迷わず打て、太ももに―アナフィラキシーとアドレナリンの正しい使い方
第117回医師国家試験 E問題 第18問
国試問題にチャレンジ
アナフィラキシーにおけるアドレナリン投与について適切なのはどれか。
- a.皮下に投与する。
- b.妊婦には使用しない。
- c.自己注射が認められている。
- d.不整脈がある場合は使用しない。
- e.ショックになってから投与する。
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
アナフィラキシーの第一選択薬はアドレナリンで、α1作用による血管収縮、β1作用による心収縮力増強、β2作用による気管支拡張とメディエーター放出抑制を同時にもたらします。投与は大腿前外側部への筋肉内注射が標準で、0.01 mg/kg(成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg)を、ショックを待たずアナフィラキシーと判断した時点でただちに行い、効果不十分なら5〜15分ごとに反復します。妊婦や不整脈・心疾患のある患者にも絶対的禁忌はなく、医療機関外では本人や保護者らによる自己注射薬(エピペン®)の使用が認められており、教職員や救急救命士が代わりに使用することも可能です。注射後も二相性反応に備えて医療機関を受診させること、β遮断薬内服中で反応が乏しい場合にはグルカゴンを考慮することも臨床上重要です。「疑ったらすぐ筋注」という原則を正しく理解することは、院内外を問わず患者の命を救う基本的な力になります。
解答・解説
正解はcです
アナフィラキシーは、アレルゲンなどへの曝露後に複数の臓器に急速に症状が現れ、生命を脅かしうる全身性の過敏反応である。血圧低下や意識障害を伴うものをアナフィラキシーショックとよぶ。治療の第一選択薬はアドレナリンであり、その使い方(投与経路・タイミング・禁忌の有無・投与者)を正しく理解しているかが本問の論点である。
アドレナリンが第一選択である理由
アドレナリンはα1受容体刺激による末梢血管収縮(血圧上昇・粘膜浮腫の軽減)、β1受容体刺激による心収縮力・心拍数の増加、β2受容体刺激による気管支拡張とマスト細胞(肥満細胞)からのメディエーター放出抑制を同時にもたらす。抗ヒスタミン薬や副腎皮質ステロイドはこれらの作用をもたず、効果発現も遅いため、補助的な位置づけにとどまる。
標準的な投与法
・経路: 大腿中央の前外側部(外側広筋)への筋肉内注射 ・用量: 0.01 mg/kg(1 mg/mL製剤で0.01 mL/kg)、最大で成人0.5 mg、小児0.3 mg ・反復: 効果が不十分なら5〜15分ごとに再投与できる ・タイミング: アナフィラキシーと判断した時点で、ショックに陥る前にただちに投与する これらを踏まえ、各選択肢の記述が上記の原則に合致するかを判断する。医療機関外では患者本人や家族らによる自己注射(アドレナリン自己注射薬)が認められている点が正解の根拠となる。
選択肢考察
- ×a. 皮下に投与する。
誤り。推奨される経路は大腿前外側部への筋肉内注射である。筋肉は皮下組織より血流が豊富であり、筋注のほうが血中濃度の立ち上がりが速く、最高濃度にも早く達する。さらに皮下ではアドレナリン自身の血管収縮作用により局所の血流が低下し、吸収が遅れやすい。かつては皮下注が行われることもあったが、現在は筋注が標準である。なお、静脈内投与は心停止時や筋注を反復しても反応しない場合など、モニター監視下で専門家が行う場面に限られ、不整脈や高血圧緊急症を起こす危険があるため初期対応としては用いない。
- ×b. 妊婦には使用しない。
誤り。妊婦がアナフィラキシーを起こした場合もアドレナリンは第一選択であり、投与をためらってはならない。母体の低血圧や低酸素血症は子宮胎盤血流を低下させ、胎児の低酸素につながる。胎児を守るうえでも、まず母体の循環と呼吸を速やかに回復させることが最優先となる。アナフィラキシーという生命の危機に対しては、アドレナリンに絶対的な禁忌はない。
- ○c. 自己注射が認められている。
正しい。アナフィラキシーの既往がある人や、発症の危険が高い人(重症の食物アレルギー、ハチ毒アレルギーなど)には、アドレナリン自己注射薬(エピペン®)が処方される。医療機関に到着するまでの間に、本人または保護者が大腿前外側部に筋注できるよう設計された補助治療剤であり、衣服の上からでも注射できる。日本では体重に応じて0.15 mg製剤と0.3 mg製剤が使い分けられる。本人が注射できない状況では、居合わせた教職員や保育士、救急救命士が代わりに注射することも認められている。注射後は症状が改善しても、必ず医療機関を受診させる(症状が再燃する二相性反応がありうるため)。
- ×d. 不整脈がある場合は使用しない。
誤り。アナフィラキシーに伴う頻脈や不整脈は、多くが急激な血管拡張・血管透過性亢進による循環血液量減少や低酸素など、循環虚脱そのものによって生じている。アドレナリンで循環を立て直すことが、不整脈への対処にもなる。アドレナリンには催不整脈作用があるため、心疾患の既往がある患者や高齢者では注意深い観察が必要だが、それを理由に投与を控えるべきではない。アナフィラキシーでは、アドレナリンを投与することの利益が副作用のリスクを大きく上回る。
- ×e. ショックになってから投与する。
誤り。アドレナリンはアナフィラキシーと判断した時点でただちに投与する。投与の遅れは死亡の危険因子として知られており、ショックに陥ってからでは効果が得にくくなる。皮膚・粘膜症状に加えて、喘鳴・呼吸困難・繰り返す嘔吐や持続する腹痛・血圧低下・意識障害などの症状が一つでも出現していれば、ショックに至る前でも投与の適応となる。エピペン®を処方された人については、日本小児アレルギー学会が「一般向けエピペン®の適応」として13の症状(呼吸器、消化器、全身の症状)を示しており、そのいずれかがあれば使用するよう指導される。
アナフィラキシーの初期対応の流れ
1. 助けを呼び、原因と考えられる物質(薬剤の点滴など)を中止する 2. 気道・呼吸・循環・意識を評価する 3. アドレナリン0.01 mg/kgを大腿前外側部に筋注する(成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg) 4. 仰臥位にして下肢を挙上する(呼吸困難があれば上体を起こした楽な体位、嘔吐があれば回復体位、妊婦は左側臥位)。急に立たせたり座らせたりしない(静脈還流が低下し急変することがある) 5. 酸素投与、静脈路を確保し細胞外液(生理食塩液など)を急速輸液する 6. 必要に応じて心肺蘇生を行う 7. 補助的に抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)、副腎皮質ステロイド、気管支拡張薬(β2刺激薬吸入)を用いる
β遮断薬内服中の患者
β遮断薬を内服している患者ではアドレナリンへの反応が弱いことがある。この場合はアドレナリンに加えてグルカゴンの静注が考慮される。グルカゴンはβ受容体を介さずに細胞内cAMPを増加させ、心収縮力を高めるためである。
二相性反応
初期症状がいったん治まった後、数時間(多くは12時間以内、ときに72時間以内)して再び症状が出現することがある。このため症状が改善した後も一定時間の経過観察が勧められる。ステロイドは二相性反応の予防を期待して用いられることがあるが、その有効性の根拠は十分ではない。
アドレナリン自己注射薬(エピペン®)
・0.15 mg製剤(おおむね体重15〜30 kg)と0.3 mg製剤(おおむね30 kg以上)がある ・処方には医師の登録が必要で、患者・家族への使用法の指導が求められる ・本人が打てない場合、学校・保育所の教職員などが代わりに注射しても、人命救助のための行為として医師法違反にはあたらないとの見解が示されている ・救急救命士も一定の条件のもとで、処方を受けている傷病者にエピペン®を使用できる
POINT
・アナフィラキシーの第一選択薬はアドレナリンである ・投与経路は大腿前外側部への筋肉内注射(皮下注ではない) ・用量は0.01 mg/kg、成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg。効果不十分なら5〜15分ごとに反復する ・ショックになるのを待たず、アナフィラキシーと判断したらただちに投与する ・妊婦、高齢者、心疾患・不整脈がある患者にも躊躇せず投与する(アナフィラキシーに対して絶対的な禁忌はない) ・医療機関外では自己注射薬(エピペン®)を本人・保護者らが使用できる
