検便も海外派遣健診も「一般」―特殊健康診断を見抜くカギは「有害業務」
第118回医師国家試験 F問題 第35問
国試問題にチャレンジ
労働者の健康診断で特殊健康診断はどれか。2つ選べ。
- a.給食従業員の検便
- b.雇入れ時の健康診断
- c.放射線業務の健康診断
- d.有機溶剤業務の健康診断
- e.海外派遣労働者の健康診断
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
労働安全衛生法に基づく健康診断は、全労働者の健康状態を把握する一般健康診断と、法令で定めた有害業務従事者を対象とする特殊健康診断に分けられます。特殊健康診断の対象は有機溶剤、鉛、四アルキル鉛、特定化学物質、高気圧、電離放射線、除染等、石綿の各業務で、雇入れ時・配置替え時とその後原則6か月以内ごとに行い、放射線業務では血球検査や眼・皮膚の検査、有機溶剤業務では尿中代謝物の測定などを実施します。一方、雇入時健診、定期健診、深夜業などの特定業務従事者健診、海外派遣労働者健診、給食従業員の検便は、対象や頻度が特殊に見えても一般健康診断です。判断基準は「特定の有害因子へのばく露とその健康影響を評価する健診かどうか」であり、この視点は産業保健の実務で健診結果を作業環境改善へつなげる考え方の基礎にもなります。
解答・解説
正解はc, dです
労働安全衛生法に基づく労働者の健康診断は、大きく「一般健康診断」と「特殊健康診断」に分けられる。 一般健康診断は、業務の種類にかかわらず労働者の全般的な健康状態を把握し、適切な就業上の配慮につなげるためのものである。労働安全衛生規則(安衛則)第43〜47条に規定され、雇入時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、海外派遣労働者の健康診断、給食従業員の検便がこれに含まれる。 特殊健康診断は、法令で定められた有害業務に従事する労働者を対象に、その業務に特有の健康障害(中毒、放射線障害、じん肺など)を早期に発見し、予防するために行う。労働安全衛生法第66条第2項に基づき、有機溶剤、鉛、四アルキル鉛、特定化学物質、高気圧、電離放射線、除染等、石綿の各業務が対象となる。各業務の規則(有機溶剤中毒予防規則、電離放射線障害防止規則など)で具体的な検査項目が定められている。じん肺法に基づくじん肺健康診断や、歯科医師による健康診断(塩酸・硝酸・硫酸など歯を腐食する物質を扱う業務)も広い意味で特殊健康診断に含まれる。 したがって本問は、選択肢が「特定の有害因子へのばく露に対応した健診」か、それとも「一般健康診断に分類されるもの」かで判断する。給食従業員の検便や海外派遣労働者の健診は対象が特定の労働者に限られるため一見特殊に見えるが、法令上は一般健康診断に分類される点がひっかけとなっている。
選択肢考察
- ×a. 給食従業員の検便
事業場の附属食堂や炊事場で給食業務に従事する労働者に対し、雇入れ時または配置替えの際に行う検便である(安衛則第47条)。目的は、腸管感染症の病原体(赤痢菌、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌など)を保有する従業員を把握し、食事を介した集団感染を防ぐことにある。食品衛生上の管理という性格が強く、労働者自身の有害業務によるばく露を評価するものではない。法令上は一般健康診断の一つに位置づけられ、特殊健康診断ではない。
- ×b. 雇入れ時の健康診断
常時使用する労働者を雇い入れる際に行う一般健康診断である(安衛則第43条)。既往歴・業務歴の調査、自覚症状・他覚症状の有無、身長・体重・腹囲・視力・聴力、胸部エックス線、血圧、貧血検査、肝機能検査、血中脂質、血糖、尿検査、心電図などを行う。目的は、採用時の健康状態を把握して適正な配置や就業後の健康管理の基礎資料とすることであり、特定の有害業務とは関係しない。
- ○c. 放射線業務の健康診断
電離放射線業務は労働安全衛生法第66条第2項で定める有害業務であり、電離放射線障害防止規則(電離則)に基づき特殊健康診断が義務づけられている。雇入れ時、配置替えの際、その後は6か月以内ごとに1回行う。被ばく歴の評価に加えて、白血球数と白血球百分率、赤血球数と血色素量(ヘモグロビン)またはヘマトクリット値の検査、白内障に関する眼の検査、皮膚の検査を行う。放射線による造血障害、水晶体混濁(白内障)、皮膚障害などを早期に把握することが目的である。
- ○d. 有機溶剤業務の健康診断
有機溶剤業務は労働安全衛生法第66条第2項の有害業務であり、有機溶剤中毒予防規則(有機則)に基づき特殊健康診断が義務づけられている。雇入れ時、配置替えの際、その後は6か月以内ごとに1回行う。業務歴・作業条件の調査、有機溶剤による自覚症状(頭痛、めまい、末梢神経障害など)や他覚所見のチェック、尿中代謝物の測定などを行う。尿中代謝物は対象溶剤ごとに定められており、トルエンでは馬尿酸、キシレンではメチル馬尿酸、ノルマルヘキサンでは2,5-ヘキサンジオンを測る。さらに溶剤の種類に応じて、肝機能検査、貧血検査、眼底検査、腎機能検査などを追加する。
- ×e. 海外派遣労働者の健康診断
労働者を6か月以上海外に派遣する際と、6か月以上海外に派遣した労働者を国内の業務に就かせる際に行う健康診断である(安衛則第45条の2)。定期健康診断の項目に加えて、医師が必要と認めた項目(腹部画像検査、血中尿酸値、B型肝炎ウイルス抗体検査、ABO式・Rh式血液型、糞便塗抹検査など)を追加する。目的は、海外での生活や勤務に耐えられるかを評価すること、また帰国時に海外で罹患した疾患などを把握することであり、有害因子へのばく露を対象とするものではない。一般健康診断に分類される。
労働安全衛生法に基づく健康診断の整理
1)一般健康診断(労働安全衛生法第66条第1項、安衛則) ・雇入時の健康診断(第43条) ・定期健康診断(第44条):1年以内ごとに1回 ・特定業務従事者の健康診断(第45条):深夜業、多量の高熱物体を扱う業務、坑内労働などの特定業務への配置替えの際、および6か月以内ごとに1回。項目は定期健康診断に準じる。 ・海外派遣労働者の健康診断(第45条の2) ・給食従業員の検便(第47条) 2)特殊健康診断(労働安全衛生法第66条第2項・第3項、じん肺法) ・有機溶剤、鉛、四アルキル鉛、特定化学物質、高気圧業務、電離放射線、除染等業務、石綿:雇入れ時・配置替え時、その後原則6か月以内ごとに1回(石綿・特定化学物質の一部などは、業務を離れた後も事業者が健診を行う規定や健康管理手帳制度がある)。 ・じん肺健康診断(じん肺法):粉じん作業従事者が対象 ・歯科医師による健康診断:塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素などの歯やその支持組織に有害な物質を扱う業務 3)行政指導による健康診断(通達に基づく指導勧奨) 法令上の義務ではないが、騒音作業、紫外線・赤外線を扱う業務、VDT作業、振動工具を扱う業務、腰痛を起こしやすい業務などについて、特殊健康診断に準じた健康診断を行うよう指導されている。
特殊健康診断の要点
・目的は、有害因子へのばく露状況と、それに起因する早期の健康影響を把握し、作業環境管理・作業管理の改善につなげること。 ・結果に基づく医師の意見聴取、就業上の措置、労働者への結果通知が事業者に義務づけられている。 ・健康診断個人票の保存期間は原則5年だが、有害業務の種類によっては長く定められている(電離放射線は30年、石綿は40年など)。
POINT
・特殊健康診断は、法令で定めた有害業務(有機溶剤、鉛、四アルキル鉛、特定化学物質、高気圧、電離放射線、除染等、石綿)の従事者が対象。じん肺健康診断と歯科医師による健康診断も含まれる。 ・雇入時健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、海外派遣労働者の健康診断、給食従業員の検便は、いずれも一般健康診断。 ・特殊健康診断は、雇入れ時・配置替え時と、その後原則6か月以内ごとに1回行う。
