StudyMed医師国家試験

食べて、吐いて、自分を責める―神経性過食症の悪循環を読み解く

第118回医師国家試験 A問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第118回 A問題 第9問

神経性過食症〈大食症〉で正しいのはどれか。

  1. a.自己肯定感が高い。
  2. b.過活動になることが多い。
  3. c.肥満に対する恐怖心はない。
  4. d.自己誘発嘔吐と下剤乱用を反復することが多い。
  5. e.食事をコントロールできるという感覚は保たれる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は神経性過食症、いわゆる大食症の特徴を問う問題だ。ポイントは、この病気を「過食」「代償行動」「体型や体重に振り回される自己評価」の3つがぐるぐる回る悪循環として捉えること。そうすると、どの記述が正しいかは自然に見えてくるよ。まず、神経性過食症と聞いてどんなイメージがあるかな。
医学生医学生
精神科の講義では、たくさん食べてしまう病気としか覚えていなかったので、太っている人が多いのかと思っていました。
ドクタードクター
そう思われがちだけれど、実は体重は正常範囲からやや過体重のことが多いんだ。なぜかというと、過食した後に体重が増えるのを防ごうとして、自己誘発嘔吐や下剤・利尿薬の乱用、絶食、過剰な運動といった代償行動を繰り返すから。この代償行動の反復は診断に欠かせない要素で、「自己誘発嘔吐と下剤乱用を反復することが多い」が正解になる。
医学生医学生
代償行動の中では、嘔吐がいちばん多いんですか。
ドクタードクター
そう、最も多いのは自己誘発嘔吐で、下剤や利尿薬の乱用がそれに続く。DSM-5では、過食と代償行動がどちらも平均して週1回以上、3か月間続くことが基準になっているよ。
医学生医学生
そもそも、そこまでして体重増加を防ごうとするのは、やはり太ることが怖いからですよね。
ドクタードクター
その通り。根底には肥満への強い恐怖がある。恐怖がなければ、わざわざ吐いたり下剤を使ったりする理由がないよね。だから「肥満に対する恐怖心はない」という記述は誤りだ。
医学生医学生
自己肯定感が高いという選択肢も、なんだか違和感があります。
ドクタードクター
いい感覚だね。この病気では自己評価が体型や体重に過剰に左右されてしまうので、自分を肯定的に捉えにくい。しかも過食の後には罪悪感や自己嫌悪が強まり、抑うつ気分に陥る。自己肯定感はむしろ低いことが多いんだ。この自己評価の低さは神経性やせ症とも共通している。
医学生医学生
食事をコントロールできる感覚が保たれる、というのはどうでしょう。我慢して吐いているなら、ある意味コントロールしているようにも思えて迷いました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。でもDSM-5の過食エピソードの定義そのものに、「食べるのを止められない」「何をどれだけ食べるかを制御できない」という制御不能感が含まれている。代償行動はその後の埋め合わせであって、食べている最中のコントロール感は失われているんだ。だからこれも誤り。
医学生医学生
過活動になることが多い、というのは神経性やせ症の特徴だった気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。著しい低体重にもかかわらず活発に動き回る過活動は、神経性やせ症に特徴的な所見だ。神経性過食症では抑うつや無気力を伴いやすく、活動性はむしろ下がりやすい。代償として過剰に運動する人はいるけれど、「過活動が多い」とはいえないよ。
医学生医学生
神経性やせ症にも、過食して吐くタイプがあると習いました。どう区別するんですか。
ドクタードクター
大事な疑問だ。神経性やせ症には、食事制限を徹底する摂食制限型と、過食や排出行動を伴う過食・排出型がある。有意な低体重であれば、過食や嘔吐があっても神経性やせ症の過食・排出型と診断されるんだ。だから神経性過食症の診断には、神経性やせ症を除外することが必要になる。逆に、過食はあるけれど代償行動を定期的に伴わないものは過食性障害で、こちらは肥満を伴いやすい。
医学生医学生
体重と代償行動の有無で整理すると分かりやすいですね。臨床実習では、身体所見で気づけるサインがあるとも聞きました。
ドクタードクター
そう、排出行動の反復はさまざまな身体合併症を起こす。嘔吐で胃酸を失うと低カリウム血症や代謝性アルカローシスになり、低カリウム血症は不整脈の危険がある。ほかにも耳下腺などの唾液腺の腫脹、胃酸による歯のエナメル質の侵食、そして手の甲の吐きだこ、つまりRussell徴候が知られている。指を口に入れて嘔吐を誘発するときに歯が当たってできるものだ。
医学生医学生
患者さんが過食を隠していても、手の甲や歯、血液検査から気づけるかもしれないんですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床で大切な点だ。この病気の患者さんは過食を恥じて隠すことが多いから、こちらから気づいて、責めずに話を聞く姿勢が求められる。好発は思春期から青年期の女性で、うつ病や不安症、物質使用障害、境界性パーソナリティ障害などの併存も多く、自傷を伴うこともある。治療は認知行動療法が中心で、規則正しい食事パターンを取り戻し、体型や体重へのこだわりと過食・代償行動の悪循環を修正していく。薬物療法ではSSRIが過食や嘔吐の頻度を減らすとされている。そして電解質、特にカリウムの評価と補正を忘れないこと。
医学生医学生
過食、代償行動、低い自己評価の悪循環を軸にして、やせ症との違いを体重と活動性で整理しておきます。

まとめ

神経性過食症は、制御不能感を伴う過食エピソードと、体重増加を防ぐための自己誘発嘔吐や下剤乱用などの不適切な代償行動を繰り返し、自己評価が体型・体重に過度に左右される摂食障害です。根底には強い肥満恐怖と低い自己評価があり、過食の後に代償行動をとり、さらに自己嫌悪や抑うつに陥るという悪循環が典型です。体重は正常範囲のことが多く、過活動は神経性やせ症の特徴であること、低体重なら神経性やせ症の過食・排出型と診断されること、代償行動を伴わない過食性障害との区別も押さえておきます。排出行動の反復により低カリウム血症、代謝性アルカローシス、耳下腺腫脹、歯の侵食、Russell徴候が生じ、治療は認知行動療法を中心にSSRIや電解質補正を組み合わせます。病態の悪循環を理解することは、患者が隠しがちな症状に気づき、適切な支援につなげるための基盤になります。

解答・解説

正解はdです

問われているテーマ

神経性過食症〈大食症〉(bulimia nervosa)の臨床的特徴を問う問題である。

疾患の要点

DSM-5(米国精神医学会の診断基準)による神経性過食症の中核は、次の3点である。 ①過食(むちゃ食い)エピソードを繰り返す:一定の時間内(例えば2時間以内)に、多くの人が同じ状況で食べる量より明らかに多い量を食べ、その間「食べるのを止められない」「何をどれだけ食べるかを制御できない」という制御不能感を伴う。 ②体重増加を防ぐための不適切な代償行動を繰り返す:自己誘発性嘔吐、下剤・利尿薬の乱用、絶食、過剰な運動など。 ③自己評価が体型や体重の影響を過度に受けている。 これらの過食と代償行動が、平均して3か月間にわたり週1回以上起こり、しかも神経性やせ症(神経性無食欲症)のエピソード中に限って起こるものではないことが条件となる。体重は正常範囲〜やや過体重のことが多く、低体重が目立つ神経性やせ症とはこの点で異なる。

正解を導く考え方

根底には「太ることへの強い恐怖」と、体型・体重に左右される「低い自己評価」がある。食べ過ぎた後に体重増加の不安から嘔吐や下剤乱用で埋め合わせようとし、その後に自己嫌悪や抑うつ気分に陥る、という悪循環が典型である。この流れを理解していれば、代償行動である自己誘発嘔吐と下剤乱用の反復が本症の特徴として正しいと判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  自己肯定感が高い。

    誤り。神経性過食症では自己評価が体型や体重に過剰に左右され、自分を肯定的に捉えにくい。過食した後には罪悪感や自己嫌悪が強まり、自己肯定感はむしろ低いことが多い。この自己評価の低さは神経性やせ症とも共通する特徴である。

  2. ×b.  過活動になることが多い。

    誤り。著しい低体重にもかかわらず活発に動き回る過活動は、神経性やせ症に特徴的な所見である。神経性過食症では抑うつ気分や無気力を伴いやすく、活動性はむしろ低下することが多い。代償行動として過剰な運動をする患者はいるが、「過活動になることが多い」とはいえない。

  3. ×c.  肥満に対する恐怖心はない。

    誤り。体重が増えること・太ることへの恐怖は強い。だからこそ、過食の後に自己誘発嘔吐や下剤乱用などの代償行動をとって体重増加を防ごうとする。肥満恐怖がなければ代償行動をとる理由がない。

  4. ○d.  自己誘発嘔吐と下剤乱用を反復することが多い。

    正しい。過食による体重増加を防ぐため、不適切な代償行動を繰り返すことは神経性過食症の診断に必須の要素である。代償行動のうち最も多いのは自己誘発嘔吐で、下剤や利尿薬の乱用がこれに続く。こうした排出行動の反復により、低カリウム血症(不整脈の危険)、代謝性アルカローシス、唾液腺(耳下腺)の腫脹、胃酸による歯のエナメル質の侵食、手の甲の吐きだこ(指を口に入れて嘔吐を誘発する際に歯が当たってできる、Russell徴候)などの身体合併症が生じる。

  5. ×e.  食事をコントロールできるという感覚は保たれる。

    誤り。DSM-5の過食エピソードの定義そのものに「エピソードの間は食べることを制御できないという感覚」が含まれている。制御不能感を伴うことが過食の特徴であり、コントロールの感覚は失われている。

神経性やせ症と神経性過食症の比較

・体重:神経性やせ症は有意な低体重。神経性過食症は正常〜やや過体重が多い。 ・中核症状:神経性やせ症は摂取制限と低体重の維持。神経性過食症は過食と代償行動の反復。 ・共通点:肥満恐怖(体重増加への強い恐れ)と、体型・体重に過度に左右される自己評価。 ・活動性:神経性やせ症では低体重にもかかわらず過活動が目立つ。神経性過食症では抑うつを伴いやすい。 ・病識:神経性やせ症は低体重の深刻さを認めにくい(病識に乏しい)。神経性過食症は過食を恥じて隠すことが多い。 ・神経性やせ症の病型:食事制限を徹底する「摂食制限型」と、過食や自己誘発嘔吐・下剤乱用などの排出行動を伴う「過食・排出型」がある。低体重であれば過食・排出があっても神経性やせ症(過食・排出型)と診断されるため、神経性過食症の診断には神経性やせ症の除外が必要である。

関連疾患

過食性障害(むちゃ食い障害):過食エピソードを繰り返すが、代償行動を定期的には伴わない。そのため肥満を伴いやすい。

好発・合併

思春期〜青年期の女性に多い。うつ病、不安症、物質使用障害、パーソナリティ障害(特に境界性)などとの併存が多く、自傷行為を伴うこともある。

治療

認知行動療法が中心で、規則正しい食事パターンの確立と、体型・体重へのこだわりや過食・代償行動の悪循環の修正を図る。薬物療法としてSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が過食・嘔吐の頻度を減らす効果があるとされる。排出行動による電解質異常(特に低カリウム血症)の評価と補正も重要である。

POINT

・神経性過食症=過食(制御不能感を伴う)+不適切な代償行動(自己誘発嘔吐・下剤乱用など)の反復+体型・体重に左右される自己評価。 ・DSM-5では両者が3か月間、週1回以上。 ・肥満恐怖は強く、自己評価は低い。体重は正常範囲のことが多い。 ・過活動は神経性やせ症の特徴。 ・合併症:低カリウム血症、代謝性アルカローシス、耳下腺腫脹、歯の侵食、吐きだこ(Russell徴候)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。