食道から見上げる心臓―経食道エコーは「左心房」から読み始めよ
第116回医師国家試験 C問題 第33問
国試問題にチャレンジ
収縮期(A)と拡張期(B)の経食道心臓超音波像を下に示す。 正しいのはどれか。2つ選べ。

- a.Aは右心房である。
- b.Bは僧帽弁である。
- c.Cは左心室である。
- d.Dは肺動脈弁である。
- e.Eは左心房である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
経食道心臓超音波(TEE)では扇形の頂点にあるプローブが食道内に位置するため、プローブ直下の心腔は心臓の最も背側にある左心房であり、ここから血流の順に僧帽弁、厚い壁をもつ左心室、大動脈弁、バルサルバ洞を伴う上行大動脈とたどるのが中部食道長軸像の読み方です。弁の種類は心周期で判別でき、収縮期に閉じて拡張期に開くのが房室弁、収縮期に開いて拡張期に閉じるのが半月弁です。TEEは肺や肋骨に妨げられず高分解能の画像が得られ、左心耳血栓、感染性心内膜炎の疣贅、人工弁機能不全、大動脈解離などの評価や術中モニタリングに有用ですが、半侵襲的検査であり食道疾患の確認が欠かせません。「プローブの位置」と「弁の開閉」という2つの原則を押さえれば、見慣れない断面でも解剖と生理から構造を同定できるようになります。
解答・解説
正解はb, cです
経食道心臓超音波(transesophageal echocardiography:TEE)の画像で心腔・弁を同定する問題である。
読影の出発点:プローブの位置
超音波画像は扇形で、扇の頂点(画像の上端)に探触子(プローブ)がある。TEEではプローブは食道内にあり、食道は心臓の背側、特に左心房の直後を走行する。したがって、扇の頂点に最も近い無エコー(黒く抜けた=血液)領域は左心房である。これが本問を解く鍵であり、体表から観察する経胸壁心臓超音波(transthoracic echocardiography:TTE)とは心臓を見る向きが逆になる点に注意する。
血流の順に構造をたどる
1. A:プローブ直下の心腔 → 左心房。 2. B:AとCの間の弁。収縮期像で閉じ、拡張期像で開いている → 房室弁の動き。左心房に続く房室弁なので僧帽弁。 3. C:僧帽弁の先にある、厚い心筋(灰色の壁)に囲まれた心腔 → 左心室。 4. D:CとEの間の弁。収縮期に開き、拡張期に閉じる → 半月弁(動脈弁)の動き。左心室の出口なので大動脈弁。 5. E:大動脈弁の先にあり、基部が膨らんだ(バルサルバ洞=大動脈洞)血管 → 上行大動脈。 この断面は、食道中部から左心房・僧帽弁・左心室・左室流出路・大動脈弁・上行大動脈を一枚に描出する「中部食道長軸像」に相当する。
弁の開閉と心周期
収縮期:心室が収縮して血液を動脈へ送り出す → 房室弁は閉鎖、動脈弁は開放。 拡張期:心房から心室へ血液が流入する → 房室弁は開放、動脈弁は閉鎖。 この原則を収縮期像(A)と拡張期像(B)に当てはめると、BとDのどちらが房室弁でどちらが動脈弁かを判別できる。 以上より、Bが僧帽弁、Cが左心室であり、b・cが正しい。
選択肢考察
- ×a. Aは右心房である。
誤り。Aは扇形の頂点、すなわち食道内のプローブに最も近い心腔である。解剖学的に食道の直前(腹側)に位置するのは左心房であり、Aは左心房である。右心房は心臓の右前方に位置し、TEEの標準的な中部食道長軸像ではこの位置には描出されない。
- ○b. Bは僧帽弁である。
正しい。BはA(左心房)とC(左心室)の間にある弁で、収縮期の像では閉じ、拡張期の像では開いている。収縮期に閉じ拡張期に開くのは房室弁の動きであり、左心房と左心室の間の房室弁は僧帽弁である。拡張期に左心房から左心室への血液流入を許し、収縮期には逆流を防ぐ。
- ○c. Cは左心室である。
正しい。Cは僧帽弁を介して左心房(A)と連続する心腔で、周囲を厚い低輝度の心筋壁に囲まれている。体循環に血液を駆出するため左心室壁は厚く(正常で約10 mm前後)、右心室壁(約3〜5 mm)より明らかに厚い。位置関係と壁の厚さの両面からCは左心室と判断できる。
- ×d. Dは肺動脈弁である。
誤り。DはC(左心室)とEの間にある弁で、収縮期に開き拡張期に閉じている。これは半月弁(動脈弁)の動きであり、左心室の出口にある動脈弁は大動脈弁である。肺動脈弁は右心室の出口にあり、この断面で左心室と連続して描出されることはない。
- ×e. Eは左心房である。
誤り。Eは大動脈弁(D)を介して左心室に続く管腔構造で、基部に膨らんだ部分(バルサルバ洞〈大動脈洞〉)がみられることから大動脈(上行大動脈)である。左心房はプローブ直下のAである。
経食道心臓超音波(TEE)の特徴
・上部消化管内視鏡と同様に、咽頭麻酔や鎮静のもとでプローブを食道・胃に挿入して心臓を背側から観察する。 ・心臓との距離が近く、間に肺や肋骨が介在しないため、高周波数のプローブで高い分解能の画像が得られる。肥満や肺気腫など、TTEで描出が不良となる体格・病態の影響を受けにくい。 ・心臓の後方に位置する構造の観察に優れる:左心房・左心耳内血栓(心房細動に対するカルディオバージョン前や心原性脳塞栓症の塞栓源検索)、感染性心内膜炎の疣贅や弁輪部膿瘍、人工弁機能不全、心房中隔欠損や卵円孔開存、大動脈解離、僧帽弁の詳細な形態評価など。 ・術野を汚染せずに使えるため、心臓手術中のモニタリングや、カテーテルによる構造的心疾患治療のガイドにも用いられる。 ・半侵襲的な検査であり、食道疾患(狭窄、静脈瘤など)では禁忌・慎重となる。合併症として咽頭・食道損傷、誤嚥などがある。
心周期と弁の動き
・収縮期:房室弁(僧帽弁・三尖弁)閉鎖、半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)開放。 ・拡張期:房室弁開放、半月弁閉鎖。
画像読影のコツ
・扇形の頂点にプローブがある。TEEでは頂点側が背側(左心房側)となり、TTE(胸骨傍長軸像など)とは上下が逆の関係になる。 ・無エコー(黒)は血液、灰色の厚い壁は心筋。壁の厚い心室は左心室。 ・動脈基部の膨らみ(バルサルバ洞)は大動脈の目印になる。
POINT
・TEEでは食道(プローブ)に最も近い心腔は左心房である。 ・収縮期に閉じ拡張期に開く弁は房室弁、収縮期に開き拡張期に閉じる弁は半月弁。 ・中部食道長軸像:左心房→僧帽弁→左心室→大動脈弁→上行大動脈が一断面に描出される。 ・TEEは左心耳血栓、感染性心内膜炎の疣贅、大動脈解離などの評価に有用である。
