V字の徐脈は臍帯からのサイン―順調な分娩で慌てないCTG判読
第120回医師国家試験 F問題 第58問
国試問題にチャレンジ
27歳の経産婦(2妊1産)。妊娠39週,破水感を主訴に来院した。来院時内診所見は子宮口2cm開大,展退度50%,児頭下降度はSP-1cm。第1頭位であった。入院3時間後,子宮口7cm開大,展退度80%,児頭下降度はSP+2cm。小泉門が先進し,12時方向に触れる。胎児心拍数陣痛図を下に示す。 次に行う対応はどれか。2つ選べ。

- a.陣痛促進
- b.体位変換
- c.緊急帝王切開
- d.経腹超音波検査
- e.子宮収縮抑制薬の投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
子宮収縮に伴って急速に低下し急速に回復するV字型の徐脈は変動一過性徐脈で、主な原因は臍帯圧迫です。破水後は羊水によるクッションが減るため起こりやすくなります。最下点70bpm未満で30秒以上、または70〜80bpmで60秒以上続けば高度とし、それに満たず基線と基線細変動が正常なら波形レベル2として、体位変換などの保存的処置と経腹超音波検査による原因検索を行います。分娩が順調で陣痛にも異常がなければ、陣痛促進や子宮収縮抑制、緊急帝王切開は不要で、レベルが悪化したときに急速遂娩を検討します。基線・細変動・一過性徐脈の順に判読し、波形レベルに応じて段階的に対応する姿勢は、分娩管理の現場で母児の安全を守る基本です。
解答・解説
正解はb, dです
所見の整理
・27歳の経産婦(2妊1産)、妊娠39週。破水感を主訴に来院しており、陣痛発来前の破水(前期破水)と考えられる。 ・来院時:子宮口2cm開大、展退度50%、児頭下降度SP-1cm(児頭の最先進部が坐骨棘を結ぶ線より1cm上)、第1頭位(児背が母体の左側)。 ・入院3時間後:子宮口7cm開大、展退度80%、児頭下降度SP+2cm。3時間で子宮口が5cm開大し、児頭も3cm下降しており、経産婦として順調な分娩第1期活動期の進行である。 ・小泉門が先進し12時方向(母体の前方)に触れる。児頭は十分に屈曲し、後頭部が前方を向く正常の前方後頭位で回旋しており、回旋異常はない。
胎児心拍数陣痛図(CTG)の判読
・陣痛:子宮収縮はおよそ2~2.5分間隔で、規則的な有効陣痛である。収縮の間隔・持続から過強陣痛にはあたらず、微弱陣痛でもない。 ・心拍数基線:およそ130bpmで正常範囲(110~160bpm)。 ・基線細変動:中等度(6~25bpm)で保たれている。基線細変動が保たれていることは、胎児の自律神経機能が保たれ、胎児が低酸素・アシドーシスに陥っていないことを示す重要な安心所見である。 ・一過性徐脈:子宮収縮にほぼ一致して、心拍数が急速に(開始から最下点まで30秒未満で)低下し、急速に基線へ回復する徐脈を繰り返している。波形は鋭いV字〜U字型で、最下点は70~80bpm台、持続は30秒前後である。これは変動一過性徐脈の特徴である。 ・程度:変動一過性徐脈が高度とされるのは「最下点が70bpm未満で持続30秒以上」または「最下点70~80bpmで持続60秒以上」の場合である。本例はいずれにも該当せず、軽度変動一過性徐脈と判定する。
波形レベルと対応
日本産科婦人科学会の胎児心拍数波形レベル分類では、基線・基線細変動が正常で軽度変動一過性徐脈を伴う波形はレベル2(亜正常波形)に分類される。レベル2での医師の対応は、経過観察、または監視の強化・保存的処置の施行・原因検索である。 変動一過性徐脈の主な原因は臍帯の圧迫である。破水後は羊水が減少して臍帯がクッションを失い、子宮収縮や児頭下降のたびに臍帯が圧迫されやすくなる。したがって「臍帯圧迫を軽減する保存的処置(体位変換など)」と「原因を調べる検査(超音波による羊水量や臍帯の位置の評価など)」が次に行うべき対応となる。分娩進行は順調で陣痛にも異常がなく、胎児の状態も保たれているため、陣痛の強さを変える処置や急速遂娩は不要である。
選択肢考察
- ×a. 陣痛促進
陣痛促進(オキシトシンなどの子宮収縮薬投与)は、微弱陣痛や分娩進行の停滞がある場合に行う。本例は陣痛が約2~2.5分間隔で規則的に来ており、3時間で子宮口が2cmから7cmまで開大するなど分娩は順調に進んでいるため適応がない。さらに、臍帯圧迫による変動一過性徐脈が出ている状況で子宮収縮を強めると、臍帯圧迫の頻度・程度が増し、胎児の低酸素を悪化させるおそれがある。
- ○b. 体位変換
変動一過性徐脈は主に臍帯圧迫によって起こる。母体の体位を側臥位などに変えると、子宮内での胎児と臍帯の位置関係が変わり、臍帯圧迫が解除・軽減されることが多い。体位変換は侵襲がなく、その場ですぐに行える保存的処置であり、レベル2の波形に対して最初に行う対応として適切である。必要に応じて酸素投与や輸液なども併せて行う。
- ×c. 緊急帝王切開
心拍数基線は正常、基線細変動も中等度に保たれ、一過性徐脈は軽度変動一過性徐脈にとどまるレベル2の波形である。胎児が低酸素・アシドーシスに陥っている根拠はなく、急速遂娩(緊急帝王切開や鉗子・吸引分娩)の適応はない。分娩も順調に進行しており、まずは保存的処置と原因検索を行いつつ監視を続ける。保存的処置でも改善せず、高度変動一過性徐脈の反復や基線細変動の減少などレベル3以上へ悪化すれば、急速遂娩の準備・実施を検討する。
- ○d. 経腹超音波検査
レベル2の波形では保存的処置と並行して原因検索を行う。経腹超音波検査では、破水後の羊水量の減少(羊水過少)の有無、臍帯の位置(児頭や頸部への巻絡、先進部付近の臍帯)、胎位・胎向、胎盤の状態などを短時間かつ非侵襲的に確認でき、臍帯圧迫の背景を評価するのに有用である。したがって次に行う対応として適切である。
- ×e. 子宮収縮抑制薬の投与
子宮収縮抑制薬は、過強陣痛や子宮収縮に関連した高度の胎児心拍異常があり、急速遂娩までの間に胎児の状態を改善させたい場合などに用いられることがある。本例の陣痛は約2~2.5分間隔で過強陣痛の基準を満たさず、胎児の状態も保たれている。順調に進んでいる分娩をわざわざ抑制する必要はなく、むしろ分娩を遷延させてしまうため不適切である。
一過性徐脈の種類(いずれも心拍数基線からの低下)
・早発一過性徐脈:子宮収縮に伴って心拍数が緩やかに低下し(開始から最下点まで30秒以上)、緩やかに回復する。最下点が子宮収縮の頂点とほぼ一致する。児頭圧迫による迷走神経反射が原因で、通常は病的意義が乏しい。 ・遅発一過性徐脈:緩やかに低下・回復するが、最下点が子宮収縮の頂点より遅れる。子宮胎盤循環不全による胎児の低酸素を反映し、注意を要する。基線から最下点までの低下が15bpm未満を軽度、15bpm以上を高度とする。 ・変動一過性徐脈:15bpm以上の心拍数低下が急速に(開始から最下点まで30秒未満)起こり、開始から回復まで15秒以上2分未満持続する。子宮収縮との時間的関係や形は一定しないことがある。主な原因は臍帯圧迫。高度は「最下点70bpm未満かつ持続30秒以上」または「最下点70~80bpmかつ持続60秒以上」。 ・遷延一過性徐脈:15bpm以上の低下が2分以上10分未満持続するもの。最下点80bpm未満を高度とする。
胎児心拍数波形レベル分類(日本産科婦人科学会)
レベル1(正常波形)からレベル5(異常波形・高度)までの5段階で、心拍数基線、基線細変動、一過性徐脈の種類と程度を組み合わせて判定する。 ・レベル1:経過観察 ・レベル2:経過観察、または監視の強化・保存的処置の施行・原因検索 ・レベル3:監視の強化・保存的処置の施行・原因検索、または急速遂娩の準備 ・レベル4:保存的処置の施行・原因検索、急速遂娩の準備、または急速遂娩の実施 ・レベル5:急速遂娩の実施、新生児蘇生の準備 判読では、まず基線と基線細変動を評価し、その後に一過性徐脈の種類と程度を判定する。基線細変動が保たれているかどうかが胎児の状態を推測するうえで特に重要である。
保存的処置の例
体位変換(側臥位など)、酸素投与、輸液(母体の循環血液量・血圧の維持)、子宮収縮薬投与中であれば減量・中止など。
その他の関連事項
・過強陣痛の目安(子宮口7~8cm開大時):陣痛周期1分以内、または陣痛発作持続2分以上。 ・前期破水:陣痛発来前に卵膜が破綻すること。羊水の減少による臍帯圧迫のほか、臍帯脱出や子宮内感染にも注意する。
POINT
・急速に低下し急速に回復するV字型の徐脈は変動一過性徐脈で、原因は臍帯圧迫。 ・高度変動一過性徐脈:最下点70bpm未満で30秒以上、または70~80bpmで60秒以上。 ・基線正常・細変動正常+軽度変動一過性徐脈はレベル2。対応は監視の強化、保存的処置(体位変換など)、原因検索(超音波検査など)。 ・分娩が順調で陣痛に異常がなければ、陣痛促進・子宮収縮抑制・急速遂娩は不要。
