StudyMed医師国家試験

救出の瞬間が最も危ない―挫滅症候群の検査値を「出る」と「入る」で読み解く

第117回医師国家試験 F問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第117回 F問題 第15問

挫滅〈圧挫〉症候群の血液検査で高値を示さないのはどれか。

  1. a.カリウム
  2. b.カルシウム
  3. c.CK
  4. d.ヘマトクリット
  5. e.ミオグロビン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は挫滅症候群、いわゆるクラッシュ症候群の血液検査で、高値にならないものを選ぶ問題だ。個々の数値を暗記するより、壊れた筋肉と血液の間で「何が出て、何が入るか」を考えると整理しやすいよ。まず、この病態の本質は何だと思う?
医学生医学生
家屋の下敷きなどで筋肉が長時間圧迫されて起こる横紋筋融解症ですよね。公衆衛生の講義で、阪神・淡路大震災で多発したと習いました。
ドクタードクター
その通り。大事なのは、発症するのが「圧迫が解除されたとき」だという点だ。圧迫中は虚血で筋細胞膜が傷んでいるけれど、血流が止まっているから壊れた細胞の中身は局所にとどまっている。救出されて血流が再開すると、それが一気に全身へ流れ込むんだ。
医学生医学生
再灌流障害ですね。だとすると、筋細胞の中に多いものが血中で上がると考えればいいでしょうか。
ドクタードクター
そう、それが1つ目の流れだ。代表がカリウム。細胞内に最も多い陽イオンで、筋崩壊で大量に放出され、さらにアシドーシスや腎障害での排泄低下も上昇を後押しする。圧迫解除の直後に心室細動や心停止を起こしうる、最も怖い所見だよ。
医学生医学生
CKとミオグロビンも筋細胞から出るので上がりますね。CKは心筋梗塞のマーカーとして覚えていましたが、骨格筋にも多いんでしたね。
ドクタードクター
そう。CKは骨格筋に豊富で、挫滅症候群では数万から数十万IU/Lに達することもあり、ピークは解除後1〜3日ごろだ。ミオグロビンは分子量が小さく糸球体で濾過され、尿細管で円柱をつくって詰まらせたり、ヘムが直接尿細管を傷つけたりして急性腎障害を起こす。
医学生医学生
腎臓内科の実習で、尿潜血は陽性なのに沈渣で赤血球が見えない、コーラ色の尿の話を聞きました。
ドクタードクター
まさにミオグロビン尿の特徴だね。では2つ目の流れ。損傷した筋肉では血管透過性が高まって、大量の血漿成分が筋肉内に漏れ出す。患肢はパンパンに腫れる。すると血管内はどうなるかな。
医学生医学生
血管内の水分が減るので……血液が濃縮されてヘマトクリットが上がる、ということですか。貧血にはならないんですね。
ドクタードクター
正解。救出までの飲水不足も加わって循環血漿量が大きく減り、ヘマトクリットは上昇する。これがショックや腎血流低下の原因になる。残るのはカルシウムだけど、これはどうだろう。
医学生医学生
筋細胞が壊れて中身が出るなら、カルシウムも出てくるのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこがひっかけだね。カルシウムは細胞の外に多いイオンだ。細胞膜が壊れた筋細胞には、濃度勾配に従って逆にカルシウムが流れ込み、壊死組織に沈着する。さらに筋から放出されたリンと結合してリン酸カルシウムとして沈着したり、遊離脂肪酸と結合したりすることも加わって、血清カルシウムは低下する。だから高値を示さないのはカルシウムなんだ。
医学生医学生
細胞内に多いものは血中で上がり、細胞外に多いカルシウムは筋肉に取り込まれて下がる。生化学で習った細胞内外のイオン組成が、そのまま効いてくるんですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。ちなみに、乳酸などによる代謝性アシドーシスで重炭酸イオンも下がる。低下するものとしてセットで覚えておこう。
医学生医学生
低カルシウム血症なら、カルシウムを補充すべきでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。実は無症状の低カルシウム血症に安易に補充すると、回復期に沈着していたカルシウムが血中に戻って高カルシウム血症をきたすおそれがある。補充は高カリウム血症による不整脈やテタニーなど、症候性の場合に限るのが原則だ。
医学生医学生
治療の基本は何になりますか。
ドクタードクター
救出前、つまり圧迫解除の前から、カリウムを含まない生理食塩液などで大量輸液を始めることだ。心電図モニターをつけて高カリウム血症への対応を準備し、十分な尿量を確保する。重症例では血液透析が必要になり、患肢の腫脹でコンパートメント症候群を起こせば筋膜切開も検討する。
医学生医学生
救出直後は意識もはっきりしていて元気そうに見えるのに、急変することがあると聞きました。
ドクタードクター
そう、それが臨床で最も注意すべき点だ。見た目が保たれていても、救出後に高カリウム血症で心停止に至ることがある。大規模災害では多数の患者が同時に発生するから、被災地外への広域搬送や透析施設の確保も大切になる。「元気そうだから大丈夫」と油断しないことだね。

まとめ

挫滅症候群は、長時間圧迫された骨格筋が圧迫解除後の再灌流で一気に崩壊産物を放出する外傷性横紋筋融解症です。筋細胞内に多いカリウム、CK、ミオグロビン、リンが血中で上昇し、損傷筋への血漿漏出で血液が濃縮されてヘマトクリットも上昇しますが、細胞外に多いカルシウムは損傷筋へ流入・沈着するため低下し、代謝性アシドーシスで重炭酸イオンも低下します。高カリウム血症による心停止とミオグロビンによる急性腎障害が致死的な合併症であり、救出前からのカリウムを含まない大量輸液、心電図モニター、尿量確保、必要に応じた透析が治療の柱です。無症状の低カルシウム血症への安易な補充は回復期の高カルシウム血症を招くため避けます。細胞内外のイオン分布と体液移動から検査値を推論する姿勢は、災害医療だけでなく救急診療全般で役立ちます。

解答・解説

正解はbです

挫滅症候群(圧挫症候群、クラッシュ症候群)は、地震による家屋倒壊や事故などで四肢・臀部などの骨格筋が長時間(目安として数時間以上)圧迫された後、圧迫が解除されたときに発症する全身性の病態である。本質は大量の骨格筋が壊れる外傷性横紋筋融解症であり、次の2つの流れで考えると検査値の変化を整理しやすい。 1つ目は「筋細胞の中身が血中に流れ出る」変化である。圧迫中は虚血で筋細胞膜が障害されるが、血流が途絶えているため壊れた細胞の内容物は局所にとどまっている。圧迫が解除されて血流が再開すると、細胞内に多く含まれるカリウム、ミオグロビン、CK(クレアチンキナーゼ)、リン、乳酸などの酸性物質が一気に全身へ流れ込む(再灌流)。その結果、高カリウム血症による致死的不整脈や心停止、ミオグロビンによる急性腎障害、代謝性アシドーシスが生じる。 2つ目は「血管内から損傷筋へ水分や電解質が移動する」変化である。損傷した筋組織では血管透過性が亢進して大量の血漿成分が筋内へ漏出し、患肢は著しく腫脹する。これにより循環血漿量が減少し(血管内脱水)、血液は濃縮されてヘマトクリットが上昇し、ショックに至る。同時に、細胞膜の障害された筋細胞内へはカルシウムが流れ込み、壊死組織にカルシウムが沈着する。 つまり、細胞内に多い物質は血中で上昇し、細胞外に多いカルシウムは逆に損傷筋へ取り込まれて血中で低下する。したがって高値を示さないのはカルシウムである。

選択肢考察

  1. ×a.  カリウム

    高値を示す。カリウムは細胞内に最も多い陽イオンであり、筋細胞が崩壊すると大量に血中へ放出される。さらに代謝性アシドーシス(細胞外の水素イオンと細胞内のカリウムの交換)や急性腎障害による排泄低下も高カリウム血症を助長する。圧迫解除直後に急激に上昇して心室細動や心停止を起こしうるため、救出前からの輸液開始、心電図モニター、高カリウム血症への治療(カルシウム製剤、グルコース・インスリン療法、炭酸水素ナトリウム、血液透析など)の準備が重要である。

  2. ○b.  カルシウム

    高値を示さない(低下する)ので、これが正解である。細胞膜が障害された筋細胞には、細胞外に多いカルシウムが濃度勾配に従って流れ込み、壊死した筋組織に沈着する。また、崩壊した筋細胞から放出されるリンが増加して血中でリン酸カルシウムを形成して組織に沈着すること、損傷組織から遊離した脂肪酸がカルシウムと結合することも血清カルシウム低下に関与する。このため病初期(乏尿期)には低カルシウム血症となる。ただし、無症状の低カルシウム血症に安易にカルシウムを補充すると、回復期に沈着したカルシウムが血中に再動員されて高カルシウム血症をきたすおそれがあるため、補充は高カリウム血症による不整脈やテタニーなど症候性の場合に限るのが原則である。

  3. ×c.  CK

    高値を示す。CK(クレアチンキナーゼ)は骨格筋に豊富な酵素で、筋細胞の崩壊により血中へ大量に逸脱し、数万〜数十万IU/Lに達することもある。筋障害の程度を反映する最も一般的な指標で、ピークは受傷(圧迫解除)後1〜3日頃にみられる。CKが高いほど急性腎障害のリスクが高まるとされ、経過観察の指標としても用いられる。

  4. ×d.  ヘマトクリット

    高値を示す。損傷した筋組織では血管透過性が亢進し、大量の血漿成分が筋肉内(いわゆるサードスペース)へ漏出する。救出されるまでの飲水不足も加わって循環血漿量が大きく減少し、血液が濃縮されるためヘマトクリットは上昇する。これは血管内脱水による循環血液量減少性ショックの原因となり、また腎血流を低下させて急性腎障害を悪化させる。治療の中心は大量の輸液で、カリウムを含まない生理食塩液などを救出前から開始することが推奨される。

  5. ×e.  ミオグロビン

    高値を示す。ミオグロビンは筋細胞内で酸素を貯蔵するヘム蛋白であり、筋崩壊により血中に放出され、分子量が小さいため糸球体で濾過されて尿中にも出る(ミオグロビン尿:褐色〜コーラ色の尿、尿潜血反応は陽性だが沈渣で赤血球を認めない)。尿細管内でミオグロビンが円柱を形成して閉塞を起こすこと、ヘムによる直接の尿細管毒性、腎血流低下が重なり、急性尿細管壊死による急性腎障害をきたす。酸性尿で円柱形成が促進されるため、十分な輸液で尿量を確保することが予防の基本である。

挫滅症候群の病態と主な検査所見

・筋崩壊による上昇:カリウム、ミオグロビン(血中・尿中)、CK、AST・LDH、リン、尿酸 ・血液濃縮による上昇:ヘマトクリット、ヘモグロビン ・腎障害による上昇:BUN、クレアチニン ・低下するもの:カルシウム(損傷筋への流入・沈着)、重炭酸イオン(HCO3-:乳酸などによる代謝性アシドーシス)

臨床像

・救出直後は意識清明で全身状態が比較的保たれて見えることがあり、重症度が見落とされやすい。圧迫解除後に急変し、高カリウム血症による心停止をきたすことがある(いわゆる「笑顔の死」)。 ・患肢の腫脹、知覚・運動麻痺、褐色尿がみられる。患肢の高度腫脹によりコンパートメント症候群を合併しうる。 ・進行すると急性腎障害、ショック、播種性血管内凝固(DIC)、急性呼吸窮迫症候群などを経て多臓器不全に至る。

治療の要点

・救出前(圧迫解除前)からの大量輸液(カリウムを含まない細胞外液、生理食塩液など)。 ・心電図モニターと高カリウム血症への対応。 ・十分な尿量の確保。重症例では血液透析を行う(高カリウム血症、急性腎障害への対応)。 ・コンパートメント症候群に対しては筋膜切開を検討する。 ・大規模災害では多数発生するため、被災地外への広域搬送と透析施設の確保が重要となる(阪神・淡路大震災で注目された)。

カルシウムの経過

乏尿期には低カルシウム血症、回復期(利尿期)には沈着していたカルシウムの再動員や二次性副甲状腺機能亢進の影響で高カルシウム血症を呈することがある。

POINT

・挫滅症候群は圧迫解除後の再灌流により、筋細胞内の物質(カリウム、ミオグロビン、CK、リン)が血中に流出する病態である。 ・血漿成分の筋内漏出で循環血漿量が減少し、ヘマトクリットは上昇する。 ・カルシウムは損傷筋へ流入・沈着して低下する(高値にならない)。代謝性アシドーシスでHCO3-も低下する。 ・高カリウム血症による心停止とミオグロビンによる急性腎障害が二大死因であり、救出前からの大量輸液が治療の基本。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。