年をとるほど病気は減る?―出生コホートのグラフに潜む「見かけの逆転」
第116回医師国家試験 C問題 第17問
国試問題にチャレンジ
疾病Yの有病率について,生まれ年が異なる4つのコホートを1965年度から2015年度まで10年おきに最大6回追跡調査した結果を下に示す。 疾患Yの有病率について正しいのはどれか。

- a.生まれ年によらず加齢とともに有病率は高くなる。
- b.生まれ年によらず加齢と有病率の関係は変わらない。
- c.生まれ年が早いほど同じ測定時年齢でも有病率は高い。
- d.測定した年度ごとに見ると若年者のほうが有病率は低い。
- e.測定した年度によらず測定時年齢と有病率の関係は変わらない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
複数の出生コホートを繰り返し調べたグラフは、同じ集団を年齢順に追う縦断的な見方、同じ年齢で世代を比べる見方、同じ測定年度でまとめる横断的な見方の3通りで読むことができます。本問ではどのコホートも加齢とともに有病率が上昇しており、これが正解の根拠です。一方、同じ年齢では生まれ年が遅いほど有病率が高く、コホート効果や時代効果の存在が示唆されますが、測定年=生まれ年+年齢という関係のため3つの効果は完全には分離できません。同じ年度で横断的に比べると若年者ほど有病率が高く見え、加齢の影響と逆の関係に見えてしまうことが大きな落とし穴です。横断研究だけで加齢の影響を判断すると誤りうることを理解しておくことは、疫学データや臨床論文を正しく読む力の基礎になります。
解答・解説
正解はaです
本問は、出生コホート(同じ時期に生まれた集団)を繰り返し調査したデータを、どの時間軸で読むかを問う問題である。疾病の頻度が変化する要因は、年齢効果(加齢そのものの影響)、時代効果(測定した時期の社会環境や診断技術の影響)、コホート効果(生まれた時代に特有の生活環境や曝露の影響)の3つに分けて考えることができる。
グラフの読み取り
横軸は測定時の年齢、縦軸は有病率(1,000人あたり)である。4つの出生コホートの値は、おおよそ次のとおりである。 ・1970年生まれ(1995〜2015年度に3回測定): 25歳 約42 → 35歳 約48 → 45歳 約50 ・1960年生まれ(1985〜2015年度に4回測定): 25歳 約30 → 35歳 約38 → 45歳 約44 → 55歳 約46 ・1950年生まれ(1975〜2015年度に5回測定): 25歳 約15 → 35歳 約25 → 45歳 約34 → 55歳 約40 → 65歳 約43 ・1940年生まれ(1965〜2015年度に6回測定): 25歳 約5 → 35歳 約10 → 45歳 約21 → 55歳 約28 → 65歳 約32 → 75歳 約35
3つの見方
1. 同じコホートを追う見方(縦断的な見方): 同じ記号の点を左から右へたどる。どのコホートでも有病率は年齢とともに上がっており、加齢で有病率が高くなる傾向がわかる。 2. 同じ年齢でコホートを比べる見方: 同じ横軸の位置で縦に並ぶ点を比べる。25歳では1940年生まれが約5、1970年生まれが約42であり、生まれ年が遅いほど有病率が高い。これはコホート効果(または時代効果)があることを示している。 3. 同じ測定年度で比べる見方(横断的な見方): 出生年+年齢が同じ年になる点どうしを比べる。たとえば1995年度は、1970年生まれの25歳(約42)、1960年生まれの35歳(約38)、1950年生まれの45歳(約34)、1940年生まれの55歳(約28)であり、高齢者ほど有病率が低く見える。
ポイント
1回の横断調査だけを見ると「年をとるほど有病率は低い」と誤って解釈してしまう。実際には、どの個人も加齢とともに有病率が上がっているが、若い世代ほどもともとの有病率が高いため、横断的には逆の関係に見えるのである。年齢・時代・コホートの効果を混同しないことが、本問の要点である。
選択肢考察
- ○a. 生まれ年によらず加齢とともに有病率は高くなる。
同じ記号の点を年齢の順にたどると、1970年生まれは約42→48→50、1960年生まれは約30→38→44→46、1950年生まれは約15→25→34→40→43、1940年生まれは約5→10→21→28→32→35と、4つのコホートすべてで測定ごとに有病率が上がっている。上がり幅は生まれ年によって違うが、加齢とともに有病率が高くなるという傾向は、どのコホートにも共通している。
- ×b. 生まれ年によらず加齢と有病率の関係は変わらない。
加齢と有病率の関係が生まれ年に関係なく同じなら、4つのコホートの点は一本の曲線上に重なるはずである。実際には、25歳時点の有病率が約5(1940年生まれ)から約42(1970年生まれ)まで大きく違い、各コホートの曲線は上下に離れている。年齢ごとの上がり方も違う。1940年生まれは25歳から45歳までの20年間で約16上がっているが、1970年生まれは同じ期間で約8しか上がっていない。したがって、加齢と有病率の関係は生まれ年によって異なる。
- ×c. 生まれ年が早いほど同じ測定時年齢でも有病率は高い。
同じ測定時年齢で縦に比べると、25歳では1940年生まれが約5、1950年生まれが約15、1960年生まれが約30、1970年生まれが約42となる。35歳や45歳で比べても、生まれ年が遅いコホートほど上にある。つまり、生まれ年が早いほど同じ年齢での有病率は低く、選択肢の記述とは逆である。
- ×d. 測定した年度ごとに見ると若年者のほうが有病率は低い。
測定年度は「生まれ年+測定時年齢」で決まる。1995年度の値を集めると、1970年生まれの25歳が約42、1960年生まれの35歳が約38、1950年生まれの45歳が約34、1940年生まれの55歳が約28であり、若い人ほど有病率が高い。2015年度でも、1970年生まれの45歳(約50)、1960年生まれの55歳(約46)、1950年生まれの65歳(約43)、1940年生まれの75歳(約35)と同じ傾向である。ほかの年度でも若年者のほうが有病率は高く、記述とは逆である。
- ×e. 測定した年度によらず測定時年齢と有病率の関係は変わらない。
測定年度に関係なく年齢と有病率の関係が同じなら、同じ年齢の値は測定年度が違っても一致し、各年齢で4つの点が重なるはずである。しかし、たとえば25歳の有病率は、1965年度に約5、1975年度に約15、1985年度に約30、1995年度に約42と、測定年度が新しくなるほど高くなっている。したがって、年齢と有病率の関係は測定年度によって変わっている。
年齢・時代・コホート効果(APC分析)
・年齢効果: 加齢による生物学的な変化などで、どの世代にも共通して起こる変化 ・時代効果: 測定した時期の要因(診断基準の変更、検診の普及、流行、社会情勢など)が、全年齢に同時に及ぼす影響 ・コホート効果: 同じ時期に生まれた集団が共通して経験した曝露(幼少期の栄養状態、喫煙習慣、感染症の流行など)による、その世代に固有の影響 「測定年=生まれ年+年齢」という関係があるため、3つの効果は互いに完全には切り離せない(識別問題)。本問のデータでも、同じ年齢で若いコホートほど有病率が高いことは、コホート効果でも時代効果でも説明できる。
研究デザインとの関係
・横断研究: ある一時点の集団を調べる。年齢による違いとコホートによる違いが混ざって見えるため、加齢の影響を正しく評価できないことがある(本問の選択肢dのように、見かけの関係が逆になることもある)。 ・縦断研究(コホート研究): 同じ集団を時間を追って調べるため、個人の加齢による変化をとらえられる。 ・複数の出生コホートを追跡する方法(コホート・シーケンシャル・デザイン)は、年齢効果とコホート効果を区別するのに役立つ。
実例
日本人の身長、血圧、喫煙率、歯の喪失、各種の癌の罹患などでは、生まれた年代の違いによる差(コホート効果)が知られている。
POINT
・同じ記号を左から右へたどる(縦断) → 年齢効果。本問ではどのコホートも加齢で有病率が上がる ・同じ年齢で縦に比べる → コホート差。本問では生まれ年が遅いほど有病率が高い ・同じ測定年度でまとめる(横断) → 年齢効果とコホート差が混ざる。本問では若年者ほど高く見える ・測定年度=生まれ年+測定時年齢の関係を使って、グラフから同じ年度の点を拾えるようにする ・横断研究だけで加齢の影響を判断すると誤ることがある
