まばたきが止まらない男の子―チック症の「誰に・いつ・どう出て・どう消えるか」
第118回医師国家試験 D問題 第4問
国試問題にチャレンジ
小児のチック症で正しいのはどれか。
- a.男性に多い。
- b.思春期に好発する。
- c.緩徐な運動症状が多い。
- d.症状は睡眠時に多くみられる。
- e.生涯にわたり症状が続くことが多い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
チックは突然起こる素早い反復性・非律動性の運動または発声で、小児では男児に多く(男女比約3〜4対1)、幼児期から学童期に発症するのが典型です。緊張やストレス、疲労で増え、集中時やリラックス時に減り、睡眠中は著しく少なくなります。多くは一過性で自然に消え、慢性例やトゥレット症でも10歳代前半をピークに思春期以降に軽快することが多いため、思春期好発、緩徐な運動、睡眠時に多い、生涯持続といった記述は誤りです。ADHDや強迫症などの併存症にも目を向け、チックを叱らないよう心理教育と環境調整を行うことが対応の基本となります。疫学と経過を正しく理解しておくことは、不安を抱える家族に適切な見通しを示すうえで欠かせません。
解答・解説
正解はaです
チックとは、突然起こり、素早く、繰り返し、リズムをもたない(非律動性の)運動または発声である。本人の意思とは無関係に出るが、短時間なら意識して抑えられることもある。出る直前に、むずむず感などの不快な感覚(前駆衝動)を伴うことが多い。 小児のチック症について押さえるべき疫学と経過は次のとおりである。 【性差】男児に多く、男女比はおよそ3〜4:1である。 【発症年齢】多くは幼児期から学童期(おおむね4〜6歳ころ)に発症する。DSM-5(米国精神医学会の診断基準 第5版)では、18歳未満での発症が診断の条件になっている。 【症状の性質】まばたき、顔しかめ、首振り、肩すくめなどが素早く起こる。緩徐な動きではない。 【状況による変動】緊張、ストレス、疲労、興奮で増え、何かに集中しているときやリラックスしているときは減る。睡眠中は著しく少なくなる。 【経過】多くは一過性で、数か月〜1年以内に消える。慢性化しても10歳代前半ころに最も強くなり、その後は思春期から青年期にかけて軽快・消失する例が多い。 これらを照らし合わせると、正しい記述は「男性に多い」だけである。
選択肢考察
- ○a. 男性に多い。
チック症は男児に多く、男女比はおよそ3〜4:1とされる。トゥレット症(多彩な運動チックと音声チックが1年以上続くもの)でも男性優位は同じである。注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)など、男児に多い神経発達症を合併しやすいことも知られている。
- ×b. 思春期に好発する。
チック症の発症は幼児期から学童期に多く、おおむね4〜6歳ころがピークで、2〜12歳ころまでにほとんどが発症する。就学前後など環境が大きく変わる時期にきっかけを得ることもある。思春期は好発時期ではなく、むしろ症状が軽快に向かいやすい時期である。
- ×c. 緩徐な運動症状が多い。
チックの特徴は、突発的・急速・反復性・非律動性という点である。まばたき、顔しかめ、首を急に振る、肩をすくめるといった素早い動き(単純運動チック)が典型である。咳払いや鼻を鳴らす、短い声を出す(単純音声チック)こともある。ゆっくりと身体がねじれるような緩徐な不随意運動は、ジストニアやアテトーゼの特徴であり、チックとは区別する。
- ×d. 症状は睡眠時に多くみられる。
チックは覚醒時に現れ、緊張・不安・疲労・興奮で増える。一方、集中して何かに取り組んでいるときやくつろいでいるときには目立たなくなる。睡眠中は著しく減り、通常はほとんど観察されない。睡眠中に多いという記述は誤りである。睡眠中に目立つ不随意運動としては、周期性四肢運動障害やてんかん発作などを鑑別に挙げる。
- ×e. 生涯にわたり症状が続くことが多い。
小児のチックの多くは一過性で、数か月〜1年以内に自然に消える(暫定的チック症)。1年以上続く慢性チック症やトゥレット症でも、症状は10歳代前半ころに最も強くなり、その後は思春期から成人期にかけて軽快・消失する例が多い。成人期まで目立つ症状が残るのは一部にとどまる。
チックの分類
・運動チック 単純運動チック:まばたき、顔しかめ、首振り、肩すくめなど 複雑運動チック:跳ぶ、物や人に触る、他人の動作をまねる(反響動作)など ・音声チック 単純音声チック:咳払い、鼻を鳴らす、短い発声など 複雑音声チック:単語や文を言う、汚言(卑猥な言葉や社会的に不適切な言葉を口にする)、反響言語など 【DSM-5のチック症群】いずれも18歳未満での発症が条件である。 ・暫定的チック症:運動チックか音声チック(または両方)があり、続いた期間が1年未満のもの ・持続性(慢性)運動または音声チック症:運動チックか音声チックのどちらか一方だけが1年以上続くもの ・トゥレット症:多彩な運動チックと1つ以上の音声チックが(同時でなくてもよい)1年以上続くもの
病態
大脳基底核を含む皮質-線条体-視床-皮質回路の機能異常と、ドパミン系の関与が考えられている。遺伝的要因も関わる。
併存症
ADHD、強迫症、ASD、不安症、学習障害などを合併しやすく、生活の困難さの原因が、チックそのものより併存症にあることも少なくない。
対応・治療
1. 心理教育と環境調整:本人・家族・学校に、チックは本人の意思やしつけの問題ではないことを説明する。チックを注意したり叱ったりすると、緊張が高まって悪化させるので、避けるよう伝える。 2. 行動療法:チックの前駆衝動に気づき、チックと両立しない動作で対処する「ハビット・リバーサル」を中核とした包括的行動介入(CBIT)が有効とされる。 3. 薬物療法:症状が強く、日常生活や学業に大きく支障がある場合に考慮する。ドパミンの働きを抑える抗精神病薬(アリピプラゾール、ハロペリドール、リスペリドンなど)や、α2アドレナリン受容体作動薬(クロニジン、グアンファシン)が使われる。
POINT
・チックは突発的・急速・反復性・非律動性の運動または発声である。 ・男児に多い(男女比は約3〜4:1)。 ・幼児期〜学童期に発症し、18歳未満の発症が診断の条件となる。 ・緊張やストレスで増え、集中時やリラックス時に減り、睡眠中は著しく減る。 ・多くは一過性で自然に消え、慢性例も思春期以降に軽快することが多い。 ・トゥレット症は多彩な運動チックと音声チックが1年以上続くもので、ADHDや強迫症の合併が多い。 ・対応の基本は心理教育と環境調整(チックを叱らない)である。
