近所付き合いはどこに入る?―ICFで脳出血後の暮らしを読み解く
第117回医師国家試験 C問題 第52問
国試問題にチャレンジ
64歳の男性。①脳出血で入院し,リハビリテーション後に,自宅に退院して1か月が経過した。現在は②右上下肢に軽度の運動麻痺が残存しており,杖歩行をしている。山間部の③過疎地域で④妻と2人で暮らしている。⑤近所付き合いはない。退院後は自宅で農業をしながら,年金で生活している。 下線部のうち国際生活機能分類〈ICF〉の生活機能における参加に分類されるのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ICFは「健康状態」「生活機能(心身機能・身体構造/活動/参加)」「背景因子(環境因子/個人因子)」から成り、各要素が双方向に影響し合う相互作用モデルです。疾患名は健康状態、麻痺などの身体の異常は心身機能・身体構造、歩行や食事などの個人の行為は活動、仕事や地域交流・近所付き合いなど社会的な場面への関わりは参加に分類されます。居住地域や家族、福祉用具、制度などは環境因子であり、否定的側面はそれぞれ機能障害・活動制限・参加制約と呼ばれます。本問では近所付き合いがないことが参加制約に当たります。ICFで生活全体を整理する視点は、リハビリテーションや在宅療養支援で多職種が目標を共有するための基盤となります。
解答・解説
正解はeです
症例の整理
64歳男性が脳出血の治療とリハビリテーションを終えて自宅へ戻り、1か月が経った場面である。後遺症として右片側の軽い運動麻痺があり、杖を使って歩いている。生活の場は山間部の過疎地域で、妻との二人暮らし、近所との交流はなく、農業を営みながら年金で暮らしている。
ICFの枠組みに当てはめる
国際生活機能分類〈ICF〉では、人の状態を「健康状態」「生活機能(心身機能・身体構造/活動/参加)」「背景因子(環境因子/個人因子)」に分けて整理する。下線部を一つずつこの枠に入れていけばよい。 ・①脳出血 → 病気そのものであり「健康状態」 ・②右上下肢の運動麻痺 → 身体の働きの問題であり「心身機能・身体構造」の障害(機能障害) ・③過疎地域 → 本人を取り巻く地域の条件であり「環境因子」 ・④妻と2人暮らし → 身近な人的環境であり「環境因子」 ・⑤近所付き合いがない → 地域社会という生活場面への関わりの問題であり「参加」(その制約)
考え方のコツ
「活動」は個人が行う具体的な動作や行為(歩く、食事をする、着替えるなど)、「参加」は家庭・地域・職場などの社会的な場面に関わり役割を果たすこと、と区別する。近所付き合いは地域社会との関係そのものであるため「参加」に分類される。なお、本文中の「杖歩行」や「農業をしている」は下線部ではないが、前者は活動、後者は参加(仕事という役割)の例として整理できる。
選択肢考察
- ×a. ①
脳出血は疾患・病態であり、ICFでは生活機能の外側に置かれる「健康状態」に該当する。健康状態は生活機能や背景因子と相互に影響し合う要素として図の最上部に描かれるが、参加には含まれない。
- ×b. ②
右上下肢の運動麻痺は、脳出血によって生じた身体機能の異常である。ICFでは「心身機能・身体構造」の領域に入り、その否定的な側面を「機能障害」と呼ぶ。参加ではない。
- ×c. ③
山間部の過疎地域に住んでいることは、医療・福祉サービスや交通機関へのアクセスなど、本人を取り巻く物理的・社会的条件を表す。ICFでは背景因子のうち「環境因子」に分類される。
- ×d. ④
妻と2人で暮らしていることは、家族という人的環境(介護や支援を担い得る人の存在)を示す。ICFでは背景因子のうち「環境因子」に分類され、生活機能の構成要素である参加には当たらない。
- ○e. ⑤
近所付き合いは、地域社会という生活・人生の場面に本人がどのように関わっているかを示す事柄であり、ICFの生活機能のうち「参加」に分類される。付き合いがないという状態は、参加が制限されている「参加制約」として捉えられる。
ICFの概要
ICFは世界保健機関〈WHO〉が2001年の総会で採択した、生活機能と障害の国際的な分類である。それ以前の国際障害分類〈ICIDH, 1980年〉が「機能障害→能力障害→社会的不利」という一方向の障害モデルであったのに対し、ICFは障害というマイナス面だけでなく、生きることの全体(生活機能)を中立的に捉え、各要素が双方向に影響し合う「相互作用モデル」をとる点が特徴である。
構成要素
1. 健康状態:疾病、外傷、妊娠、加齢、ストレスなど 2. 生活機能 ・心身機能・身体構造:生命維持に直接関わる身体・精神の働きや構造(例:筋力、視力、記憶、四肢の形態)。問題がある状態を「機能障害」という。 ・活動:課題や行為を個人が遂行すること(例:歩行、食事、入浴、更衣、家事)。問題がある状態を「活動制限」という。 ・参加:生活・人生場面への関わり、社会的な役割を果たすこと(例:仕事、家庭内の役割、地域活動、趣味の会、近所付き合い)。問題がある状態を「参加制約」という。 3. 背景因子 ・環境因子:その人を取り巻く物的・人的・社会的環境(例:住居の構造、福祉用具、家族、地域の社会資源、制度、人々の態度) ・個人因子:年齢、性別、生活歴、価値観、性格、職業歴など、その人固有の特徴
ICDとの関係
国際疾病分類〈ICD〉が病気や死因を分類するのに対し、ICFは生活機能と障害を分類する。両者はWHO国際分類ファミリーの中心分類として相互に補完し合う関係にある。
本症例を支える制度の観点
脳血管疾患は要介護となる主要な原因の一つである。64歳は介護保険の第2号被保険者(40〜64歳の医療保険加入者)にあたり、脳血管疾患は特定疾病に含まれるため、要介護認定を受ければ介護保険サービスを利用できる。過疎地域でのサービス資源の乏しさや、近所付き合いがないことによる地域の支援の弱さは、今後の在宅生活を考えるうえで重要な情報である。
POINT
・ICFは「健康状態」「生活機能(心身機能・身体構造/活動/参加)」「背景因子(環境因子/個人因子)」で構成され、各要素は相互に影響する。 ・疾患名は健康状態、麻痺などの身体の問題は心身機能・身体構造(機能障害)。 ・個人の具体的な動作(歩く、食べる)は活動、社会的な場面への関わり・役割(仕事、地域交流、近所付き合い)は参加。 ・住む地域、家族、福祉用具、制度などは環境因子。年齢・性別・生活歴などは個人因子。 ・否定的側面の呼び名:機能障害、活動制限、参加制約。
