StudyMed医師国家試験

職場の自殺予防は誰が担う?―「産業保健」と「地域精神保健」の境界線

第116回医師国家試験 F問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第24問

職場の自殺予防対策に関係しない職種・組織はどれか。

  1. a.産業医
  2. b.衛生管理者
  3. c.産業保健師
  4. d.産業保健推進センター
  5. e.精神保健福祉センター

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、職場の自殺予防・メンタルヘルス対策に関わる人や組織を、地域の精神保健を担う組織と区別できるかを問う問題だ。キーワードは「産業保健」。職場の中で働く人たちと、職場を外から支える機関の両方を整理していこう。
医学生医学生
選択肢はどれも心の健康に関係していそうで、一見すると全部関係があるように見えます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だよ。だからこそ枠組みで考えるのが大事なんだ。厚生労働省のメンタルヘルス指針では「4つのケア」を継続的・計画的に行うことが求められている。何だったか覚えているかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習いました。セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケア、の4つですよね。
ドクタードクター
完璧だ。セルフケアは労働者自身がストレスに気づいて対処すること、ラインによるケアは管理監督者が職場環境を改善したり部下の相談にのったりすることだ。職場の自殺予防は、この枠組みの中でストレスチェックや長時間労働者への面接指導、休職者の職場復帰支援として行われる。では、産業医はどこに入る?
医学生医学生
事業場内産業保健スタッフですね。常時50人以上の事業場で選任が義務付けられていたはずです。
ドクタードクター
その通り。産業医は長時間労働者や高ストレス者への面接指導、職場巡視、休職・復職の判定支援などを担う、職場のメンタルヘルス対策の中心人物だ。衛生管理者はどうかな。
医学生医学生
衛生管理者は作業環境の管理をする人というイメージで、メンタルヘルスとは少し遠い気がしました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。衛生管理者も常時50人以上の事業場で選任が必要な国家資格者で、労働衛生の管理全般を担う。長時間労働の把握や職場環境の改善、衛生委員会の運営を通じて、産業医や保健師とともに事業場内産業保健スタッフとして自殺予防に関わっているんだ。
医学生医学生
産業保健師は、健康相談や保健指導をする立場ですよね。
ドクタードクター
そう。ストレスチェックの実施者には医師のほか保健師もなれるし、不調者を早く見つけて医療機関へつなぐ、職場復帰を支えるといった役割もある。まさに現場の要だよ。次に産業保健推進センターは?
医学生医学生
名前に「産業保健」と入っているので職場向けの機関だと思いますが、具体的に何をしているのかはあいまいです。
ドクタードクター
産業医や衛生管理者など産業保健スタッフを支えるために都道府県ごとに置かれた機関で、専門的な相談や研修、情報提供を行っていた。2014年度からは地域産業保健センター事業などと一元化されて、今は「産業保健総合支援センター」、通称さんぽセンターとして運営されている。4つのケアでいえば事業場外資源にあたるね。
医学生医学生
となると、残る精神保健福祉センターが答えでしょうか。でも、ここも自殺対策をしていると聞いたことがあります。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。精神保健福祉センターは精神保健福祉法に基づいて都道府県・政令指定都市に置かれる、地域精神保健の中核機関だ。地域の自殺対策に関わり、地域自殺対策推進センターが併設されることも多い。ただ、対象はあくまで地域住民全体で、職場の対策のために作られた組織ではない。だから出題の意図としては、これが「職場の自殺予防対策に関係しない」ものとして選ばれるんだ。
医学生医学生
「自殺に関係しない」ではなく「産業保健の組織ではない」という意味で読めばいいわけですね。
ドクタードクター
その読み方が大切だ。精神保健福祉センターは保健所や市町村への技術支援、複雑困難な相談、精神医療審査会の事務、精神障害者保健福祉手帳や自立支援医療の判定などを担う。地域の精神保健の系統と、職場の産業保健の系統を頭の中で分けておこう。
医学生医学生
小規模な事業場で産業医がいない場合はどうなるんですか。臨床実習で、中小企業で働く患者さんが職場に相談先がないと話していました。
ドクタードクター
いい疑問だね。常時50人未満の事業場には産業医の選任義務はないけれど、地域産業保健センター、つまりさんぽセンターの地域窓口が健康相談や面接指導を無料で支援している。逆に常時1,000人以上、有害業務なら500人以上の事業場では専属産業医が必要になる。
医学生医学生
ストレスチェックの結果は会社に全部伝わってしまうんでしょうか。
ドクタードクター
本人の同意がなければ事業者には提供されない仕組みだ。高ストレス者が申し出れば医師が面接指導をして、必要に応じて就業上の措置を講じる。集団分析による職場環境改善は努力義務だよ。臨床医として働く際も、職場の問題が背景にありそうな患者さんでは産業医との連携を意識してほしい。

まとめ

職場のメンタルヘルス対策と自殺予防は、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアの「4つのケア」で行われます。産業医・衛生管理者・産業保健師は事業場内産業保健スタッフ、産業保健推進センター(現・産業保健総合支援センター)はそれを支える事業場外資源として、いずれも職場の対策に組み込まれています。一方、精神保健福祉センターは精神保健福祉法に基づき都道府県・政令指定都市に置かれる地域精神保健の中核機関で、地域の自殺対策には関わるものの、職場の対策のための組織ではありません。常時50人以上の事業場での産業医・衛生管理者の選任やストレスチェックの仕組みとあわせて、「産業保健」と「地域精神保健」の系統を区別して整理しておくことが、制度問題を解くうえでも、患者の職場復帰を支える臨床の場でも役立ちます。

解答・解説

正解はeです

本問は、職場(事業場)における自殺予防・メンタルヘルス対策を担う人と組織を、地域精神保健を担う組織と区別できるかを問う問題である。

職場のメンタルヘルス対策の枠組み

厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針)では、次の「4つのケア」を継続的・計画的に行うことが求められている。 ・セルフケア: 労働者自身がストレスに気づき対処する。 ・ラインによるケア: 管理監督者が職場環境の改善や部下の相談対応を行う。 ・事業場内産業保健スタッフ等によるケア: 産業医、衛生管理者、保健師(産業保健師)、心理職、人事労務担当者などが支援する。 ・事業場外資源によるケア: 産業保健総合支援センター(旧産業保健推進センター)、地域産業保健センター、医療機関、EAP(従業員支援プログラム)などの外部機関を活用する。 職場の自殺予防は、このメンタルヘルス対策(ストレスチェック、長時間労働者への面接指導、休職者の職場復帰支援など)の中で行われる。

考え方

産業医・衛生管理者・産業保健師は事業場内産業保健スタッフ、産業保健推進センター(現・産業保健総合支援センター)は産業保健スタッフを支援する事業場外資源であり、いずれも職場の対策に組み込まれている。これに対し、精神保健福祉センターは精神保健福祉法に基づいて都道府県・政令指定都市に置かれる地域精神保健の中核機関であり、対象は地域住民全体である。職場の自殺予防対策のために設けられた組織ではないため、本問ではこれが「関係しない」ものとして選ばれる。

選択肢考察

  1. ×a.  産業医

    労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では産業医の選任が義務付けられている。産業医は、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェック後の高ストレス者への面接指導、職場巡視、休職・復職の判定支援などを通じて、職場のメンタルヘルス対策と自殺予防の中心的な役割を担う。衛生管理者や産業保健師と協力して活動する。

  2. ×b.  衛生管理者

    衛生管理者も常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が義務付けられた国家資格者で、作業環境や労働衛生の管理、健康障害の防止に関する技術的事項を担当する。長時間労働の把握や職場環境の改善、衛生委員会の運営などを通じ、産業医・産業保健師とともに事業場内産業保健スタッフとして職場の自殺予防対策に関わる。

  3. ×c.  産業保健師

    事業場や健康保険組合などで働く保健師である。労働者の健康相談、保健指導、ストレスチェックの実施者(医師のほか保健師も実施者となれる)、不調者の早期発見と医療機関へのつなぎ、職場復帰支援などを担い、事業場内産業保健スタッフとして職場の自殺予防対策に直接関わる。

  4. ×d.  産業保健推進センター

    産業医や衛生管理者などの産業保健スタッフを支援するために各都道府県に設置されていた機関で、専門的な相談、研修、情報提供を行っていた。2014(平成26)年度から、地域産業保健センター事業、メンタルヘルス対策支援事業と一元化され、「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」として運営されている。職場のメンタルヘルスに関する相談や研修も行っており、事業場外資源として職場の自殺予防対策に関係する。

  5. ○e.  精神保健福祉センター

    精神保健福祉センターは精神保健福祉法に基づき都道府県・政令指定都市に設置される機関で、地域住民の精神的健康の保持増進、精神障害の予防、適切な精神医療の推進、社会復帰の促進などを目的としている。心の悩みをもつ人やその家族への電話・来所相談、保健所や市町村への技術支援、人材育成などを行う。地域の自殺対策には関わるが、あくまで地域住民全体を対象とする地域精神保健の機関であり、産業保健(職場の対策)のために作られた組織ではない。このため、選択肢の中で職場の自殺予防対策に関係しないものとしてはこれが該当する。

産業保健の体制(労働安全衛生法)

・常時50人以上の事業場: 産業医・衛生管理者の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェックの実施(2015年12月から義務化)が必要。 ・常時1,000人以上(有害業務では500人以上)の事業場: 専属産業医が必要。 ・常時50人未満の小規模事業場: 産業医の選任義務はないが、地域産業保健センター(産業保健総合支援センターの地域窓口)が健康相談や面接指導などを無料で支援する。

ストレスチェック制度

労働者のストレスの程度を質問票で調べ、高ストレス者が申し出た場合には医師による面接指導を行い、必要に応じて就業上の措置を講じる。結果は本人の同意なく事業者に提供されない。集団分析による職場環境改善は努力義務である。

地域の精神保健機関との区別

・精神保健福祉センター: 都道府県・政令指定都市に設置。地域精神保健の中核で、保健所・市町村への技術支援、複雑困難な相談、精神医療審査会の事務、精神障害者保健福祉手帳・自立支援医療(精神通院医療)の判定などを担う。 ・保健所・市町村: 地域住民の精神保健相談や訪問支援を担う。 ・自殺対策では、自殺対策基本法に基づき地域自殺対策推進センターが都道府県等に置かれ、精神保健福祉センターに併設されることも多い。

自殺の現状

わが国の自殺者数は2003年の約3万4千人をピークに減少し、2020年以降はおおむね2万1千人前後で推移している。職場では勤務問題(仕事疲れ、職場の人間関係、仕事の失敗など)が動機の一つとして挙げられ、過重労働とメンタルヘルス不調への対策が重視されている。

POINT

・職場のメンタルヘルス対策は「4つのケア」(セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケア)で行う。 ・事業場内産業保健スタッフ=産業医、衛生管理者、保健師など。 ・産業保健推進センターは2014年度から産業保健総合支援センターに一元化され、産業保健スタッフを支援する事業場外資源である。 ・精神保健福祉センターは地域住民を対象とする地域精神保健の機関であり、産業保健の組織ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。