救出の瞬間が最も危ない―挫滅症候群の検査値を「出る」と「入る」で読み解く
第117回医師国家試験 F問題 第15問
国試問題にチャレンジ
挫滅〈圧挫〉症候群の血液検査で高値を示さないのはどれか。
- a.カリウム
- b.カルシウム
- c.CK
- d.ヘマトクリット
- e.ミオグロビン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
挫滅症候群は、長時間圧迫された骨格筋が圧迫解除後の再灌流で一気に崩壊産物を放出する外傷性横紋筋融解症です。筋細胞内に多いカリウム、CK、ミオグロビン、リンが血中で上昇し、損傷筋への血漿漏出で血液が濃縮されてヘマトクリットも上昇しますが、細胞外に多いカルシウムは損傷筋へ流入・沈着するため低下し、代謝性アシドーシスで重炭酸イオンも低下します。高カリウム血症による心停止とミオグロビンによる急性腎障害が致死的な合併症であり、救出前からのカリウムを含まない大量輸液、心電図モニター、尿量確保、必要に応じた透析が治療の柱です。無症状の低カルシウム血症への安易な補充は回復期の高カルシウム血症を招くため避けます。細胞内外のイオン分布と体液移動から検査値を推論する姿勢は、災害医療だけでなく救急診療全般で役立ちます。
解答・解説
正解はbです
挫滅症候群(圧挫症候群、クラッシュ症候群)は、地震による家屋倒壊や事故などで四肢・臀部などの骨格筋が長時間(目安として数時間以上)圧迫された後、圧迫が解除されたときに発症する全身性の病態である。本質は大量の骨格筋が壊れる外傷性横紋筋融解症であり、次の2つの流れで考えると検査値の変化を整理しやすい。 1つ目は「筋細胞の中身が血中に流れ出る」変化である。圧迫中は虚血で筋細胞膜が障害されるが、血流が途絶えているため壊れた細胞の内容物は局所にとどまっている。圧迫が解除されて血流が再開すると、細胞内に多く含まれるカリウム、ミオグロビン、CK(クレアチンキナーゼ)、リン、乳酸などの酸性物質が一気に全身へ流れ込む(再灌流)。その結果、高カリウム血症による致死的不整脈や心停止、ミオグロビンによる急性腎障害、代謝性アシドーシスが生じる。 2つ目は「血管内から損傷筋へ水分や電解質が移動する」変化である。損傷した筋組織では血管透過性が亢進して大量の血漿成分が筋内へ漏出し、患肢は著しく腫脹する。これにより循環血漿量が減少し(血管内脱水)、血液は濃縮されてヘマトクリットが上昇し、ショックに至る。同時に、細胞膜の障害された筋細胞内へはカルシウムが流れ込み、壊死組織にカルシウムが沈着する。 つまり、細胞内に多い物質は血中で上昇し、細胞外に多いカルシウムは逆に損傷筋へ取り込まれて血中で低下する。したがって高値を示さないのはカルシウムである。
選択肢考察
- ×a. カリウム
高値を示す。カリウムは細胞内に最も多い陽イオンであり、筋細胞が崩壊すると大量に血中へ放出される。さらに代謝性アシドーシス(細胞外の水素イオンと細胞内のカリウムの交換)や急性腎障害による排泄低下も高カリウム血症を助長する。圧迫解除直後に急激に上昇して心室細動や心停止を起こしうるため、救出前からの輸液開始、心電図モニター、高カリウム血症への治療(カルシウム製剤、グルコース・インスリン療法、炭酸水素ナトリウム、血液透析など)の準備が重要である。
- ○b. カルシウム
高値を示さない(低下する)ので、これが正解である。細胞膜が障害された筋細胞には、細胞外に多いカルシウムが濃度勾配に従って流れ込み、壊死した筋組織に沈着する。また、崩壊した筋細胞から放出されるリンが増加して血中でリン酸カルシウムを形成して組織に沈着すること、損傷組織から遊離した脂肪酸がカルシウムと結合することも血清カルシウム低下に関与する。このため病初期(乏尿期)には低カルシウム血症となる。ただし、無症状の低カルシウム血症に安易にカルシウムを補充すると、回復期に沈着したカルシウムが血中に再動員されて高カルシウム血症をきたすおそれがあるため、補充は高カリウム血症による不整脈やテタニーなど症候性の場合に限るのが原則である。
- ×c. CK
高値を示す。CK(クレアチンキナーゼ)は骨格筋に豊富な酵素で、筋細胞の崩壊により血中へ大量に逸脱し、数万〜数十万IU/Lに達することもある。筋障害の程度を反映する最も一般的な指標で、ピークは受傷(圧迫解除)後1〜3日頃にみられる。CKが高いほど急性腎障害のリスクが高まるとされ、経過観察の指標としても用いられる。
- ×d. ヘマトクリット
高値を示す。損傷した筋組織では血管透過性が亢進し、大量の血漿成分が筋肉内(いわゆるサードスペース)へ漏出する。救出されるまでの飲水不足も加わって循環血漿量が大きく減少し、血液が濃縮されるためヘマトクリットは上昇する。これは血管内脱水による循環血液量減少性ショックの原因となり、また腎血流を低下させて急性腎障害を悪化させる。治療の中心は大量の輸液で、カリウムを含まない生理食塩液などを救出前から開始することが推奨される。
- ×e. ミオグロビン
高値を示す。ミオグロビンは筋細胞内で酸素を貯蔵するヘム蛋白であり、筋崩壊により血中に放出され、分子量が小さいため糸球体で濾過されて尿中にも出る(ミオグロビン尿:褐色〜コーラ色の尿、尿潜血反応は陽性だが沈渣で赤血球を認めない)。尿細管内でミオグロビンが円柱を形成して閉塞を起こすこと、ヘムによる直接の尿細管毒性、腎血流低下が重なり、急性尿細管壊死による急性腎障害をきたす。酸性尿で円柱形成が促進されるため、十分な輸液で尿量を確保することが予防の基本である。
挫滅症候群の病態と主な検査所見
・筋崩壊による上昇:カリウム、ミオグロビン(血中・尿中)、CK、AST・LDH、リン、尿酸 ・血液濃縮による上昇:ヘマトクリット、ヘモグロビン ・腎障害による上昇:BUN、クレアチニン ・低下するもの:カルシウム(損傷筋への流入・沈着)、重炭酸イオン(HCO3-:乳酸などによる代謝性アシドーシス)
臨床像
・救出直後は意識清明で全身状態が比較的保たれて見えることがあり、重症度が見落とされやすい。圧迫解除後に急変し、高カリウム血症による心停止をきたすことがある(いわゆる「笑顔の死」)。 ・患肢の腫脹、知覚・運動麻痺、褐色尿がみられる。患肢の高度腫脹によりコンパートメント症候群を合併しうる。 ・進行すると急性腎障害、ショック、播種性血管内凝固(DIC)、急性呼吸窮迫症候群などを経て多臓器不全に至る。
治療の要点
・救出前(圧迫解除前)からの大量輸液(カリウムを含まない細胞外液、生理食塩液など)。 ・心電図モニターと高カリウム血症への対応。 ・十分な尿量の確保。重症例では血液透析を行う(高カリウム血症、急性腎障害への対応)。 ・コンパートメント症候群に対しては筋膜切開を検討する。 ・大規模災害では多数発生するため、被災地外への広域搬送と透析施設の確保が重要となる(阪神・淡路大震災で注目された)。
カルシウムの経過
乏尿期には低カルシウム血症、回復期(利尿期)には沈着していたカルシウムの再動員や二次性副甲状腺機能亢進の影響で高カルシウム血症を呈することがある。
POINT
・挫滅症候群は圧迫解除後の再灌流により、筋細胞内の物質(カリウム、ミオグロビン、CK、リン)が血中に流出する病態である。 ・血漿成分の筋内漏出で循環血漿量が減少し、ヘマトクリットは上昇する。 ・カルシウムは損傷筋へ流入・沈着して低下する(高値にならない)。代謝性アシドーシスでHCO3-も低下する。 ・高カリウム血症による心停止とミオグロビンによる急性腎障害が二大死因であり、救出前からの大量輸液が治療の基本。
