StudyMed医師国家試験

一人きりの診療所を休ませない―へき地医療支援機構の「調整役」としての仕事

第118回医師国家試験 F問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第118回 F問題 第16問

へき地医療支援機構が行う事業はどれか。

  1. a.在宅医療の確保
  2. b.母子保健の実施
  3. c.代診医の派遣調整
  4. d.地域医療構想の策定
  5. e.地域包括ケアの推進

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、へき地医療を支える仕組みのうち、へき地医療支援機構の役割を問う問題だ。考えるポイントは、選択肢の事業が「誰が担うものか」という実施主体の整理と、へき地医療に固有の課題は何か、という2点だよ。
医学生医学生
へき地医療というと、自治医科大学の卒業生が診療所に赴任するイメージがあります。
ドクタードクター
それも大事な仕組みのひとつだね。へき地の診療所は医師1人で運営されていることが多い。その医師が研修や学会、休暇、病気で不在になったら、地域はどうなると思う?
医学生医学生
その間、地域から医療がなくなってしまいますね。地域医療実習で離島の診療所に行ったとき、先生が「なかなか島を離れられない」と言っていました。
ドクタードクター
まさにその脆弱さを補うのが、へき地医療拠点病院などから代わりの医師を送る代診医の派遣だ。そして、その派遣を都道府県単位で広域的に企画・調整する司令塔が、へき地医療支援機構なんだ。だから正解は代診医の派遣調整になる。
医学生医学生
機構は都道府県ごとに置かれているんですか。
ドクタードクター
そう。都道府県庁内やへき地医療拠点病院内に置かれることが多く、へき地での診療経験をもつ医師が専任担当官として配置される。代診医の調整のほか、巡回診療や医師派遣の調整、へき地医療従事者の研修やキャリア形成の支援なども担っている。代診があることで常勤医が安心して研修や休養をとれるから、定着にもつながるんだ。
医学生医学生
在宅医療の確保も、へき地では移動距離が長くて大変そうなので、機構の仕事かと思いました。
ドクタードクター
へき地で在宅医療が重い課題なのは確かだよ。でも在宅医療の体制確保は都道府県が医療計画のなかで取り組む事項で、実際の提供はへき地診療所や訪問看護ステーションなど現場の医療機関が担う。機構は現場を後方から支援・調整する組織であって、在宅医療の確保そのものを事業として掲げているわけではないんだ。
医学生医学生
母子保健は、乳幼児健診や母子健康手帳の交付だから市町村ですよね。
ドクタードクター
その通り。母子保健法に基づくサービスは住民に身近な市町村が実施主体だ。同じように、地域包括ケアシステムも介護保険の保険者である市町村が中心となって構築する。へき地でも重要な考え方だけれど、推進主体は市町村で、機構の事業ではない。
医学生医学生
地域医療構想は都道府県が作るものでしたっけ。病床機能を高度急性期から慢性期まで分けて必要量を出す、というのを講義で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。地域医療構想は将来の医療需要を推計して、構想区域ごとに病床の必要量を定めるもので、都道府県が医療計画の一部として策定する。機構が策定するものではないよ。
医学生医学生
つまり、市町村がやること、都道府県が計画として作るものを外していくと、へき地に特有の広域的な「調整」が残るんですね。
ドクタードクター
その整理で正解にたどり着ける。発展として、へき地医療を支える仕組みを並べておこう。地域住民の一次医療を担うへき地診療所、そこへ医師派遣や巡回診療、遠隔医療支援を行うへき地医療拠点病院、それらを企画・調整するへき地医療支援機構、そして医師を養成する自治医科大学だ。さらに医師の地域偏在対策として都道府県に置かれる地域医療支援センターとの連携も進められている。
医学生医学生
へき地医療は医療計画の5事業のひとつにも入っていましたね。
ドクタードクター
そう、救急医療や災害医療などと並ぶ事業として、都道府県の医療計画に位置づけられている。将来どこで働くにしても、一人の医師を地域全体でどう支えるか、という視点は持っておいてほしいね。

まとめ

へき地医療支援機構は都道府県単位で設置され、へき地の医療を広域的に企画・調整する司令塔となる組織です。医師1人で運営されることの多いへき地診療所では、医師の不在がそのまま医療の空白につながるため、へき地医療拠点病院などからの代診医の派遣調整が機構の代表的な事業であり、巡回診療や医師派遣の調整、研修・キャリア形成支援も担います。一方、母子保健や地域包括ケアの推進は市町村、地域医療構想の策定は都道府県が主体であり、在宅医療の提供も現場の医療機関が担うもので、機構固有の事業ではありません。へき地診療所・へき地医療拠点病院・へき地医療支援機構・自治医科大学といった仕組みの役割分担と、各施策の実施主体を整理しておくことは、医療計画の5事業を含む医療提供体制全体の理解につながります。

解答・解説

正解はcです

問われていること

へき地医療支援機構という組織が「何のために置かれ、具体的に何をしているのか」を知っているかが問われている。

へき地医療支援機構とは

へき地医療支援機構は、医療資源の乏しい山間地・離島などの「へき地」の医療を、都道府県単位で広域的に支えるための司令塔となる組織である。2001年度からの第9次へき地保健医療計画で創設が打ち出され、都道府県ごとに設置されている(多くは都道府県庁内やへき地医療拠点病院内に置かれる)。へき地での診療経験をもつ医師が専任担当官として配置され、へき地の医療機関を支援する事業を企画・調整する。 へき地の診療所は医師1人で運営されていることが多く、その医師が学会出張・研修・休暇・病気などで不在になると、地域から医療そのものが消えてしまう。このような「医師が一人しかいないことによる脆弱さ」を補うため、へき地医療拠点病院などから医師を派遣して診療を継続させる仕組みが必要になる。その調整役を担うのがへき地医療支援機構である。

考え方

選択肢のうち、へき地という特定の地域を対象とし、しかも広域的な「調整」を要する事業はどれかを考える。母子保健や地域医療構想、地域包括ケアは、それぞれ市町村・都道府県などが担う一般的な保健医療施策であり、へき地医療支援機構固有の事業ではない。代診医の派遣調整こそ、機構の中心的事業である。

選択肢考察

  1. ×a.  在宅医療の確保

    在宅医療は、通院が困難な高齢者などの自宅を医師・看護師が訪問して診療する医療であり、その体制確保は医療計画のなかで都道府県が取り組む事項の一つである。実際の提供は、へき地であれば主としてへき地診療所や地域の医療機関・訪問看護ステーションが担う。へき地医療支援機構は、こうした現場の医療機関を後方から支援・調整する組織であり、在宅医療の確保そのものを機構の事業として位置づけているわけではない。なお、へき地は人口が散在し移動距離も長いため、在宅医療の提供には大きな負担が伴うという事情もある。

  2. ×b.  母子保健の実施

    母子保健法に基づく乳幼児健康診査(1歳6か月児健診・3歳児健診など)、母子健康手帳の交付、妊産婦・新生児の訪問指導といった母子保健サービスは、住民に身近な市町村が実施主体である。へき地医療支援機構はへき地の医療提供体制を支援する組織であり、母子保健事業を実施する立場にはない。

  3. ○c.  代診医の派遣調整

    へき地診療所の医師が研修・休暇・急病などで不在になる際に、へき地医療拠点病院などから代わりの医師(代診医)を派遣できるよう調整することは、へき地医療支援機構の代表的な事業である。これにより診療所が休診とならず、住民は継続して医療を受けられる。また、常勤医師が一時的に現場を離れて研修を受けたり休養したりできるため、へき地勤務医の負担軽減と定着にもつながる。機構はこのほか、巡回診療や医師派遣の調整、へき地医療従事者の研修・キャリア形成支援なども担っている。

  4. ×d.  地域医療構想の策定

    地域医療構想は、2014年の医療介護総合確保推進法による医療法改正で導入されたもので、2025年などの将来の医療需要を推計し、構想区域(原則として二次医療圏)ごとに高度急性期・急性期・回復期・慢性期の病床の必要量を定めるものである。都道府県が医療計画の一部として策定する。へき地医療支援機構が策定するものではない。

  5. ×e.  地域包括ケアの推進

    地域包括ケアシステムは、高齢者が住み慣れた地域で最期まで暮らし続けられるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供する体制であり、介護保険の保険者である市町村が中心となって構築する。へき地でも当然重要な考え方であるが、推進の主体は市町村(地域包括支援センターなど)であり、へき地医療支援機構の事業ではない。

へき地医療支援機構の主な事業

・巡回診療、へき地医療拠点病院からへき地診療所への医師派遣、代診医派遣の調整 ・へき地医療に従事する医師・医療従事者の研修計画の作成、キャリア形成の支援 ・へき地医療拠点病院の活動の評価・調整 ・へき地で勤務する医師の確保(ドクタープールなど) ・総合的な診療支援事業の企画・調整

へき地医療を支える主な仕組み

・へき地診療所:無医地区などに設置され、地域住民の一次医療を担う。 ・へき地医療拠点病院:へき地診療所への医師派遣・代診医派遣、巡回診療、遠隔医療支援などを行う病院。都道府県が指定する。 ・へき地医療支援機構:都道府県単位で上記の事業を企画・調整する。 ・自治医科大学:へき地医療に従事する医師を養成するため、都道府県が共同で設立した大学である。 ・地域医療支援センター:医師の地域偏在の解消を目的に都道府県に設置され、医師のキャリア形成支援と地域への配置調整を行う。へき地医療支援機構との連携・統合が進められている。

へき地保健医療計画と医療計画

へき地医療対策は1956年度から国の「へき地保健医療計画」として5か年ごとに進められてきたが、2018年度からの第7次医療計画以降は、都道府県の医療計画(5疾病・5事業等)のうち「へき地の医療」として一体的に策定されている。

実施主体の整理

・母子保健サービス、地域包括ケアシステムの構築:市町村 ・医療計画、地域医療構想の策定:都道府県

POINT

・へき地医療支援機構は都道府県単位で設置され、へき地医療を広域的に企画・調整する組織である。 ・代表的な事業は、代診医の派遣調整・巡回診療や医師派遣の調整・へき地医療従事者の研修やキャリア支援である。 ・母子保健と地域包括ケアは市町村、地域医療構想(医療計画の一部)は都道府県が担う。 ・へき地医療は「5事業」の一つとして医療計画に位置づけられている。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。