StudyMed医師国家試験

腹部だけは「聴診が先」―腸の声を乱さない診察の順番

第117回医師国家試験 E問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第117回 E問題 第15問

視診後の腹部診察順として正しいのはどれか。

  1. a.触診 → 打診 → 聴診
  2. b.触診 → 聴診 → 打診
  3. c.打診 → 聴診 → 触診
  4. d.打診 → 触診 → 聴診
  5. e.聴診 → 打診 → 触診

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、視診のあとに腹部をどの順番で診察するかを問う問題だ。ポイントは、それぞれの手技が腸にどんな刺激を与えるか、そして患者さんにどれだけ痛みや緊張を与えうるか。この2点から順番を組み立ててみよう。
医学生医学生
胸部の診察は視診、触診、打診、聴診の順でしたよね。腹部も同じでしょうか。
ドクタードクター
そこがまさにひっかけどころなんだ。胸部や心臓はその順番だけれど、腹部では視診のあと聴診、打診、触診の順になる。聴診だけが前に来るんだよ。
医学生医学生
なぜ腹部だけ順番が変わるんですか。
ドクタードクター
腹部の聴診で一番聴きたいのは腸蠕動音だよね。打診で腹壁を叩いたり、触診で押したりすると、腸管に機械的な刺激が加わって蠕動が誘発されたり変化したりする。そうなると、腸の本来の動きを正しく評価できなくなる。だから刺激を加える前に、まず聴診器を軽く当てて聴くんだ。
医学生医学生
なるほど。触診を先にしてから聴診する順番は、腸を刺激したあとの音を聴いていることになるんですね。
ドクタードクター
その通り。触診から始める順番は、その点で不適切だ。打診から始めて聴診をあとに回す順番も同じ理由で外れる。打診も軽いとはいえ腸への刺激になるからね。打診、触診、聴診の順は胸部の発想に引っ張られた並びで、聴診を最後にしている点が腹部では誤りだ。
医学生医学生
打診、聴診、触診の順なら、触診が最後なので惜しい気がします。
ドクタードクター
触診を最後に置いているのは正しいけれど、打診が聴診より先になっているから、やはり誤りだ。結局、正解は聴診、打診、触診の順。刺激の少ない手技から順に行うと覚えるとわかりやすい。
医学生医学生
触診が最後なのは、痛みが出やすいからでしょうか。
ドクタードクター
そう。触診は圧痛や腹膜刺激症状を調べる手技だから、痛みを誘発しやすい。先に痛みを与えると患者さんが身構えて腹壁が緊張し、そのあとの所見がとりにくくなる。触診の中でも、痛む部位は最後に触れるのが原則だ。
医学生医学生
各手技で何をみるかも整理したいです。聴診は腸蠕動音だけですか。
ドクタードクター
腸蠕動音の有無、頻度、性状に加えて、血管雑音もみる。正常の蠕動音はおよそ5〜15秒ごとに断続的に聴こえる。亢進は下痢や腸閉塞の初期、高調な金属音は機械的腸閉塞、減弱や消失は麻痺性イレウスや汎発性腹膜炎を示唆する。消失と判断するには数分以上聴く必要があるよ。血管雑音は腹部大動脈瘤や腎動脈狭窄で聴かれることがある。
医学生医学生
消化器内科の実習で、イレウスの患者さんの金属音を聴かせてもらいました。普段の音とまったく違って驚きました。
ドクタードクター
一度聴くと忘れないよね。打診では、腸管ガスによる鼓音と、実質臓器や液体、腫瘤による濁音の分布をみる。腹水なら側腹部の濁音や、体位で境界が動くshifting dullness、肝濁音界が消えていれば消化管穿孔による遊離ガスを考える。触診では浅い触診で圧痛や筋性防御を、深い触診で臓器腫大や腫瘤を評価し、反跳痛やMurphy徴候、McBurney点の圧痛なども確認する。
医学生医学生
CBTでは順番だけ覚えていましたが、理由とセットだと忘れなさそうです。
ドクタードクター
それが一番だね。最後に準備の注意点も押さえておこう。患者さんは仰臥位で膝を軽く曲げてもらい、腹筋の緊張を和らげる。腹部は剣状突起から鼠径部までしっかり出し、手や聴診器は温めておく。検者は通常、患者さんの右側に立つ。冷たい手で触れるだけでも腹壁は緊張するから、こうした配慮が所見の質を左右するんだ。

まとめ

腹部の診察は視診のあと、聴診、打診、触診の順に行います。胸部や心臓では視診、触診、打診、聴診の順ですが、腹部では打診や触診の刺激で腸蠕動音が変化するのを避けるため、聴診を先に行います。聴診では腸蠕動音と血管雑音、打診では鼓音と濁音の分布から腸管ガスや腹水、臓器の大きさ、触診では圧痛や腹膜刺激症状、臓器腫大や腫瘤を評価し、痛みを生じやすい触診は最後に、痛む部位はさらにその最後に触れます。順番を「刺激の少ない手技から」という理由とあわせて理解しておくことで、OSCEでも臨床の現場でも、正確な所見を得られる診察が身につきます。

解答・解説

正解はeです

腹部の身体診察を行う順序を問う一般問題である。

原則

胸部の診察が視診→触診→打診→聴診の順で行われるのに対し、腹部では視診→聴診→打診→触診の順で行う。腹部だけ聴診が前に来る理由は、打診や触診で腹壁や腸管に機械的な刺激が加わると腸蠕動が誘発・変化し、本来の腸蠕動音(腸雑音)を正しく評価できなくなるためである。

各手技の目的

・聴診:腸蠕動音の有無・頻度・性状(亢進、減弱・消失、金属音など)と、血管雑音(腹部大動脈瘤、腎動脈狭窄など)の有無をみる。 ・打診:鼓音(ガス)と濁音(実質臓器、液体、腫瘤)の分布から、腸管ガスの貯留、腹水、肝・脾の大きさなどを評価する。 ・触診:圧痛の部位、筋性防御や反跳痛などの腹膜刺激症状、肝脾腫、腫瘤、ヘルニアなどを調べる。痛みを伴う可能性が最も高く、腹壁の緊張を招きやすい手技であるため最後に行い、痛む部位は最後に触れる。 したがって、視診後は「聴診→打診→触診」の順となる。

選択肢考察

  1. ×a.  触診 → 打診 → 聴診

    誤り。聴診が最後になっている。触診と打診で腸管を刺激した後に聴診すると、腸蠕動音が亢進するなど変化してしまい、腸管本来の動きを評価できない。また、触診で痛みを与えると患者が緊張し、その後の診察の精度も落ちる。

  2. ×b.  触診 → 聴診 → 打診

    誤り。最初に触診を行っているため、その刺激で腸蠕動音が変化した状態で聴診することになる。触診は痛みを誘発し腹壁の緊張を招きやすいため、腹部診察では最後に行う。

  3. ×c.  打診 → 聴診 → 触診

    誤り。触診を最後にしている点は正しいが、打診を聴診より先に行っている。打診で腹壁を叩くことも腸管への刺激となり、腸蠕動音を変化させうるため、聴診は打診より前に行う。

  4. ×d.  打診 → 触診 → 聴診

    誤り。胸部診察(視診→触診→打診→聴診)の発想に近い順序であるが、腹部では打診・触診の刺激で腸蠕動音が変化するため、聴診を最後に回すのは不適切である。

  5. ○e.  聴診 → 打診 → 触診

    正しい。まず刺激を加える前に聴診器を腹壁に軽く当てて腸蠕動音と血管雑音を聴取し、次に打診で鼓音・濁音の分布から腸管ガスや腹水、肝・脾の大きさを評価し、最後に触診で圧痛、腹膜刺激症状、臓器腫大、腫瘤などを調べる。刺激の少ない手技から順に行い、痛みを生じうる触診を最後にすることで、各所見を正確に得られる。

腹部診察の準備

患者は仰臥位とし、膝を軽く曲げて腹筋の緊張を和らげる。腹部は剣状突起から鼠径部まで十分に露出し、検者の手や聴診器は温めておく。検者は通常患者の右側に立つ。

聴診

・腸蠕動音:正常ではおよそ5〜15秒ごとに断続的に聴かれる。亢進は下痢や腸閉塞初期、金属音(高調な音)は機械的腸閉塞、減弱・消失は麻痺性イレウスや汎発性腹膜炎を示唆する。消失の判断には一定時間(数分)以上の聴取が必要である。 ・血管雑音:腹部大動脈瘤や、腎動脈狭窄(腎血管性高血圧)では臍周囲〜上腹部に血管雑音を聴取することがある。

打診

・正常では腸管ガスによる鼓音が主体である。 ・腹水:側腹部の濁音、体位で境界が移動する濁音(shifting dullness)、波動(fluid wave)で評価する。 ・肝臓の上下径や脾腫(Traube三角の濁音化など)の評価、腸閉塞時の著明な鼓音、肝濁音界の消失(消化管穿孔による遊離ガス)などをみる。

触診

・浅い触診で圧痛や筋性防御を、深い触診で臓器腫大や腫瘤を評価する。 ・腹膜刺激症状(反跳痛、筋性防御)、Murphy徴候、McBurney点圧痛など疾患特有の所見を確認する。

他部位との比較

胸部・心臓:視診→触診→打診→聴診。腹部だけが聴診を先に行う点が特徴である。

POINT

・腹部診察は視診→聴診→打診→触診の順。 ・聴診を先に行うのは、打診・触診の刺激で腸蠕動音が変化するのを避けるため。 ・触診は痛みや緊張を招きやすいので最後に行い、痛む部位は最後に触れる。 ・胸部の診察順(視診→触診→打診→聴診)と混同しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。