ズキンズキンの正体―片頭痛を「性別・時間帯・痛み方・薬」で群発頭痛と見分ける
第109回医師国家試験 I問題 第40問
国試問題にチャレンジ
片頭痛で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.男性に多い。
- b.入眠中に多い。
- c.拍動性の痛みが多い。
- d.セロトニンが関与する。
- e.発作予防にトリプタンを用いる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
片頭痛は20〜40歳代の女性に多い一次性頭痛で、片側性・拍動性・中等度以上の痛みが日常動作で増悪し、悪心・嘔吐や光過敏・音過敏を伴って4〜72時間続きます。日中や起床時に多く、睡眠中に激痛で目覚める男性の頭痛はむしろ群発頭痛を考えます。病態にはセロトニンと三叉神経血管系(CGRP)が関与し、5-HT1B/1D受容体作動薬であるトリプタンは発作を止める急性期治療薬であって、予防にはロメリジン、プロプラノロール、バルプロ酸、アミトリプチリン、抗CGRP抗体などを用います。トリプタンは血管収縮作用のため虚血性心疾患などで禁忌となり、使いすぎは薬剤の使用過多による頭痛を招く点にも注意が必要です。三つの一次性頭痛を性別・時間帯・痛みの性状・随伴症状で対比して整理しておくことが、試験だけでなく頭痛外来や救急での的確な判断につながります。
解答・解説
正解はc, dです
片頭痛は、緊張型頭痛・群発頭痛と並ぶ代表的な一次性頭痛(脳腫瘍やくも膜下出血など明らかな原因疾患のない頭痛)である。本問は片頭痛の疫学(好発する性・年齢)、発作の起こりやすい時間帯、痛みの性状、病態生理、治療(急性期治療と予防療法の区別)を総合的に問うている。 解答にあたっては、三つの一次性頭痛を対比して覚えておくと整理しやすい。 ・片頭痛:若年〜中年の女性に多い。片側性で拍動性の中等度〜重度の頭痛が4〜72時間続き、悪心・嘔吐、光過敏・音過敏を伴い、体を動かすと増悪する。 ・緊張型頭痛:最も頻度が高い。両側性の締め付けられるような非拍動性の頭痛で、随伴症状は乏しい。 ・群発頭痛:20〜40歳代の男性に多い。一側の眼窩部周囲の激痛が15分〜3時間続き、流涙・結膜充血・鼻漏などの自律神経症状を伴う。夜間睡眠中に起こりやすい。 片頭痛の病態にはセロトニン(5-HT)が深く関わっており、急性期治療薬トリプタンはセロトニン受容体(5-HT1B/1D)作動薬である。トリプタンは「起きた発作を止める薬」であり、「発作を予防する薬」とは区別して覚える必要がある。
選択肢考察
- ×a. 男性に多い。
片頭痛は女性に多い。日本の疫学調査では有病率は人口の約8%で、女性は男性の約3〜4倍多い。特に20〜40歳代の女性に多く、この年代の女性ではおよそ5人に1人が片頭痛をもつとされる。月経に関連して発作が起こりやすい(月経関連片頭痛)ことから、エストロゲンの変動が発作の誘因の一つと考えられている。男性に多い一次性頭痛は群発頭痛であり、混同しないようにする。
- ×b. 入眠中に多い。
片頭痛は日中や起床時(朝方)に起こることが多く、入眠中に好発する頭痛とはいえない。睡眠不足や寝過ぎも誘因となるため、週末の朝寝坊後に起こる頭痛もよく知られている。睡眠中、特に入眠後1〜2時間ほどして毎晩ほぼ決まった時刻に激痛で目が覚めるのは群発頭痛の特徴であり、レム睡眠との関連が指摘されている。
- ○c. 拍動性の痛みが多い。
片頭痛の典型的な痛みは「ズキンズキン」と脈打つような拍動性の痛みである。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の診断基準でも、片側性、拍動性、中等度〜重度の強さ、日常的な動作(階段の昇降など)による増悪の4項目のうち2項目以上を満たすことが挙げられている。痛みは片側のことが多いが両側のこともあり、名前とは異なり必ずしも片側とは限らない。さらに悪心・嘔吐か、光過敏と音過敏のいずれかの随伴症状を伴い、無治療では4〜72時間持続する。これに対し緊張型頭痛は非拍動性の圧迫感・締め付け感が特徴である。
- ○d. セロトニンが関与する。
片頭痛の発症にはセロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン:5-HT)が関与している。発作の前段階では血中セロトニン濃度が増加し、頭痛が始まると低下することが知られている。かつては、セロトニンによる頭蓋内血管の収縮が前兆を生じ、その後セロトニンが枯渇して血管が拡張することで拍動性頭痛が生じるという「血管説」で説明されていた。現在は、三叉神経が刺激されてCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などの神経ペプチドが放出され、硬膜の血管拡張と神経原性炎症が起こる「三叉神経血管説」が有力であり、セロトニンはこの過程を抑える方向に働く。トリプタンがセロトニン受容体を刺激して発作を頓挫させることも、セロトニンの関与を裏づけている。
- ×e. 発作予防にトリプタンを用いる。
トリプタンは発作が起きたときに使う急性期治療薬であり、予防薬ではない。5-HT1B受容体を介して拡張した硬膜血管を収縮させ、5-HT1D受容体を介して三叉神経からのCGRPなどの放出を抑えることで頭痛を止める。頭痛が始まってから早め(痛みが軽いうち)に服用するほど効果が高い。前兆の段階で服用しても効果は乏しいとされる。また使いすぎると薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)を起こすため、月10日以上の使用は避ける。発作予防には、カルシウム拮抗薬のロメリジン、β遮断薬のプロプラノロール、抗てんかん薬のバルプロ酸、三環系抗うつ薬のアミトリプチリン、近年では抗CGRP抗体などが用いられる。
片頭痛の分類
・前兆のない片頭痛:最も多い型。 ・前兆のある片頭痛:頭痛の前に5〜60分ほど続く可逆性の神経症状(前兆)が出る。代表的なのは閃輝暗点(視野にギザギザした光が現れ、その後見えにくくなる)で、ほかに感覚症状(しびれ)や言語症状もある。前兆の機序としては大脳皮質を神経活動の抑制がゆっくり広がる皮質拡延性抑制(cortical spreading depression)が考えられている。
誘因
月経、ストレスやその解放(週末)、睡眠不足や寝過ぎ、空腹、天候の変化、光・音・においの刺激、アルコール(特に赤ワイン)、チョコレートやチーズなどの食品が挙げられる。
治療
1. 急性期治療 ・軽度〜中等度:アセトアミノフェン、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬) ・中等度〜重度、または鎮痛薬が無効:トリプタン(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタン) ・悪心・嘔吐に対して制吐薬(メトクロプラミド、ドンペリドン)を併用 ・トリプタンが使えない例に対し、5-HT1F受容体作動薬のラスミジタンも用いられる ・トリプタンは血管収縮作用をもつため、虚血性心疾患、脳血管障害、コントロール不良の高血圧のある患者には禁忌である 2. 予防療法 発作の頻度が多い(目安として月2回以上、あるいは月6日以上)場合や急性期治療だけでは日常生活に支障がある場合に行う。ロメリジン、プロプラノロール、バルプロ酸、アミトリプチリンのほか、CGRPやその受容体に対するモノクローナル抗体(ガルカネズマブ、フレマネズマブ、エレヌマブ)が使われる。
緊張型頭痛・群発頭痛との比較
・緊張型頭痛:頻度最多、性差は小さい(やや女性に多い)。両側性、圧迫・締め付け感、軽度〜中等度、日常動作で悪化しない。 ・群発頭痛:男性に多い。一側眼窩部の激痛、15〜180分持続、結膜充血・流涙・鼻閉・鼻漏・眼瞼下垂(ホルネル徴候)を伴う。発作中はじっとしていられず動き回る。一定期間(群発期)に毎日のように起こり、夜間睡眠中に多い。急性期は純酸素吸入やスマトリプタン皮下注射、飲酒は誘因となる。
POINT
・片頭痛は若年〜中年の女性に多い(男性に多いのは群発頭痛)。 ・片側性・拍動性・中等度以上・日常動作で増悪し、悪心・嘔吐、光過敏・音過敏を伴い4〜72時間続く。 ・日中や起床時に多い。睡眠中に起こって目が覚める頭痛は群発頭痛を想起する。 ・病態にはセロトニンと三叉神経血管系(CGRP)が関与する。 ・トリプタン(5-HT1B/1D作動薬)は急性期治療薬。予防薬はロメリジン、プロプラノロール、バルプロ酸、アミトリプチリン、抗CGRP抗体など。
