StudyMed医師国家試験

乳児期から続くかゆみの正体―アトピー性皮膚炎の治療は「まず塗る」から始まる

第119回医師国家試験 A問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第119回 A問題 第24問

20歳の女性。瘙痒を伴う体幹と四肢の皮疹を主訴に来院した。全身に皮疹が出現し,瘙痒で夜も眠れていない。既往歴にアレルギー性鼻炎がある。エビ,豚肉,卵および牛乳のアレルギーがある。乳児期から瘙痒を伴う皮疹が左右対称性に生じ,消長を繰り返している。小児期は頭部および顔面に紅斑,鱗屑および漿液性丘疹を生じていた。学童期は肘窩や膝窩などに搔破痕を伴う苔癬化局面を形成した。弟に同様の皮膚症状がある。搔破による痒疹と苔癬化局面が全身に多発している。背部の皮疹の写真を下に示す。血液所見:赤血球468万,Hb 13.9g/dL,Ht 42%,白血球11,300(桿状核好中球10%,分葉核好中球52%,好酸球17%,好塩基球1%,単球6%,リンパ球14%),血小板45万。血液生化学所見:LD 276U/L(基準124~222)。免疫血清学所見:CRP 0.3mg/dL,IgE 13,384 IU/mL(基準170以下)。病変部の病理検査で表皮内に異型リンパ球の浸潤を認めない。  皮膚症状に対する適切な治療はどれか。

第119回 A問題 第24問の問題画像
  1. a.抗菌薬内服
  2. b.コルヒチン内服
  3. c.活性型ビタミンD3外用
  4. d.抗ロイコトリエン薬内服
  5. e.副腎皮質ステロイド外用

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長い経過をもつかゆい湿疹の正体を見抜き、皮膚症状に対して最初に選ぶべき治療を問う問題だ。注目してほしいのは、年齢とともに皮疹の場所や性状が変わってきたという経過と、本人や家族のアレルギー体質。まずはどんな疾患を考えるかな。
医学生医学生
乳児期から左右対称のかゆい皮疹が良くなったり悪くなったりしていて、食物アレルギーや鼻炎もあるので、アトピー性皮膚炎だと思います。
ドクタードクター
その通り。日本皮膚科学会の診断基準は、瘙痒、特徴的な皮疹と分布、慢性・反復性の経過、の3つを満たすこと。乳児期は頭や顔のじくじくした湿疹、学童期は肘窩や膝窩の苔癬化、思春期以降は上半身や全身に痒疹・苔癬化が目立つ、という年齢による変化が教科書どおりに書かれているね。
医学生医学生
苔癬化って、かき続けて皮膚が厚くなった状態ですよね。皮膚科の講義で、象の皮膚みたいと説明されました。
ドクタードクター
いいイメージだね。かくことで皮膚が硬く厚くなり、皮溝・皮丘がはっきりする。背部の写真でも、左右対称に広がる紅斑と鱗屑、苔癬化、搔破痕がみられる。IgEの著明高値と好酸球増加はアトピー素因を裏づけるもので、LDの軽度上昇は皮膚炎症の広がりを反映していると考えられる。
医学生医学生
でもLDが上がっていて全身に皮疹があると、皮膚のリンパ腫も気になってしまいました。
ドクタードクター
鋭い視点だ。成人の難治性の全身性湿疹では、菌状息肉症などの皮膚T細胞リンパ腫を鑑別に挙げることは大切なんだ。だからこの問題では、病理で表皮内に異型リンパ球の浸潤がない、とわざわざ示して否定している。安心してアトピー性皮膚炎として治療を考えてよい。
医学生医学生
治療ですが、重症なので内服薬の出番かなと思ったんですが……。
ドクタードクター
そこがポイント。アトピー性皮膚炎の治療は、炎症を抑える薬物療法、保湿剤によるスキンケア、悪化因子への対策の三本柱。そして炎症を確実に抑える第一選択は副腎皮質ステロイド外用薬だ。重症でも、まず十分な強さと量のステロイド外用で寛解に導くのが基本で、それで足りないときに全身療法を加える。
医学生医学生
抗菌薬の内服はどうでしょう。かき壊していると感染しやすいと聞きました。
ドクタードクター
確かに、とびひ(伝染性膿痂疹)や蜂窩織炎などの二次感染を合併したら抗菌薬を使う。でも抗菌薬はアトピー性皮膚炎そのものを治す薬ではない。今回の白血球増加は主に好酸球によるもので、CRPもほぼ正常、膿疱やびらんといった細菌感染の記載もないから、適応はないね。
医学生医学生
コルヒチンは痛風発作の薬として薬理で習いました。皮膚科でも使うんですか。
ドクタードクター
好中球の遊走を抑える薬だから、Behçet病やSweet病など好中球が主役の疾患に使うことがある。でもアトピー性皮膚炎はTh2型の免疫応答が中心の炎症だから、作用の方向が合わない。活性型ビタミンD3外用はどうかな。
医学生医学生
乾癬で使う外用薬ですよね。皮膚が厚くなっている点は似ている気がしますが。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。ビタミンD3外用は角化細胞の過剰な増殖を抑える薬で、乾癬や角化症向き。湿疹にはむしろ刺激になりうるし、炎症を抑える力はない。抗ロイコトリエン薬も、喘息やアレルギー性鼻炎には有効だけれど、アトピー性皮膚炎の皮膚症状への効果は確立していない。この人の鼻炎に使う可能性はあっても、問われている皮膚症状の治療ではないんだ。
医学生医学生
病名から何となく選ぶのではなく、その薬がどんな病態を標的にしているかで考えるわけですね。
ドクタードクター
その通り。ここからは実践的な話をしよう。ステロイド外用薬はストロンゲストからウィークまで5段階あって、体幹・四肢の苔癬化や痒疹にはベリーストロングなど十分な強さのものを使う。量の目安はfinger tip unitで、人差し指の先から第一関節までの量で手のひら2枚分の範囲を塗る。
医学生医学生
臨床実習で、患者さんが薄く塗りすぎて効かないと言っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
よくあることだね。ステロイドへの不安から量が足りず、効かないと感じて自己中断してしまう。寛解したら塗る回数を減らし、症状がなくても週2回程度塗るプロアクティブ療法で再燃を防ぐ。顔や首は皮膚萎縮などの副作用が出やすいから、弱いランクやタクロリムス外用を使い分ける。
医学生医学生
それでも良くならない重症例はどうするんですか。
ドクタードクター
シクロスポリン内服、IL-4受容体α抗体のデュピルマブなどの生物学的製剤、経口JAK阻害薬、ナローバンドUVBなどが選択肢になる。ただしあくまで外用療法とスキンケアを土台にしたうえでの追加だ。それから、単純ヘルペスウイルスによるカポジ水痘様発疹症や、顔を叩くことによる白内障・網膜剝離といった合併症にも注意しておこう。

まとめ

乳児期からの左右対称の瘙痒性湿疹が、年齢とともに顔面から四肢屈側、さらに全身へと分布を変えながら慢性に再燃し、アトピー素因を伴う場合はアトピー性皮膚炎と診断します。成人の全身性湿疹では皮膚T細胞リンパ腫の鑑別が重要ですが、表皮内の異型リンパ球浸潤がなければ否定的です。治療は薬物療法・スキンケア・悪化因子対策の三本柱で、炎症を抑える第一選択は十分な強さと量の副腎皮質ステロイド外用薬であり、寛解後はプロアクティブ療法で再燃を予防します。抗菌薬は二次感染時、活性型ビタミンD3外用は乾癬、コルヒチンは好中球性疾患、抗ロイコトリエン薬は喘息・鼻炎の薬であり、薬剤の標的とする病態から選択肢を見極めることが大切です。外用療法で不十分な重症例では生物学的製剤やJAK阻害薬などの全身療法を検討するという段階的な考え方は、日常診療でも欠かせない知識です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・20歳女性。瘙痒の強い皮疹が全身にあり、夜も眠れない。 ・既往にアレルギー性鼻炎、複数の食物アレルギーがあり、弟にも同様の皮膚症状がある(本人・家族のアトピー素因)。 ・乳児期から左右対称性で瘙痒を伴う皮疹が良くなったり悪くなったりを繰り返している(慢性・反復性経過)。 ・年齢による皮疹の分布・性状の変化:小児期は頭部・顔面の紅斑・鱗屑・漿液性丘疹(湿潤傾向の湿疹)、学童期は肘窩・膝窩の搔破痕を伴う苔癬化局面、現在は全身に搔破による痒疹と苔癬化局面が多発している。苔癬化とは、搔破を繰り返すことで皮膚が厚く硬くなり、皮溝・皮丘が目立つ状態である。 ・背部の写真では、左右対称に広がる紅斑・鱗屑・苔癬化と搔破痕がみられる。 ・好酸球17%と増加、血清IgE 13,384IU/mLと著明高値、LD 276U/Lと軽度上昇(皮膚の炎症の広がりと活動性を反映する)。CRPはほぼ正常で、発熱などの全身感染徴候はない。 ・病変部の病理で表皮内に異型リンパ球の浸潤(表皮向性)がなく、皮膚T細胞リンパ腫(菌状息肉症など)は否定されている。

診断へのプロセス

日本皮膚科学会の診断基準では、(1)瘙痒、(2)特徴的な皮疹と分布(年齢により変化する、左右対称性の湿疹)、(3)慢性・反復性経過(乳幼児では2か月以上、それ以外では6か月以上)の3項目を満たすものをアトピー性皮膚炎とする。本例はすべてを満たし、アトピー素因(アレルギー性鼻炎、食物アレルギー、家族歴、高IgE血症)も伴っていることから、成人期まで持ち越した重症のアトピー性皮膚炎と診断できる。鑑別として疥癬、接触皮膚炎、皮膚リンパ腫、高IgE症候群などがあるが、経過や病理所見から否定的である。

設問への考え方

アトピー性皮膚炎の治療の三本柱は、(1)炎症を抑える薬物療法、(2)皮膚バリア機能を補うスキンケア(保湿剤など)、(3)悪化因子の検索と対策である。このうち皮膚の炎症を速やかに確実に抑える第一選択の薬物は、副腎皮質ステロイド外用薬である。重症であっても、まず十分な強さと量のステロイド外用で寛解へ導くのが基本であり、効果が不十分な場合に全身療法を追加する。

選択肢考察

  1. ×a.  抗菌薬内服

    抗菌薬はアトピー性皮膚炎そのものの治療薬ではない。搔破により黄色ブドウ球菌などの二次感染を起こし、伝染性膿痂疹(とびひ)や蜂窩織炎、毛包炎などを合併した場合に用いる。本例は白血球が軽度増加しているが、主に好酸球の増加によるもので、CRPはほぼ正常、発熱もなく、膿疱・びらん・痂皮などの細菌感染を示す記載もないため、抗菌薬内服の適応はない。

  2. ×b.  コルヒチン内服

    コルヒチンは微小管の重合を阻害して好中球の遊走・活性化を抑える薬剤で、痛風発作、家族性地中海熱、Behçet病などに用いられ、皮膚科領域でも好中球性皮膚症(Sweet病など)や結節性紅斑に用いられることがある。アトピー性皮膚炎はTh2型免疫応答(IL-4、IL-13、IL-31など)と好酸球・T細胞が主体の炎症であり、コルヒチンは用いない。

  3. ×c.  活性型ビタミンD3外用

    活性型ビタミンD3外用薬は、表皮角化細胞の過剰な増殖を抑えて分化を正常化する作用があり、尋常性乾癬、掌蹠膿疱症、魚鱗癬などの角化症に用いる。湿疹病変には刺激となりうるうえ、アトピー性皮膚炎の炎症を抑える効果はないため、適応とならない。

  4. ×d.  抗ロイコトリエン薬内服

    抗ロイコトリエン薬(モンテルカストなど)は、ロイコトリエンによる気道平滑筋収縮・気道炎症・鼻粘膜の浮腫を抑える薬剤で、気管支喘息やアレルギー性鼻炎に用いる。アトピー性皮膚炎の皮膚症状に対する有効性は確立しておらず、標準治療には含まれない。本例のアレルギー性鼻炎の治療として使うことはありうるが、設問で問われている皮膚症状への治療としては適切でない。

  5. ○e.  副腎皮質ステロイド外用

    副腎皮質ステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎の皮膚の炎症を抑える第一選択薬である。強さは5段階(ストロンゲスト、ベリーストロング、ストロング、ミディアム、ウィーク)に分かれ、皮疹の重症度・部位・年齢に応じて選ぶ。本例のように体幹・四肢の苔癬化局面や痒疹が多発する重症例では、ベリーストロングクラスなど十分な強さのものを、適切な量(成人の手のひら2枚分の範囲に人差し指の先端から第一関節までの量=約0.5g、finger tip unit)で塗布して速やかに寛解を導く。寛解後は塗布回数を減らし、症状がなくても週2回程度定期的に外用するプロアクティブ療法で再燃を予防する。顔面・頸部など副作用(皮膚萎縮、毛細血管拡張など)が出やすい部位では弱いランクやタクロリムス外用などを用いる。保湿剤によるスキンケアや抗ヒスタミン薬内服の併用も行う。

アトピー性皮膚炎の病態

皮膚バリア機能の異常(フィラグリン遺伝子変異などによる角層の異常、セラミドの減少)、Th2型を主体とする免疫異常(IL-4、IL-13による炎症、IL-31による瘙痒)、瘙痒と搔破の悪循環(itch-scratch cycle)が互いに影響し合って病態を形成する。

年齢による皮疹の特徴

・乳児期:頭部・顔面から始まる紅斑・丘疹・漿液性丘疹、痂皮(湿潤傾向)。しばしば体幹・四肢へ拡大。 ・幼小児期:頸部、肘窩・膝窩など四肢屈側の乾燥性の湿疹、苔癬化。 ・思春期・成人期:上半身(顔面・頸部・胸背部)に皮疹が強い傾向があり、苔癬化・痒疹が目立つ。顔面紅斑(atopic red face)、眉毛外側の脱毛(Hertoghe徴候)、白色皮膚描記症なども特徴。

検査

・血清総IgE上昇、末梢血好酸球増加、LD上昇は病勢を反映することがある。 ・血清TARC(thymus and activation-regulated chemokine)は短期的な病勢を鋭敏に反映する指標として用いられる。

治療(日本のガイドラインに基づく整理)

1. 外用療法(抗炎症) ・副腎皮質ステロイド外用薬:第一選択。 ・タクロリムス軟膏(カルシニューリン阻害薬):顔面・頸部などに適する。皮膚萎縮を起こさない。 ・デルゴシチニブ軟膏(JAK阻害薬)、ジファミラスト軟膏(PDE4阻害薬)、タピナロフクリーム(AhR調節薬)などの新しい非ステロイド外用薬も使用可能である。 2. スキンケア:保湿剤(ヘパリン類似物質、白色ワセリンなど)の継続、皮膚の清潔。 3. 悪化因子の対策:汗、搔破、乾燥、ダニ・ハウスダスト、ストレスなど。 4. 補助療法:抗ヒスタミン薬内服(瘙痒の軽減)。 5. 外用療法で効果不十分な中等症〜重症例:シクロスポリン内服(短期間)、生物学的製剤(デュピルマブ:IL-4受容体α抗体、トラロキヌマブ・レブリキズマブ:IL-13抗体、ネモリズマブ:IL-31受容体A抗体で瘙痒に有効)、経口JAK阻害薬(バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ)、紫外線療法(ナローバンドUVB)など。 ・副腎皮質ステロイドの全身投与は、急性増悪時に短期間用いることはあるが、長期使用は推奨されない。

合併症

細菌感染症(伝染性膿痂疹など)、ウイルス感染症(カポジ水痘様発疹症:単純ヘルペスウイルスによる)、眼合併症(白内障、網膜剝離:顔面の叩打・搔破に関連)。

POINT

・乳児期からの左右対称の瘙痒性湿疹+年齢による分布の変化+慢性反復性経過+アトピー素因 → アトピー性皮膚炎。 ・診断基準:瘙痒、特徴的皮疹と分布、慢性・反復性経過(乳幼児2か月以上、その他6か月以上)。 ・治療の第一選択は副腎皮質ステロイド外用。スキンケア(保湿)、悪化因子対策を併用し、寛解後はプロアクティブ療法で再燃予防。 ・顔面・頸部にはタクロリムス外用なども用いる。 ・難治・重症例ではデュピルマブなどの生物学的製剤、経口JAK阻害薬、シクロスポリン内服を検討する。 ・抗菌薬は二次感染時のみ、活性型ビタミンD3外用は乾癬、コルヒチンは好中球性疾患、抗ロイコトリエン薬は喘息・鼻炎の薬。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。