚炎が悪化していた」という背景である。このような皮膚に単純ヘルペスウイルス(HSV)が感染すると、ウイルスが湿疹病変部を足場に一気に広がり、顔面を中心に小水疱・びらんが多発して、高熱やリンパ節腫脹などの全身症状を伴う。これがKaposi水痘様発疹症(疱疹性湿疹 eczema herpeticum)である。 他の鑑別疾患との違いは次の通りである。 ・帯状疱疹:水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化で起こり、原則として片側の一つ(~隣接する数個)の神経支配領域(デルマトーム)に帯状に分布し、強い神経痛様の痛みを伴う。高熱はまれである。本例は両側性で、痛みもなく、高熱を伴うため合わない。写真では病変がやや片側寄りに見えるが、両側に皮疹があることに注意する。 ・水痘:全身に新旧の水疱が混在して散在性に出るのが特徴で、湿疹部位に集簇する分布ではない。また16歳で初感染を起こす状況は、ワクチン定期接種の普及した現在では考えにくい。 ・水疱性膿痂疹:黄色ブドウ球菌の表皮剝脱毒素による弛緩性水疱とびらんで、厚い痂皮を伴いやすく、高熱はまれである。 以上から、診断はKaposi水痘様発疹症であり、原因ウイルスは単純ヘルペスウイルス(多くはHSV-1)である。
選択肢考察
- ×a. サイトメガロウイルス
サイトメガロウイルス(CMV、ヒトヘルペスウイルス5)は、健常な若年者の初感染で伝染性単核球症様の症状(発熱、肝機能障害、異型リンパ球増加)を起こし、胎内感染では先天性CMV感染症(小頭症、難聴など)の原因となる。臓器移植後やHIV感染症などの免疫不全状態では、再活性化により網膜炎、肺炎、腸炎などを起こす。湿疹病変部に小水疱を多発させる疾患の原因とはならない。
- ○b. 単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス(HSV)は口唇ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、性器ヘルペス、ヘルペス脳炎などを起こすウイルスである。アトピー性皮膚炎などで皮膚のバリア機能が障害されていると、HSVが湿疹病変に沿って急速に広がり、小水疱・びらんの多発と高熱を特徴とするKaposi水痘様発疹症を引き起こす。本例はアトピー性皮膚炎の治療中断という背景、高熱、顔面から体幹へ両側性に広がる小水疱・びらん・紅斑という経過がこれに一致するため、原因として最も考えられる。
- ×c. 水痘・帯状疱疹ウイルス
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は、初感染で水痘を起こし、その後は知覚神経節に潜伏して、免疫低下時(加齢、ストレス、免疫抑制など)に再活性化して帯状疱疹を起こす。帯状疱疹は片側の神経支配領域に限局し、強い痛みを伴うのが典型で、高熱はまれである。本例は両側性・無痛・高熱であり帯状疱疹に合わない。水痘は全身に散在性に新旧の皮疹が混在する分布をとり、湿疹部を中心とした本例の分布とは異なる。
- ×d. ヒトヘルペスウイルス6
ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)は、乳幼児期の初感染で突発性発疹(3日程度の高熱が下がった後に体幹中心の淡い紅斑が出る)を起こす。また、薬剤性過敏症症候群(DIHS:抗てんかん薬などによる、発熱・リンパ節腫脹・臓器障害を伴う重症薬疹)では経過中にHHV-6の再活性化がみられる。いずれも小水疱・びらんが湿疹部に多発する病像ではない。
- ×e. Epstein-Barr〈EB〉ウイルス
EBウイルス(ヒトヘルペスウイルス4)は、思春期以降の初感染で伝染性単核球症(発熱、咽頭扁桃炎、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、異型リンパ球増加)を起こす。また、Burkittリンパ腫、上咽頭癌、一部の胃癌、ホジキンリンパ腫などの腫瘍や、慢性活動性EBウイルス感染症に関連する種痘様水疱症の原因となる。伝染性単核球症でアンピシリン投与後に薬疹様の皮疹が出ることはあるが、本例のような湿疹部に集簇する小水疱・びらんは起こさない。
Kaposi水痘様発疹症(疱疹性湿疹)
・定義:アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患をもつ患者に単純ヘルペスウイルス(主にHSV-1)が感染し、病変が広範囲に拡大したもの。初感染でも再発(再活性化)でも起こりうる。 ・基礎疾患:アトピー性皮膚炎が最も多い。そのほか、Darier病、天疱瘡、熱傷、脂漏性皮膚炎などのバリア障害のある皮膚にも生じる。 ・誘因:アトピー性皮膚炎のコントロール不良(治療中断など)、皮膚の掻破など。 ・臨床像:顔面・頸部・上半身に好発する。小水疱が集簇・多発し、中心がくぼんだ(中心臍窩を伴う)水疱や、破れた後の小さな打ち抜き様のびらん、痂皮が混在する。高熱、倦怠感、所属リンパ節腫脹など全身症状を伴うことが多い。眼の周囲に及ぶとヘルペス性角結膜炎を合併しうる。 ・診断:臨床像に加え、水疱内容のTzanck試験(ウイルス性巨細胞=多核巨細胞の確認)、HSV抗原の検出(蛍光抗体法やイムノクロマト法の迅速検査)、PCR法によるウイルスDNA検出などで確認する。 ・治療:抗ヘルペスウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル)を全身投与する。重症例・高熱例ではアシクロビル点滴静注を行う。二次的な細菌感染(黄色ブドウ球菌など)を合併すれば抗菌薬を併用する。皮疹部へのステロイド外用は原則として一時中止し、病勢が落ち着いてからアトピー性皮膚炎の治療を再開する。
ヒトヘルペスウイルス科と主な疾患
・HSV-1(HHV-1):口唇ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、角膜ヘルペス、ヘルペス脳炎、Kaposi水痘様発疹症 ・HSV-2(HHV-2):性器ヘルペス、新生児ヘルペス ・VZV(HHV-3):水痘、帯状疱疹、Ramsay Hunt症候群 ・EBV(HHV-4):伝染性単核球症、Burkittリンパ腫、上咽頭癌、慢性活動性EBV感染症、種痘様水疱症 ・CMV(HHV-5):先天性CMV感染症、伝染性単核球症様症状、免疫不全者の網膜炎・肺炎・腸炎 ・HHV-6:突発性発疹、DIHSでの再活性化 ・HHV-7:突発性発疹(2回目の突発性発疹として経験されることがある) ・HHV-8:Kaposi肉腫、原発性体腔液リンパ腫、多中心性Castleman病 ヘルペスウイルスはいずれも初感染後に体内に潜伏し、再活性化しうる。初感染時と再活性化時で病像が異なることが多い点を整理しておくとよい。
関連事項
名称が似ている「Kaposi肉腫」はHHV-8が原因であり、Kaposi水痘様発疹症(HSV)とは別の疾患である。また、帯状疱疹については50歳以上を対象とした帯状疱疹ワクチン(不活化サブユニットワクチン、生ワクチン)が用いられている。
POINT
・アトピー性皮膚炎の患者に、高熱とともに顔面中心の小水疱・びらんが急速に多発したら、Kaposi水痘様発疹症を考える。 ・原因は単純ヘルペスウイルス(主にHSV-1)である。 ・帯状疱疹との鑑別:帯状疱疹は片側性・デルマトームに沿う・痛みが強い・高熱はまれ。 ・治療は抗ヘルペスウイルス薬の全身投与(重症ではアシクロビル静注)。皮疹部のステロイド外用は一時中止する。 ・Kaposi肉腫(HHV-8)と名称を混同しない。
