幼いころから胸がへこんでいる―漏斗胸の本態は「胸骨」ではなく「肋軟骨」にある
第118回医師国家試験 A問題 第68問
国試問題にチャレンジ
15歳の男子。幼少時から胸の形が他人と異なることを主訴に父親に連れられて来院した。胸部の痛みは訴えていない。脈拍64/分,整。血圧132/72mmHg。呼吸数14/分。SpO2 99%(room air)。胸部の写真を示す。 この患者で認める所見はどれか。2つ選べ。

- a.肋軟骨の変形
- b.ビア樽状胸郭
- c.胸骨骨折
- d.胸骨陥凹
- e.動揺胸郭
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
幼少時から続く無症状の前胸壁中央の陥凹は漏斗胸の典型像であり、肋軟骨の過成長・変形によって胸骨が背側へ押し込まれることで生じます。そのため本態である肋軟骨の変形と、結果としての胸骨陥凹が認められる所見となります。ビア樽状胸郭はCOPDなどの肺過膨張による前後径の増大、胸骨骨折は前胸部への強い外力、動揺胸郭は多発肋骨骨折による奇異呼吸であり、病歴と形態からいずれも否定できます。漏斗胸の多くは整容面が主な問題ですが、高度例では心肺の圧排症状を伴い、Haller indexで評価してNuss法などの手術を検討します。Marfan症候群などとの合併も意識し、胸郭の視診から全身の疾患へと視野を広げる姿勢が臨床では大切です。
解答・解説
正解はa, dです
所見の整理
・15歳男子。幼少時から胸の形が他人と違うことを自覚しており、先天性(あるいは幼少期から存在する)の胸郭変形が考えられる。 ・胸痛はなく、外傷の既往も記載されていない。 ・脈拍64/分・整、呼吸数14/分、SpO2 99%(room air)と、循環・呼吸状態は正常範囲である。 ・胸部の写真では、前胸部の中央(胸骨の下部を中心とした部分)が漏斗状に落ち込んでおり、その周囲の肋骨弓(肋軟骨部)が相対的に前方へ張り出している。
診断
幼少時から続く前胸壁中央の陥凹で、症状や外傷歴を伴わないことから、漏斗胸と診断できる。
設問への考え方
漏斗胸は、胸骨と肋骨をつなぐ肋軟骨が過剰に成長・変形し、胸骨(特に下部)が背側に押し込まれることで生じる胸郭変形である。したがって本症の本態にあたる「肋軟骨の変形」と、その結果として外見上みられる「胸骨陥凹」が本例で認める所見となる。他の選択肢は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や胸部外傷でみられる胸郭の所見であり、本例の病歴・写真とは合致しない。
選択肢考察
- ○a. 肋軟骨の変形
漏斗胸の主病変は肋軟骨にあり、肋軟骨の過成長・変形によって胸骨が背側へ引き込まれると考えられている。写真でも陥凹部の周囲で肋骨弓が前方へ突出しており、左右非対称に変形していることが読み取れる。肋軟骨の変形は本例で認める所見である。
- ×b. ビア樽状胸郭
ビア樽状胸郭(樽状胸)は、胸郭の前後径が増大して左右径に近づき、胸郭全体が樽のように丸く膨らんだ状態である。COPDなどで肺が過膨張した場合に特徴的にみられる。本例は前胸壁が陥凹しており、前後径はむしろ短縮する方向の変形であるため該当しない。
- ×c. 胸骨骨折
胸骨骨折は、交通事故でハンドルに胸部を打ちつけるなど前胸部への強い外力で生じる外傷である。本例には外傷歴がなく、胸痛もなく、変形も幼少時から続いているため、骨折は考えにくい。
- ○d. 胸骨陥凹
前胸壁の中央、特に胸骨下部が背側へ落ち込む胸骨陥凹は漏斗胸を定義づける所見であり、写真でもはっきり確認できる。陥凹が高度になると心臓が左方へ偏位・圧排され、肺の容量も制限されることがある。
- ×e. 動揺胸郭
動揺胸郭(フレイルチェスト)は、隣り合う複数の肋骨がそれぞれ2か所以上で骨折するなどして胸壁の一部が周囲から遊離し、吸気時に陥凹・呼気時に膨隆する奇異呼吸を呈する状態である。重症胸部外傷で生じるもので、外傷歴のない本例とは無関係である。
漏斗胸の概要
・前胸壁が胸骨を中心に漏斗状に陥凹する胸郭変形で、最も頻度の高い先天性胸壁変形である。男性に多く、女性の数倍の頻度とされる。 ・原因は明らかでないが、肋軟骨の過剰な成長が関与すると考えられている。家族内発生がみられることがあり、Marfan症候群やNoonan症候群などの結合組織疾患・先天異常症候群に合併することがある。 ・乳幼児期に軽快するものもあるが、思春期の急速な身長増加に伴って悪化することもある。
症状
・多くは無症状で、外見(整容面)の悩みや心理的負担が主な問題となる。 ・高度な場合は心臓・肺が圧排され、運動時の息切れ、易疲労感、動悸、気道感染の反復などを訴えることがある。
評価と治療
・胸部CTで陥凹の程度を評価し、胸郭の横径と、胸骨後面から椎体前面までの最短距離との比(Haller index)が指標として用いられる。 ・手術は、整容面の改善を目的とする場合も適応となる。代表的な術式に、胸腔鏡補助下に湾曲させた金属バーを胸骨の裏に挿入して胸骨を持ち上げるNuss法があり、一定期間留置後に抜去する。従来は肋軟骨を切除して胸骨を挙上する胸骨挙上術(Ravitch法など)も行われた。
鑑別すべき胸郭の変形・異常
・鳩胸:胸骨が前方へ突出する変形。男性に多く、Marfan症候群、Noonan症候群、Morquio症候群、骨形成不全症などに合併することがある。変形以外は無症状のことが多い。 ・ビア樽状胸郭:COPDなどの肺過膨張による前後径の増大。 ・動揺胸郭:多発肋骨骨折による胸壁の遊離と奇異呼吸。 ・胸骨骨折:前胸部への強い外力による外傷。
POINT
・漏斗胸=肋軟骨の過成長・変形による胸骨の陥凹。 ・男性に多く、Marfan症候群などに合併することがある。 ・多くは無症状だが、整容目的でも手術適応となる(Nuss法など)。 ・ビア樽状胸郭はCOPD、動揺胸郭は多発肋骨骨折(奇異呼吸)、胸骨骨折は前胸部外傷でみられる。
