肺はどこで育つのか―胸の「空間」を奪う横隔膜ヘルニアと肺低形成
第117回医師国家試験 B問題 第19問
国試問題にチャレンジ
肺低形成を合併する胎児疾患はどれか。
- a.水頭症
- b.二分脊椎
- c.臍帯ヘルニア
- d.横隔膜ヘルニア
- e.先天性食道閉鎖症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
胎児の肺の発育には、胸腔内の十分な空間、肺水による伸展刺激、十分な羊水量、胎児呼吸様運動が必要で、これらが損なわれると肺低形成が生じます。先天性横隔膜ヘルニアは腹腔内臓器が胸腔へ脱出して肺の発育空間を奪うため肺低形成を合併し、出生後は新生児遷延性肺高血圧症とあわせて予後を左右します。一方、臍帯ヘルニアは臓器が体外へ脱出し染色体異常や心奇形の合併が問題となり、食道閉鎖症は羊水過多を、水頭症や二分脊椎は中枢神経系の異常をきたしますが、いずれも肺低形成の典型的な原因ではありません。横隔膜ヘルニアの出生直後はバッグマスク換気を避けて気管挿管と胃管減圧を行い、全身状態を安定させてから待機的に手術します。「空間・羊水・呼吸様運動」という機序から整理すると、両側腎無形成などほかの肺低形成の原因も無理なく理解できます。
解答・解説
正解はdです
肺低形成とは
肺低形成は、胎児期の肺の発育が障害され、出生時に肺の容積・重量や気管支・肺胞・肺血管の数が不十分な状態である。出生後に呼吸不全や新生児遷延性肺高血圧症(PPHN:出生後も肺血管抵抗が下がらず、右左短絡が続いて低酸素血症が持続する病態)をきたし、重症例では救命が難しい。
胎児の肺が育つために必要なもの
胎児の肺の発育には、①胸腔内に肺が広がるための十分な空間、②肺内に満たされた肺水(肺胞液)による適度な内圧(伸展刺激)、③それを保つための十分な羊水量、④胎児呼吸様運動、が必要である。これらのいずれかが障害されると肺低形成が起こる。 ・胸腔内の空間占拠:先天性横隔膜ヘルニア、胎児胸水、先天性肺気道奇形(CPAM)などの胸腔内腫瘤 ・胸郭の狭小:致死性骨異形成症などの骨系統疾患 ・羊水過少:両側腎無形成(Potter連鎖)、多嚢胞性異形成腎、尿路閉塞、長期間の前期破水 ・胎児呼吸様運動の欠如:重症の神経筋疾患
考え方
選択肢のうち、上記の機序に該当するのは、腹腔内臓器が胸腔に脱出して肺の発育空間を奪う横隔膜ヘルニアである。他の選択肢は中枢神経系や腹壁・消化管の奇形であり、通常は胸腔内の空間や羊水量を減らす方向にはたらかないため、肺低形成の典型的な原因とはならない。
選択肢考察
- ×a. 水頭症
水頭症は脳脊髄液の産生・循環・吸収の障害により脳室が拡大する疾患で、胎児では中脳水道狭窄や開放性二分脊椎(脊髄髄膜瘤)に伴うChiari Ⅱ型奇形などが原因となる。頭蓋内の病変であり、胸腔の空間や羊水量、肺の発育には直接影響しないため、肺低形成は合併しない。
- ×b. 二分脊椎
二分脊椎は神経管の閉鎖不全により椎弓が欠損する奇形である。開放性二分脊椎(脊髄髄膜瘤)では下肢の運動・感覚障害、膀胱直腸障害、水頭症、Chiari Ⅱ型奇形を合併しやすい。予防として妊娠前からの葉酸摂取が推奨される。呼吸器の形成には影響せず、肺低形成の原因とはならない。
- ×c. 臍帯ヘルニア
臍帯ヘルニアは、胎生期に生理的臍帯ヘルニアとして臍帯内に出ていた腸管が腹腔内に戻らず、臍帯基部から腹部臓器がヘルニア嚢(羊膜と腹膜)に覆われて脱出した状態である。染色体異常(18トリソミーなど)、心奇形、Beckwith-Wiedemann症候群などを高率に合併するのが特徴で、合併異常の検索が予後を左右する。臓器は胸腔ではなく体外へ脱出するため、一般には肺低形成の原因とはならない(肝臓まで脱出する巨大な臍帯ヘルニアでは胸郭の発育不良を伴い呼吸障害をきたすことがあるが、典型的な合併症とはいえない)。
- ○d. 横隔膜ヘルニア
先天性横隔膜ヘルニアは、横隔膜の形成不全による欠損孔を通じて、小腸・大腸・胃・脾臓・肝臓などの腹腔内臓器が胸腔内へ脱出する疾患である。胎児期から脱出臓器が肺を圧迫して発育の場を奪うため、患側肺を中心に(縦隔が健側へ押されるため健側肺も含めて)肺低形成が生じ、肺血管床も減少して出生後に新生児遷延性肺高血圧症をきたす。肺低形成と肺高血圧の程度が予後を決める最大の因子である。大部分は後外側のBochdalek孔ヘルニアで、左側に多い。
- ×e. 先天性食道閉鎖症
先天性食道閉鎖症は食道が途中で途絶する奇形で、下部食道が気管とつながる気管食道瘻を伴うGross C型が最も多い。胎児が羊水を嚥下・吸収できないため羊水過多をきたし、胎児超音波で胃泡の描出不良がみられる。出生後は泡沫状の唾液の流出、哺乳時のむせ・チアノーゼ、誤嚥性肺炎が問題となる。VACTERL連合(椎体・肛門・心・気管食道・腎・四肢の異常)や心奇形、染色体異常を合併することがあるが、肺を圧迫する機序はなく、羊水もむしろ過多となるため肺低形成は合併しない。
先天性横隔膜ヘルニアの要点
・発生:横隔膜の形成は胎生早期に進み、胸腹膜裂孔の閉鎖が不完全だと欠損孔が残る。腸管が腹腔内に戻る時期に胸腔へ入り込み、肺の分枝形成が進む時期と重なるため肺低形成が生じる。 ・病型:後外側のBochdalek孔ヘルニアが大部分を占め、左側に多い(左側では肝臓が欠損孔をふさぎにくいためと説明される)。胸骨後方のMorgagni孔ヘルニアはまれで、症状が軽く年長になって見つかることもある。 ・胎児診断:胎児超音波で胸腔内に胃泡や腸管、心臓の健側(右方)偏位を認める。肺の大きさの評価(胎児の肺の面積と頭囲の比など)や、肝臓の胸腔内脱出の有無が重症度・予後の指標となる。羊水過多を伴うこともある。 ・出生後の症状:呼吸困難、チアノーゼ、患側呼吸音の減弱、腸蠕動音の胸部での聴取、舟状腹(腹部臓器が胸腔に移動するため腹部が陥凹する)。 ・出生直後の管理:バッグマスク換気は胃腸管に空気を送り込み肺をさらに圧迫するため避け、速やかに気管挿管を行い、胃管で減圧する。肺を傷つけない愛護的な人工呼吸、肺高血圧に対する一酸化窒素吸入療法、必要に応じて体外式膜型人工肺(ECMO)を用いて全身状態を安定させたうえで、待機的に根治手術(脱出臓器の還納と横隔膜の閉鎖)を行う。 ・重症例では、胎児鏡下に気管をバルーンで一時的に閉塞して肺内に肺水をためて肺の発育を促す胎児治療(FETO)が試みられている。
胎児期にみられる羊水量異常と疾患
・羊水過少:両側腎無形成、多嚢胞性異形成腎、下部尿路閉塞、前期破水、胎盤機能不全 → 肺低形成、Potter顔貌、四肢の拘縮をきたしうる。 ・羊水過多:食道閉鎖症、十二指腸閉鎖症などの上部消化管閉鎖、無脳症、胎児の嚥下障害をきたす神経筋疾患、母体糖尿病、双胎間輸血症候群の受血児など。
POINT
・肺低形成の原因:胸腔内の空間占拠(横隔膜ヘルニア、胎児胸水、胸腔内腫瘤)、胸郭の狭小(骨系統疾患)、羊水過少(両側腎無形成など)、胎児呼吸様運動の欠如。 ・先天性横隔膜ヘルニア:Bochdalek孔・左側に多い。予後は肺低形成と新生児遷延性肺高血圧症の程度で決まる。 ・出生直後はバッグマスク換気を避けて気管挿管、全身状態を安定させてから待機的に手術。 ・食道閉鎖症は羊水過多、臍帯ヘルニアは染色体異常・心奇形の合併が特徴。
