腫れる膵炎、縮む膵炎―自己免疫性膵炎を「ソーセージ」で見抜く
第119回医師国家試験 A問題 第1問
国試問題にチャレンジ
自己免疫性膵炎で誤っているのはどれか。
- a.膵の萎縮を認める。
- b.高齢男性に好発する。
- c.病理で線維化を認める。
- d.IgG4関連疾患に含まれる。
- e.治療はグルココルチコイド投与が第一選択である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
自己免疫性膵炎は、日本ではほとんどが1型で、IgG4関連疾患の膵病変として位置づけられ、中高年以降の男性に多く発症します。画像ではソーセージ様のびまん性腫大や限局性腫大と主膵管の狭細像が典型で、萎縮・膵石・膵管拡張を示すアルコール性などの慢性膵炎とは対照的であり、本問では「萎縮を認める」が誤りです。病理ではリンパ球・形質細胞浸潤、花筵状線維化、閉塞性静脈炎、IgG4陽性形質細胞浸潤がみられ、治療はグルココルチコイドが第一選択で反応は良好ですが、再燃しやすい点に注意が必要です。好発層や無痛性黄疸という臨床像が膵癌と重なるため、ステロイド投与前に悪性を確実に除外し、血清IgG4や膵外病変も含めて総合的に診断することが重要です。「腫れる膵炎」と「縮む膵炎」を対比して理解することは、膵疾患の画像診断と鑑別の基礎になります。
解答・解説
正解はaです
自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)の基本的な特徴を問う問題である。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、典型像と異なる記述を探す。 日本で多くみられるAIPは1型で、全身性の疾患であるIgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4-RD)の膵病変と位置づけられている。押さえるべき典型像は次のとおりである。 ・疫学:中高年から高齢の男性に多い。 ・画像:膵のびまん性腫大(「ソーセージ様」と表現される)や限局性腫大を示し、周囲に被膜様の低吸収帯(capsule-like rim)を伴うことがある。主膵管は不整に細くなる(狭細像)。 ・血液:血清IgG4の高値(135 mg/dL以上が診断基準の目安)。 ・病理:リンパ球・形質細胞の著しい浸潤、花筵状(storiform)線維化、閉塞性静脈炎、IgG4陽性形質細胞の浸潤(lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis:LPSP)。 ・治療:グルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)がよく効く。 このように、活動期の画像所見の基本は「腫大」であり、「萎縮」ではない。萎縮はアルコール性などの慢性膵炎で典型的にみられる所見で、両者を対比して覚えておくと判断しやすい。したがって誤っているのはaである。
選択肢考察
- ○a. 膵の萎縮を認める。
誤った記述であり、本問の正解である。AIPの特徴的な画像所見は、膵全体がびまん性に腫れて輪郭がなめらかになる「ソーセージ様腫大」、あるいは一部が腫瘤状に腫れる限局性腫大である。造影CTでは遅延相で均一に濃染し、膵周囲に被膜様の低吸収帯を伴うことがある。膵萎縮は、長期経過例や再燃を繰り返した例、ステロイド治療後に二次的にみられることはあるが、本症を特徴づける所見ではない。萎縮・膵石・主膵管の不整拡張は、むしろアルコール性などの慢性膵炎を示唆する所見である。
- ×b. 高齢男性に好発する。
正しい記述である。1型AIPは中高年以降、特に60歳代以降の男性に多く、男女比はおよそ3〜4:1と男性優位である。膵癌の好発年齢・性別と重なるため、膵癌との鑑別が臨床上の大きな課題となる。
- ×c. 病理で線維化を認める。
正しい記述である。1型AIPの組織像はLPSP(リンパ形質細胞性硬化性膵炎)と呼ばれ、①高度のリンパ球・形質細胞浸潤、②花筵状線維化(storiform fibrosis:線維が渦巻き状・むしろの目のように錯綜する線維化)、③閉塞性静脈炎、④多数のIgG4陽性形質細胞浸潤が特徴である。好酸球浸潤を伴うことも多い。
- ×d. IgG4関連疾患に含まれる。
正しい記述である。1型AIPはIgG4関連疾患の代表的な臓器病変である。IgG4関連疾患では、膵のほか胆管(IgG4関連硬化性胆管炎)、涙腺・唾液腺(ミクリッツ病)、後腹膜(後腹膜線維症)、腎(間質性腎炎)などに同時性・異時性に病変が生じうるため、膵外病変の検索も診断に役立つ。なお、好中球の膵管上皮内浸潤(granulocytic epithelial lesion:GEL)を特徴とする2型AIPはIgG4関連疾患には含まれないが、日本ではまれであり、一般に「自己免疫性膵炎」といえば1型を指す。
- ×e. 治療はグルココルチコイド投与が第一選択である。
正しい記述である。閉塞性黄疸、腹痛、膵外病変による症状などがある例では、経口グルココルチコイド(プレドニゾロン0.6 mg/kg/日程度から開始し、漸減する)が第一選択で、多くの例で速やかに改善する。ステロイドへの良好な反応は診断を支持する所見にもなる。ただし、膵癌を十分に否定せずに安易に投与すると癌の診断を遅らせる危険があるため、投与前の鑑別が重要である。一部の無症状例では無治療で自然に軽快することもあり、また減量・中止後に再燃しやすいため維持療法が行われることも多い。
自己免疫性膵炎の分類
・1型(LPSP):IgG4関連疾患の膵病変。高齢男性に多く、血清IgG4高値、膵外病変の合併が多い。日本のAIPの大部分を占める。 ・2型(IDCP:idiopathic duct-centric chronic pancreatitis):好中球による膵管上皮の破壊(GEL)が特徴。血清IgG4は上昇せず、比較的若年に多く、炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎)の合併がみられる。欧米に比較的多い。
臨床像
・無痛性の閉塞性黄疸(膵内胆管の狭窄や硬化性胆管炎による)で発見されることが多く、腹痛は軽度か欠如することが多い。 ・膵内分泌障害による糖尿病の合併がしばしばみられ、ステロイド治療で改善することもある。
診断の要点
・画像(膵腫大、主膵管狭細像)、血清学(IgG4 135 mg/dL以上)、病理、膵外病変、ステロイド反応性を組み合わせて診断する(日本膵臓学会の臨床診断基準)。 ・膵癌との鑑別が最重要であり、超音波内視鏡下穿刺吸引(EUS-FNA)などで悪性を否定することが求められる。
慢性膵炎(アルコール性など)との対比
・慢性膵炎:膵萎縮、膵石、主膵管の不整拡張、外分泌・内分泌機能低下。 ・自己免疫性膵炎:膵腫大、主膵管のびまん性・限局性狭細、ステロイドが有効。
POINT
・自己免疫性膵炎(1型)はIgG4関連疾患の膵病変である。 ・高齢男性に多く、無痛性閉塞性黄疸で発症しやすい。 ・画像はソーセージ様のびまん性膵腫大と主膵管狭細像が典型で、萎縮ではない。 ・病理はリンパ球・形質細胞浸潤、花筵状線維化、閉塞性静脈炎、IgG4陽性形質細胞浸潤。 ・治療の第一選択はグルココルチコイドで、反応良好だが再燃しやすい。投与前に膵癌の除外が必須。
