StudyMed医師国家試験

「聞こえる」のか「わかる」のか―幻聴と妄想知覚を分けるひと言

第116回医師国家試験 B問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第116回 B問題 第3問

患者の言葉のうち幻聴ではないと考えられるのはどれか。

  1. a.「部屋に誰もいないのに『もっと勉強しろ』と男が話しかけてきます」
  2. b.「自分でもおかしいと思うが,近くに線路はないのに電車の走る音がします」
  3. c.「家族は誰も聞こえないというが,夜になると車のエンジンをかける音が聞こえます」
  4. d.「カチカチという実際の機械の音に重なって『馬鹿,馬鹿』という女性の声が聞こえます」
  5. e.「駅の向かい側のホームに立っている友人の仕草から自分の悪口をいっているのがわかります」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、患者さんの訴えを聞いて、それが幻聴なのか、それとも別の精神症状なのかを見分ける問題だ。ポイントは、その体験が「知覚の異常」なのか「思考・判断の異常」なのかという区別。まず、幻覚の定義を言えるかな。
医学生医学生
精神医学の講義では「対象なき知覚」と習いました。実際には何もないのに見えたり聞こえたりすることですよね。
ドクタードクター
その通り。そのうち聴覚で起こるのが幻聴だ。似た言葉に錯覚があって、こちらは実在する刺激を別のものとして誤って知覚すること。たとえば風の音が人の声に聞こえる、というのが錯聴だね。そしてもう一つ、妄想は知覚ではなく判断の異常で、誤った内容を確信して訂正できないものを指す。
医学生医学生
幻覚、錯覚、妄想の3つの箱に分けて考えるわけですね。まず、誰もいない部屋で男の人が「もっと勉強しろ」と話しかけてくる、というのは典型的な幻聴だと思います。
ドクタードクター
そうだね。話し手がいないのに人の声が聞こえる言語性幻聴、つまり幻声だ。しかも「〜しろ」という指示の内容だから命令性幻聴にあたる。統合失調症でよくみられ、内容によっては自傷や他害につながるから、臨床ではとても注意が必要なんだ。
医学生医学生
電車の音のほうは「自分でもおかしいと思う」と言っています。病識があるなら、幻聴とは言えないのではないでしょうか。
ドクタードクター
そこが引っかけやすいところだね。病識の有無は、幻聴かどうかの定義には関係しない。線路がないのに電車の音が聞こえるなら、対象のない知覚だから幻聴だ。言葉ではない単純な音なので要素性幻聴と呼ぶ。病識を伴う幻聴は、アルコール幻覚症や聴力障害に伴うもの、器質性疾患などでもみられるよ。
医学生医学生
家族には聞こえないエンジン音も、同じく要素性幻聴ですね。周りの人に聞こえていないことが、音源がない証拠になるわけですか。
ドクタードクター
その理解でいい。同じ環境にいる他者が知覚していないことは、外界に対応する刺激がないことを示す手がかりになる。では、実際の機械の音に重なって「馬鹿,馬鹿」と女性の声が聞こえる、というのはどうだろう。
医学生医学生
実際の音があるので、それが声に聞き間違えられた錯聴かなと思いました。
ドクタードクター
鋭いけれど、よく読むと機械音は機械音として聞こえていて、それとは別に存在しない声が同時に聞こえている。実際の音そのものが声に化けているわけではないんだ。このように、実在の知覚刺激をきっかけに、それと並行して別の幻覚が生じるものを機能性幻覚、機能幻聴という。これも幻聴の仲間だよ。しかも内容は自分をけなすもので、統合失調症の悪口の幻声として典型的だ。
医学生医学生
なるほど、聞き間違いなら錯聴、別々に聞こえるなら機能幻聴なんですね。そうすると残るのは、駅の向かいのホームにいる友人の仕草から悪口を言っているとわかる、という訴えです。
ドクタードクター
そう、これが正解だ。患者さんは悪口の声を「聞いた」とは言っていない。声の届かない距離にいる友人の仕草を実際に見て、そこから自分の悪口を言っていると「わかる」と言っている。知覚そのものは実在する視覚刺激だから幻覚ではないんだ。
医学生医学生
実際に見たものに、根拠のない「自分のことだ」という意味をつけて確信している、ということですね。
ドクタードクター
その通り。これを妄想知覚という。自分に関係づけている点では関係妄想、内容としては被害的だ。妄想知覚はSchneiderの一級症状の一つで、統合失調症を示唆する大事な所見だよ。
医学生医学生
CBTの勉強でSchneiderの一級症状は覚えましたが、考想化声や対話性幻聴のような幻聴系ばかり印象に残っていて、妄想知覚が入っているのを忘れかけていました。
ドクタードクター
幻聴系が目立つからね。一級症状には、考想化声、対話性幻聴、自分の行為に口出しする幻聴、身体への影響体験、考想奪取や考想伝播、させられ体験、そして妄想知覚が含まれる。妄想知覚は一次妄想の一つで、心理的に了解できない形で生じる。たとえば信号が赤に変わったのを見て、自分が狙われていると確信する、といった具合だ。
医学生医学生
臨床実習で精神科を回ったとき、指導医の先生が問診で「それは声として聞こえるんですか、それとも何となくわかるんですか」と丁寧に確認していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそこが実践のポイントなんだ。患者さんの「聞こえる」と「わかる」という表現の違いが、幻聴と妄想を分ける重要な手がかりになる。カルテに「幻聴あり」と書く前に、本当に声として知覚しているのか、それとも確信として「わかっている」のかを確かめる習慣をつけておこう。

まとめ

幻聴とは外界に対応する刺激がないのに声や音が聞こえる体験で、言葉の声なら言語性幻聴、物音や機械音なら要素性幻聴と呼び、病識の有無にかかわらず幻聴に含まれます。実際の音とは別に声が同時に聞こえる機能性幻覚も幻聴の一種であり、実在の音そのものを別の声に聞き誤る錯聴とは区別されます。一方、実際に見た友人の仕草に「自分の悪口を言っている」という根拠のない意味を与えて確信するのは知覚の異常ではなく妄想知覚であり、Schneiderの一級症状として統合失調症を示唆します。患者が「聞こえる」と言うのか「わかる」と言うのかという表現の違いは、幻覚と妄想を見分ける実践的な手がかりです。精神症状を知覚・思考のどちらの異常かで整理する視点は、正確な症状評価と診断の基礎になります。

解答・解説

正解はeです

幻覚とは「対象がないのに、それを知覚すること」であり、そのうち聴覚領域で起こるものが幻聴である。精神症状を評価するときは、患者の訴えが次のどれにあたるかを区別することが大切である。 ・幻覚(幻聴):外界に対応する刺激が存在しないのに、声や音が聞こえる。 ・錯覚(錯聴):実際に存在する刺激を、別のものとして誤って知覚する(例:風の音が人の声に聞こえる)。 ・妄想:知覚そのものではなく、判断・思考の異常。誤った内容を確信し、訂正できない。 本問の各訴えを、この枠組みで整理する。 ・「誰もいないのに男の声が聞こえる」「機械の音とは別に女性の声が聞こえる」→ 対象のない声の知覚であり、言語性幻聴。 ・「線路がないのに電車の音」「家族には聞こえないエンジン音」→ 対象のない音の知覚であり、要素性幻聴。本人が「おかしい」と自覚していても、知覚体験自体は幻聴である。 ・「友人の仕草から悪口をいっているとわかる」→ 声や音を聞いたわけではなく、実際に見た仕草に「自分の悪口」という誤った意味づけをしている。これは知覚の異常ではなく、思考(判断)の異常、すなわち妄想である。 患者が「聞こえる」と言っているのか、「わかる」と言っているのかという表現の違いは、幻聴と妄想を区別する重要な手がかりになる。

選択肢考察

  1. ×a.  「部屋に誰もいないのに『もっと勉強しろ』と男が話しかけてきます」

    話し手が存在しないのに人の声が聞こえており、言語性幻聴(幻声)である。内容が「〜しろ」という指示であることから、命令性幻聴にあたる。命令性幻聴は統合失調症でしばしばみられ、内容によっては自傷・他害につながるため、臨床上注意を要する。

  2. ×b.  「自分でもおかしいと思うが,近くに線路はないのに電車の走る音がします」

    音源がないのに電車の音が聞こえており、言葉ではない単純な音の幻聴である要素性幻聴にあたる。「自分でもおかしいと思う」と体験の異常性を自覚している(病識がある)点が特徴だが、病識の有無にかかわらず、対象のない知覚であれば幻聴である。病識を伴う幻覚は、アルコール幻覚症や聴力障害に伴う幻聴(音楽性幻聴など)、器質性疾患などでもみられる。

  3. ×c.  「家族は誰も聞こえないというが,夜になると車のエンジンをかける音が聞こえます」

    周囲の人には聞こえないエンジン音が本人にだけ聞こえていることから、実在しない音を知覚していると考えられ、要素性幻聴である。同じ環境にいる他者が知覚していないことは、外界に対応する刺激がないことを示す手がかりとなる。

  4. ×d.  「カチカチという実際の機械の音に重なって『馬鹿,馬鹿』という女性の声が聞こえます」

    実在する機械の音とは別に、存在しない女性の声が同時に聞こえており、言語性幻聴である。このように、実際の知覚刺激(機械音、水の流れる音など)をきっかけとして、それと並行して別の幻覚が生じるものを機能性幻覚(機能幻聴)という。実際の音そのものが声に聞き誤られる錯聴とは異なり、本例では機械音は機械音として、声は声として別々に知覚されている。内容は自分をけなすものであり、統合失調症でみられる悪口・批判の幻声に典型的である。

  5. ○e.  「駅の向かい側のホームに立っている友人の仕草から自分の悪口をいっているのがわかります」

    患者は悪口の声を「聞いた」のではなく、向かい側のホームという声の届かない距離にいる友人の仕草を見て、そこから悪口をいっていると「わかる」と述べている。つまり知覚自体は実在する視覚刺激であり、幻覚ではない。実際の知覚に対して、根拠のない自己に関係した意味(自分の悪口をいっている)を確信的に与えており、妄想知覚(関係妄想)に該当し、内容は被害的である。妄想知覚はSchneiderの一級症状の一つであり、統合失調症を示唆する重要な症状である。

聴覚の異常体験の整理

・幻聴:対象のない聴覚体験。  言語性幻聴(幻声):人の声が聞こえる。命令する声、悪口をいう声、自分の行動を実況する声、複数の声の対話など。統合失調症で多い。  要素性幻聴:言葉にならない音(物音、機械音、電車の音、音楽など)。 ・機能性幻覚(機能幻聴):実際の知覚刺激と同時に、それとは別の幻覚が生じる。 ・錯聴:実在する音を別の音・声として誤って知覚する。意識障害(せん妄)や強い不安・期待のもとで起こりやすい。 ・考想化声:自分の考えが声になって聞こえる(Schneiderの一級症状)。

Schneiderの一級症状

考想化声、話しかけと応答の形の幻聴(対話性幻聴)、自己の行為に口出しをする形の幻聴、身体への影響体験、考想奪取やその他の思考領域での影響体験、考想伝播、妄想知覚、感情・衝動・意志の領域でのさせられ体験・影響体験。

妄想の分類(成り立ちによる)

・一次妄想(真性妄想):心理的に了解できない形で生じる。妄想気分、妄想知覚、妄想着想に分けられる。  妄想知覚:実際の知覚に、了解不能な特別な意味づけが与えられる(例:信号が赤になったのを見て、自分が狙われていると確信する)。 ・二次妄想:気分や状況などから心理的に了解可能なもの(うつ病の微小妄想など)。

妄想の分類(内容による)

・被害的なもの:被害妄想、関係妄想、注察妄想、追跡妄想、被毒妄想など。 ・微小的なもの:心気妄想、罪業妄想、貧困妄想(うつ病)。 ・誇大的なもの:誇大妄想、血統妄想、発明妄想(躁病など)。

POINT

・幻聴=対象がないのに聞こえる体験。病識があっても、音が言葉でなくても幻聴である。 ・実際の音とは別に声が聞こえるのは機能性幻覚で、幻聴に含まれる。 ・実在の音を別の声・音に聞き誤るのは錯聴。 ・実在の知覚に誤った意味づけをして確信するのは妄想知覚(妄想であり、幻覚ではない)。 ・「聞こえる」か「わかる」かという訴えの表現が、幻聴と妄想の鑑別の手がかりになる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。