StudyMed医師国家試験

「飲んだから同意した」は通用しない―臨床試験のインフォームド・コンセントを本当に成立させるもの

第117回医師国家試験 B問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第117回 B問題 第22問

治療薬の効果に関するランダム化比較試験の試験参加について被験者の同意を取得したとみなされるのはどれか。

  1. a.研究に用いる薬物の服用
  2. b.研究を行う主治医の同意
  3. c.研究施設の倫理委員会の承認
  4. d.施設のホームページでの公示
  5. e.被験者への説明と同意文書の取得

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は臨床研究の倫理、特にランダム化比較試験に参加してもらうときの「同意」がテーマだ。着眼点はひとつ。誰が、いつ、どんな形で同意したことになるのか。選択肢には研究の正当性を支える手続きがいろいろ並んでいるけれど、それが本人の同意の代わりになるかどうかを見極めよう。
医学生医学生
医療倫理の講義でインフォームド・コンセントは習いましたが、倫理委員会が承認していれば十分なのかな、と一瞬迷いました。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけだね。まず前提を整理しよう。治療薬のランダム化比較試験は、研究者が被験者を無作為に群分けして、薬を使うかどうかを研究として決める「介入研究」だ。被験者は試験薬群と対照群のどちらに入るかを自分で選べないし、未知の副作用などのリスクも背負う。
医学生医学生
だからこそ、本人の自己決定権がいちばん大事になるわけですね。
ドクタードクター
その通り。同意を得たとみなされるには、研究の目的や方法、割付のこと、予想される利益と不利益、ほかの治療の選択肢、断っても不利益がないこと、いつでも撤回できることなどを本人に十分説明し、本人が理解したうえで自由意思で同意し、それを同意書への署名など文書で残す必要がある。つまり正解は「被験者への説明と同意文書の取得」だ。
医学生医学生
では研究に用いる薬を服用した、という事実はどうですか。黙って飲んだなら、納得していると考えられなくもない気がして。
ドクタードクター
そう考えたくなる気持ちは分かるけれど、これは許されない。同意は割付や投与より前に得るものだ。服薬という行動から「同意したはずだ」と後から推定するのは、内容やリスクを理解したうえでの意思表示とはいえない。説明と文書同意なしに研究目的で薬を投与すれば、本人の承諾のない人体実験になってしまう。
医学生医学生
研究を行う主治医の同意も違いますよね。主治医は研究する側の人ですし。
ドクタードクター
よく気づいたね。主治医の同意は研究者自身の判断にすぎない。同意するのは利益と危険を負う被験者本人で、本人に同意能力がない場合は代諾者だ。それに主治医と患者の間には力関係があるから、主治医が依頼するときこそ「断っても診療上の不利益はない」と明示することが求められる。
医学生医学生
臨床実習で内科を回ったとき、治験の説明に同席したことがあります。CRCさんが「参加しなくても今まで通りの治療を受けられます」と何度も強調していたのが印象的でした。
ドクタードクター
まさにその配慮が大事なんだ。次に倫理委員会の承認。倫理審査委員会は、研究計画の科学的妥当性、リスクと利益のバランス、説明文書や同意文書の内容、個人情報保護などを審査して、研究を実施してよいかを判断する。これは研究を始めるための前提条件であって、個々の被験者の同意に代わるものではない。
医学生医学生
承認と本人の同意、両方そろって初めて研究ができる、ということですね。最後のホームページでの公示は、オプトアウトのことでしょうか。
ドクタードクター
そう。研究の実施を公開して、拒否したい人に申し出の機会を与える方法がオプトアウトだ。わが国の倫理指針では、侵襲や介入を伴わず既存の診療情報や試料を使う研究などで、個別の同意取得が難しい場合に限って認められうる。薬を投与する介入研究では身体的なリスクがあるから、オプトアウトでは代用できない。
医学生医学生
カルテを後ろ向きに調べる観察研究なら公示で済むこともあるけれど、薬を飲んでもらう試験では絶対に個別の文書同意が必要、と整理できました。
ドクタードクター
完璧だ。少し発展的な話もしておこう。この考え方の源流は、ナチス・ドイツの人体実験への反省から生まれたニュルンベルク綱領で、被験者の自発的同意を絶対的な要件とした。その後、世界医師会のヘルシンキ宣言が、被験者の福祉は科学や社会の利益より優先されること、倫理委員会の事前審査、自由意思による同意、いつでも不利益なく撤回できることなどを定めている。
医学生医学生
国内のルールとしては、治験はGCP省令、それ以外は臨床研究法や倫理指針、という分け方でしたか。
ドクタードクター
おおむねその理解でいい。治験はGCP省令で文書による説明と同意が義務づけられているし、未承認・適応外の薬を使う研究などは臨床研究法の特定臨床研究として認定臨床研究審査委員会の審査を受ける。それ以外の多くの研究は倫理指針に従い、侵襲や介入の有無に応じて同意の手続きが決まる。
医学生医学生
小児や認知症の方のように、本人が十分に判断できない場合はどうするんでしょう。
ドクタードクター
代諾者から同意を得るとともに、本人にも理解力に応じて説明し、可能ならインフォームド・アセント、つまり本人の賛意を得る。臨床で大切なのは、同意書のサインはゴールではなく、参加中も質問に答え、撤回の意思を尊重し続けるプロセスだということだ。

まとめ

治療薬のランダム化比較試験は被験者にリスクを負わせる介入研究であり、被験者本人に目的・方法・割付・利益と不利益・撤回の自由などを十分に説明し、理解したうえでの自由意思による同意を文書で得て初めて、同意を取得したとみなされます。服薬の事実から同意を推定することはできず、主治医の同意や倫理審査委員会の承認は本人の同意の代わりにはなりません。ホームページでの公示によるオプトアウトが認められうるのは、侵襲や介入を伴わず既存情報を用いる研究などに限られます。この原則はニュルンベルク綱領やヘルシンキ宣言に由来し、国内ではGCP省令、臨床研究法、倫理指針によって具体化されています。同意は一度の署名で終わるものではなく、撤回の自由を保障し続けるプロセスであると理解することが、研究に関わる医師としての基本姿勢になります。

解答・解説

正解はeです

本問は、ヒトを対象とする臨床研究におけるインフォームド・コンセント(IC:十分な説明を受け、理解したうえでの自由意思による同意)の要件を問うている。 治療薬の効果をみるランダム化比較試験(RCT)は、研究者が被験者を無作為に群分けし、薬を投与するかどうかを研究として決める「介入研究」である。被験者は、自分が試験薬群と対照群のどちらに割り付けられるかを選べず、未知の副作用などのリスクも負う。そのため、被験者本人の自己決定権を守ることが最も重視され、次の要素がそろって初めて「同意を取得した」とみなされる。 1. 研究の目的・方法・予想される利益と不利益・割付の方法・他の治療の選択肢・同意撤回の自由などについて、被験者本人に十分な説明を行う。 2. 被験者が内容を理解し、強制や不当な影響のない状況で自発的に同意する。 3. その同意を文書(同意書への署名など)で記録する。 この観点で選択肢を見ると、被験者本人への説明と文書による同意の取得を示すeだけが要件を満たす。研究の妥当性を他者が認めること(主治医の同意、倫理委員会の承認)や、一方的な情報公開、あるいは行動からの推定(服薬の事実)は、いずれも本人の同意の代わりにはならない。

選択肢考察

  1. ×a.  研究に用いる薬物の服用

    誤り。同意は研究への参加(割付や試験薬の投与)より前に得ておかなければならない。被験者が薬を飲んだという事実は、研究の内容やリスクを理解したうえでの意思表示とはいえず、「飲んだのだから同意したはずだ」と後から推定することは許されない。適切な説明と文書同意を経ずに研究目的で薬を投与すれば、本人の承諾のない人体実験となり、重大な倫理違反である。

  2. ×b.  研究を行う主治医の同意

    誤り。主治医は研究を実施する側の人間であり、その同意はあくまで研究者自身の判断にすぎない。同意を与えるのは研究に参加して利益と危険を負う被験者本人(本人に同意能力がない場合は法定代理人などの代諾者)である。主治医の判断だけで参加を決められるとすれば、被験者の意思を無視した研究が可能になってしまう。また、主治医と患者の間には力関係があるため、主治医から依頼される場合でも、患者が断っても診療上の不利益を受けないことを明示する必要がある。

  3. ×c.  研究施設の倫理委員会の承認

    誤り。倫理審査委員会は、研究計画書をもとに、科学的妥当性、被験者のリスクと利益のバランス、説明文書・同意文書の内容、個人情報の保護などを審査し、研究を実施してよいかを判断する機関である。その承認は研究を開始するための前提条件であり、個々の被験者の同意に代わるものではない。研究の実施には、倫理委員会の承認と被験者本人のICの両方が必要である。

  4. ×d.  施設のホームページでの公示

    誤り。ホームページ等で研究の実施を公開し、拒否したい人に申し出の機会を与える方法を「オプトアウト」という。わが国の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」では、侵襲や介入を伴わず、すでに存在する診療情報や試料を用いる研究などで、個別に同意を得ることが困難な場合に限って、この方法が認められうる。しかし、薬物を投与する介入研究であるRCTでは、被験者に身体的なリスクが生じるため、オプトアウトで代用することは認められず、本人からの文書同意が必要である。

  5. ○e.  被験者への説明と同意文書の取得

    正しい。研究者が被験者本人に、研究の目的・方法・期間、ランダムに割り付けられること、予想される効果と副作用、他の治療法、参加を断っても不利益を受けないこと、いつでも同意を撤回できること、個人情報の扱い、健康被害が生じた場合の補償などを説明し、本人が理解したうえで自由意思に基づいて同意書に署名する。これがインフォームド・コンセントの取得であり、この時点で被験者の同意を得たとみなすことができる。医薬品の承認申請を目的とする治験を規定するGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)でも、文書による説明と文書による同意が義務づけられている。

臨床研究の倫理に関する主な規範

・ニュルンベルク綱領(1947年):ナチス・ドイツの人体実験への反省から生まれ、被験者の自発的同意を絶対的な要件とした。 ・ヘルシンキ宣言(世界医師会、1964年採択、その後改訂を重ね最新は2024年):ヒトを対象とする医学研究の倫理原則。主な内容は以下のとおり。  ・被験者の福祉・権利は、科学や社会の利益よりも優先される。  ・研究の目的の重要性が、被験者のリスクと負担を上回る場合にのみ実施できる。  ・研究開始前に研究計画書を倫理審査委員会に提出し、審査・承認を受ける。  ・研究への参加は自発的でなければならず、被験者は目的・方法・利益・リスクなどについて十分な説明を受ける。  ・自由意思によるインフォームド・コンセントは、望ましくは文書で得る。  ・参加の拒否や同意の撤回はいつでも不利益なく行える。  ・同意能力が十分でない人や、強制や不当な影響を受けやすい人(社会的弱者)には特別な配慮を要する。 ・ベルモント・レポート(米国、1979年):人格の尊重、善行、正義の3原則を示した。

わが国の法令・指針

・治験:医薬品医療機器等法とGCP省令に基づき実施され、文書による説明と同意が必須。 ・臨床研究法(2018年施行):未承認・適応外の医薬品等を用いる臨床研究や、製薬企業から資金提供を受けて行う臨床研究などを「特定臨床研究」とし、認定臨床研究審査委員会の審査やjRCT(臨床研究等提出・公開システム)への登録を義務づけた。 ・人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(2021年施行):上記以外の多くの臨床研究・観察研究に適用される。侵襲・介入の有無などに応じて、文書同意、口頭同意+記録、オプトアウトなどのIC手続きが定められている。

未成年・同意能力のない被験者

代諾者(親権者や法定代理人など)から同意を得るとともに、本人にも理解力に応じた説明を行い、可能であれば本人の賛意(インフォームド・アセント)を得ることが求められる。

POINT

・介入研究(RCTを含む)では、被験者本人への十分な説明と文書による同意(インフォームド・コンセント)が必須。 ・同意は参加前に得る。服薬の事実から同意を推定してはならない。 ・倫理審査委員会の承認は研究実施の前提条件であり、被験者の同意の代わりにはならない。 ・オプトアウト(ホームページ等での公開と拒否機会の提供)が認められうるのは、侵襲・介入のない既存情報を用いる研究などに限られる。 ・同意はいつでも不利益なく撤回できる(ヘルシンキ宣言)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。