StudyMed医師国家試験

転がすな、持ち上げよ―骨盤外傷の診察で「やってはいけない」ひと手間

第118回医師国家試験 F問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第118回 F問題 第3問

骨盤外傷を疑う患者の診察で誤っているのはどれか。

  1. a.血圧変化を確認する。
  2. b.下肢脚長差を確認する。
  3. c.骨盤周辺の打撲痕を確認する。
  4. d.外尿道口からの出血を確認する。
  5. e.背部の外傷は側臥位にして確認する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、骨盤外傷が疑われる患者さんの初期診察で何を確認し、何を避けるべきかを問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、ひとつずつ「この診察は骨盤外傷で本当に必要か、患者さんに害はないか」という目で見ていこう。まず、骨盤骨折でいちばん怖いのは何だと思う?
医学生医学生
骨折そのものの痛みよりも、出血でしょうか。でも外から見える出血がなければ、そこまで心配しなくていい気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこが大きな落とし穴なんだ。骨盤の中には仙骨前面の静脈叢や内腸骨動脈の枝が豊富に走っていて、骨折面やこれらの血管からの出血は後腹膜腔に溜まる。外からは見えないのに、数千mLに及ぶこともある。だから骨盤骨折は、出血性ショックで命を落としうる外傷として扱う。
医学生医学生
だから血圧変化を確認するのは正しいんですね。救急科の実習で、来院時の血圧が保たれていても安心するなと言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
その通り。若い人ほど代償が効くから、血圧が下がる前に頻脈や皮膚の蒼白・冷汗、意識レベルの変化が出てくる。血圧と脈拍を一度測って終わりではなく、推移を繰り返し追うことが大切だ。では、下肢の脚長差を見ることにはどんな意味があるかな。
医学生医学生
整形外科の講義で、股関節脱臼や大腿骨頸部骨折で患肢が短くなると習いました。骨盤でも同じことが起こるんですか。
ドクタードクター
いい連想だね。骨盤輪が断裂して片側の骨盤が頭側へずれる、つまり垂直方向に不安定な骨折だと、患側の下肢が短く見える。回旋変形が加わることもある。脚長差は不安定型骨盤骨折を示唆する重要な所見で、しかも骨盤を動かさずに視診だけで評価できるのが利点なんだ。
医学生医学生
骨盤周辺の打撲痕も、どこに強い力が加わったかの手がかりになるので確認すべきですね。
ドクタードクター
そう。打撲痕、擦過傷、皮下出血、腫脹は骨盤損傷を疑うきっかけになる。開放創があれば開放骨盤骨折として、感染と大出血のリスクが一段と高くなる。会陰部まできちんと見ることも忘れないでほしい。そして外尿道口からの出血はどうだろう。
医学生医学生
恥骨のすぐ近くを尿道が通っているので、尿道損傷のサインでしょうか。泌尿器科の実習でバルーン挿入を練習したので、すぐ入れたくなってしまいそうです。
ドクタードクター
まさにそこが注意点だ。外尿道口出血、会陰部の血腫、尿閉、血尿は尿路損傷を示唆する。男性で尿道損傷が疑われるときに盲目的にカテーテルを入れると、部分断裂を完全断裂にしてしまうおそれがある。先に逆行性尿道造影で損傷の有無を確かめるのが原則だ。
医学生医学生
そうなると、残るのは背部の観察を側臥位で行うという記述ですね。でもOSCEの外傷診療の練習では、ログロールで背中を見るのが基本でした。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。ログロールは外傷診療で背面を観察する一般的な方法だ。ただ、不安定型骨盤骨折が疑われる場合は話が別で、横に転がすと骨盤にねじれや開大の力がかかる。骨折部のずれが大きくなり、せっかくできた凝血塊がはがれて再出血したり、血管や神経の損傷が悪化したりする。だから原則として行わない。これがこの問題の答え、つまり誤っている記述だ。
医学生医学生
では、背中はどうやって確認するんですか。見ないわけにもいかないですよね。
ドクタードクター
フラットリフトを使う。頭部を保持する1人と、胸部・骨盤部・下肢に左右対称に並んだ複数名、合わせて7名ほどで、号令に合わせて患者さんを仰臥位のまま水平に持ち上げる。その間に別の人が背面を観察する。人手はかかるけれど、骨盤や脊椎へのねじれを最小限にできるんだ。
医学生医学生
骨盤を揺らして動揺性を確かめる診察も、同じ理由で控えたほうがいいんでしょうか。
ドクタードクター
その理解で正しい。用手圧迫で動揺性を調べる手技は出血を助長しうるから、行うとしても愛護的に1回まで。初期評価のポータブル骨盤X線で不安定型骨折が明らかなら、そもそも行わない。あわせてFASTで腹腔内出血を調べ、出血源が腹腔内か後腹膜かを推定する。出血が続くなら、シーツラッピングや骨盤バインダーで骨盤を締めて容積を減らし、さらに経カテーテル動脈塞栓術、後腹膜パッキング、創外固定などを組み合わせて止血を図る。
医学生医学生
仙骨骨折なら神経の障害も起こりそうですね。
ドクタードクター
その通り。仙骨神経根が傷つくと、肛門括約筋の弛緩や会陰部の感覚障害、下肢の筋力低下が起こりうる。直腸診では出血や骨片、括約筋の緊張を確認し、腟の診察も含めて合併損傷を探す。直腸や腟に損傷があれば開放骨折として扱うことになる。
医学生医学生
確認すべきことは視診中心にきっちり押さえて、骨盤を動かす操作は最小限にする、ということですね。
ドクタードクター
そう、それがこの問題の核心だ。「診察のための操作が患者さんを悪化させないか」を常に意識しておこう。

まとめ

骨盤骨折は後腹膜腔への大量出血で出血性ショックをきたしうるため、外出血がなくても血圧・脈拍の推移を繰り返し評価することが最優先です。脚長差や回旋変形は不安定型骨折を、骨盤周囲の打撲痕は強い外力を、外尿道口出血は尿道損傷を示唆し、尿道損傷が疑われる場合は盲目的なカテーテル挿入を避けて逆行性尿道造影を行います。一方、骨盤を動かす操作は骨折部のずれや再出血を招くため、背面観察はログロール(側臥位への体位変換)ではなくフラットリフトで行い、用手的な動揺性の確認も最小限にとどめます。止血にはシーツラッピングや骨盤バインダーによる簡易固定、TAE、後腹膜パッキング、創外固定などを組み合わせます。「確認すべき所見」と「避けるべき操作」をセットで理解することは、重症外傷の初期診療で患者さんを守るための基本となります。

解答・解説

正解はeです

【テーマ】骨盤外傷が疑われる患者の初期診療 骨盤骨折は交通事故や高所からの墜落など高エネルギー外傷で生じることが多く、最大の問題は大量出血である。骨盤内には仙骨前面の静脈叢や内腸骨動脈の分枝などが豊富に走行しており、骨折面とこれらの血管からの出血は後腹膜腔に溜まる。外から出血が見えなくても数千mLに及ぶ出血が起こり得るため、出血性ショックによる死亡の原因となる。さらに、骨盤内には膀胱・尿道・直腸・腟などの臓器や、仙骨神経叢などの神経があり、これらの合併損傷にも注意が必要である。

診察の基本

骨盤外傷を疑う患者では、①循環動態(血圧・脈拍)の評価と出血性ショックの早期認識、②視診による打撲痕・変形・下肢の脚長差や回旋変形の確認、③会陰部・外尿道口・直腸の観察による合併損傷の検索を行う。一方で、不安定型骨盤骨折では、骨盤を動かすこと自体が骨折部のずれを大きくし、止血しかけた血管からの再出血や新たな血管・神経損傷を招く。そのため、骨盤を揺さぶる触診(用手圧迫による動揺性の確認)は最小限にとどめ、体位変換も極力避ける。

設問の考え方

本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。a〜dはいずれも骨盤外傷で確認すべき項目である。eの側臥位への体位変換(ログロール)は、背面観察の一般的な方法ではあるが、骨盤骨折が疑われる場合には骨盤にねじれの力が加わるため避けるべきであり、誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  血圧変化を確認する。

    正しい記述である。骨盤骨折では後腹膜腔に大量の出血が起こり、外出血がなくても出血性ショックに陥ることがある。来院時に血圧が保たれていても、頻脈、皮膚の蒼白・冷汗、意識レベルの低下などショックの徴候を見逃さず、血圧と脈拍の推移を繰り返し評価する必要がある。出血が続く場合は、骨盤の簡易固定(シーツラッピングや骨盤バインダー)、経カテーテル動脈塞栓術(TAE)、後腹膜パッキング、創外固定などによる止血を検討する。

  2. ×b.  下肢脚長差を確認する。

    正しい記述である。骨盤輪が断裂して片側の骨盤が頭側へずれる(垂直方向の不安定性がある)と、患側の下肢が短く見える。また、下肢の回旋変形がみられることもある。脚長差は不安定型骨盤骨折を示唆する重要な所見であり、骨盤を動かさずに視診で評価できる点でも有用である。

  3. ×c.  骨盤周辺の打撲痕を確認する。

    正しい記述である。骨盤周囲や会陰部の打撲痕、擦過傷、皮下出血、腫脹は、その部位に強い外力が加わったことを示し、骨盤損傷を疑う手がかりとなる。開放創がある場合は開放骨盤骨折として感染や大出血のリスクが高く、特に注意を要する。

  4. ×d.  外尿道口からの出血を確認する。

    正しい記述である。骨盤骨折、とくに恥骨部の骨折には尿道損傷や膀胱損傷が合併しやすい。外尿道口からの出血、会陰部の血腫、尿閉、血尿は尿路損傷を示唆する。男性で尿道損傷が疑われる場合は、盲目的な尿道カテーテル挿入で損傷を悪化させるおそれがあるため、先に逆行性尿道造影で損傷の有無を確認する。

  5. ○e.  背部の外傷は側臥位にして確認する。

    誤った記述であり、これが正解である。外傷診療では背面の観察に体を丸太のように横に転がすログロール(側臥位への体位変換)がよく用いられるが、不安定型骨盤骨折が疑われる場合には、骨盤にねじれや開大の力が加わり、骨折部のずれの増大、凝血塊がはがれることによる再出血、血管・神経損傷の悪化を招くため、原則として行わない。代わりに、複数の人員で患者を仰臥位のまま水平に持ち上げるフラットリフトを行い、その間に背面を観察する。

骨盤骨折の不安定性による分類(Tile分類の考え方)

・A型:安定型。骨盤輪の連続性が保たれている(腸骨翼単独骨折など)。 ・B型:回旋方向に不安定だが、垂直方向には安定。前後方向からの圧迫による開大型(open book型)や、側方圧迫型などがある。 ・C型:回旋方向にも垂直方向にも不安定。片側の骨盤が頭側へ転位し、脚長差が出やすい。 不安定型ほど出血量が多く、重症になりやすい。

初期診療での評価と処置の流れ

・循環の評価:血圧、脈拍、皮膚所見などからショックを判断し、細胞外液の輸液や輸血を開始する。 ・画像:初期評価の段階で骨盤正面のポータブルX線撮影を行い、不安定型骨折の有無を確認する。FAST(focused assessment with sonography for trauma、外傷初期の迅速超音波検査)で腹腔内出血の有無を調べ、出血源が腹腔内か後腹膜(骨盤)かを推定する。状態が安定していれば造影CTで出血源や血管外漏出を評価する。 ・骨盤の触診:用手的な圧迫で動揺性を調べる手技は、出血を助長するおそれがあるため、行うとしても愛護的に1回にとどめる。X線で不安定型骨折が明らかなら行わない。 ・止血:シーツラッピングや骨盤バインダーで骨盤容積を減らして簡易固定し、さらにTAE、後腹膜パッキング、創外固定などを組み合わせる。

合併損傷

・尿路:尿道損傷(外尿道口出血、会陰部血腫、尿閉)、膀胱損傷(血尿)。 ・直腸・腟:直腸診や腟の診察で出血や骨片の触知を確認する。損傷があれば開放骨折として扱う。 ・神経:仙骨骨折では仙骨神経根が障害され、肛門括約筋の弛緩、会陰部の感覚障害、下肢の筋力低下や感覚障害が起こり得る。下肢の神経学的所見と会陰部の感覚、直腸診での肛門括約筋の緊張を確認する。

フラットリフト

頭部を保持する1人と、胸部・骨盤部・下肢に左右対称に配置した複数名(計7名程度)が、号令に合わせて患者を仰臥位のまま水平に持ち上げる方法である。持ち上げている間に別の者が背面を観察したり、バックボードを除去したりする。人員を要するが、骨盤や脊椎へのねじれを最小限にできる。

POINT

・骨盤骨折は後腹膜腔への大量出血で出血性ショックをきたし得るため、血圧・脈拍の推移を繰り返し評価する。 ・脚長差や下肢の回旋変形は不安定型骨盤骨折を示唆する。 ・外尿道口出血は尿道損傷を示唆し、盲目的な尿道カテーテル挿入は避けて逆行性尿道造影を行う。 ・骨盤骨折が疑われるときは、ログロール(側臥位への体位変換)を避け、フラットリフトで背面を観察する。 ・骨盤の用手的な動揺性の確認は出血を助長するため、最小限(1回まで)にとどめる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。