StudyMed医師国家試験

ショックの外傷患者、胸部の次はどこを撮る?―出血源を探す「ベッドサイドの3点セット」

第119回医師国家試験 C問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第119回 C問題 第8問

病院搬入時にショックを合併する鈍的外傷患者のエックス線撮影で,胸部とともに撮影する部位はどれか。

  1. a.頭部
  2. b.頸椎
  3. c.腹部
  4. d.骨盤
  5. e.大腿骨

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は外傷初期診療の問題だ。ショックを伴う鈍的外傷患者が運ばれてきたとき、初療室でまず何を確認するか。カギは「外傷患者のショックの原因は何か」と「その原因がどこに隠れているか」の2つ。日本の外傷初期診療の標準であるJATECの流れに沿って考えよう。
医学生医学生
救急科の臨床実習で、ABCDEの順に評価するprimary surveyを見学しました。
ドクタードクター
それが土台になる。A(気道)、B(呼吸)、C(循環)、D(中枢神経)、E(脱衣と保温)の順に、命に関わる異常を見つけてその場で対処する。今回の問題はCの評価にあたる。では、外傷患者のショックで一番多い原因は何かな。
医学生医学生
出血による循環血液量減少性ショックだと思います。
ドクタードクター
その通り。だからCでは、輸液などの蘇生を始めると同時に、出血源をすばやく探すことになる。外出血を除くと、大量出血を起こしうる場所は主に3か所ある。どこだと思う?
医学生医学生
胸と、お腹と……あとは足の骨折でしょうか。
ドクタードクター
惜しい。胸腔、腹腔、そして後腹膜だ。後腹膜出血の代表が骨盤骨折なんだよ。長管骨の骨折ももちろん出血源になるけれど、まずはこの3か所を押さえよう。
医学生医学生
その3か所を、どうやって短時間で調べるんですか。CTを撮れば一度に分かりそうですが。
ドクタードクター
そこが大事なポイント。循環が不安定な患者をCT室に移すのは危険で、「死のトンネル」と表現されることもある。だから初療室のストレッチャー上で、患者を動かさずにできる検査で出血源を絞り込む。それが胸部ポータブルエックス線、骨盤ポータブルエックス線、そしてFASTの3つだ。
医学生医学生
胸部エックス線で大量血胸、FASTで腹腔内出血を見る、という分担ですか。
ドクタードクター
そう。FASTでは心嚢液、モリソン窩や脾周囲、ダグラス窩の液体貯留を確認する。ところが後腹膜の出血はFASTでは評価しにくい。そこで骨盤エックス線で不安定型骨盤骨折の有無を確認するわけだ。したがって胸部とともに撮るのは骨盤になる。
医学生医学生
骨盤骨折でそんなに出血するんですね。整形外科の講義では、骨盤は頑丈な骨というイメージでした。
ドクタードクター
頑丈だからこそ、折れるほどの外力が加わったときは重症なんだ。不安定型骨盤骨折では、骨盤内の静脈叢や骨折面、内腸骨動脈の分枝から後腹膜腔へ出血し、数千mLに達して致死的になりうる。ほかの選択肢も確認しておこう。腹部エックス線はどうかな。
医学生医学生
腹腔内出血ならお腹を撮ればいい気もしますが……。
ドクタードクター
そう考えがちだけど、腹部単純エックス線は腹腔内出血の検出能が低く、外傷初期診療ではほとんど役に立たない。腹腔内出血はFASTで評価し、循環が安定すれば造影CTで臓器損傷を詳しく見る。
医学生医学生
頭部や頸椎はどうでしょう。鈍的外傷だと頭も首も気になります。
ドクタードクター
どちらも大切だけど、ショックの原因検索という点では優先度が低い。頭部単純エックス線では頭蓋内出血を描出できず、成人では頭蓋内出血がショックの原因になることはまずない。頭部の評価はCTで行い、原則として循環が安定した後のsecondary surveyで撮る。頸椎はまずカラーで保護し、画像評価はやはりsecondary surveyだ。頸髄損傷による神経原性ショックもあるけれど、外傷のショックはまず出血性として扱い、出血源を除外するのが先決だよ。
医学生医学生
大腿骨骨折も出血は多いと習いましたが、撮らないんですか。
ドクタードクター
片側で1,000mL前後出血しうる重要な出血源だね。ただ、変形や腫脹、異常可動性といった身体所見で推定できるから、ルーチンで撮る部位ではない。牽引副子などで固定し、詳しい画像評価は落ち着いてから行う。
医学生医学生
目で見て分かるものは身体所見で、隠れた出血源は画像とFASTで探す、という考え方ですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。最後に臨床での注意点。骨盤エックス線で不安定型骨盤骨折が見つかったら、シーツラッピングや骨盤バインダーで簡易固定して骨盤腔の容積を減らし、動脈性出血にはTAE、静脈性出血には後腹膜パッキングなどを組み合わせる。また、骨盤の動揺性をみる用手的な圧迫は出血を助長するおそれがあるから、繰り返さないのが原則だ。
医学生医学生
OSCEの外傷の練習で何気なく骨盤を押していましたが、気をつけます。
ドクタードクター
いい心がけだ。もう一つ、外傷のショックには緊張性気胸や心タンポナーデによる閉塞性ショックもある。緊張性気胸は画像を待たずに臨床診断で脱気・ドレナージを優先し、心タンポナーデはFASTで心嚢液を確認する。出血以外の原因も頭の片隅に置いておこう。

まとめ

ショックを伴う鈍的外傷では、原因の大半が出血であり、JATECのprimary survey(C:循環の評価)で蘇生と並行して出血源を探します。外出血以外の主な出血源は胸腔・腹腔・後腹膜の3か所で、初療室では患者を動かさずに胸部ポータブルエックス線(大量血胸)、骨盤ポータブルエックス線(不安定型骨盤骨折による後腹膜出血)、FAST(腹腔内出血・心嚢液)を行います。頭部・頸椎の画像評価や詳細なCTは循環が安定してからのsecondary surveyで行い、大腿骨骨折は身体所見から推定します。不安定型骨盤骨折が見つかれば簡易固定、TAE、後腹膜パッキングなどの止血戦略を早期に選べるため、「胸部と骨盤とFAST」の3点セットは外傷診療で命を救うための基本動作といえます。

解答・解説

正解はdです

問われていること

外傷初期診療で、ショックを伴う鈍的外傷患者が搬入されたとき、初療室ですぐに行うエックス線撮影は胸部のほかにどこか、という問題である。日本の外傷初期診療の標準手順であるJATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)の知識が前提となる。

primary surveyとC(循環)の評価

JATECでは、搬入直後にまずprimary survey(生命を脅かす異常を見つけて即座に対処する一次評価)を行う。評価の順番はA(Airway:気道)、B(Breathing:呼吸)、C(Circulation:循環)、D(Dysfunction of CNS:中枢神経の異常)、E(Exposure and Environmental control:脱衣による全身観察と保温)である。 外傷患者のショックの大部分は出血によるもの(循環血液量減少性ショック)である。そのためCの段階では、輸液などの蘇生を始めると同時に出血源をすばやく探す必要がある。大量出血を起こしうる部位は、外出血を除けば主に「胸腔」「腹腔」「後腹膜(骨盤骨折を含む)」の3か所であり、長管骨骨折も出血源となる。

ベッドサイドで行う3つの検査

この3か所を短時間に評価するため、初療室のストレッチャー上で以下を行う。 ・胸部ポータブルエックス線撮影:大量血胸、緊張性気胸の補助的確認、多発肋骨骨折、縦隔拡大など ・骨盤ポータブルエックス線撮影:不安定型骨盤骨折(後腹膜への大量出血の原因) ・FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma:外傷の超音波迅速評価):心嚢液貯留、腹腔内出血、胸腔内液体貯留 つまり、胸腔は胸部エックス線とFAST、腹腔はFAST、後腹膜は骨盤エックス線、という役割分担になっている。患者をCT室へ移すことは、循環が不安定な状態では危険を伴う(「死のトンネル」と表現されることがある)ため、まずはベッドサイドで動かさずにできる検査で出血源を絞り込む。 以上より、胸部とともに撮影するのは骨盤である。

選択肢考察

  1. ×a.  頭部

    頭部単純エックス線撮影は、頭蓋内の出血や脳損傷を直接描出できないため、外傷診療で得られる情報はわずかである。頭部外傷が疑われる場合は、循環が安定した後のsecondary survey(全身を詳しく調べる二次評価)で頭部CTを行う。また成人では頭蓋内出血そのものが出血性ショックの原因になることはまずない。頭部が出血源となりうるのは頭皮裂創など外出血の場合であり、これはエックス線ではなく視診で確認し、圧迫止血する。なおD(中枢神経)の評価で切迫するD(GCS 8以下、急激な意識低下、脳ヘルニア徴候)があれば、secondary surveyの最初に頭部CTを行うが、これもエックス線撮影ではない。

  2. ×b.  頸椎

    頸椎・頸髄損傷は鈍的外傷で常に念頭に置くべきだが、primary surveyでは画像を撮るより先に頸椎カラーなどで頸椎を保護し、ショックの原因検索と蘇生を優先する。頸髄損傷では神経原性ショック(交感神経遮断による徐脈と低血圧)を起こすことがあるが、外傷患者のショックはまず出血性として扱い、出血源を除外することが先決である。頸椎の画像評価(現在はCTが主流)はsecondary surveyで行う。

  3. ×c.  腹部

    腹部単純エックス線撮影は腹腔内出血の検出能が低く、外傷初期診療での有用性は乏しい。ショックの原因となる腹腔内出血は、primary surveyの中でFASTにより、モリソン窩(肝腎境界)、脾周囲、ダグラス窩などの液体貯留として迅速に評価する。循環が安定していれば、その後の造影CTで臓器損傷を詳しく評価する。

  4. ○d.  骨盤

    不安定型骨盤骨折では、骨盤内の静脈叢、骨折面、内腸骨動脈の分枝などから後腹膜腔へ大量に出血し、数千mLに達して致死的な出血性ショックを来しうる。後腹膜出血はFASTで評価しにくいため、骨盤ポータブルエックス線撮影で骨折の有無と型を確認することがprimary surveyのC評価に組み込まれている。不安定型骨盤骨折が見つかれば、シーツラッピングや骨盤バインダーによる簡易固定、経カテーテル動脈塞栓術(TAE)、創外固定、後腹膜パッキングなどの止血戦略を早期に選択できる。なお、骨盤動揺性をみる用手的な圧迫手技は出血を助長するおそれがあるため、繰り返さないことが原則である。

  5. ×e.  大腿骨

    大腿骨骨折も片側で1,000mL前後の出血を来しうる重要な出血源だが、大腿の変形・腫脹・異常可動性など身体所見から推定でき、ルーチンにエックス線撮影する部位ではない。開放創からの外出血があればまず圧迫止血を行い、牽引副子などで固定する。骨折の確認や詳細な評価のためのエックス線撮影は、循環が落ち着いてからのsecondary surveyで行う。

JATECの診療の流れ

1. primary survey:ABCDEの順に生理学的異常を評価し、異常があれば直ちに蘇生処置を行う。 2. secondary survey:生理学的に安定してから、頭からつま先まで解剖学的な損傷を系統的に検索する。病歴聴取(AMPLE:Allergy、Medication、Past history/Pregnancy、Last meal、Events/Environment)、全身CTなどの詳細な画像検査を行う。 3. tertiary survey:入院後に見落とし損傷がないかを再評価する。

外傷性ショックの出血源

・外出血:視診で確認し、圧迫止血 ・胸腔:胸部エックス線、FAST ・腹腔:FAST ・後腹膜(骨盤骨折など):骨盤エックス線 ・長管骨骨折(特に大腿骨):身体所見

出血以外の外傷性ショック

閉塞性ショック(緊張性気胸、心タンポナーデ)や神経原性ショック(頸髄損傷)もあるが、緊張性気胸は臨床診断で胸腔ドレナージ(または緊急の脱気)を優先し、心タンポナーデはFASTで心嚢液を確認する。

骨盤骨折の初期対応

不安定型骨盤骨折による出血性ショックでは、骨盤の簡易固定で骨盤腔の容積を減らし、動脈性出血にはTAE、静脈性出血には後腹膜パッキングなどを組み合わせる。

POINT

・ショックを伴う外傷患者のprimary surveyでは、胸部・骨盤のポータブルエックス線撮影とFASTを行い、出血源を探す。 ・胸部エックス線は大量血胸、骨盤エックス線は不安定型骨盤骨折(後腹膜出血)、FASTは腹腔内出血・心嚢液を評価する。 ・頭部・頸椎・四肢の画像検査やCTは、循環が安定してからのsecondary surveyで行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。