「治ったけれど不安だった」―患者の語りから読み解く医療の質の6要素
第119回医師国家試験 B問題 第34問
国試問題にチャレンジ
以下は,50歳の男性が,ある疾患で入院し,退院後に語った内容である。 「先日,ある病気になって入院したんです。2週間くらいだるさが続いたので,かかりつけの診療所を受診したら総合病院に紹介してくれました。総合病院を受診したら,すぐに入院するよう言われて。ちょっと風邪が長引いているのかな,くらいの軽い気持ちで受診したので,気が動転してしまって,何がなんだかわからないまま入院になりました。入院後は,血液や尿の検査,CTなどの検査を受けて,診断がついて,点滴で治療を受けて良くなりました。適切な診断と治療をしてくださった医師や入院生活を支えてくださった医療スタッフの皆さんには感謝しています。 ただ,少し不満もあって,総合病院を受診したときに,医師の話がよく理解できなくて,状況がのみ込めずに不安でした。入院という言葉で気が動転してしまった上に,医師が専門用語をたくさん使うので,頭が混乱してしまいました。医師には患者の心理状態や理解力にも気を配って欲しいと思いました。 あと,入院したことで仕事への心配もありました。総合病院では,まず病気を治すことが最優先だと言われ,仕事に関する相談にもあまり応じてもらえませんでした。適切に治療してくださって,今は元気になったので,贅沢な悩みかもしれませんが…」 この事例で,問題があった医療の質の要素はどれか。
- a.安全性
- b.公平性
- c.適時性
- d.有効性
- e.患者中心性
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
医療の質は、米国医学研究所が示した安全性・有効性・患者中心性・適時性・効率性・公平性の6要素(STEEEP)で評価されることが多く、WHOはこれに統合性を加えています。本例では、すぐに入院して適切な診断・治療で回復しているため適時性・有効性は満たされ、事故や属性による不利な扱いの記載もないため安全性・公平性の問題も読み取れません。一方、動揺する患者への専門用語の多い説明や、仕事の不安に耳を傾けなかった対応は、患者の心理状態・理解力・生活背景への配慮を欠いており、患者中心性の問題にあたります。平易な言葉での説明やteach-backによる理解の確認、医療ソーシャルワーカーとの連携による両立支援などが具体的な改善策です。患者の語りを要素ごとに整理する練習は、試験対策だけでなく、病気だけでなく人を診る診療姿勢を身につけることにもつながります。
解答・解説
正解はeです
問われているテーマ
医療の質をどの観点から評価するかという枠組みの問題である。よく知られているのは、米国医学研究所(IOM、現在の全米医学アカデミー)が2001年の報告書『Crossing the Quality Chasm』で示した6つの目標である。安全性(safe)、有効性(effective)、患者中心性(patient-centered)、適時性(timely)、効率性(efficient)、公平性(equitable)の6つで、頭文字を並べて「STEEEP」と覚える。WHOもほぼ同じ要素を医療の質の柱としており、これに統合性(integrated:切れ目のない継続的なケア)を加えている。
患者の語りを要素ごとに整理する
・紹介を受けた総合病院で、すぐに入院が決まった:必要な医療が遅れずに提供されている(適時性)。 ・検査で診断がつき、点滴治療で良くなった。適切な診断と治療に感謝している:根拠に基づく医療で良い結果が得られている(有効性)。 ・医療事故や合併症、有害事象についての訴えはない(安全性に問題を示す記載はない)。 ・特定の患者として差別されたり、属性で医療の内容が変わったりしたという記載はない(公平性に問題を示す記載はない)。 ・一方、患者は不満として次の2点を挙げている。(1) 入院を告げられて動揺しているところに専門用語の多い説明を受けて理解できず、不安だった。患者の心理状態や理解力に配慮してほしかった。(2) 仕事への心配を相談したが「まず治療が最優先」として十分に取り合ってもらえなかった。
設問への考え方
(1)(2)はいずれも、病気だけでなく、患者自身の気持ち、理解度、生活や社会的背景(仕事)に目を向け、それを尊重して医療を行ってほしいという訴えである。医学的には適切な医療であっても、患者の価値観やニーズに応えていなかった点が問題であり、これは患者中心性の要素にあたる。
選択肢考察
- ×a. 安全性
安全性とは、患者を助けるはずの医療によって患者に害を与えないこと(医療事故、誤投薬、院内感染などの防止)である。本例では診断・治療の過程で事故や有害事象があったという記載はなく、患者も適切な診断・治療に感謝している。安全性に問題があったとは読み取れない。
- ×b. 公平性
公平性とは、性別、年齢、民族、居住地、社会経済的状況などの個人の属性によって、受けられる医療の質が変わらないことである。本例では、診療所から総合病院への紹介や入院治療が通常どおり行われており、属性によって不利な扱いを受けたという記載はない。公平性の問題は読み取れない。
- ×c. 適時性
適時性とは、待ち時間や治療の遅れを減らし、必要なときに必要な医療を提供することである。本例では、かかりつけ医が速やかに総合病院へ紹介し、受診したその日に入院が決まり、検査・治療が始まっている。適時性はむしろ十分に満たされている。
- ×d. 有効性
有効性とは、科学的根拠に基づいて、効果が期待できる人に適切な医療を行うこと(効果のない医療の過剰も、必要な医療の不足も避けること)である。本例では検査で診断がつき、点滴治療で回復しており、患者自身も「適切な診断と治療」と評価している。有効性に問題はない。
- ○e. 患者中心性
患者中心性とは、患者一人ひとりの価値観、希望、ニーズを尊重し、それを医療上の判断に反映させることである。分かりやすい説明、精神的な支え、生活や仕事などの社会的背景への配慮も含まれる。本例では、動揺している患者に専門用語の多い説明をして理解と納得を得られなかったこと、仕事に関する心配を「治療が最優先」として十分に聞かなかったことに不満が示されている。これは疾患だけを診て、患者という人を見ていない対応であり、患者中心性に問題があったといえる。
医療の質の6つの要素(IOM、2001年)
・安全性(Safe):医療による害(医療事故、有害事象)を避ける。 ・有効性(Effective):科学的根拠に基づき、効果が期待できる医療を必要な人に提供し、効果のない医療は行わない。 ・患者中心性(Patient-centered):患者の価値観、希望、ニーズを尊重し、患者が意思決定に参加できるようにする。 ・適時性(Timely):待ち時間や、有害になりうる遅れを減らす。 ・効率性(Efficient):器材、物品、人材、時間などの無駄を省く。 ・公平性(Equitable):性別、民族、居住地、社会経済的状況などによって医療の質が変わらないようにする。 WHOは、これらに統合性(Integrated:生涯を通じて、医療機関や職種の間で切れ目なく調整されたケアを行うこと)を加えている。WHOでは「患者中心」を「people-centred(人間中心)」と表現している。
患者中心性を高める具体的な対応
・患者の心理状態や理解力に合わせて、専門用語を避け、平易な言葉で説明する。重要な内容は繰り返し、書面や図も使う。理解できたかを確かめる(teach-backなど)。 ・悪い知らせや予想外の知らせ(急な入院など)を伝える際は、患者の感情に配慮し、質問の機会を設ける。 ・患者の生活背景(仕事、家族、経済面)に関する不安を聞き取る。必要に応じて医療ソーシャルワーカー(MSW)につなぎ、傷病手当金などの制度の案内や、職場との調整(治療と仕事の両立支援)を行う。 ・医療の評価として、患者満足度に加え、近年は患者経験価値(patient experience:PX)を測定して質の改善に役立てる取り組みも広がっている。
Donabedianの3つの評価側面(関連事項)
医療の質の評価は、構造(structure:設備や人員)、過程(process:実際に行われた診療)、結果(outcome:治癒率や死亡率など)の3つの側面から行うという考え方もある。
POINT
・医療の質の6要素(IOM)は安全性・有効性・患者中心性・適時性・効率性・公平性(STEEEP)。 ・患者の価値観、理解度、心理状態、生活背景(仕事など)への配慮は「患者中心性」にあたる。 ・すぐ入院・すぐ治療は適時性、適切な診断・治療で回復したことは有効性の問題がないことを示す。
