一度減って、再び急増した死因―グラフが映す「老衰」と超高齢社会
第117回医師国家試験 C問題 第29問
国試問題にチャレンジ
我が国の主要死因別にみた死亡率(人口10万対)の推移を示す。 Aはどれか。

- a.自殺
- b.肺炎
- c.老衰
- d.肝疾患
- e.不慮の事故
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
我が国の主要死因別死亡率の推移で、戦後に高かった死亡率が長く低下し、2000年ごろを底に急増に転じた曲線は老衰です。死因診断の進歩で一度減少したものの、後期高齢者の増加や在宅・施設での看取りの普及により老衰と診断される死亡が増え、2018年以降は死因第3位となっています。肺炎は2017年の原死因選択ルールの明確化と誤嚥性肺炎の別集計で急減し、不慮の事故は1995年と2011年の大震災の年に突出、心疾患は1995年前後に一過性の低下を示すなど、曲線の形にはそれぞれ制度や社会の変化が反映されています。粗死亡率は高齢化の影響を強く受けるため年齢調整死亡率との違いも意識し、死亡診断書の記載が統計の基盤になることを理解しておくことが大切です。
解答・解説
正解はcです
本問は、人口動態統計に基づく主要死因別死亡率(人口10万対)の長期推移のグラフから、特定の曲線がどの死因に当たるかを読み取る問題である。
曲線Aの特徴
・終戦直後(1947年ごろ)は人口10万対約100と比較的高い。 ・その後は長期にわたり低下し、1990年代〜2000年ごろには20前後まで下がって横ばいとなる。 ・2000年代以降、急激に右肩上がりとなり、2019年ごろには再び100を超える水準に達している。
考え方
「一度大きく減少した後、2000年代以降に急増に転じた」死因を探せばよい。この形をとる代表が老衰である。戦後間もない時期は死因の診断が十分でなく、高齢者の死亡が老衰とされることが多かったが、医療の進歩とともに具体的な疾患名が診断されるようになり、老衰の死亡率は低下した。一方、2000年代以降は後期高齢者・超高齢者の急増と、在宅・施設での看取りの普及により、老衰と診断される死亡が急増している。 他の選択肢は、自殺・肝疾患がAほど大きな変動を示さないこと、不慮の事故は大災害の年に一過性の突出を示すこと、肺炎は高齢化により増加した後2017年に急減するという特徴的な形をとることから区別できる。 なお、グラフ内の他の主な曲線は、一貫して増加し最も高い水準にある悪性新生物、1995年前後に一過性の落ち込みと再上昇を示す心疾患、1960年代後半〜1970年ごろに最も高くその後減少する脳血管疾患、戦後に急激に減少した結核などである。
選択肢考察
- ×a. 自殺
自殺の死亡率は人口10万対でおおむね15〜25程度の範囲で推移してきた。1998年に急増して自殺者数が年間3万人を超え、その状態が2011年ごろまで続いた後、減少傾向となった。Aのように近年100を超える水準まで急上昇することはなく、該当しない。近年は死因順位でも10位以内に入っていない(若年層では死因の上位を占める点は重要である)。
- ×b. 肺炎
肺炎の死亡率は高齢化に伴って長期的に上昇し、2011年には脳血管疾患を抜いて死因の第3位となった。しかし2017年に大きく低下している。これは同年から原死因選択に関する国際疾病分類(ICD-10 2013年版)のルール明確化が適用され、死亡診断書に肺炎の記載があっても、その背景にある脳血管疾患や悪性腫瘍などの基礎疾患が原死因として選択されるようになったこと、さらに誤嚥性肺炎が死因順位上で別項目として集計されるようになったことの影響が大きく、肺炎そのものが減ったわけではない。Aには2017年の急減がみられず、該当しない。2019年の死因順位は第5位である。
- ○c. 老衰
老衰は戦後直後には死亡率が高かったが、医学の進歩により具体的な死因が診断されるようになって長く低下を続け、2000年ごろに底を打った。その後、後期高齢者の増加や、終末期の過剰な医療を避け自然な経過で看取る考え方の浸透などにより急増しており、Aの「減少後に2000年代から急上昇」という形に一致する。老衰は2018年に脳血管疾患を抜いて死因の第3位となり、以降第3位が続いている。
- ×d. 肝疾患
肝疾患の死亡率は人口10万対で十数程度の低い水準で比較的安定して推移しており、Aのような急激な増加はみられない。死因順位でも10位以内に入っていない。
- ×e. 不慮の事故
不慮の事故の死亡率はおおむね30前後で推移するが、阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)の年に一過性の鋭い突出がみられるのが特徴である。近年は高齢者の転倒・転落、窒息、溺死(浴槽内)などが多い。Aのような持続的な急上昇は示さず、該当しない。2019年の死因順位は第7位である。
近年の死因順位
2019年:第1位 悪性新生物(腫瘍)、第2位 心疾患(高血圧性を除く)、第3位 老衰、第4位 脳血管疾患、第5位 肺炎、第6位 誤嚥性肺炎、第7位 不慮の事故、第8位 腎不全、第9位 血管性等の認知症、第10位 アルツハイマー病。 2023年:第1位 悪性新生物、第2位 心疾患、第3位 老衰、第4位 脳血管疾患、第5位 肺炎、第6位 誤嚥性肺炎、第7位 不慮の事故、第8位 新型コロナウイルス感染症、第9位 腎不全、第10位 アルツハイマー病。
主要死因の推移の特徴(グラフの読み方)
・結核:戦後間もない時期は死因の第1位であったが、抗結核薬の普及や生活環境の改善により急速に減少した。 ・脳血管疾患:1951年から1980年まで死因の第1位であった。減塩指導や高血圧治療の普及で1970年ごろをピークに低下し、特に脳出血の減少が大きい。 ・悪性新生物:1981年以降死因の第1位であり、一貫して増加している(主に人口高齢化の影響。年齢調整死亡率では低下傾向)。 ・心疾患:1985年に第2位となった。1995年前後の一過性の低下は、1995年からのICD-10適用と、死亡診断書に「疾患の終末期の状態としての心不全・呼吸不全等は書かないこと」とする注意書きが加わったことによる。 ・肺炎:2011年に第3位となったが、2017年の原死因選択ルールの明確化(ICD-10 2013年版の適用)と誤嚥性肺炎の別集計により急減した。 ・老衰:2000年代以降急増し、2018年に第3位となった。 ・不慮の事故:1995年と2011年に大震災による突出がある。
粗死亡率と年齢調整死亡率
本問のグラフは人口10万対の粗死亡率であり、人口の高齢化の影響を強く受ける。悪性新生物や老衰の粗死亡率の上昇には高齢化の寄与が大きい。年齢構成の違いを補正した年齢調整死亡率でみると、悪性新生物や脳血管疾患はむしろ低下傾向にある。
POINT
・老衰の死亡率:戦後に低下 → 2000年ごろを底に急増 → 2018年から死因第3位。 ・肺炎:2011年に第3位になったが、2017年の原死因選択ルール明確化と誤嚥性肺炎の別集計で急減。 ・不慮の事故:1995年(阪神・淡路大震災)と2011年(東日本大震災)に突出。 ・心疾患:1995年前後の一過性低下は死亡診断書の注意書きとICD-10適用の影響。 ・現在の死因順位:悪性新生物 > 心疾患 > 老衰 > 脳血管疾患 > 肺炎。
