その血は「咳」で出たか「嘔吐」で出たか―喀血と吐血を見分ける最初の一手
第117回医師国家試験 B問題 第2問
国試問題にチャレンジ
吐血よりも喀血を示唆する所見はどれか。
- a.悪心を伴う。
- b.咳嗽を伴う。
- c.食物残渣を伴う。
- d.タール便を伴う。
- e.暗赤色の色調である。
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
口から出た血液が喀血か吐血かを見分ける最大の手がかりは、咳とともに出たか、悪心・嘔吐とともに出たかという喀出様式です。喀血は鮮紅色・泡沫状・アルカリ性で痰が混じりやすく、吐血は胃酸でヘモグロビンが塩酸ヘマチンに変化するため暗赤色〜コーヒー残渣様・酸性となり、食物残渣やタール便を伴いやすいのが特徴です。ただし食道静脈瘤破裂では吐血でも鮮紅色となり、大量喀血を飲み込めば黒色便も生じうるため、単一の所見で決めつけず既往歴も含めて総合的に判断します。大量喀血では窒息の防止が最優先で、気道確保と出血側を下にした体位が重要です。出血源の見当をつけることは、胸部画像・気管支鏡か上部消化管内視鏡かという検査選択を左右する、救急初期対応の基本となります。
解答・解説
正解はbです
喀血と吐血の違い
喀血は、気管・気管支・肺など下気道(声門より下の呼吸器)からの出血を、咳とともに口から喀出することである。吐血は、食道・胃・十二指腸などの上部消化管からの出血を、嘔吐とともに口から吐き出すことである。どちらも「口から血が出てくる」ため、患者の訴えだけでは区別しにくく、出血源が呼吸器か消化器かで必要な検査(胸部X線・CT、気管支鏡か、上部消化管内視鏡か)も治療も大きく異なる。そのため、随伴症状と血液の性状から両者を見分けることが初期対応の第一歩となる。
鑑別の考え方
・どのように出てきたか: 咳とともに出れば喀血、悪心・嘔吐とともに出れば吐血を考える。 ・血液の性状: 喀血は空気と混じって泡沫状となり、鮮紅色でアルカリ性のことが多い。吐血は胃酸の作用を受けて暗赤色〜黒褐色(コーヒー残渣様)となり、酸性で、食物残渣が混じることがある。 ・随伴所見: 喀血では胸痛、呼吸困難、喘鳴、痰の混入など呼吸器症状を伴いやすい。吐血では心窩部痛や、腸管を通過した血液によるタール便(黒色便)を伴いやすい。 ・既往歴: 気管支拡張症・肺結核・肺癌などの肺疾患なら喀血、消化性潰瘍・肝硬変(食道静脈瘤)・NSAIDs内服などなら吐血を疑う。 このうち、呼吸器からの出血に特徴的で、喀血を最もよく示唆する所見は咳嗽である。
選択肢考察
- ×a. 悪心を伴う。
悪心は嘔吐に先行する消化器症状である。上部消化管出血では、胃内にたまった血液が胃を刺激して悪心・嘔吐を誘発し、血液を吐き出す(吐血)。したがって悪心の先行は吐血を示唆する所見である。
- ○b. 咳嗽を伴う。
気道内に出血すると、血液が気道を刺激して咳反射が起こり、その咳によって血液が口から喀出される。咳嗽とともに血液が出てくることは、出血源が下気道(気管・気管支・肺)にあることを示す最も重要な手がかりであり、喀血を示唆する。喀血では血液に泡や痰が混じることが多い点も合わせて確認する。
- ×c. 食物残渣を伴う。
食物残渣は胃内容物に含まれるものであり、血液と一緒に食物残渣が出てきた場合は、胃内容が嘔吐されたこと、すなわち上部消化管からの吐血を示唆する。気道からの喀出物には通常食物残渣は含まれず、代わりに痰や泡沫を伴う。
- ×d. タール便を伴う。
タール便(黒色便)は、上部消化管で出血した血液が胃酸や腸内細菌の作用を受けてヘモグロビンが黒色に変化し、便に混じって排出されたものであり、吐血を伴う上部消化管出血を示唆する。なお、大量の喀血で血液を飲み込んだ場合にも黒色便がみられることがあるため、タール便があっても喀血を完全に否定はできないが、所見としては吐血寄りである。
- ×e. 暗赤色の色調である。
胃内に貯留した血液は、胃酸によってヘモグロビンが塩酸ヘマチンに変化するため、暗赤色〜黒褐色(コーヒー残渣様)となる。したがって暗赤色の色調は吐血を示唆する。喀血では胃酸の影響を受けず、空気と混じるため鮮紅色・泡沫状であることが多い。ただし、食道静脈瘤破裂などで大量・急速に出血した場合は、吐血でも鮮紅色となることがある。
喀血と吐血の鑑別のまとめ
・出血源: 喀血=下気道(気管・気管支・肺)、吐血=上部消化管(主にTreitz靱帯より口側) ・喀出様式: 喀血=咳とともに、吐血=悪心・嘔吐とともに ・色調: 喀血=鮮紅色、吐血=暗赤色〜黒褐色(コーヒー残渣様) ・性状: 喀血=泡沫状、痰が混じる、吐血=凝血塊や食物残渣が混じる ・pH: 喀血=アルカリ性、吐血=酸性 ・随伴症状: 喀血=胸痛、呼吸困難、喘鳴、吐血=心窩部痛、タール便 ・既往: 喀血=呼吸器疾患、吐血=消化性潰瘍、肝疾患、飲酒、NSAIDs・抗血栓薬の内服など
用語
・血痰: 痰に血液が混じるか付着したもの。 ・喀血: ほぼ血液そのものを喀出するもの。大量喀血では出血量そのものより、血液による気道閉塞・窒息が生命を脅かすため、気道確保と出血側を下にした体位(健側肺への血液の流れ込みを防ぐ)が重要である。 ・鼻出血や口腔・咽頭からの出血を飲み込んだ後に吐き出したり、咳とともに出したりすることもあるため(偽喀血・偽吐血)、上気道の観察も忘れない。
喀血をきたす主な疾患
気管支拡張症、肺結核・非結核性抗酸菌症、肺アスペルギルス症(アスペルギローマ)、肺癌、肺炎・肺膿瘍、肺血栓塞栓症(肺梗塞)、肺動静脈奇形、びまん性肺胞出血(顕微鏡的多発血管炎、抗GBM病〈Goodpasture症候群〉など)、僧帽弁狭窄症などによる肺うっ血。
吐血をきたす主な疾患
胃・十二指腸潰瘍、食道・胃静脈瘤破裂、Mallory-Weiss症候群、急性胃粘膜病変、胃癌・食道癌など。
POINT
・咳嗽とともに出る → 喀血、悪心・嘔吐とともに出る → 吐血。 ・喀血: 鮮紅色、泡沫状、アルカリ性、痰の混入。 ・吐血: 暗赤色〜コーヒー残渣様、酸性、食物残渣の混入、タール便を伴いやすい。 ・暗赤色・黒色化は胃酸によるヘモグロビンの変化(塩酸ヘマチン)による。 ・大量喀血では窒息の防止(気道確保、出血側を下にした側臥位)が最優先である。
