主役はいつも患者本人―リスボン宣言が守る「自己決定」のかたち
第117回医師国家試験 B問題 第25問
国試問題にチャレンジ
リスボン宣言の内容で誤っているのはどれか。
- a.患者には医療情報の提供を拒否する権利がある。
- b.患者には医学教育への参加を拒否する権利がある。
- c.自殺企図の患者の場合,患者の生命を救う努力をする。
- d.患者の情報は患者の死後も秘密が守られる必要がある。
- e.患者が未成年の場合,患者の意思よりも代理人の希望が優先される。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
リスボン宣言は1981年に世界医師会が採択した患者の権利に関する宣言で、患者の自己決定権を中核に据えています。未成年など法的無能力の患者でも法定代理人の同意に加えて本人を能力の許す限り意思決定に参加させ、合理的判断ができればその決定を尊重するとしており、代理人の希望が当然に優先するわけではありません。一方、情報を知らされない権利、医学研究・医学教育への参加拒否権、自殺企図で意識のない患者への救命努力、死後も続く守秘義務はいずれも宣言に明記されています。ジュネーブ宣言(医師の誓い)、ヘルシンキ宣言(研究倫理)と区別し、小児医療でのインフォームド・アセントなど実際の診療場面と結びつけて理解することが、臨床実習や将来の診療で患者と向き合う基盤となります。
解答・解説
正解はeです
リスボン宣言とは
「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」は、世界医師会(WMA:World Medical Association)が1981年にポルトガルのリスボンで開かれた総会で採択した宣言である。その後1995年(バリ)に大幅に改訂され、2005年(サンティアゴ)に編集上の修正、2015年(オスロ)に再確認されている。医師が患者に対して保障・尊重すべき権利を、医師の側から表明した文書であり、患者の自己決定権(自律)を中核に据えている点が特徴である。
本問の考え方
「誤っているのはどれか」を選ぶ問題である。リスボン宣言は一貫して「患者本人の意思を最大限尊重する」立場をとる。患者が未成年者などの法的無能力者であっても、法定代理人の同意を得ることを求める一方で、患者本人はその能力の許す範囲で最大限意思決定に関与させなければならないとし、本人が合理的な判断を下せるならその決定を尊重すべきとしている。したがって「代理人の希望が患者の意思よりも優先される」という記述は宣言の趣旨と逆であり、これが誤りの選択肢となる。 その他の選択肢(情報を知らされない権利、医学教育への参加拒否権、自殺企図で意識のない患者の救命努力、死後も続く守秘義務)は、いずれも宣言の条文に明記されている内容である。
選択肢考察
- ×a. 患者には医療情報の提供を拒否する権利がある。
正しい記述である。「情報に対する権利」の項で、患者は自分の医療記録や病状に関する情報を受け取る権利をもつと同時に、本人が明確に求めた場合には情報を知らされない権利(いわゆる「知らないでいる権利」)をもつと定めている。ただし、他人の生命を守るために必要な場合(例:感染症の伝播リスク)はこの限りではないとされる。
- ×b. 患者には医学教育への参加を拒否する権利がある。
正しい記述である。「自己決定の権利」の項で、患者は医学研究あるいは医学教育に参加することを拒否する権利をもつと明記されている。学生実習での診察などへの協力は任意であり、拒否しても診療上の不利益を受けない。
- ×c. 自殺企図の患者の場合,患者の生命を救う努力をする。
正しい記述である。「意識のない患者」の項では、本人の意思が確認できず法定代理人もいない緊急時には同意を推定して医療を行うことができ、事前の明確な拒否の意思表示がある場合は除くとされる。そのうえで、自殺企図によって意識を失っている患者については、医師は常にその生命を救うよう努めるべきであると定めている。
- ×d. 患者の情報は患者の死後も秘密が守られる必要がある。
正しい記述である。「機密保持を得る権利」の項で、患者の健康状態・診断・予後・治療などの個人情報は、患者の死後であっても秘密が守られなければならないとされている。ただし例外として、患者の子孫は自らの健康上のリスク(遺伝性疾患など)に関わる情報を知る権利をもちうると付記されている。
- ○e. 患者が未成年の場合,患者の意思よりも代理人の希望が優先される。
誤った記述であり、これが正解である。「法的無能力の患者」の項では、患者が未成年者などの法的無能力者である場合は法定代理人の同意が必要とされるが、それでも患者本人はその能力が許す限り意思決定に参加させなければならない。さらに、法的無能力者であっても合理的な判断ができる場合はその決定を尊重し、本人は法定代理人への情報開示を禁じる権利ももつとされる。また、代理人が患者の最善の利益に反して治療を拒否するような場合、医師は関係する法的機関等にその決定へ異議を申し立てるべきとされる。代理人の希望が無条件に本人の意思に優先するわけではない。
リスボン宣言の構成(11原則)
1. 良質の医療を受ける権利 2. 選択の自由の権利(医師・医療機関を選び、変更する権利、セカンドオピニオンを求める権利) 3. 自己決定の権利(検査・治療に同意または拒否する権利、医学研究・医学教育への参加を拒否する権利) 4. 意識のない患者(推定同意による救命、自殺企図患者の救命努力) 5. 法的無能力の患者(未成年者などでも能力に応じて意思決定に参加させる) 6. 患者の意思に反する処置(法律で特に認められ、医の倫理に合致する場合に限り例外的に行える) 7. 情報に対する権利(自分の情報を知る権利、知らされない権利、代わりに情報を受け取る人を選ぶ権利) 8. 機密保持を得る権利(死後も守秘、例外として子孫の健康リスク情報) 9. 健康教育を受ける権利 10. 尊厳に対する権利(苦痛の緩和、尊厳を保った終末期ケア) 11. 宗教的支援に対する権利(宗教的・倫理的な慰めを受け入れる、または拒否する権利)
関連する主な医の倫理に関する宣言
・ジュネーブ宣言(1948年):ヒポクラテスの誓いを現代化した、医師としての誓い。 ・ヘルシンキ宣言(1964年):人を対象とする医学研究の倫理原則(インフォームド・コンセント、倫理審査委員会など)。 ・リスボン宣言(1981年):患者の権利。 ・ニュルンベルク綱領(1947年):ナチスの人体実験への反省から生まれた人体実験の倫理原則(WMAの宣言ではない)。
未成年者の意思決定に関連する概念
小児医療では、保護者などの代諾者からインフォームド・コンセントを得るとともに、子ども本人にも年齢・理解力に応じて説明し、本人の了解(インフォームド・アセント)を得ることが求められる。これもリスボン宣言の「能力の許す限り本人を意思決定に参加させる」という考え方と一致する。
POINT
・リスボン宣言=患者の権利に関するWMAの宣言(1981年採択)。ヘルシンキ宣言(研究倫理)、ジュネーブ宣言(医師の誓い)と区別する。 ・未成年・法的無能力者でも、能力の許す限り本人を意思決定に参加させ、合理的判断ができればその決定を尊重する。代理人の希望が当然に優先するわけではない。 ・知らされない権利、医学研究・教育への参加拒否権、死後も続く守秘義務、自殺企図で意識のない患者の救命努力はいずれも宣言に明記されている。
