肺は真っ白、なのに血液は正常―急性好酸球性肺炎の「ズレ」を読み解く
第117回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
急性好酸球性肺炎について誤っているのはどれか。
- a.胸水貯留
- b.IL-5上昇
- c.末梢血好酸球数正常
- d.片側性すりガラス陰影
- e.気管支肺胞洗浄液中の好酸球数増加
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
急性好酸球性肺炎は、若年者の喫煙開始・再開後に急性発症し、呼吸不全に至りうる疾患です。画像は両側びまん性のすりガラス陰影・浸潤影に小葉間隔壁肥厚や少量胸水を伴い、肺水腫やARDSに似るため、片側性の陰影は典型像に合いません。発症初期の末梢血好酸球数は正常のことが多く回復期に上昇するのが特徴で、初期から増加する慢性好酸球性肺炎との重要な鑑別点になります。確定診断はBAL液中好酸球の著増(25%以上が目安)で行い、IL-5の上昇も認めます。ステロイドと禁煙で速やかに改善し再発はまれなので、若年者の急性呼吸不全では喫煙歴の聴取とBALを念頭に置くことが、見逃しを防ぐ鍵となります。
解答・解説
正解はdです
急性好酸球性肺炎(acute eosinophilic pneumonia:AEP)の臨床像を問う「誤っているもの」を選ぶ問題である。 AEPは、肺(肺胞・間質)に好酸球が急速に浸潤して、数日から1か月以内の経過で発熱、乾性咳嗽、呼吸困難をきたし、しばしば急性呼吸不全に至る疾患である。原因は特定されないことも多いが、喫煙の開始・再開や喫煙量の増加から数週間以内に発症する例が多く、喫煙との関連が強い。若年者に多い。 診断の要点は以下である。 ・画像:両側びまん性のすりガラス陰影・浸潤影に、小葉間隔壁の肥厚(胸部X線ではKerley B線)や少量の両側胸水を伴う。肺水腫や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に似た分布をとる。 ・血液:発症早期の末梢血好酸球数は正常のことが多く、回復期に遅れて増加する。この点が末梢血好酸球増多を伴う慢性好酸球性肺炎との大きな違いである。 ・気管支肺胞洗浄(BAL):BAL液中の好酸球比率の著増(一般に25%以上)が診断の決め手となる。好酸球の分化・増殖・活性化・組織への動員を担うサイトカインであるIL-5がBAL液や血清で上昇する。 ・除外:感染症(真菌・寄生虫を含む)、薬剤性などの原因が明らかでないことを確認する。 設問では、AEPの陰影が「両側性」である点を押さえていれば、「片側性」とする記述が誤りと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 胸水貯留
正しい記述である。AEPでは少量の胸水を伴うことが多く、両側性に貯留することもある。小葉間隔壁の肥厚と合わせて、肺水腫に似た画像を呈する一因となる。胸水中にも好酸球増加がみられることがある。
- ×b. IL-5上昇
正しい記述である。IL-5は主に2型ヘルパーT細胞や2型自然リンパ球から産生され、好酸球の分化・増殖・生存延長・活性化を促すとともに、好酸球を組織へ動員する働きをもつ。AEPではBAL液や血清中のIL-5が上昇しており、肺への好酸球集積に関与していると考えられている。
- ×c. 末梢血好酸球数正常
正しい記述である。AEPの発症初期には好酸球が肺へ集中的に動員されるためか、末梢血好酸球数は正常範囲であることが多く、回復期になってから上昇してくるのが特徴である。そのため、末梢血好酸球数が正常であってもAEPを否定できず、BALによる評価が重要となる。これに対し、慢性好酸球性肺炎では初診時から末梢血好酸球増多を示すことが多い。
- ○d. 片側性すりガラス陰影
誤った記述であり、これが正解である。AEPの胸部画像は両側性・びまん性のすりガラス陰影や浸潤影が特徴で、小葉間隔壁の肥厚や気管支血管束の肥厚、両側の少量胸水を伴う。両側性の肺浸潤影は診断基準の項目の一つにも含まれている。片側性の陰影であれば、細菌性肺炎など他疾患をまず考えるべきである。
- ×e. 気管支肺胞洗浄液中の好酸球数増加
正しい記述である。AEPではBAL液中の好酸球比率が著明に増加し、一般に25%以上が診断の目安とされる(健常者では1%未満)。BALでの好酸球増多、または肺生検での著明な好酸球浸潤の証明が確定診断の根拠となる。
急性好酸球性肺炎と慢性好酸球性肺炎の比較
・発症経過:急性は数日〜1か月以内の急性発症。慢性は数週〜数か月にわたる亜急性・慢性の経過。 ・重症度:急性はしばしば低酸素血症・急性呼吸不全をきたし、人工呼吸管理を要することもある。慢性は呼吸不全に至ることは少ない。 ・背景:急性は若年者、喫煙開始・再開との関連が強い。慢性は中年の女性に多く、気管支喘息の合併・既往が多い。 ・末梢血好酸球:急性は初期に正常で回復期に上昇。慢性は初期から増加。 ・画像:急性は両側びまん性すりガラス陰影・浸潤影、小葉間隔壁肥厚、少量胸水。慢性は両側上肺野・末梢優位の非区域性浸潤影(肺水腫のネガ像 photographic negative of pulmonary edema)、陰影の移動がみられることがある。 ・BAL液:いずれも好酸球著増。 ・治療と経過:いずれも副腎皮質ステロイドが著効する。急性は禁煙と短期間のステロイドで速やかに改善し、再発はまれ(喫煙再開時を除く)。慢性はステロイド減量・中止後に再発しやすい。
好酸球性肺疾患の主な鑑別
単純性肺好酸球増多症(Löffler症候群:寄生虫感染などに伴う一過性・移動性陰影)、薬剤性好酸球性肺炎、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、寄生虫感染症、好酸球増多症候群など。
診断基準の要素(AEP)
急性の発熱性呼吸器疾患、両側性肺浸潤影、低酸素血症、BAL液中好酸球25%以上または肺生検での好酸球性肺炎の所見、感染症・薬剤など既知の原因の除外。
POINT
・急性好酸球性肺炎:若年喫煙者(喫煙開始・再開後)に急性発症し、呼吸不全をきたしうる。 ・画像は両側びまん性すりガラス陰影+小葉間隔壁肥厚+少量胸水(片側性ではない)。 ・末梢血好酸球は初期に正常、回復期に上昇。慢性好酸球性肺炎は初期から増加。 ・BAL液中好酸球25%以上が診断の決め手。IL-5が上昇する。 ・ステロイドが著効し、再発はまれ。
