遅れて沈む心拍、すぐそこにある児頭―急速遂娩の手段をどう選ぶか
第118回医師国家試験 A問題 第67問
国試問題にチャレンジ
34歳の初産婦(1妊0産)。妊娠39週4日の午前6時に陣痛発来のため入院した。これまでの妊娠経過は順調であった。身長148cm,体重56kg(非妊時48kg)。内診所見は子宮口開大度4cm,展退度70%,先進部は児頭であった。来院時の胎児心拍数陣痛図にて胎児心拍数波形に異常は認めず,5分毎の子宮収縮を認めた。午後4時に子宮口は全開大した。午後6時50分に破水し,内診で児頭下降度はSP+4cm,0時方向に小泉門を触知した。この時点での胎児心拍数陣痛図を示す。 対応で適切なのはどれか。

- a.吸引分娩
- b.帝王切開
- c.抗菌薬投与
- d.子宮収縮薬投与
- e.子宮収縮抑制薬投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
医学生
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ドクターまとめ
子宮収縮に遅れて始まり、遅れて回復する遅発一過性徐脈は子宮胎盤循環不全による胎児低酸素を示し、基線細変動の減少を伴って反復する場合は胎児機能不全として急速遂娩を考えます。急速遂娩の方法は分娩の進行で決まり、子宮口全開大・破水済み・児頭が十分に下降(SP+2cm以上が目安)・児頭骨盤不均衡なしであれば吸引分娩や鉗子分娩、これらを満たさなければ帝王切開を選びます。陣痛が十分な状況での子宮収縮薬は低酸素を悪化させうるため避け、子宮収縮抑制薬は過強陣痛が原因の場合の一時的な処置にとどまります。吸引分娩には牽引時間・回数の目安があり、不成功時に速やかに切り替えられる準備が欠かせません。CTGの判読と内診所見を組み合わせて娩出方法を選ぶ思考は、分娩管理の中核となる力です。
解答・解説
正解はaです
経過の整理
・34歳初産婦、妊娠39週4日(正期産)に陣痛発来。妊娠経過に異常はない。 ・身長148cmと低身長(150cm未満)であり、児頭骨盤不均衡(CPD)のリスク因子にはなる。非妊時BMIは約21.9(48÷1.48²)で正常、妊娠中の体重増加は8kgで過剰ではない。 ・入院時(午前6時)は子宮口4cm開大、胎児心拍数陣痛図(CTG:cardiotocogram)に異常はなく、5分ごとの子宮収縮であった。 ・午後4時に子宮口全開大(ここから分娩第2期)。午後6時50分に破水し、児頭下降度はSP+4cm、小泉門を0時方向(母体の恥骨側)に触知した。
内診所見の意味
SP(station of the presenting part)は坐骨棘を結ぶ線を0とし、児頭先進部がそこから何cm下方(+)または上方(−)にあるかを示す。数値が+側に大きいほど下降が進んでいる。SP+4cmは児頭が骨盤出口近くまで十分下降していることを意味する。小泉門が0時方向にあるのは、後頭が前方を向く正常な第2回旋が完了した前方後頭位であることを示す。したがって回旋異常はなく、児頭は経腟的に娩出できる位置にある。 一方、全開大から約2時間50分が経過しており、初産婦の分娩第2期の目安(2時間)を超えて遷延している。
CTGの読み方
・胎児心拍数基線は約150bpmで正常範囲(110〜160bpm)。 ・基線細変動は振幅が小さく、減少傾向である。 ・子宮収縮は約2〜3分ごとに認め、陣痛は十分に有効である。 ・各子宮収縮に対して、収縮のピークより遅れて心拍数が緩やかに低下し、収縮が終わってから遅れて回復する一過性徐脈が反復している。これは遅発一過性徐脈であり、子宮胎盤循環が低下して胎児が低酸素状態に陥っていることを示唆する。 反復する遅発一過性徐脈に基線細変動の減少を伴うのは、日本産科婦人科学会の胎児心拍数波形レベル分類で異常波形にあたり、胎児機能不全として対応が必要である。
設問の考え方
胎児機能不全があり、すでに分娩第2期で、児頭は低い位置まで下降し回旋も正常である。この状況では、帝王切開の準備に要する時間よりも、経腟的な器械分娩の方が早く安全に児を娩出できる。急速遂娩として吸引分娩(または鉗子分娩)を選択するのが適切である。
選択肢考察
- ○a. 吸引分娩
遅発一過性徐脈の反復と基線細変動の減少から胎児機能不全と判断され、速やかに児を娩出する急速遂娩が必要である。吸引分娩の要件は、子宮口全開大、破水していること、児頭が十分に下降していること(坐骨棘より2cm以上下方、すなわちSP+2cm以上が目安)、明らかな児頭骨盤不均衡がないこと、正期産に近い週数であることなどである。本例は子宮口全開大・破水済み・SP+4cm・前方後頭位で、これらをすべて満たす。加えて分娩第2期も遷延しているため、吸引分娩が最も適切である。
- ×b. 帝王切開
急速遂娩の方法として帝王切開が選ばれるのは、子宮口が全開大していない場合や、児頭の下降が不十分で器械分娩ができない場合である。本例は児頭がSP+4cmと骨盤出口付近まで下降しており、帝王切開を準備・実施するよりも経腟の器械分娩の方が早く娩出できる。帝王切開は吸引分娩・鉗子分娩が不成功に終わった場合に行う選択肢であり、第一選択ではない。
- ×c. 抗菌薬投与
破水は子宮口全開大後に起こった適時破水であり、発熱や子宮の圧痛、羊水の混濁・悪臭など、絨毛膜羊膜炎を疑わせる所見も記載されていない。抗菌薬投与は胎児の低酸素状態を改善するものではなく、胎児機能不全への対応として不適切である。
- ×d. 子宮収縮薬投与
CTG上、子宮収縮は約2〜3分ごとに認められ、陣痛は十分である。陣痛微弱ではないため子宮収縮薬(オキシトシンなど)を使う必要はない。むしろ子宮収縮を強めると、収縮中の子宮胎盤血流がさらに減少し、遅発一過性徐脈が示す胎児低酸素状態を悪化させるおそれがある。
- ×e. 子宮収縮抑制薬投与
子宮収縮抑制薬(リトドリンなど)は、過強陣痛や頻回の子宮収縮が胎児機能不全の原因となっている場合に、子宮内胎児蘇生の一環として一時的に使用されることがある。しかし本例の子宮収縮の頻度は過剰ではなく、すでに児頭が娩出直前の位置まで下降している。保存的に経過をみるより、急速遂娩で速やかに児を娩出すべき段階であり、適切な対応ではない。
一過性徐脈の種類
・早発一過性徐脈:子宮収縮とほぼ同時に緩やかに始まり、最下点が収縮のピークと一致する。児頭圧迫による迷走神経反射で生じ、通常は病的意義が小さい。 ・遅発一過性徐脈:子宮収縮に遅れて緩やかに始まり、最下点が収縮のピークより遅れ、回復も収縮の終了後に遅れる。子宮胎盤循環不全による胎児低酸素を反映し、浅くても反復すれば重要である。 ・変動一過性徐脈:子宮収縮と時間関係が一定せず、急速に下降・回復する。臍帯圧迫で生じる。 ・遷延一過性徐脈:15bpm以上の心拍数低下が2分以上10分未満持続するもの。
胎児心拍数波形のレベル分類(日本産科婦人科学会)
基線、基線細変動、一過性徐脈の種類と程度を組み合わせて、レベル1(正常波形)からレベル5(異常波形・高度)までの5段階に分類する。レベルが上がるほど、監視の強化、保存的処置(体位変換、酸素投与、輸液、子宮収縮薬の減量・中止など)、急速遂娩の準備・実施が求められる。基線細変動の減少・消失を伴う遅発一過性徐脈は、細変動が正常な場合よりも高いレベルに分類され、より積極的な対応が必要になる。
分娩第2期遷延の目安
子宮口全開大から児娩出までを分娩第2期といい、初産婦で2時間、経産婦で1時間を超える場合を遷延の目安とする(無痛分娩ではそれぞれ長めに考える)。
急速遂娩の方法の選択
・子宮口全開大、破水、児頭が十分下降(坐骨棘より2cm以上下方、すなわちSP+2cm以上が目安)、CPDがない → 吸引分娩または鉗子分娩。 ・上記を満たさない(子宮口未全開大、児頭高位など) → 帝王切開。 ・吸引分娩は牽引回数や総牽引時間に上限を設け(日本のガイドラインでは総牽引時間20分以内、牽引回数5回以内が目安)、不成功なら速やかに鉗子分娩または帝王切開に切り替える。
内診所見の用語
・SP(児頭下降度):坐骨棘間線を0とし、それより下方を+、上方を−で表す。 ・小泉門の位置:後頭の位置を示す。0時(恥骨側)なら前方後頭位で正常回旋、6時(仙骨側)なら後方後頭位(回旋異常)である。
POINT
・遅発一過性徐脈は子宮胎盤循環不全による胎児低酸素を示し、基線細変動の減少を伴えば胎児機能不全として対応する。 ・胎児機能不全で急速遂娩が必要なとき、子宮口全開大・破水済み・児頭が十分下降していれば吸引分娩(鉗子分娩)、そうでなければ帝王切開を選ぶ。 ・SP+4cm、小泉門0時方向 → 児頭は骨盤出口付近まで下降し、回旋も正常。 ・初産婦の分娩第2期は2時間を超えると遷延の目安。 ・陣痛が十分ある状況での子宮収縮薬投与は胎児低酸素を悪化させる。
