閉じゆく扉に命を預ける―生まれてすぐ治療が必要な先天性心疾患とは
第117回医師国家試験 F問題 第14問
国試問題にチャレンジ
出生後,緊急で治療介入が必要な疾患はどれか。
- a.心房中隔欠損症
- b.心室中隔欠損症
- c.完全大血管転位症
- d.部分肺静脈還流異常症
- e.房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〉
対話形式の解説
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医学生まとめ
先天性心疾患の緊急性は、出生後に閉じていく卵円孔や動脈管に生命を依存しているかどうかで判断できます。完全大血管転位症は体循環と肺循環が並列になるため、両循環を混ぜる短絡が閉じると高度チアノーゼとアシドーシスが急速に進み、PGE1による動脈管開存の維持やバルーン心房中隔裂開術が緊急で必要となり、根治術は新生児期の動脈スイッチ手術です。一方、心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、房室中隔欠損症、部分肺静脈還流異常症は左→右短絡疾患で、肺血管抵抗が下がる生後数週以降に症状が現れ、治療は待機的・計画的に行われます。部分肺静脈還流異常症と、緊急手術になりうる総肺静脈還流異常症との区別も重要です。胎児循環から新生児循環への移行という生理学の理解が、新生児のチアノーゼや心不全に適切に対応する土台になります。
解答・解説
正解はcです
本問は、先天性心疾患のうち「生まれてすぐ(新生児期早期)に命に関わり、緊急の治療介入を要するもの」を選ぶ問題である。 胎児期には肺が働いておらず、胎盤で酸素化された血液が卵円孔と動脈管という2つの短絡路を通って全身に送られている。出生後に肺呼吸が始まると、卵円孔は機能的に閉じ、動脈管も通常は生後数日以内に閉鎖する。先天性心疾患の中には、この胎児循環の名残りの短絡路に依存して生命を保っているものがあり、それらは短絡路が閉じ始める出生直後から急速に重篤化する。これが緊急介入を必要とする疾患群であり、代表が完全大血管転位症、総肺静脈還流異常症(特に肺静脈狭窄を伴うもの)、左心低形成症候群、肺動脈閉鎖症などである。 一方、心房・心室・房室中隔の欠損や部分肺静脈還流異常症は、いずれも左→右短絡を主体とする疾患である。短絡量が増えて症状(心不全・肺高血圧)が出るのは、肺血管抵抗が生理的に低下してくる生後数週〜数か月以降であり、出生直後に緊急処置を要することは通常ない。 選択肢のうち、体循環と肺循環が並列になって出生直後から高度チアノーゼをきたし、動脈管開存の維持や心房間交通の拡大といった緊急処置を要するのは完全大血管転位症である。
選択肢考察
- ×a. 心房中隔欠損症
緊急介入は不要である。心房中隔欠損症(ASD)は左房から右房への短絡により右房・右室の容量負荷と肺血流増加をきたすが、心房間の圧較差は小さく短絡量の増加も緩やかである。乳幼児期はほぼ無症状で、健診や就園・就学時の心雑音(相対的肺動脈狭窄による収縮期駆出性雑音)や固定性Ⅱ音分裂、心電図の不完全右脚ブロックなどを契機に見つかることが多い。治療は短絡量の多いものに対して幼児期〜学童期以降に待機的に行われ、カテーテルによる閉鎖栓留置や外科的閉鎖が選択される。
- ×b. 心室中隔欠損症
緊急介入は不要である。心室中隔欠損症(VSD)は最も頻度の高い先天性心疾患で、左室から右室への短絡を生じる。小欠損は無症状で、特に膜様部や筋性部の小欠損は乳幼児期に自然閉鎖することが少なくない。大欠損では、生後数週〜数か月で肺血管抵抗が低下して短絡量が増えるにつれ、多呼吸・哺乳不良・体重増加不良などの心不全症状が現れ、乳児期に利尿薬などの内科治療や心内修復術が必要となる。ただしこれは出生直後の緊急処置ではない。大欠損を放置すると肺血管の不可逆的変化が進み、右→左短絡に転じたEisenmenger症候群となって手術不能になるため、適切な時期の手術が重要である。
- ○c. 完全大血管転位症
緊急介入が必要であり、これが正解である。完全大血管転位症(TGA)は大動脈が右室から、肺動脈が左室から起始する疾患である。そのため、全身から戻った酸素の乏しい血液は右室から再び大動脈へ、肺で酸素化された血液は左室から再び肺動脈へと戻り、体循環と肺循環が直列ではなく並列に独立して回ってしまう。生存には両循環の間で血液を混ぜる短絡(卵円孔・心房中隔欠損、動脈管、心室中隔欠損)が不可欠で、出生後に卵円孔や動脈管が閉じ始めると急速に高度チアノーゼとアシドーシスが進行し、無治療では生存が困難である。特に心室中隔欠損を伴わないⅠ型では混合が乏しく重篤になりやすい。緊急治療として、プロスタグランジンE1(PGE1)の持続静注で動脈管を開存させ、必要に応じてバルーン心房中隔裂開術(BAS、Rashkind手術)で心房間交通を広げて血液の混合を確保する。根治術は大動脈と肺動脈を付け替え冠動脈を移植する動脈スイッチ手術(Jatene手術)で、Ⅰ型では左室が肺循環の低い圧に慣れて機能が落ちる前の新生児期(おおむね生後2週以内)に行うのが原則である。
- ×d. 部分肺静脈還流異常症
緊急介入は不要である。部分肺静脈還流異常症は、4本の肺静脈のうち一部が左房ではなく右房や上大静脈などの体静脈系に還流する疾患で、酸素化血が右心系に戻る左→右短絡となる。病態は心房中隔欠損症とほぼ同様で(静脈洞型心房中隔欠損に合併することが多い)、乳幼児期は無症状のことが多く、成人になって見つかることもある。異常還流の量が少なければ治療なしで経過良好であり、短絡量が多い場合に待機的に修復術を行う。なお、すべての肺静脈が体静脈系に還流する総肺静脈還流異常症は、出生直後からチアノーゼをきたし、特に還流路に狭窄を伴う例では緊急手術を要する点で本症とは大きく異なる。
- ×e. 房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〉
緊急介入は不要である。房室中隔欠損症は、心臓を4つの部屋に仕切る中心部分(心内膜床)の発生異常により、心房中隔下部(一次孔)の欠損と房室弁の形成異常をきたす疾患で、Down症候群に合併しやすい。不完全型(一次孔欠損と僧帽弁前尖の裂隙が主体)は心房中隔欠損症に近い経過をたどる。完全型は心房中隔欠損・心室中隔欠損と共通房室弁(弁逆流を伴いやすい)を併せ持ち、乳児期早期から心不全や肺高血圧をきたすため、乳児期(多くは生後数か月以内)の心内修復術が必要となる。しかし、それは内科治療で心不全を管理しながら行う計画的な手術であり、出生直後の緊急処置を要する病態ではない。
新生児期にチアノーゼをきたす主な先天性心疾患
完全大血管転位症、総肺静脈還流異常症、三尖弁閉鎖症、肺動脈閉鎖症(心室中隔欠損の有無を問わず)、重症Fallot四徴症、Ebstein奇形、左心低形成症候群、総動脈幹症など。
動脈管依存性心疾患とPGE1
動脈管の開存によって肺血流または体血流(あるいは両循環の混合)が保たれている疾患を動脈管依存性心疾患という。 ・肺血流が動脈管に依存:肺動脈閉鎖症、重症Fallot四徴症、重症肺動脈弁狭窄、三尖弁閉鎖症の一部など ・体血流が動脈管に依存:左心低形成症候群、大動脈弓離断、管前型(重症)大動脈縮窄症など ・両循環の混合に動脈管が寄与:完全大血管転位症 これらでは出生後に動脈管が閉鎖するとショックや高度チアノーゼに陥るため、診断がつき次第(または強く疑われた時点で)PGE1の持続点滴で動脈管を開存させる。PGE1の副作用として無呼吸発作、発熱、長期使用での骨膜肥厚などに注意する。 逆に、早産児で動脈管開存による肺血流増加が心不全や呼吸障害の原因になっている場合は、プロスタグランジン合成を阻害するインドメタシンやイブプロフェンで閉鎖を促す。
新生児のチアノーゼの鑑別
酸素投与で動脈血酸素分圧がほとんど改善しない場合は、呼吸器疾患よりもチアノーゼ性心疾患を強く疑う(高濃度酸素負荷試験の考え方)。ただし、動脈管依存性疾患が疑われる場合は、酸素投与が動脈管の閉鎖を促しうるため慎重に扱い、速やかに心エコーで診断を確定する。
左→右短絡疾患の症状出現時期
出生直後は肺血管抵抗が高いため短絡量は少なく、生後数週〜数か月で肺血管抵抗が下がるにつれて短絡量が増え、心不全症状が明らかになる。VSDや完全型房室中隔欠損で「生後1〜2か月頃から多呼吸・哺乳不良・体重増加不良」が出現するのはこのためである。
POINT
・完全大血管転位症は体循環と肺循環が並列になる疾患で、出生直後から高度チアノーゼをきたし、緊急治療を要する。 ・緊急治療はPGE1による動脈管開存の維持とバルーン心房中隔裂開術(BAS)、根治術は新生児期の動脈スイッチ手術(Jatene手術)。 ・ASD、VSD、部分肺静脈還流異常症、房室中隔欠損症は左→右短絡疾患で、症状は生後数週以降に出現し、治療は待機的に行う。 ・部分肺静脈還流異常症(ASD類似、軽症)と総肺静脈還流異常症(新生児期チアノーゼ、緊急手術になりうる)を混同しない。
