「誰もが、必要なときに、払える費用で」―定義の3要素で見抜くUHC
第116回医師国家試験 F問題 第11問
国試問題にチャレンジ
すべての人が,適切な保健医療サービスを必要時に支払い可能な費用で受けることができる状態を目指す,国際保健分野の取り組みの英語名称はどれか。
- a.Universal Health Coverage〈UHC〉
- b.Sustainable Development Goals〈SDGs〉
- c.Official Development Assistance〈ODA〉
- d.International Health Regulations〈IHR〉
- e.International Classification of Diseases〈ICD〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
「すべての人が、適切な保健医療サービスを、必要なときに、支払い可能な費用で受けられる状態」を目指す概念はユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)であり、人口・サービス・費用の3つの軸でカバーの程度が評価されます。日本は1961年に国民皆保険を達成し、UHCを早期に実現した国としてその推進を国際的に提唱しています。SDGsは2030年を期限とする17目標の広い枠組みで、目標3のターゲット3.8にUHCを含みますが、定義そのものではありません。ODAは政府開発援助、IHRは健康危機管理のための国際保健規則、ICDはWHOによる疾病・死因の統計分類です。国際保健の略語を「何を指す言葉か」で整理しておくと、類似用語の多い公衆衛生分野の問題に強くなります。
解答・解説
正解はaです
本問は、国際保健で用いられる代表的な英語略称の意味を区別できるかを問う問題である。 問題文の定義には、次の3つの要素が含まれている。 ①すべての人が(対象の普遍性:所得・居住地・年齢などによって取り残される人がいないこと) ②適切な保健医療サービスを必要なときに(予防・健康増進から治療、リハビリテーション、緩和ケアまで、必要なサービスを利用できること) ③支払い可能な費用で(医療費の支払いによって家計が破綻する、いわゆる経済的困窮に陥らないこと) この3要素をそろえた状態を目指す概念が、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)である。WHO(世界保健機関)はUHCを「すべての人が、経済的な困難を伴わずに、必要な質の高い保健医療サービスを受けられる状態」と定義している。 選択肢にはSDGs、ODA、IHR、ICDといった国際保健の頻出用語が並んでいる。特にSDGsはUHCを内包する上位の枠組みであるため紛らわしいが、問題文の定義そのものに一致するのはUHCである。
選択肢考察
- ○a. Universal Health Coverage〈UHC〉
UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)は、すべての人が、必要とする質の高い保健医療サービスを、経済的困難に陥ることなく受けられる状態を指す。「誰が(人口のカバー)」「どのサービスを(サービスのカバー)」「どの程度の自己負担で(費用のカバー)」という3つの軸で達成度が評価される。問題文の定義と完全に一致する。日本は1961年に国民皆保険を達成しており、UHCを早期に実現した国として国際的に知られ、UHCの推進を国際保健外交の柱に掲げている。
- ×b. Sustainable Development Goals〈SDGs〉
SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年の国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に盛り込まれた国際目標で、2030年を期限とする17の目標と169のターゲットからなる。目標3「すべての人に健康と福祉を」のターゲット3.8にUHCの達成が掲げられている。つまりSDGsは貧困、教育、ジェンダー、気候変動などを含む幅広い開発目標の総体であり、UHCを包含するが、問題文の「保健医療サービスへのアクセス」という定義そのものではない。
- ×c. Official Development Assistance〈ODA〉
ODA(政府開発援助)は、先進国の政府や政府機関が開発途上国の経済・社会の発展や福祉の向上を目的として行う資金協力や技術協力である。二国間援助(日本では国際協力機構〈JICA〉が主な実施機関)と、国際機関への拠出を通じた多国間援助がある。保健分野の援助にも使われるが、援助の手段・仕組みを指す言葉であり、問題文の「目指す状態」の名称ではない。
- ×d. International Health Regulations〈IHR〉
IHR(国際保健規則)は、WHO憲章に基づいて定められた、国際的な公衆衛生上の脅威(感染症の国際的な拡大など)への対応に関する国際的な法的枠組みである。2005年に大幅に改正され(2007年発効)、加盟国に対し「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」となりうる事象をWHOへ通告することや、監視・対応能力を整備することを求めている。健康危機管理の規則であり、UHCとは異なる。
- ×e. International Classification of Diseases〈ICD〉
ICD(国際疾病分類)は、WHOが作成する疾病・死因の国際的な統計分類である。死因統計や疾病統計を国際的に比較できるようにする目的で用いられ、日本の人口動態統計の死因分類もICDに準拠している。現在の最新版は第11回改訂版(ICD-11)で、2019年の世界保健総会で採択され、2022年1月に発効した(日本の統計は長くICD-10に基づいてきた)。保健医療サービスへのアクセスとは関係しない。
UHCの3つの次元
・人口のカバー:どれだけの人が保健医療制度の対象になっているか。 ・サービスのカバー:予防、健康増進、治療、リハビリテーション、緩和ケアのうち、どの範囲のサービスが提供されているか。 ・費用のカバー:利用者の自己負担がどの程度に抑えられているか(医療費による家計の破綻を防げているか)。
SDGsとUHC
・SDGsは2015年に国連で採択され、2030年までの達成を目指す17の目標と169のターゲットからなる。前身は2000年に定められたミレニアム開発目標(MDGs、期限2015年)である。 ・17の目標の分野:①貧困、②飢餓、③保健(健康と福祉)、④教育、⑤ジェンダー、⑥水と衛生、⑦エネルギー、⑧成長・雇用、⑨産業・技術革新・インフラ、⑩不平等の是正、⑪持続可能な都市、⑫持続可能な生産と消費、⑬気候変動、⑭海洋資源、⑮陸上資源、⑯平和と公正、⑰パートナーシップ。 ・目標3のターゲット3.8が「UHCの達成」である。
国際保健の主な略語
・UHC:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ ・SDGs:持続可能な開発目標 ・MDGs:ミレニアム開発目標 ・ODA:政府開発援助 ・JICA:国際協力機構(日本のODAの実施機関) ・IHR:国際保健規則 ・PHEIC:国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態 ・ICD:国際疾病分類 ・ICF:国際生活機能分類 ・PHC:プライマリ・ヘルス・ケア(1978年アルマ・アタ宣言)
POINT
・「すべての人が、必要な保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」=UHC。 ・UHCはSDGsの目標3(ターゲット3.8)に含まれるが、SDGs自体は17目標からなる広い枠組みである。 ・ODA=政府開発援助、IHR=国際保健規則(健康危機管理の法的枠組み)、ICD=国際疾病分類(WHOによる疾病・死因統計の分類)。 ・日本は1961年に国民皆保険を達成し、UHCの推進を国際的に提唱している。
