消毒の前にやるべきこと―感染創は「採る」「洗う」から始まる
第119回医師国家試験 F問題 第59問
国試問題にチャレンジ
56歳の男性。左下腿の挫創を主訴に来院した。5日前に発生した地震で,倒れた家具が接触して受傷したが治療できずそのままにしていた。2日前から創部の痛みが悪化し膿性浸出液を認めるようになった。来院時の創部の写真を下に示す。 創部を消毒する前に行うのはどれか。2つ選べ。

- a.抗菌薬外用
- b.洗浄
- c.創部培養
- d.ドレーン留置
- e.縫合
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
受傷後に処置されず膿性浸出液や周囲の発赤腫脹を伴う創は感染創であり、処置は「創部培養の採取→洗浄・デブリドマン→消毒→抗菌薬の全身投与→開放創管理」が基本です。創部培養は消毒薬や抗菌薬で菌が死滅して起因菌がわからなくなる前に採取し、洗浄は膿や血液などの有機物で消毒薬の効果が落ちるのを防ぐために消毒の前に行います。感染創の一次縫合は感染を閉じ込めるため禁忌で、ドレーン留置は初期処置後に必要性を判断し、蜂巣炎を伴う場合は抗菌薬を外用ではなく全身投与します。土壌汚染が疑われる創では破傷風予防も必須で、急速な進行があれば壊死性軟部組織感染症を警戒します。処置の「順番」に理由があることを理解しておくと、救急外来や災害医療の現場で迷わず動けるようになります。
解答・解説
正解はb, cです
所見の整理
・56歳の男性。地震の際に倒れた家具が当たって左下腿に挫創を負った。 ・災害時で医療を受けられず、受傷から5日間未処置のまま放置されていた。 ・2日前から創部痛が増強し、膿性の浸出液(滲出液)が出ている。 ・写真では、下腿前面に痂皮や壊死組織を伴う不整形の創があり、その周囲から下腿全体、足背にかけて皮膚が光沢を帯びて発赤・腫脹している。
診断へのプロセス
受傷直後に洗浄されていない挫創は、土壌・異物・挫滅組織を含む汚染創である。一般に受傷後6〜8時間(ゴールデンタイム)を過ぎた汚染創では細菌が組織内で増殖し、感染が成立しやすい。本例は5日経過しており、疼痛増強・膿性浸出液・創周囲の広範な発赤腫脹から、創感染とそれに続く蜂巣炎(蜂窩織炎:皮下組織のびまん性化膿性炎症)を起こした感染創と判断できる。 なお、地震による受傷であることから圧挫症候群(クラッシュ症候群:重量物による長時間の圧迫解除後に、筋壊死からの高カリウム血症・ミオグロビン尿・急性腎障害を来す病態)も念頭に置くが、本例は家具が「接触」した外傷で長時間の圧迫の記載はなく、全身状態も安定しているため考えにくい。
設問の考え方
感染創の処置は、①創部培養の採取、②十分な洗浄(+壊死組織があればデブリドマン)、③必要に応じた消毒、④抗菌薬の全身投与、⑤開放創として管理し、感染が落ち着いてから閉鎖、という流れが基本である。設問は「消毒の前」に行うことを問うている。 ・創部培養は、消毒薬や抗菌薬が創に触れると菌が死滅・減少して起因菌を正しく同定できなくなるため、消毒より前に採取する必要がある。 ・洗浄は、膿・壊死物質・異物を物理的に除去する処置で、消毒薬は膿や血液などの有機物で効果が落ちるため、まず洗浄して創をきれいにしてから消毒を行う。 したがって消毒前に行うのは「洗浄」と「創部培養」である。そのほか、本例のように土壌で汚染された可能性のある創では、破傷風トキソイド・抗破傷風人免疫グロブリンの投与要否を接種歴から判断することも忘れてはならない。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬外用
膿や壊死組織が残った状態で外用薬を塗っても十分に効果を発揮しないうえ、創部培養より先に抗菌薬が創に触れると起因菌の検出が妨げられる。さらに本例は創周囲に広がる蜂巣炎を伴っており、外用薬では皮下に広がった感染を治療できない。感染創では培養採取後に抗菌薬を経静脈的に(全身的に)投与するのが原則であり、外用は洗浄・消毒など創の清浄化の後に補助的に考える処置である。
- ○b. 洗浄
創傷処置の基本は、まず大量の生理食塩液(または水道水)で創を洗い流し、膿・壊死物質・異物・細菌を物理的に減らすことである。消毒薬は膿や血液などの有機物があると不活化されて効果が落ちるため、洗浄で創を清浄化してから消毒しなければ意味がない。感染創ではさらに、壊死組織や異物を外科的に除去するデブリドマンを洗浄と合わせて行う。
- ○c. 創部培養
感染創では、起因菌の同定と薬剤感受性の確認のために創部から検体を採取して培養に出す。消毒薬や抗菌薬が先に創に触れると菌が死滅して偽陰性となるため、検体採取は消毒・抗菌薬投与より前に行う必要がある。培養結果に基づいて、まず経験的に開始した抗菌薬を感受性のある薬剤へ変更(最適化)できる。
- ×d. ドレーン留置
ドレーンは、膿瘍を切開排膿した後や創を閉鎖した際に、創の深部に膿・血液・浸出液が貯留して感染源となるのを防ぐ目的で留置する。洗浄・デブリドマン・消毒など初期処置が済んでから必要性を判断するものであり、消毒前に行う処置ではない。
- ×e. 縫合
感染創を一次的に縫合閉鎖すると、細菌と膿を創内に閉じ込めて膿瘍形成や感染の拡大を招くため禁忌である。感染創は開放創のまま洗浄・デブリドマン・抗菌薬で管理し、感染が鎮静化して良好な肉芽が形成されてから閉鎖する(遷延一次縫合や二次縫合)か、二次治癒(肉芽形成と辺縁からの上皮化による自然閉鎖)を待つ。消毒前に行う処置ではない。
創の分類と閉鎖の考え方
・清潔創・新鮮創:受傷後早期(目安6〜8時間以内、いわゆるゴールデンタイム)で汚染の少ない創。洗浄・デブリドマン後に一次縫合できる。 ・汚染創:土壌・異物などで汚染された創や、ゴールデンタイムを過ぎた創。十分な洗浄・デブリドマンを行い、一次縫合の可否を慎重に判断する。 ・感染創:すでに感染が成立した創(膿、発赤・腫脹・熱感・疼痛)。一次縫合は行わず開放創として管理する。
創傷処置の基本手順
1. 創の評価(深さ、異物、神経・血管・腱損傷の有無) 2. 感染創では消毒・抗菌薬投与前に創部培養を採取 3. 大量の生理食塩液または水道水による洗浄 4. デブリドマン:異物、挫滅・壊死・汚染組織を外科的に除去する 5. 必要に応じた消毒 6. 創閉鎖またはドレナージ・開放管理 7. 破傷風予防:接種歴と創の性状(汚染創か否か)から、破傷風トキソイドや抗破傷風人免疫グロブリンの投与を判断する
消毒について
消毒薬は細菌だけでなく創の修復を担う細胞(線維芽細胞など)にも障害性があるため、近年はきれいな創では消毒を最小限にし、洗浄を重視する考え方が主流である。また、ポビドンヨードなどの消毒薬は膿・血液などの有機物で効果が低下するため、消毒は必ず洗浄の後に行う。
蜂巣炎(蜂窩織炎)
真皮深層から皮下組織に及ぶびまん性の化膿性炎症で、主な起因菌は黄色ブドウ球菌とA群β溶血性連鎖球菌である。境界不明瞭な発赤・腫脹・熱感・圧痛を示し、治療は抗菌薬の全身投与と患肢の安静・挙上である。急速に拡大する疼痛や皮膚の紫斑・水疱、全身状態の悪化があれば壊死性軟部組織感染症(壊死性筋膜炎など)を疑い、緊急の外科的デブリドマンを考慮する。
災害時の外傷
大規模災害では医療アクセスが途絶し、本例のように外傷が長時間放置されて感染創化しやすい。圧挫症候群、破傷風、汚染水や土壌による特殊な感染にも注意が必要である。
POINT
・感染創の処置は「培養採取 → 洗浄・デブリドマン → 消毒 → 抗菌薬全身投与 → 開放創管理」が基本。 ・創部培養は、消毒薬・抗菌薬で菌が死滅する前に採取する。 ・消毒薬は膿や血液で効果が落ちるため、消毒の前に十分洗浄する。 ・感染創は一次縫合しない。蜂巣炎を伴う場合、抗菌薬は外用ではなく全身投与。 ・土壌汚染創では破傷風予防を忘れない。
