「どうすれば痩せられると思う?」―迷う患者の背中を押す、関心期の声がけ
第118回医師国家試験 B問題 第30問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。職場の健康診断で異常を指摘され来院した。持参した健康診断の結果は,BMI 31,HbA1c 7.0%(基準4.9~6.0)であった。身長168cm,体重90kg。問診の際,最近,父親が糖尿病による末期腎不全で血液透析を受けるようになったこともあり減量したいが,仕事が忙しいので運動する時間がなく,外食が多くなってしまうとの話があった。 この患者の行動変容ステージで有効な声がけはどれか。
- a.「このままだと将来,血液透析が必要になります」
- b.「本気で減量したくなったら受診してください」
- c.「どうすれば体重を減らせると思いますか」
- d.「半年で5kgの減量を頑張りましょう」
- e.「毎日30分間歩きましょう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
行動変容ステージモデルでは、行動変容を無関心期・関心期・準備期・実行期・維持期の5段階でとらえ、「変わりたいが、できない理由を挙げてまだ行動していない」状態は関心期に当たります。関心期は変わりたい気持ちと変わりたくない気持ちが同居する両価性が特徴で、「どうすれば体重を減らせると思いますか」のような開かれた質問で本人に方法を考えさせ、動機づけを高める働きかけが有効です。リスクを伝える情報提供は無関心期、具体的な数値目標や運動計画の提示は準備期以降に向く働きかけであり、患者を突き放す言葉はどのステージでも不適切です。説得ではなく患者自身からチェンジトークを引き出す動機づけ面接の考え方は、肥満や糖尿病をはじめとする生活習慣病の診療や保健指導に幅広く役立ちます。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・身長168cm、体重90kgからBMIを計算すると、90÷(1.68×1.68)≒31.9となる。日本肥満学会の基準ではBMI 25以上が肥満、30以上35未満は肥満2度にあたる。 ・HbA1c 7.0%は6.5%以上であり「糖尿病型」に該当する。糖尿病の確定には、別の日の再検査で再び糖尿病型を確認するか、同時に測った血糖値も糖尿病型(空腹時126mg/dL以上、随時200mg/dL以上など)であることが必要なので、現時点では糖尿病が強く疑われる段階である。 ・父親が糖尿病性腎症による末期腎不全で血液透析を始めたことを契機に「減量したい」と考えている。一方で「忙しくて運動する時間がない」「外食が多い」と、行動に移せない理由も語っている。
行動変容ステージの判定
Prochaskaらの行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル)では、人の行動変容を無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期の5段階でとらえる。本例は、変わりたい気持ちはあるが、具体的な行動はまだ始めておらず、変えられない理由(障壁)を挙げてためらっている。これは「6か月以内に行動を変えようと考えているが、まだ行動していない」関心期に当たる。関心期の特徴は、変わりたい気持ちと変わりたくない気持ちが同時にある状態(両価性、アンビバレンス)である。
設問の考え方
関心期の人に一方的に目標や方法を押しつけても、「できない理由」を語って抵抗されやすい。有効なのは、本人の考えを引き出す開かれた質問(open-ended question)を使い、患者自身に行動変容の方法やメリットを考えさせて動機づけを強める働きかけである。これは動機づけ面接(motivational interviewing)の基本的な技法でもある。各選択肢がどのステージ向けの働きかけかを考えて判断する。
選択肢考察
- ×a. 「このままだと将来,血液透析が必要になります」
健康上のリスクを伝える情報提供であり、問題の重大さをまだ自覚していない無関心期の人に向く働きかけである。本例は父親の透析を目の当たりにして既にリスクを自覚し、減量したいと考えているので、改めて脅すような情報を与えても行動は変わりにくい。不安を強めるだけで、受診や指導から遠ざかる原因にもなりうる。
- ×b. 「本気で減量したくなったら受診してください」
減量の意思をもって自ら受診した患者を突き放す言葉であり、どのステージに対しても不適切である。患者の気持ちを否定し、治療関係を損ない、受診中断につながるおそれがある。
- ○c. 「どうすれば体重を減らせると思いますか」
本人が答えを自由に考えられる開かれた質問であり、患者自身に減量の方法を考えさせることで、自発的な動機づけを高める。関心期の患者は変わりたい気持ちと障壁の間で迷っているため、医療者が答えを与えるより、本人が「外食でもこう選べる」「通勤で歩ける」などの解決策を自分の言葉で語るよう促すほうが、準備期への移行につながりやすい。
- ×d. 「半年で5kgの減量を頑張りましょう」
具体的な数値目標の設定であり、近いうち(1か月以内)に行動を始める意思が固まっている準備期や、すでに行動を始めた実行期に向く働きかけである。目標自体は妥当で、肥満症では3〜6か月で現体重の3%以上の減量がまず目安とされるが、まだ迷っている関心期の段階で目標を一方的に示しても実行に結びつきにくい。
- ×e. 「毎日30分間歩きましょう」
具体的な行動計画の提示であり、準備期以降に向く働きかけである。本例は「運動する時間がない」と障壁を述べており、その気持ちを受け止めずに運動の方法だけを指示しても、「できない」という反応を招きやすい。
行動変容ステージと有効な働きかけ
・無関心期: 6か月以内に行動を変える意思がない。→ 情報提供、健康上のリスクやメリットへの気づきを促す(意識の高揚、感情的体験)。 ・関心期: 6か月以内に行動を変える意思はあるが、まだ行動していない。→ 動機づけ、行動変容による利益と障壁を本人に整理させる、変わった自分をイメージさせる(自己の再評価)。 ・準備期: 1か月以内に行動を変える意思がある、あるいは少し始めている。→ 具体的な目標設定と行動計画づくり、実行を周囲に宣言させる(自己の解放)。 ・実行期: 行動を変えて6か月未満。→ 達成をほめる、自分へのごほうびを用意する(強化)、誘惑の少ない環境に整える(刺激統制)、望ましくない行動の代わりの行動を見つける(拮抗条件づけ)。 ・維持期: 行動を6か月以上続けている。→ 家族や周囲の支援、逆戻り(再発)の予防、継続を妨げる障害への対処。
動機づけ面接の基本
開かれた質問、是認(努力や長所を認める)、聞き返し(患者の発言を返して確認する)、要約を用いて、患者自身から変化に向けた発言(チェンジトーク)を引き出す。医療者が正論で説得すると患者はかえって反論しやすくなるため、説得ではなく引き出すことを重視する。
糖尿病の診断基準(要点)
糖尿病型: 空腹時血糖126mg/dL以上、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dL以上、随時血糖200mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上のいずれか。別の日に行った検査で2回糖尿病型が確認されれば糖尿病と診断する(ただしHbA1cのみの反復では診断できない)。血糖値とHbA1cが同時に糖尿病型であれば1回で診断できる。
POINT
・「変わりたいが行動していない、できない理由を挙げる」→ 関心期。 ・関心期には開かれた質問で本人に方法を考えさせ、動機づけを強める。 ・無関心期は情報提供、準備期は目標設定と行動計画、実行期は強化と環境調整、維持期は継続支援と逆戻り予防。 ・ステージに合わない指導(関心期への一方的な目標の押しつけなど)は効果が乏しい。 ・BMI=体重(kg)÷身長(m)²。日本ではBMI 25以上が肥満、30以上が肥満2度。
