流産の原因はどこにある?―「胎児の染色体」と「母体のリスク因子」から見抜く仲間外れ
第114回医師国家試験 D問題 第8問
国試問題にチャレンジ
流産と関連がないのはどれか。
- a.年齢
- b.甲状腺機能低下症
- c.子宮頸管ポリープ
- d.抗リン脂質抗体症候群
- e.転座型染色体異常の保因者
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
流産は妊娠22週未満での妊娠の終結で、臨床的に確認された妊娠の約15%に起こり、早期流産の最大の原因は胎児の偶発的な染色体数的異常です。母体年齢の上昇は卵子の染色体不分離を増やすため、最も重要なリスク因子の一つです。流産を繰り返す不育症では、抗リン脂質抗体症候群、甲状腺機能異常などの内分泌異常、夫婦の均衡型転座、子宮形態異常、凝固因子異常などが原因となりえますが、原因不明の例も半数以上を占めます。一方、子宮頸管ポリープは出血の原因にはなるものの、子宮内腔や着床に影響しないため、それ自体は流産の原因ではありません。各因子が胚の染色体・胎盤・子宮内腔のどこに作用するかを考える視点は、不育症の検査や患者説明を理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
流産とは、妊娠22週未満で妊娠が終わることをいう。臨床的に確認された妊娠の約15%が流産に至り、その大部分は妊娠12週未満の早期流産である。早期流産の最大の原因は胎児(胎芽)側の染色体異常で、多くは偶発的に起こる数的異常(トリソミーなど)である。 一方、流産を繰り返す場合(2回で反復流産、3回以上で習慣流産と呼ぶ。妊娠はするが生児を得られない状態を広く不育症という)には、母体側・夫婦側に原因となるリスク因子が見つかることがある。代表的なものは、抗リン脂質抗体症候群、子宮形態異常(中隔子宮など)、甲状腺機能異常などの内分泌異常、夫婦いずれかの染色体構造異常(均衡型転座など)、凝固因子異常である。ただし、精査しても原因が特定できない例が半数以上を占める。 本問では、選択肢のうちこれらのリスク因子に当てはまらないものを選ぶ。母体の年齢、甲状腺機能低下症、抗リン脂質抗体症候群、転座型染色体異常の保因者はいずれも流産と関連する。子宮頸管ポリープは子宮頸管の粘膜にできる良性の小さな隆起で、妊娠中の出血の原因にはなるが、それ自体が流産の原因となるわけではない。
選択肢考察
- ×a. 年齢
関連がある。母体年齢は流産の最も重要なリスク因子の一つである。卵子は胎児期に形成されて減数分裂の途中で長く停止しているため、加齢とともに減数分裂時の染色体不分離が起こりやすくなり、胎児の染色体数的異常(トリソミーなど)が増える。その結果、流産率は30歳代後半から上昇し、40歳代では大きく高くなる。
- ×b. 甲状腺機能低下症
関連がある。甲状腺ホルモンは排卵や黄体機能、妊娠初期の胎盤形成に関わっており、甲状腺機能低下症(特に顕性のもの)は流産や早産、妊娠高血圧症候群などのリスクを高める。習慣流産・不育症の検査では甲状腺機能異常が一定の割合で見つかり、スクリーニング項目に含まれている。潜在性甲状腺機能低下症や甲状腺自己抗体陽性と流産との関係については報告により結論が分かれるが、甲状腺機能低下症は流産のリスク因子として扱われ、妊娠を希望する場合や妊娠中には甲状腺機能を適切に補正することが勧められる。
- ○c. 子宮頸管ポリープ
関連がない。子宮頸管ポリープは頸管粘膜の過形成による良性病変で、性器出血(性交後出血など)の原因になるが、子宮内腔の形を変えたり着床・胎盤形成を妨げたりするものではなく、それ自体は流産の原因とはならない。ただし、妊娠中のポリープ周囲の炎症・感染や、無理な切除操作が子宮頸管や卵膜に影響して流早産のきっかけとなる可能性は指摘されており、妊娠中に切除するかどうかは慎重に判断する。なお、子宮の病変で流産と関連するのは、中隔子宮・双角子宮などの子宮形態異常や、子宮内腔を変形させる粘膜下筋腫などである。
- ×d. 抗リン脂質抗体症候群
関連がある。抗リン脂質抗体症候群(APS)は、抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント、抗β2グリコプロテインI抗体などの抗リン脂質抗体が持続的に陽性で、動静脈血栓症や妊娠合併症を起こす自己免疫疾患である。胎盤の血栓形成や絨毛の障害により、習慣流産、妊娠10週以降の原因不明の子宮内胎児死亡、重症妊娠高血圧腎症や胎盤機能不全による早産などを起こす。習慣流産・不育症の原因として頻度が高く、低用量アスピリンとヘパリンの併用療法で生児獲得率の改善が期待できる。
- ×e. 転座型染色体異常の保因者
関連がある。均衡型転座(相互転座やRobertson転座)の保因者は、遺伝子の総量に過不足がないため本人は健康だが、配偶子をつくる減数分裂の際に染色体の分配が偏り、不均衡型の染色体をもつ胚が一定の割合で生じる。不均衡型の胚は多くが流産となるため、夫婦のどちらかが保因者であると流産を繰り返しやすい。習慣流産の夫婦に対して染色体検査(核型分析)を行うのはこのためであり、検査の実施には遺伝カウンセリングを伴うことが望ましい。
流産の用語と頻度
流産: 妊娠22週未満での妊娠の終結。臨床的に確認された妊娠の約15%。 早期流産: 妊娠12週未満。流産の大部分を占め、主な原因は胎児の染色体異常。 後期流産: 妊娠12週以降22週未満。頸管無力症、絨毛膜羊膜炎などの母体側の要因の比重が増す。 反復流産: 流産を2回繰り返したもの。 習慣流産: 流産を3回以上繰り返したもの(頻度は妊娠を経験した女性の約1%)。 不育症: 妊娠は成立するが、流産・死産を繰り返して生児が得られない状態。
不育症(習慣流産)の主なリスク因子
・抗リン脂質抗体症候群 ・子宮形態異常(中隔子宮、双角子宮など)、子宮内腔を変形させる子宮筋腫 ・内分泌異常(甲状腺機能異常、コントロール不良の糖尿病など) ・夫婦の染色体構造異常(均衡型転座など) ・凝固因子異常(プロテインS欠乏症、第XII因子欠乏症など) ・ただし精査しても原因不明の例が半数以上を占め、偶発的な胎児染色体異常の繰り返しも多い。
その他の流産リスク因子
母体の高年齢、過去の流産回数、喫煙、多量の飲酒・カフェイン摂取、肥満、コントロール不良の糖尿病、一部の感染症など。
POINT
・流産の最大の原因は胎児の染色体異常であり、母体年齢の上昇とともに増える。 ・習慣流産(不育症)のリスク因子:抗リン脂質抗体症候群、子宮形態異常、甲状腺機能異常などの内分泌異常、夫婦の均衡型転座、凝固因子異常。 ・子宮頸管ポリープは出血の原因になるが、それ自体は流産の原因ではない。 ・抗リン脂質抗体症候群による不育症には低用量アスピリン+ヘパリン療法を行う。
